2010年09月05日 (日) | Edit |
やっと最近落ち着いてきましたので、ボチボチと更新していきたいと思います。といっても、あまりに間が開きすぎて、しかもこの間いろいろとありましたので、何を書いたらいいのか迷うところですが、とりあえず当座の話題はこれですね。

【河合雅司の「ちょっと待った!」】小沢氏の罠? 社会保障費の交付金化 (2/4ページ) 2010.9.4 12:00(産経ニュース)

 小沢氏は「市町村にお金と権限を任せて、それぞれの市町村で老人医療はどうする、介護はどうするというような知恵を出して、お金を有効に使い、自分たちのふるさとを作り上げていくのが、将来、いいと思う」とも語った。地方自治体の創意工夫の余地を広げれば、やる気のある市町村では、社会保障費の効率的運営につながる可能性もあると言いたいようだ

 そもそも、民主党は国が使い道を細かく決める「ひもつき補助金」には無駄が多いと主張してきた。これを見直すことで相当の国の歳出削減、すなわち財源が捻出(ねんしゅつ)できるとの考えだ。今回の制度案も、これに沿ったものである。

 小沢氏は討論会で、補助金全体の話として、「民主党の調査で首長たちは『自由に使えるお金をもらえるのであれば、今の補助金トータルの7割で、今以上の仕事を十分やれる』という答えが出ている。私の親しい首長は『本当に自由に使えるのなら、半分でも今以上にいい行政ができる』と言っている」ともした。国のコストも減り、地方の活性化につながるという発想のようだ。

 民主党はマニフェストで「ひもつき補助金」を廃止し地方が自由に使える「一括交付金」に改める考えを示しているが、社会保障費は一括交付金の対象から外れていた。消費税を上げず予算の大幅組み替えで財源捻出できるとの立場の小沢氏としては、巨額な社会保障費も例外にすべきではないと考えたのであろう。

※ 以下、強調は引用者による。


財源のあてもなく子ども手当とか高速道路無料化とか高校無償化を打ち出してきた民主党の閣僚どもが、政権交代後の財源不足に否応なく直面してしまっているのが、小沢氏には歯がゆいようです。天下りの根絶で10兆円規模のムダが削減できるという絵空事では財源が賄い切れないことがわかると、特別会計のうちで手の着けられなかった社会保障関係特会と地方交付税特会にはまだまだムダがあるとロックオンしたわけですね。

さて、拙ブログでは何度も繰り返していますが、地方分権の推進はナショナルミニマムの否定に外なりませんので、必然的に所得再分配政策の要である社会保障制度を崩壊させてしまいます。その意味では、小沢氏の主張は首尾一貫しているといえるでしょう。さらには、小沢氏自身の言葉ではないかもしれませんが、「やる気のある市町村では、社会保障費の効率的運営につながる可能性もある」ということは、やる気のない市町村が社会保障費を賄いきれずに破綻することも自己責任だという主張ですので、これもまた首尾一貫しています。まあ、破綻してしまうのは必ずしもやる気のない市町村だけではなく、政府間所得移転が減らされてしまった結果としてやる気を出そうにも出せないような市町村も含まれてしまいますが、それを是としている小沢氏が「私の親しい首長は『本当に自由に使えるのなら、半分でも今以上にいい行政ができる』と言っている」」として政府間所得移転を減らそうとしているわけですから、小沢氏の主張にはマッチポンプ以上の意義を感じませんけれども。

とはいっても、この辺りに意義を感じる方もいらっしゃるようで、

「いちばん大事な政策は?」という質問には、少し考えて「地方分権」と答えたが、その説明でも「地方の自己責任」という言葉が出た。政治家についても「どんな政策を出すかだけでなく、その結果に責任を取ることが大事」。小沢氏の政治手法の根底には、みんなで物事を決めて誰も責任を取らない日本的な意思決定に対する嫌悪があり、それが政敵にもマスコミにもきらわれる理由だろう。この点で彼はあまり変わっていないという印象を受けた。私としては、変わらぬ小沢に期待したい。

ただ具体的な政策については、ほとんど中身がなかった。バラマキ福祉の財源を「特別会計の組み替え」で捻出するという話も、この1年、鳩山・菅政権でできなかったことだが、小沢政権ならできるという裏づけはない。「世代間格差への怨嗟の声が強まっている」という質問にも「正社員の比率を法律で規制する」という、およそ自己責任とはほど遠い答だった。

小沢氏が「権力の亡者」だというのは神話だが、彼がどんなむずかしい政策も実現する「剛腕」だというのも神話である。彼の政治経歴は1勝10敗ぐらいで、過大な期待はできない。しかし確実にいえるのは、菅政権のままではねじれ国会は乗り切れないということだ。人々が小沢氏に期待しているのは、民主党としての政策の実現ではなく、政界を「焼け野原」にして組み替えることだろう

変わる小沢、変わらぬ小沢(2010年09月04日 20:05)」(池田信夫 blog


小沢氏は昔から変わりなく、その政策に具体的な中身がなく政界を焼け野原にする方のようですから、小沢氏を支持する方にとっては、今回の代表戦によって小沢氏が首相になること自体に意味があるのでしょう。

日本的民主主義はこういう事態を排除していませんし、民主党員でもない一チホーコームインが何を言ってもムダかもしれませんので、最後に権丈先生の一言を引用させていただきます。

こいつ、ただのアホなんだろうな。

  • 政策で判断した。小沢氏の主張する補助金の一括交付税化は革命的な改革だ。豪腕に期待した。
(略)
「そういうことってあるんですか?」への僕の回答。

そりゃあるさ。
僕が学生によく言うのは、本しか買ってはいけないという仕送りが5万円と、何でも買ってもいいという仕送り3万円―――どっちがいい?という話だな。

多くの学生は、何にでも使える3万円の方が良いと言う。
では、そうした使途が限定された補助金の交付税化の中で何が起こっているのか?少し考えれば、バカにでもわかる話だろう。

この問題は、社会保障や教育という、自治体の首長にとっては、(選挙対策上)さほど魅力がない政策にとっては深刻な問題をもたらすわけだ。

自治体の首長は、まさに民意に従って、社会保障支出や教育をカットして、他の地域サービスの拡充を図っていく。僕は、この民意に従った社会保障・教育支出のカットを、「政治の失敗」とでもネーミングしたいところだけど、ウォームハート・ウォームヘッドの御仁たちは、民意が反映されやすくなる地方分権を、なんだか絶対神聖視してしまう癖があるんで、本当に厄介。実際、小泉政権下の三位一体の時に、補助金を交付税化したことによる弊害は、いろんな側面で出てでてきている。新聞や雑誌は、その実例を存分に国民に紹介して、彼の言うことの危なさを国民に示さないとな。

まぁ、補助金の一括交付税化は、ナショナルミニマム政策の放棄にもつながるわけで、僕のように、社会保障の財源は今よりも集権化すべきだと言っている人間からすれば、小沢さんは、昨年のマニフェストに続いて、またまた猫だまし程度の目くらまし戦術をとっているとしか見えないんだけど、ふたたび国民は騙されるんだろうなとあきらめ気味なんだけね。

ちなみに、自治体への補助金の一括交付金化は、経済学のモデルの中では、個人に対する現物給付と現金給付のどっちの方が効用が高くなるか?という問いに換言されるんだけど、こうしたモデルは、効率以外の重要な政策目標を捨象してしまっているモデルなんだよね。そういうところに考えが及ばない多くの経済学者は、すぐに、現物給付よりも現金給付の望ましいと結論づけてしまうわけ。面白いのは、思慮不足の経済学者、多くは新古典派系の経済学者と、今、この国で影響力をもつ熱心な地方分権論者とは哲学的にはまったく逆なはずなんだけど、経済学のモデルの中では、同じ結論を出している。といっても、心優しい地方分権論者は、そのことに気づいていないふしがあるけどね。


仕事のページ(権丈善一ホームページ 2010年9月4日付け)」

まあ、なんといっても冒頭の一言に尽きるわけですが、現金給付と現物給付のどちらが効率的かという問題は、単純な2財モデルとかではなく、財政学(公共経済学)とか社会政策の分野で分析されるべきものであるにも関わらず、その分野の専門家でもない経済学者が原理的な経済政策を主張しているというのも大きな問題ですね。そもそも、財政学者にもいろいろな立場の方がいらっしゃるので、マクロとミクロの対立だけではなく、応用ミクロ経済学の中の対立も深刻ではあります。アカデミズムの内部で理論的に決着をつけなければならない分野は、ほかにもたくさんありそうですね。

(追記)
引用した権丈先生の一言が向けられている発言は、この記事の一人目の発言です。為念。

「直嶋氏は菅氏支持 細野、樽床両氏は小沢氏 民主代表選」asahi.com(朝日新聞社)2010年9月3日21時34分

 民主党代表選での対応をめぐり、同党の幹部議員の態度表明が3日、相次いだ。細野豪志幹事長代理は朝日新聞の取材に、代表選で小沢一郎前幹事長を支持する考えを表明した。細野氏は「政策で判断した。小沢氏の主張する補助金の一括交付金化は革命的な改革だ。剛腕に期待したい」と語った。

 また、樽床伸二国会対策委員長は同日、国会内での会合で「今の民主党には強いリーダーシップが必要だ。政治とカネの問題がクリアされていくことを信じて、小沢氏を支持したい」と語った。樽床氏は6月の代表選で菅直人首相と対決し、敗北した。

 一方、旧民社党グループの直嶋正行経済産業相は閣議後会見で「私なりに考え、最終的には菅氏を支持する」と語った。理由について「私は内閣の一員であり、この間積み上げてきた成長戦略を実行するのが私の役割」とした。

 昨年、野田佳彦財務相グループを退会し、独自に活動している馬淵澄夫国土交通副大臣は自身のブログで菅首相の再選支持を表明。両氏の代表選公約を比較した上で「(首相は)大きくは経済政策、政治改革、行財政改革、税制の抜本改革について、具体的な施策の深化を示している」と評価した。



ちなみに、「思慮不足の経済学者、多くは新古典派系の経済学者と、今、この国で影響力をもつ熱心な地方分権論者とは哲学的にはまったく逆なはずなんだけど、経済学のモデルの中では、同じ結論を出している」という部分は、個人的な理解としてはこの先生この先生を想像しながら拝読しました。前者の立場の方が効率性重視でチホーブンケンを推進するのはまだしも、後者の立場の方がそれをより強固に主張するという理解しがたい状況を拝見すると、リフレーション政策どころではない呉越同舟ぶりを感じるところです。

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