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昔のラノベが好きだったあなたに現在のラノベをオススメする Part2

「昔のラノベと今のラノベで何となく似た要素がある作品を比較して紹介しちゃおう」コーナーの第二弾です。第二弾ということは第一弾もあるということでそれはこちらです。
kazenotori.hatenablog.com
「十年前」じゃ収まらなくなってきたので「昔」にしました。あと「vs」とか書いてますけど「この話が好きならこっちの話も面白いと思うよ」くらいの感じです。気楽に受け取ってください。

『キノの旅』vs『世界の果てのランダム・ウォーカー』

世界の果てのランダム・ウォーカー (電撃文庫)

世界の果てのランダム・ウォーカー (電撃文庫)

旅人がさまざまな街を巡る連作短編集――第24回電撃小説大賞金賞『ランダム・ウォーカー』シリーズが『キノの旅』の系譜に連なることは、その帯文を時雨沢恵一が担当したことからも瞭然です。

一話のラストでまずやられました。ああ、そう来るかと。

世界の果てのランダム・ウォーカー | 第24回電撃小説大賞 受賞作特集サイト

『ランダム・ウォーカー』の凄まじさは、一話ごとに時代も場所もまるきり変えてしまうところにあります。あるときは神権政治から脱しようとする森奥の王国、あるときはVR技術が発達した中華風の都市、あるときはHip-HopやEDMにノッて戦う剣豪たちの国、あるときは遺跡から現れたエイリアンに寄生されて全滅した村……それらが「天空に浮かぶ超文明都市とそこから派遣された調査官」という設定で串刺しにされることで、シリーズとして成り立っているというわけです。

見事なアイディアを惜しげもなくひとつの短編に注ぎ込む贅沢。寓話風の『キノの旅』とはまた違った、センス・オブ・ワンダーに満ち溢れたSF短編集です。

『氷菓』vs『ジャナ研の憂鬱な事件簿』

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (ガガガ文庫)

この『ジャナ研』というシリーズは、実際のところ米澤穂信作品に多大なる影響を受けていて(と直接聞いたわけではないけどそうでないならびっくりする)、ものすごくざっくり言うなら「小市民シリーズ」の主人公・小鳩常悟朗と、「古典部シリーズ」のヒロイン・千反田えるを組みわせているような感じです。すなわち、名探偵気取りでいろいろな事件に首をつっこんでしっぺ返しを食らったことがある男子高校生と、好奇心旺盛な育ちの良いお嬢様のコンビが、さまざまな日常の謎を解決していくという作品なわけです。

思うに、小鳩くんと小佐内さんは罪を背負った者同士だからそばにいられるし、折木くんは単なるスカシだから大天使・千反田さんの隣に平気で立つことができるのですが、もし小鳩くんが千反田さんと一緒にいたら、千反田さんが発する太陽のごときオーラにやられて、小鳩くんは地獄のような罪悪感を味わうことになるのではないか。つまり『ジャナ研』とはそういう話なんですよね。

内容としては、推理そのものよりも、事件のバックグラウンドに魅力を感じます。穏やかな日常に表出する、微かだけれどもゾッとするような悪意。しかも、その描写は巻を重ねるごとに磨きがかかっていくんですよ。ぜひ読んでみてください。

『空ノ鐘の響く惑星で』vs『リオランド』

ファンタジーとSFが対決する話といえば? 『ゲート』? 『禁書目録』? いいや、『空鐘』と『リオランド』だろ!

というわけで、あの『ムシウタ』の岩井恭平の手になる最新作『リオランド』の紹介です。ある日、平和だったリオランド王国の近辺に、空から巨大な塔――実は遠未来の地球から転移してきた軌道エレベーター――が降ってくるという話で、そこから「儀法」と呼ばれる魔法じみた力を用いるリオランド王国と、超科学の兵装を操る地球の軍人たちの戦いが始まります。

『リオランド』の特徴はなんと言ってもその「不穏さ」。とにかくあちこちに不穏の種がバラ撒かれている。『空鐘』の主人公・フェリオは曲がりなりにも王子であり、支えてくれる人材にも恵まれていましたが、『リオランド』の主人公・ミカドは生真面目で優秀な貴族でありつつ、養子という出自から他の貴族からは見下され、いいように使われているだけ。慕ってくれる部下はいるものの、彼らはいずれも社会のはみ出し者でしかない。

宮廷で孤立しながら、ミカドくんは王国にひたすら忠誠を尽くします。すべては亡くなった王妃との約束のために。己の命も身体も部下たちも犠牲にして、王国のために強大な力を持つ地球人と戦う。しかし、……どこまで行っても報われなさそうなんですよねえ。不憫萌え。

もちろん『空鐘』と同じく三角関係も見どころです。未来の地球の天才プリンセス・エチカと、リオランド王国の希望を一身に集めるリューリリリィ姫。ただし重婚エンドは許されなさそうですね。

『おと×まほ』vs『魔法少女さんだいめっ☆』

おと×まほ (GA文庫)

おと×まほ (GA文庫)

魔法少女さんだいめっ☆ (ガガガ文庫)

魔法少女さんだいめっ☆ (ガガガ文庫)

『まどか☆マギカ』がヒットする以前からも、ラノベでは魔法少女ものの人気が高いんですが、その中でも女装・TS系の魔法少女は特に多いんですよね。『おと×まほ』を筆頭に『ぼくと魔女式アポカリプス』『桜ish』『これはゾンビですか?』『アンチ・マジカル』『俺、ツインテールになります!』『魔法少女育成計画』などなど。本当に何故なんでしょうね。

その系譜に連なる最新作が『魔法少女さんだいめっ☆』です。アラフォーの初代魔法少女が引退するということで、主人公(男)が無理やり二代目にされたんですが、主人公は魔法少女になんてなりたくないので、魔法少女ファンのヒロインに「三代目」になってもらう、といったストーリー。さらに強敵は既に倒してしまったあとだったり、マスコットの性格が悪かったり、ここ最近の魔法少女パロディをすべて投入したかのような、コテコテに捻った設定になっております。

しかし『さんだいめ』の美点は、これだけ捻った設定を用いつつも、ストーリーとしては正統派のご町内コメディになっているところなんですよね。アラフォーでステージに立つ魔法少女とそのファンクラブ。魔法少女で町おこしをする人たち。才能はないけど魔法少女への愛だけは人一倍なスポ根ヒロイン。ライバルとなる高飛車な美少女。敵役もドロンボーめいていて憎めない。とっても明るくて楽しく読める作品です。

『NHKにようこそ!』vs『パンツあたためますか?』

NHKにようこそ! (角川文庫)

NHKにようこそ! (角川文庫)

パンツあたためますか? (角川スニーカー文庫)

パンツあたためますか? (角川スニーカー文庫)

痛すぎる青春を描かせたら右に出るものはいない、2000年代を代表する電波作家・滝本竜彦。その衣鉢を継いだとも言うべき作家が『パンツあたためますか?』の石山雄規なんですよ。なんてったって滝本竜彦本人が「過去の滝本作品が丁寧にリミックスされている」と評するくらいですから。

『パンツあたためますか?』なんて、かなりふざけたタイトルですが、その内容は『NHK』を彷彿とさせる痛々しい青春ストーリーです。クズ大学生とストーカー美少女の、二人で傷を舐め合うような怠惰な日々。ただ、滝本に比べると根が素直というか、登場人物の大半は頭のおかしい女なんですが、同時にほとんどが善良でもあるんですよね。ちょっと読みやすい滝本竜彦、みたいな感じで、あなたもパンツいかがですか?