自衛隊は違憲か合憲か

「【メモ】憲法学者の中では「自衛隊自体が違憲」が今も多数派なことをどう考えるか(〜朝日新聞アンケート)」なるtogetterがあり、どうも、戦争法案を違憲だとする憲法学者らを揶揄する目的があるような感じです。
こういう内容は、戦争法案のごり押しを意図・支持する連中にとっては、ありがたい存在でしょうね。

「現在の自衛隊の存在は憲法違反にあたると考えますか。」

憲法違反、と答えた憲法学者は50人
憲法違反の可能性がある、は27人
憲法違反にあたらない可能性がある、は13人
憲法違反にはあたらない、は28人

上記、togetterで揶揄している連中は、基本的に個々の憲法学者の意見なんか見てもいないのがもろわかりで、カウントした数字だけ見てるようです。
憲法上での自衛隊の存在を判断するなら、警察予備隊としての発足当初から旧日本軍復活の意図が明らかであり、その認識の上で違憲だと指摘されて当たり前でしょう。その後、軍事力強化を目論む自民政権と護憲を掲げて抑制を求めるリベラル側の綱引きの中、自衛隊は軍隊化できず、法制上も装備上も様々に制約されてきたわけです。装備上の話で言えば、侵略を受けた場合の限定的な防衛のみが可能な範囲に留めようとしてきたわけで、例えば、空母や爆撃機は保有できない、としてきたのがそれに当ります。
こういった実際の運用を踏まえて、自衛隊は憲法違反とまでは言えない、という見解も出てきましたし、現実に存在する自衛隊に対応する日本周辺国の軍事環境が構築されてくると、自衛隊は違憲だとは思うが安全保障上個人的に違憲だという主張を控える、という論者も出てきたわけです。
装備面では、空中給油や揚陸艦、弾道ミサイル、ミサイル防衛なども、この関係で議論されていたはずです。
もちろん、そういった面を踏まえても違憲だとする主張もあり、自衛隊の存在は発足当初からずっと憲法上、違憲と合憲の境界上をふらふらとしていたわけです。

私個人としては、ヘリ空母やミサイル防衛、米軍との一体化を踏まえれば、少なくとも現在の自衛隊は既に違憲だろうとは思います。しかしながら、装備や運用に制限を加えれば合憲な範囲での自衛隊は存在しうる、とも思います。

「憲法違反の可能性がある」と回答した中にはそれに近い意見もあります。

實原隆志(長崎県立大学)

現在の自衛隊の存在は憲法違反にあたると考えますか

憲法違反の可能性がある
■自衛隊は憲法違反か
 憲法違反の可能性がある。
 現在の自衛隊が「戦力」であると「戦力の不保持」を禁じる憲法に反するため、日本が有している自衛隊が現在において「戦力」に該当するかを検討する必要があります。

憲法が保持を禁じている「戦力」の概念について有力な基本書による説明を参照すると、通説的な立場は「軍隊および有事の際にそれに転化しうる程度の実力部隊」であると理解し、「軍隊」とは、「外部の攻撃に対して実力をもってこれに対抗し、国土を防衛することを目的として設けられた、人的・物的手段の組織体」であるとしていると説明されています(芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法 第6版』61頁)。その上でこの論者は、現在の自衛隊は「戦力」に該当すると言わざるを得ないとしています。これに対して政府は、「自衛のための必要最小限度の実力」は「戦力」ではないとし、自衛隊は「戦力」にあたらないとしています。
 しかし、従来の「自衛」は個別的自衛(権)を意味していたはずであり、「集団的自衛権を行使するための(必要最小限度の)実力」を保持してよいかは別途検討される必要があると思います。仮に現在の自衛隊が個別的自衛権にとどまらず集団的自衛権を行使するために必要な力を既にもっているのであれば、通説的見解だけでなく政府の見解に従ったとしても、自衛隊は既に現時点で憲法に違反する「戦力」となっている恐れがあります。現在の自衛隊が「戦力」に至っていないのだとすれば、その場合には、現在の自衛隊にその能力以上の任務を強いることにならないのか、十分な説明が必要だと思います。

http://www.asahi.com/articles/ASH7B0BZJH79UTIL065.html

大津浩(成城大学)

現在の自衛隊の存在は憲法違反にあたると考えますか

憲法違反の可能性がある

 第1に、明文改憲されていない9条の下での自衛隊や日米安保条約はあくまでも9条の規範内容の根幹と矛盾しない限りでしか認められないものである以上、戦争放棄規定を持たない日本以外の国とは全く異質の極めて限定的な自衛権の行使しか日本国憲法は認めていないはずである。しかも憲法9条が武力行使の禁止規定であることに鑑みるならば、武力行使の「限定性」は時々の政府の「時代の変化」に応じた解釈で変動するものではなく、誰もが認めうるような客観的で絶対的な基準でなければならない。したがってその限界は、「自国に対する急迫不正の直接的な攻撃があった場合に限り、これへの一時的な反撃が可能な程度の武力の存在と行使」しかありえない。それ以外の場合は常に「我が国の存立の危機」という自国へ攻撃等の「おそれ」の段階で武力を行使するものであるから、結局のところ政府(あるいは政治的多数派)の主観的な判断で武力行使の「限定」性を解除するものとなるため、憲法9条の根幹部分を否定する武力行使となる。
(略)
 国民の多数派が現在では自衛隊と日米安保条約を必要と考えていることは事実であるが、少数派の改憲論者を除き、多くの国民は戦争放棄の理念を持つ憲法9条も必要と考えているのであり、この両命題がかろうじて共存できる憲法解釈こそ、自衛隊の武力行使は日本が急迫不正の直接的攻撃を受けた場合に限られ、それ以外の場合に自衛隊の活動を拡大することは日本が戦争に巻き込まれる恐れが増大するので一切許されないという、自衛権の「限定性」を前提とした憲法9条解釈であった。この解釈は9条を変質させるものではない。なぜなら、武力行使は本質的に「悪」であるとの信念を維持しつつ、自衛隊の存在意義は実際にそれを武力行使のために使うのではなく、あくまでもそれが存在することで国民に安心を与えるだけで十分と考えたうえで、専守防衛と平和外交を尽くせば、実際には戦争その他の武力行使は極力避けられるからである。このように武力の行使を極力限定された自衛隊ならば、国際紛争を武力行使によってではなく極力平和的に解決するよう政府を義務付けている憲法9条の根幹部分は変質せずに保たれるのである。にもかかわらず、自衛隊を違憲とは言わなくなった国民の現状からの推論で、憲法が定める禁止規定の「歯止め」など、政治的多数派が国会での多数決を通じて強行突破すれば、どんなものでもいずれは国民が受け入れるはずとの本音を漏らす安倍内閣は、立憲主義も国民主権も極度に軽視する政権であると言わざるを得ない。

http://www.asahi.com/articles/ASH7B0BVVH79ULZU02C.html

なぜ、自衛隊が違憲になりうるのか、こういうのを読めば理解できるはずですがね。

ちなみに自衛隊は「憲法違反にはあたらない可能性がある」と回答した憲法学者にはこういう意見もあります。

小泉良幸(関西大学)

現在の自衛隊の存在は憲法違反にあたると考えますか

憲法違反にはあたらない可能性がある

■昨年7月の閣議決定は妥当か/自衛隊は憲法違反か
 「海外での軍事行動はしない。」これが、自衛隊が合憲であるための必須の条件である。自衛隊の合憲性にとって、日本国憲法の中で表明されたこの意思を尊重することこそが肝心なのだ。それゆえ、これは、9条の下であり得る解釈の1つではなく、9条の下で自衛隊が合憲とされる必須の条件の一部=「枠」を設定している。だから、内閣法制局は、これまで、「専守防衛」という基本を堅持し、集団的自衛権の行使を違憲としてきた。なお、私は、自衛隊の業務のかなりの部分は合憲という立場をとるが、にもかかわらず、合憲と言い切らないのは、周辺事態法、テロ対策特措法、イラク復興支援法等による自衛隊の活動については、「海外での軍事行動」に限りなく接近するため、その限度で、フライングの疑いをもつからだ。

http://www.asahi.com/articles/ASH795TNZH79UTIL02Y.html

小泉氏の見解では、自衛隊は専守防衛のみ認められ、それ以外の海外での軍事行動をする場合は違憲であるという見方ですね。

数字のカウントだけじゃなく、中身をちゃんと読め、と言いたいですね。