« F4Uコルセアの着艦問題に関する考察(その5、F4Uの特徴と問題点 結論) | トップページ | WW2大戦機の主翼構造の考察(その2、96艦戦、零戦、雷電) »

2009年6月11日 (木)

WW2大戦機の主翼構造の考察(その1、スピットファイア、Me109)

メッサーシュミットMe109は一撃離脱型の高速戦闘機と言うイメージと裏腹に高速(特に500km/h以上)で舵が重くなり運動性能が悪化したと言う。またF型~G型では翼内砲を撤去している。ドイツ機の場合様々な改造・派生機種を開発しているのに、何故この様な基本的な問題が放置されていたのかとずっと疑問に思っていたのだが、「技術ノート:メッサーシュミットMe109-その栄光と挫折を生んだ設計を検証する-」(鳥飼鶴雄、“世界の傑作機No.105 メッサーシュミットBf109(パート1)”、p44-53)を読んで氷解した。それによるとMe109の主翼は主桁が後方(翼弦50%位置)にあることから、強度・剛性ともに不足気味であり、翼内砲(エリコン系のMG/FF)を搭載するためには主桁に大きな貫通孔を開ける必要があった、とのことだ。
それでは他の機種ではどうだろうと興味をもって見てみると、これが結構面白い。限られた空間を有効利用し、強度、剛性、重量、生産性、整備性などをバランスさせるためエンジニアが大変な苦労をした部分であることがわかる。これから数回にわけてWW2の代表的な戦闘機の主翼構造を見ていきたい。ちなみに主脚引き込み機構の詳細や翼内砲に関しては、下記のHPが大変参考になるのでわからないときはそちらを見ていただけると助かる。

<参考HP>
主脚引き込み機構について
http://www5a.biglobe.ne.jp/~t_miyama/landgia.html

航空機銃について
http://www.warbirds.jp/truth/s_gun1.htm
http://www.warbirds.jp/truth/s_gun2.htm
http://www.warbirds.jp/truth/s_gun3.htm

と言うことで先ずはMe109とスピットファイアから見てみよう。
図 Me109の主翼構造(E型)

Me109e

図 スピットファイアの主翼構造(Mk.IX、ユニバーサルウィング、20mm+7.62mm×2)

Spitfire

どちらも頑丈な取り付け金具(ブラケット)を介して胴体に単桁構造の主翼を取り付ける方式だが、主桁と主脚の位置関係が逆でMe109では主桁前方に主脚を引き込むのに対してスピットファイアでは後方に引き込んでいる点が大きく異なる。Me109の主翼はE型以降下面にラジエーターを配置したため付け根では主桁前後どちらにも箱型断面がつくれないうえに主桁がかなり後方にあるから捩じりに弱い。一方スピットファイアの主翼は全域にわたって前縁から主桁までが閉断面構造となり剛性面で有利だ。エルロンを金属張りとしたスピットファイアMk.IXの高速(600km/h以上)での横転率はFw190を上回ったとも言われており、この主翼構造の差が両者の高速での運動性の差、ひいては発展性の差につながったのだ。

Me109の限界は胴体側の大巾な設計変更なしには主翼の剛性向上が出来なかったことにある。主桁を前進させようにもブラケット間にはキャリースルーが通っていたはずだから簡単に位置変更は出来ないし、主脚引き込み機構とも干渉する。Me109は大戦後半の機体としては小型で構造もシンプルだし、戦前から殆ど同じ構造で生産していただけに生産現場も慣れていたはずだ。要するに多少問題はあっても安く、早く、大量にそこそこな性能の機体を供給できる体制が組まれていたわけで、これを崩してまで抜本的な改良を施すことは許されなかったわけだ。大戦末期に登場した、Mk108 30mm機関砲を翼内に搭載したK-4や、ラジエーターを機首に移し主脚を内側引き込み方式に変更したMe209Ⅱがどんな構造だったのか興味深いが、残念ながら殆ど資料がない。

もっともMe109の主桁は普通のIビーム桁なのに対して、スピットファイアの主桁上下のフランジはタケノコのように径の違うパイプを何重にも入れ子にした複雑なものだ。薄くて丈夫な翼を実現するためにはそれなりの代償が必要だったということだろう。

<参考文献>
1) “世界の傑作機No.105 メッサーシュミットBf109(パート1)”、文林堂、2004.5
2) “世界の傑作機No.109 メッサーシュミットBf109(パート2)”、文林堂、2005.3
3) “世界の傑作機No.102 スピットファイア”、文林堂、2003.9
4) “スーパーマリン・スピットファイアのすべて―オーナーズ・ワークショップ・マニュアル”、アルフレッド プライス (著), ポール ブラッカー (著)、大日本絵画、2009.2

|

« F4Uコルセアの着艦問題に関する考察(その5、F4Uの特徴と問題点 結論) | トップページ | WW2大戦機の主翼構造の考察(その2、96艦戦、零戦、雷電) »

軍事」カテゴリの記事

コメント

Spitはマーリンエンジンの優秀さで名機になった感が
強かったのですが、やはり、エンジン強化による
速度向上の弊害が出にくいすぐれた主翼構造を
持っていたことも、名機になった原因なんですね。

投稿: TAK | 2009年8月 4日 (火) 01時51分

TAK様
スピットファイアの主翼のすごい点は、他の機体に比べて薄翼なのに強度・剛性で優れており翼内武装も充実していたことですね。
それもこの構造があればこそ。
主桁と前縁間の箱型構造が付根から翼端まで
つながっている機体は非常に珍しいのですよ。

投稿: SeaFurry | 2009年8月 4日 (火) 23時08分

I every time spent my half an hour to read this
website's articles or reviews all the time
along with a mug of coffee.

投稿: Is The Welsh Sheepdog Legal In Lesotho? | 2022年4月13日 (水) 18時32分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: WW2大戦機の主翼構造の考察(その1、スピットファイア、Me109):

« F4Uコルセアの着艦問題に関する考察(その5、F4Uの特徴と問題点 結論) | トップページ | WW2大戦機の主翼構造の考察(その2、96艦戦、零戦、雷電) »