Go-qualia INTERVIEW
国内を代表するネットレーベル(※1)のひとつBunkai-Kei Records。その主宰者のひとりにして看板アーティストでもあるGo-qualiaが、world's end girlfriend率いるVirgin Babylon Recordsからアルバム『Puella Magi』をリリースする。今までネットレーベルからアルバムをリリースしてきたが、有料販売をメインとするレーベルからは初であり、配信と同時にCDも発売される。彼の楽曲はエレクトロニカ、テクノ、ハウスやアンビエントの手法を自在に使いこなしつつ、全体としてはポップでメロディが頭に残るとても印象的なもので、ニコニコ動画などで「らき☆すた」や「けいおん! 」等のアニメ・ソングのリミックスやアニメからサンプリングした楽曲で話題を集めると同時に、クオリティの高いオリジナル楽曲もAltema Recordsをはじめ、いくつかのネットレーベルから発表している。その存在は日夜数多くの楽曲が発表されているネットレーベルの世界にあって、ひときわ耳をひくものだ。その彼が今回「魔法少女」をテーマとして作った今作とはどんなものなのか。エレクトロニカ、アニメ、神話が混然一体となったその作品世界を語ってもらった。
※1 主にインターネット上で活動する音楽レーベルで、作品をフリー・ダウンロードでリリースする形が主流。運営方法やリリース形態の目新しさだけでなく、続々と優れたアーティストが現れるため、近年その知名度は一気に上がってきている。
インタビュー&文 : 滝沢時朗
Go-qualia / Puella Magi
Go-qualia初のCDアルバム作品。「魔法少女」をコンセプトの中心におき、複層的世界と物語を描いた傑作が誕生! セフィロトの樹(生命の樹)とクリフォトの樹(悪の樹)という相対した二つの樹を中心とした二つの世界。その狭間に在る現実世界で魔法少女の「喪失」と「希望」の物語が全15曲79分のなかで繰り広げられていく。
1. 10(Lilith) / 2. Malchut / 3. Hod / 4. Cochma / 5. Yesod / 6. Kether / 7. Binah / 8. Geburah / 9. 2 / 10.Requiem / 11. Tiphereth / 12. Daath / 13. 3 / 14. 7 / 15. Netzach
>>「Requiem」のフリー・ダウンロードはこちら(期間 : 12/8〜12/15)
ハイ・ファンタジーとロー・ファンタジー
――まず、音楽を作ろうと思ったきっかけはなんですか?
作るより先に自分で色々と掘り下げて聞くのが好きで、そのうち自分でもなにかやりたくなったんです。最初はMTRとかで多重録音をしているだけだったんですけど、ラッパーの知り合いができて、その人にサンプラーを使ってトラックを作りはじめてから、今みたいな方向になっていきましたね。自分が好きな曲とかをサンプリングして、それをネタにトラックを作ってラップをのせてもらったりするのが楽しかった。ビートを作る過程がもう遊びっていうかパズルみたいな感覚に近いんですよ。それが原点みたいなところがあります。なので、音楽をやってなにか表現したいみたいな目的はあんまりなくて、過程そのものが楽しいですね。
――ルーツとしてヒップホップがあるんですか?
そうですね。でも、あんまりヒップホップをやってるっていう感覚はありませんでした。サンプリングで曲を作ると、たまたまヒップホップの手法に近づくだけで。でも、DJ Shadowは好きで聞いていて、サンプリングで普通のヒップホップとは違うアプローチで音楽を作っていくのがすごくおもしろいと思っていました。その流れで日本人でもDJ KenseiさんがINDOPEPSYCHICSをやったり、結構早い時期からDJでエレクトロニカをかけていて好きでしたね。それから、Aphex TwinとかWarp Recordsがすごく好きだったんですけど、そのWarpの中でもBoards of Canadaは衝撃でした。それまでAphex Twinとかのテクノやエレクトロニカとヒップホップとかブレイク・ビーツっていうのはちょっと距離があるなと思ってたんですけど、それが合わさったらこんなに魅力的になるのかと思いました。自分がやっていた音との親近感も感じましたし。
――アニメの音声のサンプリングやアニメ・ソングのリミックスも音遊びとしてはじめたんですか?
一時期オリジナルの曲を作るのをやめた時期があったんです。音楽自体に対してあんまりモチベーションがあがらなかったので、ちょっと音楽と距離を置こうと思ってしばらく離れていました。でも、あるときにやってみたらおもしろいんじゃないかと思いついて。アニメと自分がやっている音楽はずっと別物として分けてたんですけど、近付けてみたほうがいいかなと思ったんですね。それで、やってみたらそっちのほうがオリジナルより自分に合ってるなという感じでした。でも、単純に好きではじめたので、再生数もそんなに気にしてなかったし、そんなに話題になるとは思ってませんでしたね。そもそもやってることがちょっとおかしいし、あんまり人にウケようと思ってあんなことやらないじゃないですか(笑)。
――そうですね。アニメのキャラの声だけを使ってエレクトロニカを作ったりはしないですよね(笑)。アニメ関連の曲を作っているうちにオリジナルの曲も作りたいという気持ちになってきたんですか?
そもそもアニメ・ソング・リミックスをやりだしたのは自分のためなんですけど、正直言って、自分で聞くのは原曲のアニメ・ソングだったりサウンドトラックのほうなんです。そうなると、やってる意味があんまり感じられなくなってきてしまって。ああいう曲は本当にやりたいと思わないとやらないですし、そもそも頼まれてやるものじゃないですから(笑) それでちょっとやらなくなったんですけど、同時期ぐらいにBunkai-Kei Records(以下、Bunkai-Kei)からオリジナルの作品を出しましょうっていう話が決まったんですね。そのために当時MySpaceにあげていた製作途中の曲をちゃんと作り直す作業を始めて、それからオリジナル曲を作ることに気持ちが切り替わっていきました。それとBunkai-Keiをやるまでは自分がどこに向けて曲を投げてるかってあんまりわかっていなくて、本当に投げっぱなしだったんですけど、Bunkai-keiができてからは、ちゃんとした場所や目的があってやっている意識が持てるようになったんですよ。聞いている人がTwitterとかでも目に見えた形でわかったし、そこのところは結構大きいですね。
――『Puella Magi』はオリジナルですが、「魔法少女」というアニメからでてきた言葉をコンセプトにしていますね。なぜそういったテーマにしたんですか?
CDは物としてずっと残るので、どうせ出すんだったら残す意味のあるものにしたいと思ったんですね。それで、CDの物としての魅力を活かすには、なにかはっきりしたテーマがあって、それに準じたアートワークや作品内容があって、トータルでパッケージされているものがいいんじゃないかと考えました。そういうことを考えているときに「魔法少女まどか☆マギカ」(以下、「まどマギ」)がやっていて、それをきっかけに今まで自分が何気なく見てきた魔法少女モノのアニメを見返したんですね。「まどマギ」を見てからもう一回見返すと、魔法少女モノは結構すごいなっていう部分があって。魔法少女モノっていうのは現代が舞台でそこにファンタジーの要素が入り込んでくるっていう、ファンタジーの中でも現実的な要素の強いロー・ファンタジーっていうジャンルなんですよ。世間的には「指輪物語」や「ゲド戦記」みたいな、当たり前のものとしてファンタジー世界があってそこに主人公が入っていくハイ・ファンタジーが王道だと思うんですけど、自分の中ではロー・ファンタジーのほうが王道だなと思いました。以前にAltema Recordsっていうネットレーベルからファンタジーをテーマに『Fantasia For Child In Me』っていうアルバムを出したことがあって、それは言ってみればハイ・ファンタジーの作品なんですよ。抽象的なハイ・ファンタジーの世界のBGMを抽象的な音で作ったっていうアルバム。それで、今度は抽象的なものじゃなくて具体的なものにしたいなと思って「魔法少女」っていうアイディアが出てきました。
――魔法少女モノは昔のものもさかのぼって見たんですか?
「ミンキーモモ」とか「ぴえろの魔法少女シリーズ」とかあのへんも見ました。あの時代の作品でも結構ぶっ飛んだ話が多いじゃないですか(笑)。
――そうですね。「ミンキーモモ」は主人公が交通事故で死んじゃいますからね。
「まどマギ」も確かに衝撃的だったけど、そもそも魔法少女モノっていうのは衝撃的なものが多いんです。あのへんのぶっ飛んだ感じっていうのは、自分の中ではすごく大きくて。でも、本当になにも準備してなかったので、いざ「魔法少女」で曲を作ろうとしたときに最初はなにもできなかった(笑)。
――いただいた資料のテーマの説明に「セフィロトの樹(生命の樹)とクリフォトの樹(悪の樹)という相対した二つの樹を中心とした二つの世界。」とありますけど、ユダヤ教やキリスト教のカバラからの引用ですよね。「魔法少女」に本格的な神話の要素を入れたのはなぜですか?
当初は本当に魔法少女モノへのオマージュって感じで、歴代の魔法少女の名前をタイトルにしてイメージに合った曲を作っていこうと思ってたんですが、それは一回全部ボツにしました(笑)。先人が作ってきたものに対してなぞるだけっていうことは失礼だし、おこがましいから。それをやるんだったら、「実際にはないんだけどこういう魔法少女モノの作品がある」という想定をして、そのストーリーに合わせた曲を作るっていう逆メディア・ミックスみたいなことをしたらおもしろいなと思ったんです。ジャケットが『Fantasia For Child In Me』でも描いてくれたcotaroさんっていう方なんですけど、cotaroさんにも「魔法少女」っていう存在の神話があって、その「魔法少女」の肖像画が記録として残っているような感じでアートワークを作れたらいいねと話していました。なので、絵としてはハイ・ファンタジー的な手法で「魔法少女」を描いてもらっています。エレクトロニカもどっちかって言うとハイ・ファンタジー的で抽象的な表現に近いし、その音で本来ロー・ファンタジーの「魔法少女」をテーマに曲を作っているのでアートワークと手法は同じなんですね。
――ロー・ファンタジーの概念である「魔法少女」を神話のように作品にすると。おもしろいですね。
誰もやらなかったし、やらないだろうなと思って(笑)。エレクトロニカで上手な人って僕以外にもいっぱいいて、そういう上手い人はテーマを作らなくてもいい曲を書けると思うんですけど、僕はテーマがあってちょっと普通じゃないアプローチをしたほうがいいなと思ったんですね。
――Go-qualiaさんの中では一曲ごとに具体的なストーリーがあるんですか?
あります。それこそセフィロトの樹(生命の樹)とクリフォトの樹(悪の樹)の原典のカバラに載ってるような内容なんですけど、その両方の樹の世界があって、真中にふたつの要素を兼ね備えた現実世界があるっていう設定です。善悪どっちかじゃなくて色んなものが混在したものが現実っていうのがあって、そこにどう登場人物が絡んでいくかっていうことがテーマのひとつですね。『Puella Magi』を作るときに善と悪のそれぞれの側面から見た世界ということで2枚出そうっていう案もあったんですけど、やっぱり、混ざっていることが大事なんです。これを言うとちょっとネタバレなんですけど、タイトルにも意味があって、アルファベットの曲がセフィロトで、数字の曲がクリフォトであり魔女の曲です。
CDとして残すときに今まで通りなだけじゃないことをやりたかった
――曲を作るときにはどんな点に気を配りましたか?
いわゆるエレクトロニカっぽいビートだったりエディットみたいなことはあまりしないようにしようと思って作りました。これは『Puella Magi』の制作中にサントラをずっと聞いていた影響ですね。サントラは元にしている映像作品があって、その世界観を楽曲でどう表すかっていうことに集中しているので、その分特定のジャンルのパターンにとらわれない音楽になるんですよ。例えば「まどマギ」のサントラは意外に民族音楽的な要素が強くて、それほどヨーロッパ的なイメージではないんですけど、あの世界にはすごく合っていますよね。
――「まどマギ」のサントラをやっている梶浦由紀や菅野よう子は本当にいろいろできる方ですよね。
そうですね。でも、僕はオーケストラの曲を聞くのは好きだけど、サンプリングとかで曲を作ってきた人間なので、自分でスコアを書くことはできないんですね。だから、そのやり方を変えないで、どうやって同質のことができるかっていうことがネックになりました。そのためにピアノのコードやオーケストラの元々ある音をサンプリングするだけじゃなくて、それを自分でひとつひとつ加工して作っていって、ストックできたら今度は組み合わせていくっていう作業を念入りにやりました。アルバムの中にも同じ音が何回か違う曲で出てきたりとか、同じ曲のプロジェクトから全く違うものを作るとかっていうことを今回は結構やっています。あと、単純に魔法少女モノのアニメのサンプリングを使うっていうことはできないので、「魔法少女」をテーマにした音ってどんなものなんだって考え込みました。すごく苦労しましたね。
――11月11日の六本木のSuperDeluxeで「チャネル」というイベントに出演しているところを拝見しましたが、『Puella Magi』と「まどマギ」の音声をサンプリングした曲を混ぜてかけていましたね。
最近はオリジナルとリミックスの境目を曖昧にするようなことがやりたいし、自分でもやっててオリジナルなのかリミックスなのかよくわからない感覚になることもあって(笑)。実は『Puella Magi』に入ってる曲の中にもこれまでリミックスに使ってた素材を結構頻繁に使ってるんですよ。聞いてわかる人はあんまりいないだろうと思いますけど、自分で作ったオリジナルの曲なんだけど、実はリミックスの曲を元に作っているものもあります。だから、そういう部分では今までやってきたことと地続きなんですよ。
――『Puella Magi』やこれまでの作品でもそうですが、声にアンビエント的な音響を施して他のサウンドと一体化させることがGo-qualiaさんの作品では特徴的だと思います。声を使うことにこだわりはありますか?
どんな曲でも声をエディットして入れることで表情というか曲に温かみが出ますよね。声のサンプルに関しても歌い手さんの声の波形をそのまま曲に使えるように加工したり、それをシンセみたいにしたりとかっていうのは、曲にしなくてもずっとやってます。それはもうニコニコ動画とかに曲をあげる前からずっとやっていることなので、ドラムの手癖みたいな感覚で声を使う癖みたいなものがありますね。
――『Puella Magi』の話からするとやや余談ですが、声優さんの声に対してはどう思いますか?
声優さんの声も過小評価されていたり変な先入観を持たれてる部分があると思いますね。僕としては声が持ってる可能性を作品の中ですごく感じるし、尊敬している職業です。アニメ関連のものをサンプリングやリミックスしている曲では、その可能性をどうやって抽出するかっていうことを結構考えてるかもしれないですね。声優さんの本当にすごい演技を聞いたときは、僕には音楽ですごい演奏を聞いたときに近いものがあって、音楽を聞くのとアニメを見るのはチャンネルとしては一緒かもしれないと思ってます。
――今回『Puella Magi』と同時に『Puella Magi 000』がBunkai-Kei Recordsからリリースされますが『Puella Magi』とはどういった関連がある作品なんでしょうか?
番外編とかではなくて、『Puella Magi』と連続した内容です。音楽面のことで言うと、わかりやすい音を『Puella Magi』には入れていて、『Puella Magi 000』のほうはわかりづらい曲をまとめた感じですね。ぐちゃぐちゃなノイズの曲とかもそっちには入ってます。
――『Puella Magi』はGo-qualiaさんの一連の作品の中でどういう位置にあると思いますか?
地続きではあるんですけど、今までやってきたこととは違う部分がありますね。ネットレーベルでやってきたのは、自分の得意なことを得意な出し方でやるっていうことでしたけど、今回は今までやらなかったようなことや苦手なこともやっています。やっぱり、CDとして残すときに今まで通りなだけじゃないことをやりたかったから。買ってよかったなと思ってもらえるようなアルバムになっていたらうれしいですね。
RECOMMEND
Joseph Nothing Orchestra / super earth remixes 【for FREE】
Joseph Nothing Orchestraのアルバム『super earth』のリード曲を、アンダーグランドからオーバーグランド、インディー・レーベルからネット・レーベルと、各方面から集まったアーティストが個性豊かにリミックス! Joseph Nothing本人のリミックスも含む全12曲収録のリミックス・アルバム『super earth remixes』として、Virgin Babylon RecordsとBunkai-Kei Recordsより共同リリース! Go-qualiaも参加しています。
MimiCof / RundSkipper
nobleレーベル作品で人気のmidori hiranoによる新ソロプロジェクトMimiCof、待望の1stフル・アルバム! flauでの作品やJan Jelinekとの活動で知られるEl Fog藤田正嘉がヴィブラフォンで参加、また、Carsten Nicolai(Alva Noto)と共にraster-notonの創設者で電子音響のパイオニアFrank Bretschneider(aka KOMET)、今や時のクリエーターSerph、大注目のネット・レーベル分解系レコーズを主催するGo-qualia、最新作「an4rm」が非常に高い評価を受けているFugenn & The White Elephantsの4組がリミキサーとして参加。
lycoriscoris / from beyond the horizon
デジタル機材を使いながらも、オーガニックで暖かい音作りを心がけ、心象と情景を描く音楽家lycoriscoris(リコリスコリス)。その透明で瑞々しいメロディアスな音像は、Helios、mum、Kettel、FourTet周辺が好きな人には堪らないはず。ゲスト・ボーカルにpiana、マスタリングにKASHIWA Daisukeを迎え完成した、electronica正統派サウンド。
Go-qualia PROFILE
自ら新鋭ネット・レーベル「分解系レコーズ」を主宰し、その他多くのネット・レーベルから楽曲/リミックスを発表。アニメ、ゲーム等の現代を彩る文化を素材に分解、再構築し新たなエレクトロニック・ミュージックの可能性に迫る。楽曲の持つ美しさとある種のPOPさには定評があり、待望のCDアルバムをVirgin Babylon Recordsよりリリース! 自らのオリジナルな世界を新たに追求した意欲作となっている。