ロスジェネにおびえる若者は少なくないかもしれません(イラスト:ずんずん)

会社がつらい、辞めたい……。そう思う人は、仕事そのものというより、職場の人間関係で行き詰まっていることも多いかもしれません。自分自身に原因があるとは限りません。会社のあちこちに生息する「困ったおじさん、おばさん」に追い詰められていることも。
そんな恐るべき現場を数多く見てきたのが、元外資系OLでコラムニストのずんずんさん。この連載では、そんな彼らの生態を解き明かし、対策も考えていきます。

氷河期・ロスジェネの先輩が怖い

こんにちは!ずんずんです。ゴールデンウイークもとっくのとうに終わり、次の祝日は7月だそうですが、皆さま息をしていらっしゃるでしょうか……。


ずんずんさんによる新連載。この連載の一覧はこちら

さてはて、いつもこの連載ではオフィスの困ったおじさんやおばさんのお話をしていますが、20代社会人の方たちから、

氷河期・ロスジェネの先輩が怖い

というタレコミがありました。

氷河期・ロスジェネとは、現在アラフォーの中堅社員たちでして、就職氷河期を潜り抜け、ロストしちゃったジェネレーションを生きぬいてきたサバイバーたちでもあります。ロスジェネって、世代そのものが失われているとは……。

そんな氷河期・ロスジェネの方々は、新卒のときは就職先がなく、就職できたとしても過酷な労働条件ということも多数。人によっては何度か転職を繰り返し、アラフォーになったこの年でやっと落ち着いたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、時代は変わり、就職活動は空前の売り手市場です。あまり苦労することなく就職した若者は、会社に入って初めて見る氷河期・ロスジェネ世代の先輩の気合の入りっぷりに恐れおののいているそうです……。

伊藤さん(仮名)もそんな気合のはいった氷河期・ロスジェネ世代の先輩の1人です。伊藤さんは今年38歳の女性で、メディア系企業で営業の仕事をしています。

そんな伊藤さんの下に25歳の男性社員田中さんが異動してきました。会社がなかなか人を採用しなかったので、38歳の伊藤さんが今までいちばんの若手で、その次が25歳の田中さんという、非常に年齢のバランスが悪い構成になっていました。

田中さんの仕事っぷりにイライラ…

ロスジェネ世代の伊藤さんは、この田中さんの仕事っぷりに非常にイライラしています。田中さんはなんでもかんでもわからないことがあると、伊藤さんに聞いてくるのです。

伊藤さんもヒマではありません。

そもそも仕事というのは、自分で考えて、自分で動いて、

「人の倍」働くもの

そう考えていた伊藤さんは田中さんにブチ切れそうです。

しかし今の時代、部下に怒鳴ったりすることはできません。その代わり、伊藤さんは田中さんに

「自分で考えて」

とクールに突き返していました。すると、田中さんはそのたびにビクっとして、段々と元気がなくなっていきました。

なぜ、元気がなくなるのか伊藤さんにはよくわかりません。そもそも伊藤さんは、

若者のおびえる気持ち

というのをはるか昔に捨ててきてしまったのです。

しかし、田中さんが仕事をなかなか覚えないので、上司にちゃんと教えるようにと注意された伊藤さん。考えを改め、田中さんになるべく優しく接することにしました。

そんな中、伊藤さんは誰にも教えてもらえず、泣きながら深夜まで残業した日々を走馬灯のように思い出しました。

時にお局さまに呼び出され「あんたの話し方が気に入らないのよ」など、指導を入れられたこともあったあの日々……。それなのに自分は若手に優しくしなければいけないというこの理不尽。

しかし、時代は変わったのだ……。

伊藤さんはうなだれました。

氷河期・ロスジェネ世代は、会社側が採用を手控えていたために慢性的に人手が足りず、人の2倍、3倍働くのが普通でした。女性の方はワンオペで子育てしながら働いてきた方だっているはずです。

それがゆえに、

ちょっと感覚がマヒしてしまっているんですね……。

私も後輩の話し方に問題があると思ったので「君の話し方は損をするよ」と指導したところ、その後輩がショックで翌日休み、その結果私は上司に呼び出され、

「そんなことをいうとは何事だ!」

と怒られたことがあります。そのとき、私は、

自分がやられても、自分は後輩にやっちゃいけないんだね……(涙)

と心で涙したことがありました。

氷河期・ロスジェネ世代は人員が足りなかったからたくさん働かなければいけなかっただけです。人員が増えてきた今、自分たちと同じように人の2倍、3倍働けと思っても、下の世代は当然、理解できません。

知り合いの氷河期おじさんは、「最近の若手は深夜に電話をかけても出やしない。本気で仕事をする気があるのか」と嘆いていました。

それは、私も嫌かな……。

伊藤さんは無意識の期待を捨てた

さてはて、伊藤さんは、内心歯ぎしりしながら、田中さんになるべく柔和に接するようにし始めました。そして、部署になんと今度はもっと若い新卒が入ってきて、その教育担当にもなりました。

伊藤さんは、「自分が同じ年ならできたこと」を後輩が当然できるという無意識の期待があったことに気づきました。

伊藤さんは、この期待を捨てました。個々の特性をみて、相手のできることできないことを見抜いて、仕事を教え、振るようにしました。

氷河期・ロスジェネ世代は一人ひとりが優れたプレーヤーでありましたが、彼らももうアラフォーです。これからはマネジャーとしてシフトしていくタイミングなのかもしれません。

伊藤さんは、自分たちがした苦労を下の人間に再生産しなくてもいいのかもしれないなぁと最近、思っているとのことです。

といったところで今日は失礼します☆