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最新プロセス「Intel 18A」がついに量産開始。米国生産で唯一
2025年10月9日 22:00
Intelは10月9日(米国時間)に報道発表を行ない、米国アリゾナ州チャンドラー市オコティージョ・キャンパスに開設したFab 52において、製造部門であるIntel Foundryが最新プロセスノードとなる「Intel 18A」の量産を開始したと発表した。
Intel 18Aは、他社の2nmに匹敵するプロセスノードとされており、Intel 上級副社長 兼 Intel Foundry事業 事業本部長 ケビン・オバックレー氏によれば「米国で開発・製造される2nm級のプロセスノードとしては唯一」とアピールした。
Intel 18Aでは、新しい製造技術として「Ribbon FET」および、「PowerVia」という2つの新技術が投入されており、特にPowerViaに関しては他社に先駆けて導入することが実現できており、Intel Foundryにとっての大きな武器になる可能性がある。
TSMCのN2と同じようなタイミングでIntelも2nm級のIntel 18Aの量産を開始
Intelは、受託製造を行なうIntel Foundry部門に4年間で900億ドル(約13兆7,354億円)という巨額の投資を行ない、最新のプロセスノードの開発やその最新のプロセスノードで製造を行なう最新工場の建設を行なってきた。その1つの到達点として、他社のプロセスノードで2nmに匹敵するIntel 18Aの量産が、Intelが米国アリゾナ州チャンドラー市オコティージョ・キャンパスに新たに開設した工場「Fab 52」において開始された。
Intel 上級副社長 兼 Intel Foundry事業 事業本部長 ケビン・オバックレー氏は「我々は数十億ドルのコストを投じてこのFab 52を建設してきたが、既に完全稼働を開始していることを今回正式に発表したい。Intel 18Aは米国で開発/製造される2nm級のプロセスノードとしては唯一の存在だ」と述べ、Intelが他社に先駆けて2nm級のプロセスノードの最新工場を米国に開設できたことには大きな意味があると述べた。
オバックレー氏自身が「米国で」という条件をつけたように、このことはIntelが2nm級のプロセスノードで他社に先駆けているという意味ではない。実際、TSMCは今年の6月3日に行なった「2025 Annual Shareholders’ Meeting」の中で、2nmノードの生産開始が今年(2025年)の後半であることを明らかにしている。
ただ、この2nmノードは台湾に開設される工場(Fab 20)で量産開始されるもので、TSMCが米国アリゾナ州フェニックス市(Intelの工場があるチャンドラー市からは非常に近い場所にある)に開設した工場では、まだ2nmの量産は開始されていない。
TSMCのWebサイトによれば、TSMCのフェニックス工場はN4(4nm)が既に量産開始しており、N3(3nm)を生産する第2棟は既に建設が完了しており、N3の量産は2028年中と明らかにされている。2nmノードの生産は今年の4月から建設が開始されている第3棟が完成してからとされ、量産はこの十年(2021年~2030年)の終わりとされていることから、2030年あたりに量産が開始されると考えられる。その意味で、Intelの「米国で初の2nm級の量産」という表現は正しい表現だ。
では、TSMCのFab 20でのN2量産と、IntelのFab 52のIntel 18A量産とどっちが早いのかは、「量産」という言葉の意味も含めて判定は難しいところだ。どちらも今年後半に量産開始という意味ではほぼ同じようなタイミングで量産が始まった(あるいはこれから始まる)と考えておくのが正しいだろう。
オコティージョ・キャンパス内のFab 52でIntel 18Aの量産が開始されている
Intelは米国アリゾナ州チャンドラー市には2つのキャンパスを持っている。1つは研究開発などが行なわれているチャンドラー・キャンパスで、もう1つがFab 52などがあるオコティージョ・キャンパスだ。
Intelがオコティージョ・キャンパスを開設したのは、1990年代初頭まで遡る。当時このあたりの土地を農地として所有していた農家から、700エイカー(283万2,800平方m、東京ドーム約61個分)の土地を購入し、オフィスや工場などを建設してきた。最初に建設されたのがFab 12で、その後1996年にFab 22、2000年代初頭にFab32、2011年にFab 42と工場が建設されてきた。
なお、末尾が2というのが、アリゾナ州に置かれている工場であることを意味しており、Fab 12であればアリゾナ州の工場の1番目、Fab 22であれば2番目……という意味になる。
今回IntelがIntel 18Aの量産を開始したFab 52は、アリゾナ州の工場の5番目の工場という位置づけになる。IntelはこのFab 52、そしてその次のFab 62の建設に320億ドルの投資を行なうことを既に発表しており、Fab 52はその計画の一部分ということになる。
Fab 52の内部には最新のプロセスノードを生産するのに必要となる巨大なEUV(Extreme Ultra Violet、極端紫外線)露光装置などが並べられており、Fab 52が最新のプロセスノードを生産する工場であることがすぐに分かる。
こうしたFab 52は単体で動作しているのではなく、以前からあるFab 12~Fab 42ともAMHS(Automated Material Handling System、ウェハを格納して工場の天井などに設置されたレールで移動していく装置)のレールで結ばれており、Fab 12~Fab 52全体でその距離は約30マイル(約48.2km)になる。東京駅から江の島までの直線距離の長さが48.3kmなのでそれに相当する距離になる。
Intel 18AではRibbonFETとPowerViaという2つの新しい技術が同時に導入されている
そうしたFab 52で量産が始まっているIntel 18Aだが、Intelによれば大きく言って2つの新技術が投入されている。1つがいわゆるGAA(Gate All Around)FETのバリエーションである「Ribbon FET」で、もう1つが裏面電源供給技術の「PowerVia」だ。
Intelが第3世代Core(Ivy Bridge)を製造するのに利用した22nmで初めて導入したFinFET(当時の呼び方ではトライゲート・トランジスタ)は、従来は平面の構造だったトランジスタのゲートを立体的な構造にしたもので、ゲートの効率を上げて、リーク電流を減らし消費電力を減らすことができる技術として導入された。
Ribbon FETはそのFinFETをさらに進化させてより複雑な4D構造にゲートを進化させることで、ゲートの効率をさらに上げてリーク電流を減らすなどを可能にするものだ。このRibbon FET(業界の一般的な呼び方ではGAA FET)は、Intelだけが導入しているものではなく、同じ2nm級世代ではTSMCのN2でも導入されるものだ。
それに対して、トランジスタの裏面から電力を供給するPowerViaは、Intelだけが2nm級世代で導入する技術となる。PowerViaは裏面電源供給技術という日本語の説明の通り、通常はトランジスタの表面から供給される電源を裏面へ移動し、Nano TSVと呼ばれる貫通ビアを利用してトランジスタに電源を供給するという仕組みになる。
表面から信号線も、電源も供給するとなると、トランジスタの信号線に必要な面積が増え、配線の配置が難しくなる。しかしPowerViaの仕組みを利用することで、表面から信号線、裏面から電源と信号線を這わせることができるため配線が容易になる。それだけでなく信号線の品質も改善することになるため、半導体の性能が向上することになるのだ。
Intelによれば、Ribbon FET によりIntel 3と比較して、同じ電力で比較した場合に周波数が15%向上し、同じ性能であれば25%電力を削減することが可能になる。PowerViaに関しては、未対応のIntel 3と比較してダイ面積あたりのチップ密度が同じ周波数であれば1.3倍になるという。
Intelはこうした最新プロセスノードのIntel 18Aを、次世代Core UltraとなるPanther Lakeのコンピュートタイルに採用し、来年(2026年)にXeon 6+として投入されるClearwater Forestのコンピュートタイルの製造にも利用していると説明した。Panther Lakeに関しては今年中にOEMメーカーへの出荷が計画されており、来年の前半には市場に出回ることになりそうだ。