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Panther Lakeに採用されたCPU「Cougar Cove」「Darkmont」の詳細
2025年10月9日 22:00
Intelは次世代Core UltraとなるPanther Lakeの技術的な詳細に関しての発表を行なった。その中でPanther Lakeには、Pコアに「Cougar Cove」(開発コードネーム)、EコアとLPEコアに「Darkmont」(開発コードネーム)という新世代のCPUデザインを採用していることを明らかにし、その技術的な強化ポイントを説明した。
EコアのDarkmontは、Panther Lakeだけでなく、Intelが2026年に投入する予定のEコア搭載データセンター向けCPU「Clearwater Forest」にも採用されている。
Lion CoveとSkymontの延長線上にあるCougar Cove、分岐予測などを改善
今回Intelが発表したCPUコアのデザインは、Pコアが「Cougar Cove」、EコアとLPEコアが「Darkmont」という2種類のCPUコアデザインになる。同社は2019年に投入したIce Lake(第10世代Core)世代から、SoCのデザインとCPUコアのデザインを分離しており、SoCの名称とは別にCPUコアのデザインを行ない、それをSoCに組み込んで設計するというデザインフローになっている。
それ以前は、CPUデザインとSoC、製造に利用するプロセスノードが不可分になっており、設計や製造などの自由度が低かった。そのため2019年からはこうしたデザイン体制に変更されている。
2019年 | 2020年 | 2021年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 | |
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開発コードネーム | Sunny Cove | Willow Cove | Golden Cove | Redwood Cove | Lion Cove | Cougar Cove |
SoC名 | Ice Lake | Tiger Lake | Alder Lake/Raptor Lake | Meteor Lake | Lunar Lake/Arrow Lake | Panther Lake |
デコーダー | 5ワイド | 5ワイド | 6ワイド | 6ワイド | 8ワイド | 8ワイド |
アロケーション | 5ワイド | 5ワイド | 6ワイド | 6ワイド | 8ワイド | 8ワイド |
リタイア | ? | ? | 8ワイド | 8ワイド | 12ワイド | 12ワイド |
実行ポート | 10 | 10 | 12 | 12 | 18 | 18 |
整数演算ALU | 4 | 4 | 5 | 5 | 6 | 6 |
浮動小数点ALU | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 | 4 |
L0(データ) | - | - | - | - | 48KB | 48KB |
L1(命令/データ) | 32KB/48KB | 32KB/48KB | 32KB/48KB | 64KB/48KB | 64KB/192KB | 64KB/192KB |
L2/CPUコアあたり | 512KB | 1.25MB | 1.25MB | 2MB | 2.5MB/3MB | 3MB |
HTT対応 | ○ | ○ | ○ | ○ | - | - |
製造ノード | Intel 10nm | Intel 10nm SuperFin | Intel 10nm Enhanced SuperFin(Intel 7) | Intel 4 | TSMC N3B | Intel 18A |
2021年に投入されたAlder Lake(第12世代Core)以降では、ハイブリッドアーキテクチャと呼ばれる2つの種類(Pコア=Performance Core、Eコア=Efficiency Core)のCPUが導入され、シングルスレッドの性能が必要なときにはPコアを高クロックで高速に動かし、マルチスレッドの性能が重要な時にはコア数の多いEコアも含めて処理を行ない、省電力な動作が必要な時にはLPEコア(Low Power Eコア)と呼ばれる電力効率に特化したデザインのCPUだけを動かしてという形に移行している(LPEコアが有効なのは、Meteor Lake以降)。
従来世代となるCore Ultraシリーズ2(Arrow Lake、Lunar Lake)では、新設計となった新しいCPUデザインとしてPコアはLion Cove、EコアはSkymontが導入された。いずれのCPUデザインも大幅に更新されており、キャッシュ構造も、フロントエンドも、実行ユニットも、バックエンドにもすべて手が入っており、大幅な性能向上/電力効率の改善を実現していた。今回発表されたCougar Cove、Darkmontは、いずれもそうしたLion Cove/Skymontの成功の上にある改良版デザインとなる。
新しいPコアとして投入されたCougar Coveは、基本的にLion Coveの改良版という位置づけのCPUデザインになる。というのも、ここ数年Intelは2世代に一度アーキテクチャの大幅更新を行なっており、2年目は基本的にCPUアーキテクチャを維持しながら細かな部分の改良を加えている。今回のCougar Coveはその改良の年の製品で、キャッシュ階層、デコーダ長、アロケーション長、実行ポート数、ALU数、16.67MHz幅でのクロック周波数変動などは基本的にLion Coveと同じになっている。
改良点は主にフロントエンド(命令の読み込みとデコード)の部分で、メモリ・ディスアンビグエーション(Memory Disambiguation)と呼ばれるメモリアクセスの安定アクセス機能、TLBが1.5倍に増加、分岐予測の改良などにより、命令の読み込みや実行効率などが改善されていることが特徴になる。
Eコアの性能を大きく引き上げたSkymontをベースに改良を加えたDarkmont
新しいEコアとなるDarkmontも基本的にはSkymontの改良版という位置づけとなる。キャッシュ階層、デコーダ長、ロケーション長、実行ポート数、ALU数などは基本的にSkymontのそれを引き継いでおり、Skymontの改良版だと考えて良い。
2021年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 | |
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開発コードネーム | Gracemont | Crestmont | Skymont | Darkmont |
SoC名 | Alder Lake/Raptor Lake | Meteor Lake | Lunar Lake/Arrow Lake | Panther Lake |
デコーダ | 6ワイド(3x2) | 6ワイド(3x2) | 9ワイド(3x3) | 9ワイド(3x3) |
アロケーション | 6ワイド | 6ワイド | 8ワイド | 8ワイド |
リタイア | 8ワイド | 8ワイド | 16ワイド | 16ワイド |
実行ポート | 17 | 17 | 15 | 15 |
整数演算ALU | 4 | 4 | 8 | 8 |
浮動小数点ALU | 3x128bit | 3x128bit | 4x128b | 4x128b |
L1(命令/データ) | 64KB/32KB | 64KB/32KB | 64KB/32KB | 64KB/32KB |
L2/クラスタあたり | 4MB | 4MB | 4MB | 4MB |
製造ノード | Intel 10nm Enhanced SuperFin(Intel 7) | Intel 4 | TSMC N3B | Intel 18A |
改良点はCougar Coveと同じようにフロントエンドで、メモリ・ディスアンビグエーション、分岐予測の改良、より多くの命令を実行できるような最適化が中心となっている。
なお、このDarkmontはIntelが2026年に投入を計画しているEコア搭載データセンター向けCPU「Clearwater Forest」にも採用されている。Clearwater ForestはDarkmontの288コア構成に対応しており、通信キャリアの5Gコアなど密度が重視されるサーバーなどに採用されるCPUとなる。
なお、Darkmontは、そのベースになったSkymontがそうだったように、拡張命令はVNNI(Vector Neural Network Instructions)を含むAVX2(AVX256)までの対応になっており、AVX-512、AMXなどのAVX-2以降にリリースされた拡張命令には対応していない。このため、Panther Lakeも、Clearwater ForestもVNNIを含むAVX2までの対応となる。
16 core製品では8つのEコアと4つのLPEコアを持ち、高いマルチスレッド性能と省電力の両立を実現
こうしたCougar Cove/Darkmontを、Intelは以下のような形でコンピュートタイルに落とし込んでいる。具体的には8 coreと16 coreの2つのコンピュートタイルがPanther Lakeに用意されている。
8 coreの方は、PコアとなるCougar Coveが4つ、LPEコアとなるDarkmontが4つという4+4で8コアのデザインになっている。このPコア4つ、LPEコア4つという構成はCore Ultra 200V(Lunar Lake)と同様の構成で、より省電力の設計を意識したタイル設計だと言える。
16 coreの方は、PコアとなるCougar Coveが4つ、EコアとなるDarkmontが8つ、LPEコアとなるDarkmontが4つとなっており、合計で16コアとなっている。こちらの方は省電力のデザインを意識しつつ、通常版Eコアも8つで、Eコアは合計12コアになる。マルチスレッド時にはEコアの数が性能に効いてくるので、そうしたことを意識したデザインと言える。
なお、いずれのタイルもIntelの最新プロセスノードになる「Intel 18A」で製造されている。
Intelによれば、Cougar Cove/Darkmontのこうした設計により、Panther LakeはLunar Lake(Core Ultra 200V)およびArrow Lake H(Core Ultra 200H)と比較して、同じようなシングルスレッド性能であれば40%低い消費電力になり、同じ電力であれば10%シングルスレッド性能が向上する。
またPanther LakeはLunar Lakeに比べて同じ電力であれば50%マルチスレッド性能が向上し、Arrow Lake Hと比較して同じようなマルチスレッド性能であれば30%少ない電力で動作する。
Intel Thread Directorも進化、LPEコア、Eコア、Pコアの順に必要に応じて有効になっていく
こうしたハイブリッドアーキテクチャのCPUを活用するためにOSのスケジューラとCPUのテレメタリー情報のやりとりを行なう仕組みとなる「Intel Thread Director」も進化している。
CPUは通常はLPEコアでのみ動作し、できるだけ省電力で動くようにされている。その後、もっと性能が必要になれば、Eコアが有効にされ、それでも性能が足りない場合にPコアが有効にされる。これにより、性能と電力効率の両立が可能になる。
また、ゲームのようにピーク性能が必要な場合には、Pコアの負荷とクロックを上げ、LPEコアは停止するなどの動作も可能になっており、ゲーム時には電力効率よりも性能を重視した設定になるようになっている。
また、AIを利用して電力効率と性能のバランスを自動で取る仕組みになる「Intel Intelligent Experience Optimizer」が導入されるほか、OEMメーカーがそうしたパラメーターを変えることができる仕組みも用意され、OEMメーカーがより省電力なノートPCを設計したりすることも可能になる。