昔 々むかし、九州きゅうしゅうのお大名だいみょうの家来けらいで、勘助かんすけとい
う男おとこがおりました。勘助かんすけの仕事しごとは、手紙てがみを担かついで届と
どける飛脚ひきゃく [1] でした。そのころ地方ちほうの大名だいみょうたちは、珍めずら
しい刀かたなや名刀めいとうが手てに入はいると、これを飛脚ひきゃくに託たくして、
江戸えどに運はこばせたのです。
勘助かんすけもいま、将軍様しょうぐんさまに献上けんじょうする大切たいせつな刀か
たなを抱かかえて、東海道とうかいどうを江戸えどに向むかっているのでした。
さて、勘助かんすけが薩摩峠さつまとうげという大おおきな峠とうげに向むかう途中と
ちゅう。小高こだかい崖がけの上うえで、サルの群むれが、キーキーと鳴なき騒さわい
でいます。勘助かんすけは、何事なにごとかと思おもって、海辺うみべの所ところまで
行いってみました。
「こりゃあ、たまげた。」なんと驚いたことに、一匹いっぴきのサルが、化ばけ物もの
のような大おおダコに攫さらわれ [2] ようとしています。「よし、今助いまたすけてや
る!」勘助かんすけは、腰こしに挿さしていた刀かたなをサッと抜ぬいて、波打なみう
ち際ぎわ [3] に駆かけつけました。「えいっ、えいっ、えいっ!」勘助かんすけは大おお
ダコ目掛めがけ [4] て、思おもいっきり何度なんども何度なんども刀かたなを振ふり下お
ろします。
ところが、この大おおダコの体からだの固かたいのなんの。刀かたなは、あっという間
まにボロボロになってしまいました。「こりゃあ、とんでもない化ばけ物もののダコ
じゃ。堪たまったもんじゃないわい。こんなのに付つき合あってはおれん。」勘助かん
すけは、逃にげ出だそうとしましたが、その時勘助ときかんすけは、将軍様しょうぐん
さまへ届とどける刀かたなを持もっていることを思おもい出だしました。「そうじゃ、
将軍様しょうぐんさまに差さし上あげるこの刀かたななら、あの化ばけ物もののダコを
やっつけられ [5] るかもしれんぞ。将軍様しょうぐんさま、ちょっくら、お借かりします
だ。」
サルはもう、大おおダコに海うみの中なかに引ひきずり込こまれています。仲間なかま
のサルたちが海うみの方ほうを見みて、心配しんぱいそうにギャーギャーと騒さわぎま
す。勘助かんすけは素早すばやく帯おびを解とき、裸はだかになって将軍様しょうぐん
さまの刀かたなを口くちに銜くわえて、ザップンと海うみに飛とび込こみました。勘助
かんすけは、大 おおダコの足 あしに噛み付 ついてサルを助 たすけ出 だすなり、「え
いっ!」と、将軍様 しょうぐんさまの刀 かたなで大 おおダコに切 きりかかりました 。
ところが、大おおダコの体からだに当あたったとたん、その刀かたなが折おれてしまっ
たのです。勘助かんすけは、サルを助たすけて海辺うみべに上あがってきたものの、そ
の場ばにヘナヘナと座すわり込こん [6] でしまいました。「大変たいへんだあ。将軍様
しょうぐんさまに差さし上あげる刀かたなが、折おれちまっただよ。おらは、どうすれ
ばいいんだ。」
その時とき、仲間なかまを助たすけてもらったお礼れいのつもりか、サルたちがやって
きて、勘助かんすけに一本いっぽんの刀かたなを差出さしだしました。「何なんじゃ?
刀かたなじゃないか。何なんでサルがこんなもん、持もっとるんじゃ。」勘助かんすけ
は不思議ふしぎに思おもいながら、刀かたなを抜ぬいてみました。「おおっ!何なんと
いう素晴すばらしい刀かたなじゃ。これなら将軍様 しょうぐんさまも喜 よろこんでくだ
さるぞ 。」これは良よい物ものを手てに入いれたと、さっそく出でかけようとすると、
後うしろからサルたちが、ゾロゾロと [7] 付ついてきました。
サルの指ゆびさす方ほうを見みると、あの化ばけ物ものダコが、こちらに迫せまってい
ます。サルたちは、この刀かたなでタコをやっつけてくれと言いっているのです。「分
わかった。分わかったよ。」こうして勘助かんすけは、また海うみの中なかヘ。
「てやあっ!とう!ややっ、すごい切きれ味あじ [8] 。これなら勝かてるぞ!さあ、どこ
からでもかかってこい。」その刀かたなは鋭するどく、あっという間まにタコを退治た
いじしたのでした。
勘助かんすけがサルからもらった刀かたなは、刀かたなづくりの名人めいじん、五郎正
宗ごろうまさむねの名刀めいとうだったそうです。将軍しょうぐん様さまは、この刀か
たなを「猿正宗さるまさむね」と呼よんで、いつまでも家宝かほうとして大切たいせつ
にしたということです。
[1] 「飛脚」,名词。信使。
[2] 「攫う」,动词。抢走,夺走。
[3] 「波打ち際」,名词。岸边,海滩。
[4] 「目掛ける」,动词。以……为目标。
[5] 「やっつける」,动词。教训一顿,干掉,杀掉。
[6] 「座り込む」,动词。坐下不走。
[7] 「ゾロゾロと」,副词。一个跟着一个,络绎不绝。
[8] 「切れ味」,名词。快钝。
很 久以前,在九州有一个大名的随从,名字叫勘助。勘助的工作是为人送信的“飞脚”。那
个地方的大名,一旦得到珍贵的武士刀,就会交给飞脚,让他们送往江户。
勘助现在正带着要献给将军大人的贵重的武士刀,从东海道赶往江户。
当勘助来到一个叫萨摩岭的高高的山岭时,只见小山崖上,有一群猴子在“叽叽”地叫嚷。
勘助心想“怎么回事呀?”来到海边瞧个究竟。
“哎呀!吓死我了。”勘助惊叫道,只见一只如怪兽般可怕的大章鱼正要抓走一只猴子。“看
我的。我来救你!”勘助大喊一声。“嗖”地一声拔出挂在腰上的大刀,朝海岸边跑去。勘助
对准大章鱼,用力拼命挥舞着大刀“嘿!嘿!嘿!”
可是,大章鱼的身体很结实。不一会儿,大刀竟然豁了几个口子。“看来真是一个可怕的怪
物啊。气死我了,这样可不行。”正当勘助想逃走的时候,他突然想起自己身上带着要献给
将军大人的武士刀。他心想:“用献给将军大人的这把武士刀,应该可以打败这个章鱼怪
吧。将军大人,请借我一用。”
眼见猴子就要被大章鱼拖入海里了,其他猴子都焦急地朝大海“叽叽”地大叫着。勘助迅速
解开背带,脱掉衣服,用牙咬住献给将军的武士刀,“扑通”一声跳入海中,迅速救出被大
章鱼咬住的小猴子。然后“嘿!”地大吼一声,他用将军大人的武士刀向大章鱼砍去。
可是,当砍到大章鱼身体的时候,武士刀竟然断了。勘助把猴子从海里救上来后,当场累
得浑身无力地瘫倒在地上。勘助伤心地说:“这下大祸临头了。把献给将军大人的刀弄断
了,我可怎么办好啊?”
就在这时,猴子们为了感谢勘助救了同伴的命,给他送来了一把刀。“咦?这不是刀吗?为
什么猴子们会有这个呢?”勘助觉得很奇怪,他拔出刀一看:“哎呀!真是一把好刀啊。这
样的话,将军大人也会很高兴的。”勘助拿着这把宝贝,准备尽快启程,这时他发现,猴子
们竟一个接一个的悄悄地跟在他身后。
顺着猴子们的手指方向望去,勘助发现那只章鱼怪正一步步地逼近猴子们,原来猴子们是
说拿这把刀杀死章鱼。“哦!我明白了。”勘助再一次跳入海中。
勘助大喊到:“这刀可真锋利啊!这回我肯定会赢!来啊!尽管放马过来吧!”很快勘助用
这把锋利的刀打败了章鱼怪。
据说,勘助从猴子们那儿得到的这把刀,正是制刀高手五郎正宗制作的一把名刀。将军大
人把这把刀叫做“猴正宗”,作为传家宝珍藏起来。
语法详解
(1)動詞の終止形+なり
表示前后项动作几乎同时发生。后项不能用于表示命令、意志、推量、否
定等的动词。相当于“一……就……”
* 若者は海に着くなり、水泳を始めた。
年轻人一到海边,就开始游泳。
* すっかり疲れていたのか、夕食を食べるなり、寝てしまった。
也许因为太累了吧,刚一吃了晚饭,就睡了。
(2)用言の終止形+ぞ
表示促使对方注意、自言自语或强烈主张。
* ほら、投げるぞ。
喂,我可要扔了。
* おや、少しおかしいぞ。
哎,有点儿怪啊!
* こいつはうまくいきそうだぞ。
这下可好了!
小知识
飛脚
信書·金銀·貨物などの送達を業とした者。すでに鎌倉時代に京·鎌倉間の鎌
倉飛脚·六波羅飛脚などがあった。江戸時代に入ると、交通基盤が整備さ
れ、飛脚による輸送·通信制度が整えられ、当時の日本国内における主要
な通信手段の一翼を担ってきた。明治時代に入った1871年、前島密はイ
ギリスの郵便制度を参照しつつ、従来の飛脚の方法をも取り入れて郵便
制度を確立した。郵便制度に並行する形で飛脚問屋は陸運元会社として
再組織され、小荷物·現金輸送に従事した。飛脚として活躍した人々は、
郵便局員や人力車の車夫などに転じていったのだった。
飞脚(信使)
从事运送书信、金银及货物之类的人。早在镰仓时代,在京都与镰仓之间
就有“镰仓飞脚”“六波罗飞脚”等。进入江户时代以后,随着交通设施进一步
完备,“飞脚”所负责的运送、通信制度得以完善,在当时日本国内主要的通
信手段中担任了重要的角色。进入明治时代后,1871年,前岛密参照意大
利的邮政制度,结合原有的“飞脚”制度,设立了日本现代邮政制度。采取与
邮政制度并行的方式,重新将“飞脚组织”整合为陆运元公司,从事小型货物
及现金的运送。从前从事“飞脚”的人,逐渐转职为邮局工作人员或人力车车
夫等。