前回の続きとして、Windows Media Player(以下WMP)とVH7PCのHDCDデコードについて再々考する。
前回の記事と併せて読んでいただきたい。というか併読前提の構成。
◆WMPとVH7PCの既知の特徴
これまでの検証で分かっているWMPとVH7PCの特徴。以後の考察の根拠にしていく。
ちなみに非HDCDな曲=普通のCD音質の曲。16bit分の情報しかない、普通のCDの曲のこと。
- WMP
- [オーディオCDに24ビットオーディオを使う]の有効・無効でHDCDデコードの有無を切り替える。
設定が有効の時にHDCDデコードされる。この時、WMP11ではHDCDマークが表示されなくなる。 - [オーディオCDに24ビットオーディオを使う]が有効の時、非HDCDな曲は音量が半分になる。
波形でいうと、24bit中の最上位1ビット分(=約6dB)を使わない実質16bitのデータが出力される。
HDCDと音量を揃える為の措置と考えられる。 - WAV Output plug-inにより出力されたwavはヘッダに問題があるので、Lilithなどで修正が必要。
- HDCDマークが表示される曲でも、実際には非HDCDな曲=偽隠れHDCDな曲の場合有り。
そういった曲は、実質16bitのデータが出力される(=非HDCDな曲扱い)。
- [オーディオCDに24ビットオーディオを使う]の有効・無効でHDCDデコードの有無を切り替える。
- VH7PC
- アナログ出力・スピーカー出力には、常にHDCDデコード済みの音が出力される。
- 光デジタル出力は、HDCDデコードの有無を切り替えられる。
- 光デジタル出力のHDCDデコードが有効であっても、非HDCDな曲はまんま16bitで出力される。
よって、WMPと違って音量が半分になったりしない。 - HDCDマークが表示される曲でも、実際には非HDCDな曲=偽隠れHDCDな曲の場合有り。
そういった曲は、HDCDマークが表示されていても16bit出力される(=非HDCDな曲扱い)。
◆拾いまくるWMP・愚直なVH7PC?
前回の記事に追記した通り、WMP+WAV Output plug-inで抽出したHDCDデコード済みのwavファイルと、
VH7PCでHDCDデコードして光デジタル録音したwavファイルとの波形比較の結果を示す。
素材は『namco / リッジレーサーズ ダイレクト・オーディオ』初回盤のdisc 2。
ビット数チェックによりHDCDなトラックであると判定した4曲を対象とし、TWEで比較表示した図を以下に示す。
各図内の左側がWMP+プラグインのwav出力、右側がVH7PCの光デジタル出力を録音したwavである。
08 Grip | 09 Euphoria | 10 Silver Stream | 13 Move Me |
ビット数チェックの結果と共に、個々のファイル間の波形比較結果を示す。
- [08 Grip]:
- WMP…20bit (MAX w/o sign:23bit min:5bit)
- VH7PC…17bit (MAX w/o sign:23bit min:8bit)
- [09 Euphoria]:
- WMP…20bit (MAX w/o sign:23bit min:5bit)
- VH7PC…20bit (MAX w/o sign:23bit min:5bit)
- [10 Silver Stream]:
- WMP…20bit (MAX w/o sign:23bit min:5bit)
- VH7PC…20bit (MAX w/o sign:23bit min:5bit)
- [13 Move Me]:
- WMP…19bit (MAX w/o sign:22bit min:5bit)
- VH7PC…20bit (MAX w/o sign:23bit min:5bit)
これらから分かるのは、
VH7PCは曲の途中でHDCD判別とともに光デジタル出力のビット深度も動的に切り替える
ということだ。これは今回扱った全ての曲で見られる特徴である。
特に[09 Euphoria]で顕著で、途中でHDCDマークが表示されると同時に音量が突然小さくなり(20bit出力)、
フェードアウトと同時に逆に音量が大きくなるのだ(16bit出力)。最初聴いた時は笑ってしまった。
[10 Silver Stream]でも、ほぼ全編HDCDデコード処理するがマークが消えるフェードアウトで音量アップ。
[13 Move Me]に至っては、冒頭のHDCDマーク表示部分以外はまるまる非HDCD扱いの出力のようだ。
VH7PCの場合、HDCDデコードしようと試みている時のみHDCDマークを表示する、という仕様らしい。
それに伴い出力音量まで動的に切り替えるとは、愚直すぎてAVアンプなどと組み合わせにくそう。
対してWMPは、非HDCDな曲は音量半分にして出力するという仕様もあって曲途中での音量変化は無い。
それとともに重要なのは、
VH7PCがHDCDデコードしていない箇所でもWMPはHDCD音質で出力している場合がある
ということだ。これまた今回扱った全ての曲で見られる特徴である。
特に[13 Move Me]で顕著で、VH7PCは冒頭のみHDCDマークを表示&20bit出力し他は16bit出力だが、
WMPは全編19bit出力する。20bitではないのは、ピークエクステンションを含んでいないからだろう。
[09 Euphoria]でも、VH7PCではHDCDマークが表示されない箇所でもWMPは20bit出力している。
VH7PCがスルーしてしまうような箇所も拾いまくってHDCDデコード処理しているということか。
正直、ここまで挙動が異なるとは思わなかった。
どちらもHDCDデコード対応機器・ソフトといっても、やってることはまるで別物。
WMPのHDCD判別処理・デコード処理が規格通りで、VH7PCが低性能でデコードできてないというパターン、
逆にVH7PCのHDCD判別処理こそ規格通りで、何らか規格外のHDCDフラグは無視しているというパターン、
リファレンスとなるデータが無いのでどちらも考えられるが…やはり拾いまくってくれるWMPの方が無難かな。
◆まとめ ~ 多分WMPが正しい。多分。
前回の結果も考慮に入れて、ひとまずまとめ。
- VH7PCは、曲の途中でもHDCD判定結果により、HDCDマーク表示と光デジタル出力のビット深度を制御する。
そのため、HDCDデコードされる部分とデコードされない部分とで音量差が生じる。 - VH7PCがHDCDではないと判定した箇所でも、WMPではHDCDデコードされ20bit出力される場合がある。
どちらが正しいとは言い切れないが、WMPの方が情報量が増す分だけ優秀・無難と考えられる。 - HDCD対応機器・ソフトであるにもかかわらず、デコード結果にここまで大きな違いが生じてしまうと、
HDCDの規格自体に疑問を感じる。妙に曖昧さがあるというか、スッキリしない。 - 今回対象にしたCDにも問題があると考えられる。曲によってHDCDかどうか異なるのは仕方ないとしても、
せめて一つの曲の中くらいHDCDかそうでないかをハッキリさせておいて欲しかった。
ここまで妙な結果だと、特に今回対象にした4曲だと、HDCDデコードした方が正しいのか、
普通のCD扱いで再生した方がマスタリングの意図に沿ってるのかさえ分からなくなってくる。
個人的にはちょいとスペック厨寄りなので、WMPでのHDCDデコードを支持して、
前回のまとめで書いたようなスタンスで続けていくつもり。さあ、そろそろ聴く方を楽しむぞ。