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2006年12月10日 (日)

アニメーション表現の歴史《実例集》

題名:アニメーション表現の歴史《実例集》

ひとつ前の原稿とセットになった技法の実例集です。
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《画面構成》
 画面構成は特に重要なテクニックだ。SFアニメでは現実に存在しないアイテムや光景が登場する。観客にリアルだと納得させるのは、構図や視点、仮想的なレンズの選び方次第なのだ。

  プロジェクト
●「冥王計画ゼオライマー」('88年)より

 一般の民家やビルの間に突然巨大な戦闘ロボットが侵入する。光線を発射して迎撃するゼオライマーの足元に逃げ惑うひとびと…。
 古典的なロボットアニメのひとこまだが、平板な表現を避け、現実の建造物のロケハンを行い、明解なライティングを意識して、リアル極まりない戦闘空間を描き出した。

●「機動警察パトレイバー(劇場版)」('89年)より

 風化し失われつつある東京の生活風景と、取って代わるビル群。その間に答を求めてさまよう刑事二人を陽炎が包む…という映画全体で象徴的な光景をワンショットに封じ込めた名場面。ともすれば陳腐化する危険性を専門に置かれたレイアウトマンの画面構成力で押え込んだ。

●「ヤマトよ永遠に」('80年)より
 アニメーター金田伊功の画面構成はパースペクティブが誇張されていて、極めてユニークだ。カタパルトに乗ったコスモタイガーは手前をグッと張り出すように大きくデフォルメされて迫力満点だ。ミサイル発射シーンも、メカの手前と背面がとても同じメカとは思えないほど誇張されていているが、これがカッコ良い。コクピットの中では人物よりトリガーを握る手の方が大きく、発射を強調している。金田パースのついた画面構成は、多くの亜流を生み出した。

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《演出》
 最終的な画面効果を決めるのは、演出の力だ。どんなSF設定も動きも、良い演出がされてなければ映像の流れから浮いてしまう。対象を選び、適切にカットを割って視点を変え、観客が興味をひくように誘導する。それが演出の役目だ。

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《光線》
 SFの定番アイテムにレーザーを代表とした光線がある。光線銃は、21世紀が近づいてもさっぱり実用化しそうにないが、アニメの光線が空間を切り裂く感覚、画面から浮き出る輝きは現実を忘れさせる魅力満載だ。アニメの中では光線も生命を与えられ、個性的に動き出すのだ。

●「AKIRA」('88年)より
 リアルな世界観を持つAKIRAワールドでは、レーザー光線は現実と同じく直進し、物体を切断する。その光線を鉄雄の周囲で歪曲させた画作りで、超能力の現実離れした威力を表現しているのだ。

●「銀河旋風ブライガー」('81年)より
 金田伊功の描く光線はアニメならではのものだ。まず発射光が膨れる。続いてパワーをタメるように光が広がり、収束して直線状に飛ぶ。最後に崩れるコマを入れることで光線の勢いを表現しているのだ。

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《爆発》
 SFアニメの見せ場は戦闘。中でも”爆発”はもっとも注目を集める派手なものだ。実写特撮でも、ひところは大きなミニチュアを作り、多くの火薬を仕込み、どれだけ派手な炎と煙が吹き出るかを競っていた。自然現象をリアルに描くのは本来アニメは苦手とするところだ。だがアニメの爆発は人間の手でデフォルメされ、画面全体を吹き飛ばし快感を呼ぶようになった。アニメはまた新しい見せ場を手に入れたのだ。

●「マクロスプラス」('95年)より
 爆発のアニメートは基本的に以下のように進行する。まず爆心が超高温で光り、球形の炎が高速で形状を大きくする。続いて温度の下がった空気が燃焼後の煙となって全体にゆっくりと広がる。その中から、破片が尾をひいて枝のように何本もわき出して来る。
 爆発そのものの仕上げも時代によって変化している。かつては1枚のセルにエアブラシ、筆やスポンジで細かい階調をつけたりタッチをつけることで迫力を増していた。
 近年は透過光で爆心を描き、爆発そのものはタイミングとフォルムで見せてあまり細かく仕上げないのが流行のようだ。その分、細部の描写には凝るようになった。このバルキリーも爆発をよけるため、瞬間的にバリアを張っていることが判る。

●「ヤマトよ永遠に」('80年)より
 金田伊功の爆発は特徴があった。フォルムやアクションに独自の工夫があって、画面全体を吹き飛ばすような爽快感にあふれ、爆発それ自体を見せ場にするだけの魅力を持っていた。
 緩急自在の金田爆発アクションは、りんたろう監督の「銀河鉄道999」でブレイクした。金田はさまざまな大作アニメ映画に招かれ、70年代後半から80年代前半のアニメシーンに華を添えた。
 左の写真を例に取ってみよう。
 ミサイルがあたった敵戦艦は、一度被弾して炎を吹き上げる。生き物の触手のようにヌッと炎や煙が出たりする。ところがこれで終わらない。動力炉か爆薬庫に火が回ったのか、戦艦は大爆発する。中心から画面に入りきらないほどの火球が湧き出す。戦艦は、その
強烈な光に砕けながらシルエットになる。そして画面全体が光に包まれ、溶けた金属が飛散する。
 これだけ複雑なことがわずか数秒のカットの中で、コマ単位でのメリハリをつけながら、しかもアニメならではのデフォルメたっぷりに描かれているのだ。
 この映画では中間補給基地の爆撃シーン全体が金田伊功の作画でまとめられた。舞うように踊るように飛翔するコスモタイガーにより敵戦艦が爆発炎上していくさまは、SFアニメ史に残る華麗さであった。

●「超時空要塞マクロス」('82年)より
 庵野秀明のデビュー作画面である。庵野はアニメの映像に実写記録フィルムのテイストを持ち込んで注目を集めた。
 写真の例では、核爆発の記録フィルムが参考になっている。第一波として、熱風が押し寄せ、戦車を溶かす。しばらく間があき、衝撃波が到来。背後の建造物は瓦解し、細かく破片をまき散らす。その中で戦車も耐え切れず爆発して行くのだ。
 庵野が後に描いた爆発シーンでは、この間のあく部分で、熱風がひいた後の揺り戻しの風まで追加され、リアリティを増していた。

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《ミサイル》
 「超時空要塞マクロス」の映像は衝撃的だった。リアルでありながら高速でめまぐるしく対象と視点が入り乱れるように動いていく。本放送当時のアニメ雑誌は、この映像をクリエイトしたアニメーター板野一郎の名前を取って、こう命名した。「板野サーカス」と。
 代表格として挙げられるのが、ミサイルの一斉発射だ。ミサイルが噴射煙を糸をひくように飛跡を残しながら空間を切り裂いて飛ぶさまは一度見たら忘れられない。
 ミサイルや噴射の煙も、アニメーターが生命を与え演技する役者なのだ。マクロスの映像はそれを立証した。

●「超時空要塞マクロス」('82年)より
 スーパーバルキリーのミサイル一斉発射シーン。遠くで発射されているときは、ゆっくりと動作をタメるように小さくうごめくミサイル。一本一本が煙の軌跡をひきながら手前に来ると、数コマで突然巨大になり、画面からフレームアウトして行く。緩急の強調で遠近感を表現している。最後の写真のようにミサイルの炎しか写っていないコマもあり、フラッシュをたいたような衝撃を画面に与えている。さらにバルキリーの機体もひねるように回転し、ミサイルの軌跡も十本以上が同時に展開していくため、画面全体が放射状に広がって行くような解放感すら感じる名場面だ。

●「マクロスプラス」('95年)より
 近年の作品でも板野サーカスは健在だ。クライマックスのバルキリー同士の戦闘で、お互い持てるミサイルをすべて発射しつくすように撃ちまくる場面のひとこまがこれだ。
 いっせいに発射されたミサイルは、個々に姿勢制御を行い、急角度で弾道を変化させたりする。単に放射状に広がるだけでなく、意志を持つようにまとまって飛んでいく無数のミサイル。
 観客はただただそのエキサイティングな軌跡に見とれるだけである。優れたアニメートは、破壊の化身たるミサイルにも美をもたらすのだ。
 名匠の花火大会のような爽快感すら感じる名エフェクトだ。

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《透過光とCG》
 セルアニメの質感には限界がある。ベタでペイントされたセルを反射光で撮影するため、印象が平板になり、存在感が乏しくなりがちなのだ。それをカバーするため、演出家は透過光技術で映像に厚みをつけてきた。SFアニメといえば透過光という感すらある。
 近年ではデジタル技術とセルアニメの組み合わせで従来の光の表現技法の限界を超え、新しい映像を生み出そうという動きもあるのだ。

●「新世紀エヴァンゲリオン」('95年)より
 SFっぽいディスプレイも今や日本語表示の時代である。エヴァの活動限界表示は、パソコンでフォントにパースをつけ、出力したものを透過光撮影しているのだ。
【初出:SFアニメがおもしろい(アスペクト) 1997年1月】

※すいません、演出の実例などに一部ヌケがあるようなので、いつかきちんと改訂します。

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