Draker Than Blackに登場するPTRD(デグチャレフ対戦車ライフル)に関するメモ
以下はDarker Than Black 流星の双子に登場するデグチャレフ対戦車ライフルPTRDに関するメモ。
・腰だめ射撃はできるか?
反動がきつくて手首を痛めるだろうと言うのは置いておくとしても、どうも腰だめ射撃をすると自動排莢機構が働かないようだ。
下記アドレスに図解がある。
http://www.ww2aircraft.net/forum/ww2-general/antitank-rifles-mgs-1930-1945-a-7069-2.html
簡単に言うと、銃全体が反動で後退してショルダーストックにめり込むように動いて、ストック右上に突き出している台形の鉄板にボルトハンドルがぶつかってロック解除する機構のようだ(なんて野蛮な!)。ボルト自体が飛び出すのは多分慣性力によるのだろう。だから腰だめではストックに力がかからないのでただのボルトアクション単発になってしまう。
まぁ、そもそも対戦車兵器と言うのは周辺への危険(リコイル、ブラスト、破片など)が多いので正規の射撃姿勢以外をとるのはやめた方が無難だ。
・スコープマウント
スコープはちょっと問題で、アニメの設定ではスタンダードのオープンサイトの位置にプレートを溶接したものだが、これはどうも間違っているようだ。
銃全体が何センチか後退する作りだから、あの位置にスコープに付けていると、ぶっ放すと同時にガツンときて目の周りにパンダマークを作ることになる。これはとても恐ろしい。
この件は、下記アドレスの写真で判明した。
http://img369.imageshack.us/img369/1923/32836411un7.jpg
グリップ基部右側(ただし構造的にはストック側)からプレートが伸びてレシーバーをぐるりと巻いているようだ。
・長距離射撃精度と有効射程
精度について言うと、PTRS(シモノフ対戦車ライフル)のガスピストンなどの複雑な機構が無いPTRDの方が銃身の余計な振動が少なくて有利じゃないかと思う。それとストックの伸縮機構がクッションになるので反動がマイルドなのだろうと思う。PTRSだと弾丸が銃口をでるまでボルトとレシーバーは勘合しているので反動がガツンときて肩に青痣を作りそうだ。(そう言う場面が有ってもよかったかもしれない。蘇芳がお風呂で肩の青痣を気にしてる場面とか・・・これは漫画版パトレイバーに有ったけど。)
長距離射撃時の精度上の問題となりやすいのはたぶんバイポッド(二脚)のガタつきだ。GUN誌のTurk氏がしばしば指摘しているのによると、二脚は問題を起こしやすいのでできればサンドバックかバックパック上に銃を置いた方が良い、のだそうだ。肩あてから二脚まで1mで二脚のガタが1mmとしても、2000m先を狙うと2,000mm狂うから、銃を設置する地面の状態には特に神経を使う必要がありそうだ。その他にも連射すると重心の温度上昇で着弾点が狂うとか、いろいろややこしいことが有るらしい。
カートリッジの性能だけで言うとたぶん2000mでも有効射程だろうが、大戦中はオープンサイトで動く戦車のペリスコープやキャタピラを狙っていたそうで、本来の有効射程は2-300mが良いところだったのだろう。
・スポッターの役割
もうひとつよく考えているなぁと感心したのはジュライの存在だ。ゴルゴ13と違って実際の狙撃と言うのはシューターとスポッターの二人で行うのが普通らしい。スポッターの仕事は、目標観測、着弾観測、外した場合のバックアップ、急襲された時の対応などに加えて照準修正計算を手伝う場合もあるようだ。
照準の計算と言うのがえらく面倒で、距離、高低差、風速、風向、温度、湿度、陽炎の影響などを考慮して照準修正量を計算しそれをMil値(スコープの目盛数)に換算しなければいけない。このために、双眼鏡のほかにレーザー測距機、風速計、弾道計算プログラムをインストールしたPDA等を駆使する。ターゲットが予定距離と別なところに現れるとか、気象条件が急変するとかの事態になると、あわてて再計算を行い場合によるとスコープの調整が必要になる。(この辺の様子はGUN誌の“スナイパーズチャレンジ”記事が興味深い。)
どうやらMI6はドールに射撃管制機能をプログラムしているらしくて、こう言ったややこしい仕事を全部やってくれて暗算結果を口頭で指示してくれる。ライフルマンにとってこれはもうドラエモンのような存在だ。
(Milドットについては下記アドレス参照
MI6がPTRDのデータまで持っていたかどうかは不明だが、射撃練習を行ったのは蘇芳の特訓であると同時に、ジュライへのデータ入力とキャリブレーションでもあったのだと考えると納得がいく
ここまでやったのだからついでにジュライに装填手をやらせてもよかったかも知れない。大戦中のソ連軍ではPTRDは二人ひと組で運用していたそうだ。17kgの重さも二人で運べば何とかなったろうし、単発自動排莢の欠点も装填手がタマ込めを担当することで補えたそうだ。
まあ細かいツッコミよりも、ここまで調べ上げて作画したスタッフの努力の方を評価すべきなのは言うまでもない。PTRD以外にもFSBの使っているVSSやKEDRなど気になる銃が満載だ。面白い物語というのは、「小さな真実を沢山並べておいて、大きな嘘を一つつく」だと思うが、DTBのスタッフはこの辺が良く分かっているなあと感心するようなディテール描写だ。
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コメント
HINAKAです。
という訳で?seafurry様、こちらでははじめまして!
何度も拙ブログへ、御訪問いただいた上に、上記の貴重な資料を、ありがとうございました。
しまかも、トラック・バックまでいただいて……役不足ですが、こちらもトラック・バックをさせていただきました。ただついでですので、「魔法少女リリカル蘇芳」の方もさせていただきましたので、怒らないで下さい!
まァ、個人的には基本はデグチャレフではなく、「カリオストロの城」で有名な次元大介が振り回していた、シモノフだと思ったのが発端なんですが……実際、ネット検索でもわかりますが「対戦車ライフル」と言えばシモノフ!ッて感じで、デグチャレフ?何それ!?状態だったんですけどネ。
実際に、第2次世界大戦の独ソ開戦時には、ソ連軍はナチス・ドイツの戦車隊に対して、有効な対抗兵器を持っていなかった……という訳で、ちょうど同じ時期に2種類の同じ14.5mm×114mmカートリッジを使用する対戦車ライフル、ガスオペレーション・システムで5連発式のシモノフ・PTRS-1941と単発式で構造が単純なデグチャレフ・PTRD-1941を正式採用したという事なのですが……この裏話は、色々あって、結果として現場の兵士には連発式だけど動作不良が多く、しかも長くて重いシモノフより、単純なボルト・アクション式でシモノフよりも短くて軽い、デグチャレフの方が故障も少なく、メンテナンスも楽で、兵士の評判も良く何よりも大量生産が早くて、文字通り前線に行き渡ったそうです。
ですが、どうやらシモノフ技術将校の方が、デグチャレフ(後に少尉にまでなっていますが、当時は軍曹だったという説があります)よりも政治的な影響力が強く。
「対戦車ライフルはシモノフ」というイメージが上層部には広がっていた事と、実際の銃の型式がPTR「S」と「D」しか違わない事もあり、銃を手に入れた独軍も後には連合軍も、十把一絡げに「シモノフ」としたと言うのが、正しいようです。
現在の検索でも、ゴッチャになっている記述が、目に付きます。
という訳で、「カリオストロの城」で有名なシモノフはともかく、デグチャレフ・PTRD-1941を、作品の中に取り入れた事が驚きです。
しかも、このデカブツの最大の欠点であるところの、持ち運びが呆気に取られる方法だった事と、その後のseafurry様が御指摘の、実に細かく具体的で、リアリティのある使用シーン。手持ちは、次元もシモノフでやっていますので、アニメに野暮な突っ込みと言う事にしましょう(たぶん、実際の超ロング・リコイル方式を使用していない、ヒロイン特別仕様なのでは!?)。
正直、このシーンを見た時は、何を考えているんだこのスッタフは!?と、思いました。
この作品、前期からの〈契約者〉の武器?は超能力的なものが、多かったのですが実在のバカデカイ大口径長銃身ライフルを、小娘が振り回すとは、以外でしたし……好みです!
相変わらず、ストーリーや設定に謎の多い物語ですが、今回はこの銃とヒロインを中心に見るという、楽しみが出来ました。
と言うところで、長々とお邪魔しました。
投稿: HINAKA | 2009年11月19日 (木) 00時17分
HINAKA様
コメントありがとうございます。
気が向いたらまた訪問してください。
>>皆様へ
説明を忘れてましたが、PTRDに関するこの一文はHINAKAさんのブログにコメントとして挙げたものの再掲です。
あまりに長々したコメントだったのでまとめなおしてあります。
投稿: Seafurry | 2009年11月19日 (木) 16時07分