「試練の石破政権」③地域の力、存分に発揮を NPO「人と組織と地球のための国際研究所」代表 川北秀人

2024年12月17日 12時11分

 石破茂首相は日本創生を掲げ、地方創生の交付金の倍増や「新しい地方経済・生活環境創生本部」の設置を打ち出している。これだけでは地方創生の実現は難しい。超高齢化・人口減少・小家族化が同時に進む大きな変化に対応しようとする自治体や地域を後押しし、地域の経営力を高める施策が必要だ。

 「新しい地方経済・生活環境創生本部事務局」の看板をかける石破首相(左)と伊東地方創生相=11月8日、東京・永田町
 「新しい地方経済・生活環境創生本部事務局」の看板をかける石破首相(左)と伊東地方創生相=11月8日、東京・永田町

 

 そのためには、地域おこし協力隊など既存の政策を柔軟に活用し、自治体の負担を軽減しながら取り組めるようにすることが大前提となる。自治体の主導なくして、地域の特性を踏まえた地域創生はできないからだ。

 その自治体の状況は深刻だ。平成の大合併が大きく進んだ2005年度から、22年度までの間に市区町村の歳出は35%増える一方、一般職員の数は約1割減少。職員1人当たりの負担は5割程度増えた計算になる。

 歳出増の主要因は国からの交付金の増加だ。自治体には「カネがない」のではなく、「国から仕事とカネは来るが、担い手が足りない」状況で、既に業務過多だ。そこに国が新たな施策や仕事を加えても、自治体や地域にとって効果はあまり期待できないだろう。

 地域の課題は深刻化する一方だ。現在の地域づくりの主役である自治会長や民生委員などの多くは、前期高齢者(65~74歳)を中心とした定年退職した人たちだ。しかし「70歳までの就業機会」の確保が企業の努力義務となり「地域と企業が前期高齢者を奪い合う」事態になっている。

 介護や認知症への対応が求められる85歳以上の人も急増する。この超高齢社会への対応を、自治体職員や自治会長などに全て任せるのは非現実的だ。忙し過ぎる上に、対応について学ぶ機会も乏しかったからだ。

 それでも地域の住民が集まり力を出し合って、課題を解決し価値を生み出す事業や活動を続ける地域が各地に存在する。

 例えば、島根県雲南市の波多地区はコミュニティーセンターの管理運営に加え、送迎付きの介護予防サービスを行政から受託、センターにはミニスーパーを開設した。人口300人弱、高齢化率5割超の集落が健康と買い物のワンストップ拠点を自らつくり出した。

 地域経済活性化に関する取り組みを説明する島根県雲南市の石飛厚志市長(中央)=2023年5月、東京都千代田区
 地域経済活性化に関する取り組みを説明する島根県雲南市の石飛厚志市長(中央)=2023年5月、東京都千代田区

 

 雲南市や富山県南砺市などが住民との協働で取り組むこの「小規模多機能自治」の組織づくりは、独居高齢者が急増する大都市部も含めさらに広がることを期待したい。

 組織をつくり地域の経営力を高めるには、その担い手を支える施策の拡充が不可欠だ。自治体がすべきことは二つある。

 まず自治体が委嘱する集落支援員や地域おこし協力隊の仕組み、子どもや障害者、高齢者らを地域の連携で支える重層的支援体制整備事業などの既存の施策について、縦割りを排して横断的に展開し、貴重な人材を有効に生かすことだ。

 もう一つは、自治体職員の業務増の原因である膨大で煩雑な事務作業を軽減し、実質的でない規制を緩和することだ。高齢化が進む地域の数少ない人材である公務員には、人手不足が深刻な業種に限定して兼業を積極的に認めるのはどうか。

 10年間お金の出し入れがない休眠預金の使途に「地域自治振興枠」を新設するのも有効だ。地域が力を存分に発揮できる環境づくりが不可欠である。

(新聞用に11月13日配信)

かわきた・ひでと 1964年大阪府生まれ。94年に同研究所設立。著書に「2030年代の東京に、どう備えるか?」など。
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