秋山黄色 1st mini Album 「Hello my shoes」release LIVE "What color are you? vol.2" 秋山黄色 / 眩暈SIREN / ユアネス @TSUTAYA O-Crest 2/15
- 2019/02/16
- 01:36
この時期になるとプロ野球ファンは己の贔屓のチームであったりライバル他球団であったりの今年の戦略予想・解析を始める。
とはいえ余程の戦力補強や流出をしたチーム以外はそんなに所属選手の顔ぶれは変わらないがゆえに現有戦力の底上げ、つまりは若手選手の成長が1番楽しみだったりするのだが、そんな中で最も戦力図を変えてしまうのは新入団選手である。
それは新人ながらに球界最高クラスの選手となった松坂大輔や上原浩治の例を見ても明らかであるが、外国人を含めて新入団選手は実際に蓋を開けてみるまでどんな成績を残すか全くの未知数である。前評判は高くても全く活躍できなかった選手も数え切れないくらいにいるし、逆に全くノーマークの選手がシーズンを終えてみたら新人王を獲得していた、というケースもある。予測するのが最も楽しみな新人王というタイトルが当てるのが最も難しいタイトルなのである。
2019年が始まって1ヶ月ほど。自分の中で音楽シーンの暫定新人王最有力候補なのが、先月1stミニアルバム「Hello my shoes」をリリースした、秋山黄色というアーティストである。
その秋山黄色の「Hello my shoes」リリースツアーの東京公演がこの日のTSUTAYA O-Crestでのライブ。なんか、コンビなのかと思うくらいに一緒にライブをやっている眩暈SIREN、さらにはユアネスを迎えてのスリーマン。
・ユアネス
トップバッターは福岡発のユアネス。フェスやサーキットイベントなどにも名を連ねることが多くなっている4人組バンドである。
静謐なSEでメンバーが登場すると、演奏を始める前に会場に流れ始めたのは男女2人の会話の音源「変化に気づかない」。
メンバーはじっと俯いたままで男女の会話を聞いており、
「またね 本当、変わんないね」
という女性から男性に向けられた言葉は、女性の変化に気づかない男性が変わらないままであるという聞き手によって2人がいる場所、2人がどんな見た目なのかなどのイメージを想起させる。
その会話がイントロのような役割を果たすのは
「「変わんないね」何てあなたもでしょう」
というその会話を振り返るようなフレーズで始まる「凩」でようやくメンバーの演奏が始まる。
陰鬱としたというか、この日本で脈々と続くいわゆる「孤独というシチュエーションで聴くのが1番映える暗いギターロックバンド」というイメージを音源を聴いた時から持っていたし、そのイメージはそのままなのだが、メンバーの演奏が驚くほど上手い。この手のバンドは得てしてそこまで演奏の主張が強くないというか、あくまで厭世観の強い歌詞を含めたボーカルを聞かせるための演奏というスタイルが多いのだが、このバンドは全く違う。
特に手数の多さ、打力の強さ、さらにはスティック回しも含めて超絶的と形容してもいいであろう小野貴寛のドラムはライブに華やかさすら感じさせるくらいに鮮やかで見事。きっとこのメンバーたちはもっと技巧さを前面に出した音楽もできるだろうけれど、その演奏力があるからこそ音楽そのものはもちろんライブも全く単調さを感じない。
そんなこのバンドの世界観を儚さをたっぷり孕んだボーカルで見せる黒川侑司が
「眩暈SIRENとは同じ福岡出身で。ずっと名前を見てきたし、そうやって知ってたバンドと一緒にライブができるって本当に嬉しいし、音楽って素晴らしいなと思います」
とこうして地元の先輩である眩暈SIRENと同じステージに立てている喜びを語ると、「夜中に」からは打ち込みのキーボードのサウンドも取り入れるのだが、それは壮大さというよりも切なさをさらに際立たせるように使われていた。あくまで主役はこの4人での演奏であり、それを引き立たせるための隠し味的な要素というか。
「欠けた街を見てた
「変わらない」日々の背中を
欠けた月を見てた
「変われない」私の事を」
という冒頭の2曲からの連なる物語というか、このバンドの描きたいものが実に一貫しているというのがよくわかる「Bathroom」で一気に古閑翔平のギターがノイジーかつエモーショナルに振り切れると、後ろ向きな世界を描いてきたからこそ最後に
「立ち上がる力は残ってないけど
諦めの悪さは誰にも負けやしない」
「明日も未来も
「歩みを止めんなよ」」
と歌われる「pop」が、先人たちと同じように、ただ暗闇の中で膝を抱えているのではなく、そこから必死にもがきながら光に手を伸ばすというこのバンドの姿勢や生き方を示していた。
家でヘッドホンをつけて1人で聴くというのがこうしたバンドに最もふさわしいシチュエーションなのかもしれないが、こうしてライブを見ると実はこのバンドに最もふさわしいのはステージの上であるということがよくわかる。それを支えているのは間違いなくこの4人の高い演奏力が合わさるからこその音の強さ。ある意味では演奏や歌が下手でも許されるというかそれが味になるようなジャンルではあるが、このバンドにはそんな甘えは全くない。これからの進化が楽しみなバンド。
1.変化に気づかない
2.凩
3.あの子が横に座る
4.夜中に
5.Bathroom
6.pop
凩
https://youtu.be/DPbDpygss4c
・眩暈SIREN
ピアノの音を軸にしたSEが鳴って登場したメンバーのうち、京寺(ボーカル)とNARA(ドラム)の2人はパーカーのフードを被り、ギターのオオサワレイはハット着用、ベースの森田康介は女性並みに髪が長い、ピアノ&ボーカル(打ち込みも担う)のウエノルカのみ顔がちゃんと見えるという、バンドの出で立ちからして闇がよく似合いそうな、眩暈SIREN。これで「めまいサイレン」と読む。すでにVIVA LA ROCKなどにも出演経験があるバンドである。
京寺のスクリームのような言葉の連射から「ジェンガ」でスタートすると、ラウドかつアグレッシブなサウンドは同じ福岡出身で暗いロックバンドであるという共通点を持つユアネスとは全く異なる。照明も薄暗くというのを徹底しており、京寺とNARAはパーカーのフードを被らなくなっても顔がはっきりとは視認できない。まさに眩暈を起こしているかのようなバンドのロゴのイラストも含めて暗いというよりは闇という属性がよく似合うバンドである。
なのでこうした薄暗いライブハウス、さらにはそうした照明の使い方によって本領を発揮する夜行生物のごときアグレッシブさ。京寺もそうだがウエノルカもスクリームやデスボイスを通常のハイトーンボイスと見事に使い分けており、それによってラウドなサウンドと流麗なメロディの対比が1曲の中で見えるのが実に面白い。
「電車で来たんですけど、このパソコンとかが入ったバッグを電車の中に置き忘れてしまって。なんとか回収できたんでこうしてライブができているんで、世の中まだまだ捨てたもんじゃないなと思いました(笑)」
というウエノルカのMCは厭世的なようでいてやはり人間を信用しているというか、100%世の中の全てに絶望しているわけではないというバンドの精神性を感じさせるが、すでにフェスなどの場数を踏んでいたり、アニメのタイアップになっているということもあるからか、最新シングル「夕立ち」ではモッシュが起こってもおかしくないくらいに客席のリアクションも熱く変化していき、ラストの「故に枯れる」では京寺が
「自分らしく生きろ」
という叫びが
「今日も駄目だった明日こそはと
眠るそんな毎日が愛しい」
というフレーズとリンクして、どんなに泥濘の中でもがいているような人生であっても、そんな自分を肯定してやれるのは自分しかいないという、やはりユアネス同様に闇の中から光が射し込むような物語を描いてみせた。
サウンド的にはa crowd of rebelionあたりとの親和性を感じるし、世界観としてはamazarashiに通じるようなところもあると思う。「ダーク」という形容詞がこんなに似合うバンドもそうそういないと思うが、ライブではやはり肉体性に満ちているというか、ライブにおける姿勢や向かい方は体育会系とすら感じる。
1.ジェンガ
2.明滅する
3.偽物の宴
4.HAKU
5.夕立ち
6.故に枯れる
夕立ち
https://youtu.be/rMl3_cHXRdg
・秋山黄色
そしてこの日のトリ、秋山黄色。ライブを見るのは初めてで、アー写もイラストだし、MVにもほとんど本人は写っていないしで、どんな出で立ちの人間で、どんな形でライブをやるのかも全くわからないような状態だったのだが、いざステージに現れたのは白いTシャツにネックレス、名は体を表すとはこのことか、というくらいに黄色い(金髪)髪の色をしており、それは「長い前髪で前が見えねぇ」と今にも歌い出しそうなほどに目が隠れている。つまりはぱっと見はかなりチャラく見える出で立ちをしている。
見た目はハーフのモデルさんかな?とすら思ってしまう美人女性ベーシスト、音源では松下敦(ZAZEN BOYS)が担当していたドラムは同じような体型のパワー型といった感じで歌い出したのはまさかのストレートなパンクソング。
「何もいらないいらないいらない 君がいないなら」
という歌詞も実にストレートに感じるが、既発曲の歌詞の面白さや捻くれっぷりを見るとなんともそのまま受け取りにくいというか、しっかり歌詞カードを見ながら聴いたら全く印象が変わる可能性もある。
秋山黄色のボーカルはまだそこまでライブ経験がない男とは思えないくらいにしっかりしていて、サビ終わりでは
「O-Crestぁぁー!!!」
と叫んでからギターをぶん回すようにして演奏するなど、こうしてステージに立って音楽を演奏しているという衝動に満ちている。いきなりアウトロでさらに激しく高速に転調するアレンジにはビックリしてしまったが。
ダウンピッキングのベースと一発の力が強いドラム、さらには秋山の独特なギターリフが重くも妖しい雰囲気を醸し出す「やさぐれカイドー」は言葉の連なり具合も面白いが、MVのいかがわしさを見ると、
「いつからこここんなん建ってんの?」
というフレーズは「建って」は別の漢字とのダブルミーニングというか、そちらの意味がありそうな気がしてくる。
「そうだ殺して 永久の方」
という歌詞が一見チャラいこの男の陰の部分を見せる「Drown in Twinkle」ではサビでファルセットで歌ったり、逆にあえて声を張って押し切るように歌ったりという歌い方の変化をつけながら歌う。それはそうしようとしているというよりも感覚としてそうなっているというような感じがするくらいにスッと自然に本人の中から出てきた声であるかのよう。
「物事には何事も陰と陽っていうものがあると思うんですけど、ナオト・インティライミさんとかが陽だとすると僕は完全に陰というか…。これ言っちゃダメなやつですかね?(笑)」
と、見た目とは裏腹に自身の資質が陰であることを明かすと、「クラッカー・シャドー」「日々よ」というCD未収録曲から「ドロシー」に至る流れは完全に秋山が陰の資質を持った男であるというのを表すような自身の内面と向かい合うようなミドルテンポの曲たち。この辺りの曲を聴くと、なぜ対バンがこんなにも陰のオーラを持ったバンドばかりなのかということがよくわかる。音楽性やジャンルではなくてどこか精神の奥の方で繋がっている人たちがこの日のステージには集結していた。
「告知をまとめてしますが〜」
と決まっているライブをザッと発表すると、最後に
「VIVA LA ROCK決まりました!」
と初のフェス出演が決まったことを実に嬉しそうに発表し(フェスの主催者である鹿野淳もライブを見に来ていた)、
「ボクシングとかテニスって好きで始めたことであっても絶対に勝ち負けがついちゃうじゃないですか。でも音楽はどんなにデカい場所になったりしても、場所や景色が変わるだけで自分がやることは変わらない。自分が歌いたい歌を歌って、演奏したい曲を演奏するだけ。だから音楽って本当に最強の趣味だなって思ってます」
という言葉からは秋山の音楽に対する姿勢、向き合い方が見えたのだが、ある意味では演奏中は少年のような無垢さすら感じる衝動的かつ本能的な姿はそうした姿勢によって現れているものなのかもしれない。
これからたくさんの人と関わっていく中でやりたいこと以外のことをやらなくてはいけないことも出てくるかもしれないけれど、その時にこの男はどんな選択をするのか。どんな行動を取るのか。できればこの日見ることができたそうした彼の少年性はずっと失われないでいて欲しい。
そしてギターとベースのユニゾンのイントロから始まったのは「Hello my shoes」のラストに収録されている「とうこうのはて」。
「今現在の残金の総額と あふるる夢の数がスレてて笑っちまう」
という歌い出しのフレーズは一言で言い換えるなら
「金はないけど夢はある」
もしくは
「夢はあるけど金はない」
のどちらかになると思うのだが、「ある」と「ない」のどちらで文を締めるかで与える印象は180°変わる。前者ならポジティブに、後者ならネガティブに感じるようになるのだが、この歌詞からはどちらとでも取れるような言い回しをしているし、それをメロディに合うように、かつ文学的に載せている。そこが秋山黄色というアーティストの面白いところだと自分は思っているし、詩人としての確かな才覚を感じる。
あえてタイトルを全てひらがなにすることによって「とうこう」の意味を聴いた人それぞれが思い浮かべられるのもまた然りだが、「借金まみれ」というワードがあることから自分はこの曲を奨学金の曲として捉えているし、「登校」だと思って聴いているのだが果たして。「イェイ」というお茶目な歌い方もそう感じさせるところがあるのだが。
「とうこうのはて」では客席から手拍子が広がり、さらにはサビで腕をあげる人もたくさんいたのだが、ラストの「猿上がりシティーポップ」ではその熱狂はさらに増し、近い将来もっと広い客席でモッシュやダイブが起きているような景色すらも想像することができる。
タイトルとは裏腹に全くシティーポップというジャンルに属するアーバンさもなければ、逆にそうした音楽をディスるような毒もない。ただただこの都会に生きる我々のためのポップソング。だから、
「何より愛したいんだ 居場所くらいは」
客電がついても鳴り止まないアンコールを求める声に応えて秋山が再びステージに1人で登場するも、
「体力残ってたらやろうかなと思ったんですけど、ご覧の通りもうギターも持てません…。
いつかアンコールをやる日が来るかもしれないので、それまでにたくさん会いに来てください。今日はありがとうございました。このありがとうございましたは形式的な感じではなくて、本当に本心から言っています」
とアンコールをやらないことを自らの口で告げた。(体力というか持ち曲の数の問題もあるのだろうか)
その姿はアンコールで演奏はできなくても来てくれた人たちにしっかり向き合おうとする秋山の誠実さを感じさせた。
バンドの演奏力や音の強さ、本人の歌唱力に至るまで、まだ新人とは思えないくらいのライブの完成度。でもそこには確かに強い衝動が宿っている。それが客席に伝わってさらなる熱狂を呼ぶ。それを計算や経験でやっているのではなくて、体や感覚でわかっているかのよう。本当に凄い新人が現れたな、というか、ライブを見てさらに今年の新人王レースを独走状態に入った。きっとすぐにこのくらいのキャパでは見ることができなくなると思うが、奇しくもNUMBER GIRLが再結成を発表した日に、NUMBER GIRLの影響を強く受けているであろう(本人もツイッターで再結成を喜んでいた)ベースのダウンピッキングを多用するロックを作っているこのアーティストのライブが見れたのは決して偶然ではないはず。
ツイッターを見ているとNUMBER GIRLが遺したものや受け継がれてきたものの偉大さを感じるが、近い将来にこの秋山黄色というアーティストもそれくらいに大きなものを音楽シーンに残すことになるのだろう。
1.スライムライフ
2.やさぐれカイドー
3.Drown in Twinkle
4.クラッカー・シャドー
5.日々よ
6.ドロシー
7.とうこうのはて
8.猿上がりシティーポップ
猿上がりシティーポップ
https://youtu.be/zCGl_APrE0Q
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とはいえ余程の戦力補強や流出をしたチーム以外はそんなに所属選手の顔ぶれは変わらないがゆえに現有戦力の底上げ、つまりは若手選手の成長が1番楽しみだったりするのだが、そんな中で最も戦力図を変えてしまうのは新入団選手である。
それは新人ながらに球界最高クラスの選手となった松坂大輔や上原浩治の例を見ても明らかであるが、外国人を含めて新入団選手は実際に蓋を開けてみるまでどんな成績を残すか全くの未知数である。前評判は高くても全く活躍できなかった選手も数え切れないくらいにいるし、逆に全くノーマークの選手がシーズンを終えてみたら新人王を獲得していた、というケースもある。予測するのが最も楽しみな新人王というタイトルが当てるのが最も難しいタイトルなのである。
2019年が始まって1ヶ月ほど。自分の中で音楽シーンの暫定新人王最有力候補なのが、先月1stミニアルバム「Hello my shoes」をリリースした、秋山黄色というアーティストである。
その秋山黄色の「Hello my shoes」リリースツアーの東京公演がこの日のTSUTAYA O-Crestでのライブ。なんか、コンビなのかと思うくらいに一緒にライブをやっている眩暈SIREN、さらにはユアネスを迎えてのスリーマン。
・ユアネス
トップバッターは福岡発のユアネス。フェスやサーキットイベントなどにも名を連ねることが多くなっている4人組バンドである。
静謐なSEでメンバーが登場すると、演奏を始める前に会場に流れ始めたのは男女2人の会話の音源「変化に気づかない」。
メンバーはじっと俯いたままで男女の会話を聞いており、
「またね 本当、変わんないね」
という女性から男性に向けられた言葉は、女性の変化に気づかない男性が変わらないままであるという聞き手によって2人がいる場所、2人がどんな見た目なのかなどのイメージを想起させる。
その会話がイントロのような役割を果たすのは
「「変わんないね」何てあなたもでしょう」
というその会話を振り返るようなフレーズで始まる「凩」でようやくメンバーの演奏が始まる。
陰鬱としたというか、この日本で脈々と続くいわゆる「孤独というシチュエーションで聴くのが1番映える暗いギターロックバンド」というイメージを音源を聴いた時から持っていたし、そのイメージはそのままなのだが、メンバーの演奏が驚くほど上手い。この手のバンドは得てしてそこまで演奏の主張が強くないというか、あくまで厭世観の強い歌詞を含めたボーカルを聞かせるための演奏というスタイルが多いのだが、このバンドは全く違う。
特に手数の多さ、打力の強さ、さらにはスティック回しも含めて超絶的と形容してもいいであろう小野貴寛のドラムはライブに華やかさすら感じさせるくらいに鮮やかで見事。きっとこのメンバーたちはもっと技巧さを前面に出した音楽もできるだろうけれど、その演奏力があるからこそ音楽そのものはもちろんライブも全く単調さを感じない。
そんなこのバンドの世界観を儚さをたっぷり孕んだボーカルで見せる黒川侑司が
「眩暈SIRENとは同じ福岡出身で。ずっと名前を見てきたし、そうやって知ってたバンドと一緒にライブができるって本当に嬉しいし、音楽って素晴らしいなと思います」
とこうして地元の先輩である眩暈SIRENと同じステージに立てている喜びを語ると、「夜中に」からは打ち込みのキーボードのサウンドも取り入れるのだが、それは壮大さというよりも切なさをさらに際立たせるように使われていた。あくまで主役はこの4人での演奏であり、それを引き立たせるための隠し味的な要素というか。
「欠けた街を見てた
「変わらない」日々の背中を
欠けた月を見てた
「変われない」私の事を」
という冒頭の2曲からの連なる物語というか、このバンドの描きたいものが実に一貫しているというのがよくわかる「Bathroom」で一気に古閑翔平のギターがノイジーかつエモーショナルに振り切れると、後ろ向きな世界を描いてきたからこそ最後に
「立ち上がる力は残ってないけど
諦めの悪さは誰にも負けやしない」
「明日も未来も
「歩みを止めんなよ」」
と歌われる「pop」が、先人たちと同じように、ただ暗闇の中で膝を抱えているのではなく、そこから必死にもがきながら光に手を伸ばすというこのバンドの姿勢や生き方を示していた。
家でヘッドホンをつけて1人で聴くというのがこうしたバンドに最もふさわしいシチュエーションなのかもしれないが、こうしてライブを見ると実はこのバンドに最もふさわしいのはステージの上であるということがよくわかる。それを支えているのは間違いなくこの4人の高い演奏力が合わさるからこその音の強さ。ある意味では演奏や歌が下手でも許されるというかそれが味になるようなジャンルではあるが、このバンドにはそんな甘えは全くない。これからの進化が楽しみなバンド。
1.変化に気づかない
2.凩
3.あの子が横に座る
4.夜中に
5.Bathroom
6.pop
凩
https://youtu.be/DPbDpygss4c
・眩暈SIREN
ピアノの音を軸にしたSEが鳴って登場したメンバーのうち、京寺(ボーカル)とNARA(ドラム)の2人はパーカーのフードを被り、ギターのオオサワレイはハット着用、ベースの森田康介は女性並みに髪が長い、ピアノ&ボーカル(打ち込みも担う)のウエノルカのみ顔がちゃんと見えるという、バンドの出で立ちからして闇がよく似合いそうな、眩暈SIREN。これで「めまいサイレン」と読む。すでにVIVA LA ROCKなどにも出演経験があるバンドである。
京寺のスクリームのような言葉の連射から「ジェンガ」でスタートすると、ラウドかつアグレッシブなサウンドは同じ福岡出身で暗いロックバンドであるという共通点を持つユアネスとは全く異なる。照明も薄暗くというのを徹底しており、京寺とNARAはパーカーのフードを被らなくなっても顔がはっきりとは視認できない。まさに眩暈を起こしているかのようなバンドのロゴのイラストも含めて暗いというよりは闇という属性がよく似合うバンドである。
なのでこうした薄暗いライブハウス、さらにはそうした照明の使い方によって本領を発揮する夜行生物のごときアグレッシブさ。京寺もそうだがウエノルカもスクリームやデスボイスを通常のハイトーンボイスと見事に使い分けており、それによってラウドなサウンドと流麗なメロディの対比が1曲の中で見えるのが実に面白い。
「電車で来たんですけど、このパソコンとかが入ったバッグを電車の中に置き忘れてしまって。なんとか回収できたんでこうしてライブができているんで、世の中まだまだ捨てたもんじゃないなと思いました(笑)」
というウエノルカのMCは厭世的なようでいてやはり人間を信用しているというか、100%世の中の全てに絶望しているわけではないというバンドの精神性を感じさせるが、すでにフェスなどの場数を踏んでいたり、アニメのタイアップになっているということもあるからか、最新シングル「夕立ち」ではモッシュが起こってもおかしくないくらいに客席のリアクションも熱く変化していき、ラストの「故に枯れる」では京寺が
「自分らしく生きろ」
という叫びが
「今日も駄目だった明日こそはと
眠るそんな毎日が愛しい」
というフレーズとリンクして、どんなに泥濘の中でもがいているような人生であっても、そんな自分を肯定してやれるのは自分しかいないという、やはりユアネス同様に闇の中から光が射し込むような物語を描いてみせた。
サウンド的にはa crowd of rebelionあたりとの親和性を感じるし、世界観としてはamazarashiに通じるようなところもあると思う。「ダーク」という形容詞がこんなに似合うバンドもそうそういないと思うが、ライブではやはり肉体性に満ちているというか、ライブにおける姿勢や向かい方は体育会系とすら感じる。
1.ジェンガ
2.明滅する
3.偽物の宴
4.HAKU
5.夕立ち
6.故に枯れる
夕立ち
https://youtu.be/rMl3_cHXRdg
・秋山黄色
そしてこの日のトリ、秋山黄色。ライブを見るのは初めてで、アー写もイラストだし、MVにもほとんど本人は写っていないしで、どんな出で立ちの人間で、どんな形でライブをやるのかも全くわからないような状態だったのだが、いざステージに現れたのは白いTシャツにネックレス、名は体を表すとはこのことか、というくらいに黄色い(金髪)髪の色をしており、それは「長い前髪で前が見えねぇ」と今にも歌い出しそうなほどに目が隠れている。つまりはぱっと見はかなりチャラく見える出で立ちをしている。
見た目はハーフのモデルさんかな?とすら思ってしまう美人女性ベーシスト、音源では松下敦(ZAZEN BOYS)が担当していたドラムは同じような体型のパワー型といった感じで歌い出したのはまさかのストレートなパンクソング。
「何もいらないいらないいらない 君がいないなら」
という歌詞も実にストレートに感じるが、既発曲の歌詞の面白さや捻くれっぷりを見るとなんともそのまま受け取りにくいというか、しっかり歌詞カードを見ながら聴いたら全く印象が変わる可能性もある。
秋山黄色のボーカルはまだそこまでライブ経験がない男とは思えないくらいにしっかりしていて、サビ終わりでは
「O-Crestぁぁー!!!」
と叫んでからギターをぶん回すようにして演奏するなど、こうしてステージに立って音楽を演奏しているという衝動に満ちている。いきなりアウトロでさらに激しく高速に転調するアレンジにはビックリしてしまったが。
ダウンピッキングのベースと一発の力が強いドラム、さらには秋山の独特なギターリフが重くも妖しい雰囲気を醸し出す「やさぐれカイドー」は言葉の連なり具合も面白いが、MVのいかがわしさを見ると、
「いつからこここんなん建ってんの?」
というフレーズは「建って」は別の漢字とのダブルミーニングというか、そちらの意味がありそうな気がしてくる。
「そうだ殺して 永久の方」
という歌詞が一見チャラいこの男の陰の部分を見せる「Drown in Twinkle」ではサビでファルセットで歌ったり、逆にあえて声を張って押し切るように歌ったりという歌い方の変化をつけながら歌う。それはそうしようとしているというよりも感覚としてそうなっているというような感じがするくらいにスッと自然に本人の中から出てきた声であるかのよう。
「物事には何事も陰と陽っていうものがあると思うんですけど、ナオト・インティライミさんとかが陽だとすると僕は完全に陰というか…。これ言っちゃダメなやつですかね?(笑)」
と、見た目とは裏腹に自身の資質が陰であることを明かすと、「クラッカー・シャドー」「日々よ」というCD未収録曲から「ドロシー」に至る流れは完全に秋山が陰の資質を持った男であるというのを表すような自身の内面と向かい合うようなミドルテンポの曲たち。この辺りの曲を聴くと、なぜ対バンがこんなにも陰のオーラを持ったバンドばかりなのかということがよくわかる。音楽性やジャンルではなくてどこか精神の奥の方で繋がっている人たちがこの日のステージには集結していた。
「告知をまとめてしますが〜」
と決まっているライブをザッと発表すると、最後に
「VIVA LA ROCK決まりました!」
と初のフェス出演が決まったことを実に嬉しそうに発表し(フェスの主催者である鹿野淳もライブを見に来ていた)、
「ボクシングとかテニスって好きで始めたことであっても絶対に勝ち負けがついちゃうじゃないですか。でも音楽はどんなにデカい場所になったりしても、場所や景色が変わるだけで自分がやることは変わらない。自分が歌いたい歌を歌って、演奏したい曲を演奏するだけ。だから音楽って本当に最強の趣味だなって思ってます」
という言葉からは秋山の音楽に対する姿勢、向き合い方が見えたのだが、ある意味では演奏中は少年のような無垢さすら感じる衝動的かつ本能的な姿はそうした姿勢によって現れているものなのかもしれない。
これからたくさんの人と関わっていく中でやりたいこと以外のことをやらなくてはいけないことも出てくるかもしれないけれど、その時にこの男はどんな選択をするのか。どんな行動を取るのか。できればこの日見ることができたそうした彼の少年性はずっと失われないでいて欲しい。
そしてギターとベースのユニゾンのイントロから始まったのは「Hello my shoes」のラストに収録されている「とうこうのはて」。
「今現在の残金の総額と あふるる夢の数がスレてて笑っちまう」
という歌い出しのフレーズは一言で言い換えるなら
「金はないけど夢はある」
もしくは
「夢はあるけど金はない」
のどちらかになると思うのだが、「ある」と「ない」のどちらで文を締めるかで与える印象は180°変わる。前者ならポジティブに、後者ならネガティブに感じるようになるのだが、この歌詞からはどちらとでも取れるような言い回しをしているし、それをメロディに合うように、かつ文学的に載せている。そこが秋山黄色というアーティストの面白いところだと自分は思っているし、詩人としての確かな才覚を感じる。
あえてタイトルを全てひらがなにすることによって「とうこう」の意味を聴いた人それぞれが思い浮かべられるのもまた然りだが、「借金まみれ」というワードがあることから自分はこの曲を奨学金の曲として捉えているし、「登校」だと思って聴いているのだが果たして。「イェイ」というお茶目な歌い方もそう感じさせるところがあるのだが。
「とうこうのはて」では客席から手拍子が広がり、さらにはサビで腕をあげる人もたくさんいたのだが、ラストの「猿上がりシティーポップ」ではその熱狂はさらに増し、近い将来もっと広い客席でモッシュやダイブが起きているような景色すらも想像することができる。
タイトルとは裏腹に全くシティーポップというジャンルに属するアーバンさもなければ、逆にそうした音楽をディスるような毒もない。ただただこの都会に生きる我々のためのポップソング。だから、
「何より愛したいんだ 居場所くらいは」
客電がついても鳴り止まないアンコールを求める声に応えて秋山が再びステージに1人で登場するも、
「体力残ってたらやろうかなと思ったんですけど、ご覧の通りもうギターも持てません…。
いつかアンコールをやる日が来るかもしれないので、それまでにたくさん会いに来てください。今日はありがとうございました。このありがとうございましたは形式的な感じではなくて、本当に本心から言っています」
とアンコールをやらないことを自らの口で告げた。(体力というか持ち曲の数の問題もあるのだろうか)
その姿はアンコールで演奏はできなくても来てくれた人たちにしっかり向き合おうとする秋山の誠実さを感じさせた。
バンドの演奏力や音の強さ、本人の歌唱力に至るまで、まだ新人とは思えないくらいのライブの完成度。でもそこには確かに強い衝動が宿っている。それが客席に伝わってさらなる熱狂を呼ぶ。それを計算や経験でやっているのではなくて、体や感覚でわかっているかのよう。本当に凄い新人が現れたな、というか、ライブを見てさらに今年の新人王レースを独走状態に入った。きっとすぐにこのくらいのキャパでは見ることができなくなると思うが、奇しくもNUMBER GIRLが再結成を発表した日に、NUMBER GIRLの影響を強く受けているであろう(本人もツイッターで再結成を喜んでいた)ベースのダウンピッキングを多用するロックを作っているこのアーティストのライブが見れたのは決して偶然ではないはず。
ツイッターを見ているとNUMBER GIRLが遺したものや受け継がれてきたものの偉大さを感じるが、近い将来にこの秋山黄色というアーティストもそれくらいに大きなものを音楽シーンに残すことになるのだろう。
1.スライムライフ
2.やさぐれカイドー
3.Drown in Twinkle
4.クラッカー・シャドー
5.日々よ
6.ドロシー
7.とうこうのはて
8.猿上がりシティーポップ
猿上がりシティーポップ
https://youtu.be/zCGl_APrE0Q
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