ハイレゾで聴くライブ・レコーディング・アルバムの“新たなかたち”ーー音と共に旅した空気公団の記録といま
このたび始まった、空気公団による新しいプロジェクト“音街巡旅”。本作は2013年2月から6月までに開催されたライヴ・ツアー、音街巡旅2013「夜はそのまなざしの先に流れる」の各会場で演奏されたライヴ・アレンジを骨組みに、再度スタジオで音を重ね、エディットを施した、空気公団にとって新しい形の録音物である。さらにB5サイズのコード譜が付属したことで、彼らの表現を演奏し、体感できるという画期的なプロジェクトとなっている。残念ながらOTOTOYではコード譜付属とならないが、24bit/44.1kHzのハイレゾで本作をお届け! より鮮明にパッケージされた、ライヴ会場とスタジオの“空気”を彼らのインタビューとともに体感していただきたい。
空気公団 / 音街巡旅I ONGAIJYUNRYO(24bit/44.1kHz) 【配信価格】
alac / flac / wav : 単曲 251円 / アルバム購入 3,000円
【収録楽曲】
01. これきりのいま / 2. 青い花 / 03. 白いリボン / 04. あなたはわたし / 05. きれいだ / 06. とおりは夜だらけ / 07. 夜と明日のレコード / 08. まとめを読まないままにして / 09. 街路樹と風 / 10. あさの弾み / 11. 天空橋に / 12. 紛れて誰を言え / 13. レモンを買おう
INTERVIEW : 空気公団
空気公団は、ポップスというフォーマットを使い、街を描き、生活を描き、人と人を描くことで、それらの間にあるものを浮かび上がらせるバンドだ。『夜はそのまなざしの先に流れる』は、人が生きている時間を意識させるアルバムだったが、そのライブ・ツアーを基にしたアルバム『音街巡旅』は場所や空間を意識させるような作品だ。彼らがどのようなツアーを経て今作を作るに至ったか、インタビューを読んで欲しい。
インタビュー & 文 : 滝沢時朗
異なる街で異なる生活をしているのに、音楽から同じことを感じられる
ーー2013年のライヴ・ツアー「音街巡旅」は空気公団にとってどんなものになりましたか?
窪田 : 『夜はそのまなざしの先に流れる』では、録音ライヴという一回限りの作り方をしました。そのツアーなので、色んなところで録音ライヴの追体験をするような感覚になるのかなと最初は思っていたんですけれど、それ以上にライヴならではの音楽的でおもしろい部分が多いツアーだったなと思います。
ーー『春愁秋思』のツアーでは、いわゆるライヴハウスではないところで多く演奏をされていましたが、今回のツアーで特に印象深かった場所はどこですか?
窪田 : どこも本当に印象深かったんですね。でも、広島や岡山のような初めて行く土地で、僕らを待ってくれていた方々を前に演奏したことはいい体験でした。その究極は台湾ですね。会場も主催者の方が色々と場所を考えてくれて、通常のライヴハウス以外で空気公団を見てもらうのがいいのではということで、大稻埕戲苑という劇場で演奏することになりました。そこは人形でやる京劇のような布袋劇という伝統芸能を専門的にやる場所のようでした。古い町並みで乾物屋さんとかがあるような。普段はそういうように使用されている会場で、布袋劇以外の演目をやるのは空気公団がはじめてだったんです。
山崎 : それを知ったのが前日で、大丈夫かなという感じでした。その時、一緒に行った山本(精一)さんや(山口)ともさんが、海外でのライヴは想定できないことがあるから、覚悟をしておいた方がいいと言われました。でも、全く問題ありませんでした。
窪田 : もうはじめての海外で、全然言葉も通じないし、どういう感じで受け入れられるのか全く想像ができませんでした。でも、お客さんたちは熱狂的に迎えてくれて、演奏している時の感覚も違うし、お客さんの反応も違うので、ものすごく印象に残っていますね。
ーー台湾のファンの方々と交流したりしましたか?
窪田 : 台湾のバンドと対談(※1)する形で取材を受けて、それもおもしろかったです。空気公団のことをどう思うかという話になって、文化は全然違うのに、彼らが話してくれる僕らへの印象が日本人とあんまり変わりがないんですよね。しかも、福岡でも同じような感覚になったことがありました。九州でのライヴの主催者の方と一緒に車で移動していると、街外れのところで「この辺の風景がすごく空気公団っぽいって、僕は思うんです。」と言われました。それは自分が持っている空気公団のイメージとは少し違う風景でした。でも、その方が空気公団の音楽に感じてくれている印象と、自分の思っている印象とあまり変わらないんですね。異なる街で異なる生活をしているのに、音楽から同じことを感じられるんだと思いました。
>>※1 空気公団ホームページnews「音楽誌「KKBOX」に対談が掲載されました」
エラーの部分が残ってた方がよりその曲が見える
ーー『音街巡旅』はツアーの音を単純に録音したものではないんですよね?
窪田 : そうですね。やっぱり、『夜はそのまなざしの先に流れる』の作り方が根底にありました。ライヴをベーシック・トラックにして、また別に録音した音を重ねてという、時間軸がずれた音が混ざっている感じがおもしろくて、それを発展させたいという気持ちがありました。ライヴ録音した曲をライヴでやって、そこにまた新しいアレンジや要素を加えることで、『夜はそのまなざしの先に流れる』をもうひとつ違うところから見たアルバムになったという感じがします。
ーー収録曲はどのように選んだんですか?
山崎 : わかりません。
戸川 : 当事者だろう(笑)。
山崎 : 当事者なのですが、全部にはっきりと理由があるようでないようで、でも、作らなくてはいけなかったという感じがしてるアルバムなんですよ。私たちの中で「音街巡旅」はすごく特別なツアーで、いろんな旅をしながら、そこで会った人やその人たちの空気公団像みたいなものを感じて、それを形に残さなくてはと思いました。
ーー曲順はどうですか? 『夜はそのまなざしの先に流れる』からの曲は、最後の曲の「これきりのいま」からはじまって最初の曲の「天空橋に」まで行って、逆順で収録されてますよね。
山崎 : 「これきりのいま」から絶対にはじまりたいっていうのはありました。
窪田 : 扉を開ける歌だもんね。
ーーどういう録音状態のものを収録するかという基準はありましたか?
山崎 : これはもう二度とできないという雰囲気を持っている曲をメインにして決めました。
戸川 : 最終的にはトリートメントして、きちんと聞けるようにはしてますけど、クリアにはっきり聞こえるという意味での音質は重視してないです。
ーー「街路樹と風」は音がこもり気味ですね。
戸川 : あの曲は、あえてローファイな感じにしました。
窪田 : エラーの部分が残ってた方がよりその曲が見えるし、なんかいいの「なんか」の部分が輝いてると思うんですよね。それの典型のひとつが「街路樹と風」なのかなと思います。あれはやろうと思えばきれいにできるんですけど、最初にラフで聞いてたのがよかったんですよ。
戸川:「街路樹と風」はノイズの残し具合で何パターンか作って、結局、ノイズが多いものを選びました。
ーー山本精一さんがソロ作のインタビューで「音が鳴ってるその場全体を聴かせるというか。ギター単体ではなくて、自分も含めた“存在”というか。“気配”とか。マイクをたくさん立てて、そういうものを入れるわけですよ。」(※2)と言っていて、『音街巡旅』の音にもそういうものが入っていると感じました。
戸川 : すごくわかる気がします
ーードラムがないアレンジの曲が多いですが、なにかしら意図があるんですか?
窪田 : ドラムのような音が大きな楽器は、小さい会場では使用せずに、アレンジを変えて3人編成で演奏しました。3人だけだと言葉の部分が前に出てくるところがあって、それがおもしろいんです。ドラムありでも、それとはまた違った歌の居場所があって、その差がすごくおもしろい。
山崎 : 最近は3人でやってみようという気持ちになっているのもあります。
戸川 : 3人だと自分がいつも感じているものに近いものがパッと出る感じはある。もちろん、すごいドラマーさんとご一緒させてもらっているので、それはそれで勉強になりますし、楽しいんですけど。最近はライヴの話になると、なにかと「3人でやる?」という話になります。
ーー空気公団のモードが変わってきているんですかね?
戸川 : ツアーをやった影響なのか、体がライヴ向きになっているのか。3人でひとつのノリをつかんだという感じがあるんですよね。もしかしたら、それが曲選びにも出ているのかもしれないですね。
その時代その時代で空気公団ができる楽しみ方を選んできた
ーー今作にコードブックがついてるのはなぜですか?
山崎 : コードブックは過去に2冊ぐらい出していて、それがおもしろかった。今回はコードブックとCDというまだ実現してなかった形でやりたいなと考えました。
ーー歌詞カードに簡単にコードがついているものは見たことがありますけど、ここまでしっかりした冊子がついているのは見たことがないですね。
窪田 : コードブックをつけて演奏してもらうことで、音楽と人との新しい関係ができるんじゃないかと思ったんです。今は音楽の聞き方が色々あって、関係性が変わってきてるように思います。
ーーそれはアルバム自体のテーマとも関連していることですか?
窪田 : 『夜はそのまなざしの先に流れる』は、人と人との関係性や、人を通して自分が見えるような関係性をテーマにしたアルバムだと思っています。ライヴでもその会場に行くと、関係性が如実に出てしまうところがあります。例えば、リゾート地である湯布院でやったライヴ。つまり、みんな旅をして、旅先で音楽を聞いてる。自分たちもツアーで旅をして、旅先でライヴをやっている。その生活している街を離れた旅人同士にできた関係性というのがおもしろく感じました。こういう感じで場所やお客さんによってライヴが違ってくるように、音楽と人との関係性はメディアによってもニュアンスは違うんじゃないかと思っています。
ーーみなさんはコード譜などを見て誰かの曲を演奏してみるということは昔からしているんですか?
山崎 : 音楽を習っていた時はやってました。
戸川 : 中学生ぐらいの頃はやってた気がします。自分で弾いて歌うっていうのは単純に楽しいですからね。
ーー楽譜ではなくてコード譜というのは、コードだけを提示して後は好きにやって欲しいということですか?
山崎 : それはありますね。楽譜って音が全部書かれてしまっていて、つまらない。曲を作りの時のコード譜の設計図状態で最高潮ですね。一番イメージが保てる気がします。
窪田 : 楽譜だと再現性は高いんですけど、その通りに演奏することを良しとしている気がしてしまいます。
山崎 : もう答えを見てやってるわけです。どれが答えなのかを探す感じがいいのですが。
戸川 : なんなら別にコードが違ってもいいですしね。自分で変えて。
ーー空気公団はCDやコード譜のようなものにこだわる一方で、Ustreamでライヴを配信したり、Youtubeでメッセージの動画を作ったりして、メディアを満遍なく使うところがおもしろいですよね。
窪田 : 今はネットの使い方次第で、言いたいことをきれいな文字や映像で発信できます。配信文化とか音楽を作るのにお金をかけないやり方は悪く言われがちで、自分でもどうなんだろうと思う部分はありますけど、僕はやりたいことがやれていて、今の世の中はすごく楽しい。
ーー山崎さんはどうですか?
山崎 : その時代その時代で空気公団ができる楽しみ方を選んできたつもりです。昔のやり方を続けるわけではなくて、その時代に合わせたツールで、きっちり空気公団を守っていけてると思っています。
ーー音楽を聞くだけではなくて、色々な方法で楽しみたいという姿勢が空気公団の活動には一貫していますよね。
窪田 : 空気公団はすごくコンセプチュアルだから、音楽じゃなくても表現できるとものだと前から思っています。
空気公団、魅惑の作品群
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『空気公団』と、放送作家、ミュージシャンとマルチに活動する『美津留(倉本美津留)』による新しい取り組み「くうきにみつる」。日本語の持つ響きや重ね、情景を彼ら独自の観点でとらえた、温かくぬくもりのある曲達はまさしく上質の日本語ポップス。
ハンバート ハンバートによる4年ぶりのフル・アルバムは、「ずっとやってきたことを一番いい音、演奏で作りたい」というシンプルかつストイックな理由でカントリーの本場ナッシュビルで録音された意欲作。空気公団同様、しっかり芯が通りつつも聴きやすい上質なポップ・ソングを作り出す彼らの新価が発揮された作品となっている。
ROVOなどの山本精一、ムーンライダーズの岡田徹、元マンスフィールドの伊藤俊治からなるポップ・ユニット、ya-to-iによる12年ぶりのフル・アルバム。去年から活動を再開して注目を集めた彼らが織りなす、音響、構成、メロディー的にも次元がかき混ぜられたようなナード・ポップはひねくれながらも、ふっと入り込んでくる馴染みやすさを持っている。ゲスト・ヴォーカルとして柴田聡子やじゅんじゅんが全面的に参加しているのも聴き所。
PROFILE
空気公団
1997年結成
メンバー交代を経て現在は山崎、戸川、窪田の3人で活動しています。
音源制作を中心に活動しながら、スクリーンの裏側で演奏するライブ・イベントや、音楽を聴きながら作品を楽しむ展覧会「音の展示」等、様々な公演をおこなっている。