2社で迷ったらぜひ、5社落ちたら絶対読むべき就活本 ― 受ける「順序」を変えるだけで、内定率アップ! (2011/01/21) 海老原 嗣生 商品詳細を見る |
ちなみに、本書の第1章から第2章の途中までがネットで公開されています。
プレジデントロイター > キーワード「 2社で迷ったらぜひ、5社落ちたら絶対読むべき就活本 」の記事一覧
6回の連載で公開されているのがページ数でいうと本書のほぼ4分の1に当たる分量ですが、それでも公開に踏みきったというのは、残りの4分の3でも値段に見合う内容となっているという自負の表れではないかと思うところです。なんというか、海老原さんの採算度外視的な使命感に感じ入るところです。
まあ、実際に私自身も、公開部分以降で「入社後のリアル」というものを示している点が本書の肝ではないかと思います。実は、本書の題名からすると就活する学生を対象としているように思ってしまいますが、現在仕事をしている社会人に対して自らのキャリアのもつ意味を問いかけるきっかけにもなっているんですね。特に、自分の立場で考えてまさに我が意を得たりと思ったのは、公開されているところではこの部分です。
「たくさんの関係者がいて」「その多くの人を調整する」仕事は、必ず協調が必要となります。逆に、自分一人で大きな業績が残せる(逆に、ダメな人は全く業績が上がらない)タイプの仕事では、協調はそれほど必要ありません。だとすると、その会社のビジネスは、「関係者が多く調整業務が常につきまとうか、否か」を考えれば、簡単に答えが出ます。これがひとつ目の判断要素です。
ただ、仕事内容から関係者の多い・少ないが見えない場合は、何を手掛かりにすればいいか。こちらもそれほどむずかしくはありません。関係者多数の中で調整をする仕事ならば、最初はその中の小さな歯車として下っ端仕事に従事することになります。ひとつのセクションで少し慣れてきても、関係する部署を多く経験しないと、仕事の全体像は見えてきません。こうして、小さな歯車を次々に経験しながら、だんだんとポジションを上げていく、という生活を送っているとどうなるでしょうか? 答えは簡単です。なかなか昇進はできない。つまり、「昇進スピードが遅く」なります。これが2つ目の判断要素。ただこれを、やりたい仕事がなかなかできないとマイナスにとらえず、奥深い仕事のため、長期熟練が必要、と前向きに受け止めるのもいいのではないでしょうか。
そして、このタイプの仕事だと、最初はつまらない仕事の連続ではあるのですが、それほどプレッシャーもなく、そして、仕事の難易度も徐々に上がっていくので、比較的スムーズに能力蓄積が可能です。ということで、無理が少ないから、定着率がよい。これが3つ目の判断要素。
これらの要素をすべて合わせると、非常に日本的な風土が透けて見えてきます。一言で表すなら、「年功序列的」といえるでしょう。これが4つ目の判断要素。
志望企業が、「協調重視か、競争重視か」は、この4ポイントで見てください。
(1)関係者が多く、調整業務が多いか(イエスなら「協調」、ノーなら「競争」)
(2)昇進スピードが遅いか(イエスなら「協調」、ノーなら「競争」)
(3)定着率がいいか(イエスなら「協調」、ノーなら「競争」)
(4)年功序列的か(イエスなら「協調」、ノーなら「競争」)
「5つの軸で受ける会社の「社風」を分析せよ(1)1ページ」(プレジデントロイター > 一流社員が読む本)
※ 強調は引用者による。
拙ブログではさんざん強調しているとおり、公務員(特に行政職)の仕事は利害調整です。中でも公務員の携わる利害調整というのは、他の業種に比べても格段に広い範囲に及びます。通常の企業が相手にしないような貧困層はもちろんのこと、ある特定の思想を持った方々から、確信犯的な法律違反をしている方々、その筋とつながった方々、理想に燃えて地域活動に勤しむ方々・・・、こうした住民の皆さんそれぞれに対して公平かつ公正に対処することが行政の役割であり、その専門職としての公務員の仕事になるわけです。したがって、一部の民間の方々や民間の内実も見ないでそれに同調する有志の方々が主張するような、「公務員にも成果主義を徹底して、仕事のできる公務員は若くても抜擢して厚遇し、ろくに対外折衝もできないような内勤の公務員なんかクビにしてしまえ」という組織運営が、役所ではそもそも不可能なんですね。
本書の第3章以降では、銀行や大手メーカー、大手商社がこうした利害調整型の企業の例として挙げられて、「入社後のリアル」な仕事内容が人事異動のローテーションなどと絡めて説明されています。その銀行などの民間企業が成果主義の行き過ぎから従来の年功序列型に回帰している理由も、本書の説明を読めば納得できると思います。
ところが、公務員バッシング華やかな現在、相も変わらず公務員に対しては成果主義を徹底すべきだとか、年功序列から脱却して若手を抜擢するべきだとかの言説が、巷にはあふれています。本書で指摘されている仕事内容と人事労務管理の考え方の対応関係は、行政組織であろうが例外なくあてはまると考えますので、成果主義だとか年功序列からの脱却という人事労務管理手法については、それによっていかに望ましい仕事を達成できるかという観点からその適否を検討する必要があると思います。そして、ここ数年という短期間ではなく、一人の労働者がその組織に入って出ていくまでの数十年というスパンで考えなければ、一過性のブームに乗ってしまって組織自体を崩壊させてしまう危険性があるわけで、検討にあたってもその点に細心の注意を払わなければなりません。
ただ、こんなことを書いていて虚しくなるのは、民意なるものが絶大な力をもってしまっている現状では、公務員もまた自分の組織をその民意というメガネを通してしか見ることができなくなっているという現実があるんですよね。というのも、われわれ公務員の組織のトップはその民意で選ばれた選良の方々が立つことになっているわけで、そんな方々はほぼ間違いなく「民間感覚を採り入れて行政を刷新します」という公約を掲げていますから、実際の組織運営では「民間に負けないようにスピーディーな意思決定のために組織をフラット化すべき」とか「現場の声を反映するために、内部事務を担当する職員を減らして現場に出させる」とか「政策評価を徹底して、担当した業務でめざましい成果を上げた職員を抜擢する」ということが実際に行われてしまいます。
もちろん、数年のスパンでは、フラット化によって意思決定がスピーディーになったり、現場に出る職員が増えて役所のしきたりが変わったり、成果主義による昇給を目指してめざましい成果を上げる職員が出てくることもあるとは思います。しかし、たとえば、新しい政策でめざましい成果を上げた職員が、大幅に給料を上げた場合を考えてみましょう。新しい業務を実施するわけですから、この人員減の中では既存の業務を辞めるか手を抜く必要があります。通常は対外的な業務を止めたり手を抜くことができませんので、手を抜くのは内部事務とか面倒な利害調整となります。ところが、その厄介な事務を担当する職員は「現場重視」のかけ声の下に減らされているので、そうした厄介な事務の手抜きがフォローされなくなってしまいます。
その一方で、組織がフラット化しているので途中のチェック機能が十分に働かず、職員も成果主義の名の下で対外的なめざましい業務に精を出すので、厄介な事務はどんどんなおざりにされていきます。ところが、そんなことはお構いなく、オンブズマンや会計検査院は、民意の意向に沿って不適切な経理があればギリギリと行政の厄介な事務を糾弾してきます。オンブズマンや会計検査院は大抵その業務が行われた数年後にやってきますので、そのころには成果を上げた職員は給料も職も上がってその職場には残っていません。結局、そのとき在籍している職員が「不適切な処理」という看板を背負って地道に処理することになるわけで、そんな尻ぬぐいの業務なんかいくらやったところで、成果主義の下では評価されることはありません。こうして、内部事務や利害調整という行政の重要な機能が、成果主義、組織のフラット化、現場主義の名の下に衰退していくわけで、これが数年以上経った段階でその弊害が無視できなくなったころにやっと見直しの機運が出てくるという形で、無限ループが繰り返されているのが現状といえるのではないでしょうか。
結局のところ、利害関係者の質と量、インパクトがその組織のあり方を決めていくのであって、それに合わない人事労務管理は現場の労働者と利害関係者にムリを押しつける結果にしかなりません。もちろん自戒を込めてですが、安易に組織論を語りたがる風潮というのは、なかなかに危険なものだなあと改めて思った次第です。