小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

英ガーディアン編集長によるiPadレビュー

 iPadの米国以外での発売は4月末の予定だったが、これが先延ばしになった。しかし既に、英国で米国版を手にした人たちがいる。一体どんな感触だったのだろう?

 新聞(=ニュース)関連で私が面白いと思ったのは、英ガーディアン紙のアラン・ラスブリジャー編集長による感想ビデオ及び記事である。ガーディアンはネットに力を入れている新聞社の1つだが、紙の新聞だって大いに売りたい人が果たしてどんな感想を持つのだろうか?

 ガーディアン内部にはテック関係の専門記者がたくさんいるし(専門ページもある)、専門の話はそういう人に任せておけばいいのだろうが、やはり、「自らが」というところが良い感じがする。(日本の紙の新聞でも、編集デスク、あるいは編集局長あたりが、「触ってみて、感想をサイトに出す」なんてことをやったら、面白いのではないだろうかーやはり、何といっても、「ニュース」を扱うのが命の組織なのだから。)

ラスブリジャー編集長がアイパッドの使用感を語る動画(広告が先に入るのでご注意。)
http://www.guardian.co.uk/technology/video/2010/apr/07/apple-ipad-review-alan-rusbridger

編集長の記事
「昔、私は将来を木の板の上で見たー今、(その将来が)やってきた」
http://www.guardian.co.uk/technology/2010/apr/11/ipad-rusbridger-future-of-the-press

 記事によると、16年前、同氏は米シカゴトリビューン社に出かけて、新聞の将来のデモンストレーションに参加したそうである。ここで、インターネットでニュースを提供する形を見せられ、「画面は白黒で、アップするのに2分はかかり、質が悪いな」という感想を持った。

 その後で、今度はナイト・リッダー社のラボに出かけ、「タブレット」の原型を見る。この時、ラボを仕切っていたのが、ロジャー・フィドラーという人で、見せられたのはA4サイズの木製の型。表面には「1面」と記されていただけだったそうだ。フィドラーが呼ぶところの「フラットパッド」では情報が常に更新され、自分の好きな声で情報が読めたりする、と説明された。その後、ナイトリッダーは買収されてこの計画はつぶれてしまったけれど、ニューヨークから取り寄せたアイパッドを手にして、思い出したのはこの時のことだったそうだ。

 そこで使い始めて数日間の印象を記すのだが、当初、アイパッドはアイフォーンがでかくなっただけで、フラッシュ動画が見れず、「重くて、何だか意味がな」い・・と思っていたのだが、使い始めて6日目、ワープロソフトなどをインストールした後は、段々,好感を持つようになる。アイパッドを使った後でアイフォーンを使うと、画面が読みにくい感じを持つように。
 
 アイパッドで見ることに慣れてくると、「もしかして、アップル社は、本の出版社が400年前に発見したような、人間の目と手が自然だと感じるサイズ」を再発見したのかもしれない、と思えてくる。

 ラスブリジャー編集長はアイパッドを「変革の力を持つ、暫定的なステップ」と定義づけている。

 ガーディアンの記事がアイパッド上でそのうち有料化するのかどうかに関しては「別の話」と言っているが、アイパッドに限らず、デジタルコンテンツの有料化をガーディアンは決して論外とはしていない(BBCのラジオ番組で、経営陣の発言など)。

―アイパッドは新聞の救世主になるか?

 ラスブリジャー氏の記事で、あれ?と思ったのは、紙の新聞の制作コストの中で、「印刷、紙代、運送代、販売網、配達費」などが、新聞経営のコストの30%を占める、と書いてあったことだ。逆に言うと、新聞が紙の制作をやめて、オンラインのみになったとしても、30%しかコストは減らないんだなーと。意外だった。

 アイパッド(及び似たような電子機器)が新聞(業界)を救うのかどうかは、何せまだアイパッドがこっちで発売されておらず、本格化していないので、いろいろな人がいろいろ言っているだけである。まず、マードックが「新聞」を救うと言っているようだ。こんな面白いものがあるんだったら、と。

 ガーディアンのコラムニスト、グリーンスレード氏がオーストラリアの評論家、エリック・ビーチャーの話を紹介している。
 
http://www.guardian.co.uk/media/greenslade/2010/apr/12/ipad-rupert-murdoch

 ビーチャー氏は「救えない」という見方。その理由は、①印刷関係のコストをカットしても、それ以外のコストが残る、②販売コストは変わらない(アップルなどがコミッションを取る)、③読者が支払う代金(新聞社にとっては収入)が大きく下落する(アップストアなどでの価格)、④すでにたくさんの無料ニュースが出ているので、有料電子版システムを導入する新聞社は限られている、⑤広告収入が減る(広告主が紙媒体での金額の広告料を払わない)-などを挙げている。

 いずれにしろ、お金がもうかるか・もうからないかに関係なく(ユーチューブ、ツイッターの例)、より見やすい形の電子画面で情報を得るという動きは加速化するばかりに違いない。アイパッドの2はきっと、さらに良いものになっているだろう。
by polimediauk | 2010-04-18 21:01 | 新聞業界