新しい発想、技術の導入時に問われるプロデュース力

新しい発想には、まず自分自身の「新しいモノの見方を発見すること」が先決だというのは、「「知る」ことは何かを生み出すことのプロセスの一部」というエントリーなどを書いている僕にとっては、すごく納得のいく考え方です。

先に挙げたデザイナーのワークショップを読んで、勘のよい読者の方は既にお気づきになっただろう。ポイントは、いずれのワークショップも「リサーチ」から始まっているということだ。新しい発想を得るためには、新しい視点でものごとを捉えることが必要で、前述した事例は、そのためにちょっとした「しつらえ」を施した例なのである。
中西紹一編著『ワークショップ―偶然をデザインする技術』

逆に言えば、これは自分たちの組織に新しい発想や技術を取り入れる場合にも、先に、あるいは、それと同時に自分たちの見方自身を更新しておかなくては、新しい発想や技術の導入がうまくいかないということでもあります。

新しい発想、技術の導入時の評価

外部で評価されているものを、新規に自分たちの組織に取り入れようとする場合、その発想や技術がなぜ評価されているのかというコンテキストを知ろうとしないまま、自分たちの既存のコンテキストのなかで、単にその発想や技術の目新しさだけに惹かれて導入してしまうという過ちをおかす組織があります。

それをやってしまうと多くの場合、その発想や技術の導入に失敗するか、もっと悪い場合、組織のなかに元々あった発想や技術まで壊してしまい、組織内の努力さえ無駄にしてしまう可能性がある。

つまり、受け入れ時の評価が非常に未熟なわけです。
新しい発想や技術を受け入れると組織にどういう影響を与えるかがきちんと図れていないし、影響を与えそうなステークホルダーへの配慮もなされないなど、受け入れ時の評価が杜撰だと新しい発想や技術の導入はうまくいきません。

新しい発想、技術の導入時に問われるプロデュース力

そこに問われるのはいうまでもなくプロデュース力(何かを生み出す力)です。

新しい発想や技術の導入に際しては、何よりそれがなぜ外部で評価されているかを、それが実際に評価されている文脈といっしょに把握してあげる必要があります。
その文脈が既存の自分たちの文脈とどういう風に違うかを把握しなければ、新しい発想や技術を自分たちが外の新しい文脈にあわせてそれを導入するのか、自分たちの既存の文脈でその発想や技術をカスタマイズして利用するかの判断、そして、それに基づく具体的な行動に落とし込めません。

とうぜん、判断や行動への落とし込みがなければ、何を導入しても宝の持ち腐れです。
そして、あとから「なんだよ、使えない」と嘆くのはあまりに馬鹿げてます。だって、それは導入した発想や技術が元々使えなかったのではなく(だって、外では評価されてるわけですから)、導入時の評価を行った人に「使える」場を生み出すプロデュース力が不足していただけですから。

プロデュースに必要な2つの力

先の引用のあとには、やはりというべきか、IDEOの業務プロセスに関する言及が続きます。

IDEO社の業務プロセスは、「いかに発想するか」という組み立てに基づいてデザインされている。彼らは日常的にワークショップを行う。以前、IDEOで行われているという「スパゲティ・キャンチレバー」というワークショップを体験したことがある。(中略)このワークショップは、時間内にいかに素早く問題解決を行うかという発想の訓練であり、共同作業と役割分担というチームワークの訓練である。
中西紹一編著『ワークショップ―偶然をデザインする技術』

「発想の訓練」「チームワークの訓練」。

僕はいま、プロデュース力に必要なのは、①新しい発想を生み出すための自分自身の新しい視点を発見するリサーチ力と、②チームの創造性を高める共同作業と役割分担を可能にするコラボレーション創造力の2つだと思っています。

①新しい発想を生み出すための自分自身の新しい視点を発見するリサーチ力
これは何より自分がいかに変わるかという力です。いまのままの自分で何かを発想しようという姿勢が僕にはおこがましく感じます。むしろ、変わっていく世界を自分自身の新しい発見として捉えられる柔軟性が新しい発想には何より必要だと思っています。それには全体を統合的に捉える右脳的視点と、細部を仔細に構造的に分析していく左脳的視点をバランスよく交互に用いながら大切です。フィールドワークや観察法などを使ったリサーチに身をゆだねつつ、「情緒と行動のモデリング」や「Contextual Design:経験のデザインへの人類学的アプローチ」で紹介したようなワークモデリングrなど分析を行いながら、自分のなかに新しい視点=コンテキストを形成することです。それが新しい発想を生み出すための自分自身の新しい視点を発見するリサーチ力でしょう。
②チームの創造性を高める共同作業と役割分担を可能にするコラボレーション創造力
もうひとつは「サッカーチームに学ぶ5つのチームワークの鍵」や「未来を切り開く力としてのチームワーク」でも書いたようなコラボレーション、共同作業を組織のクリエイティビティの向上のために重視する力をいかにして形成していくかという視点です。これは先日、「組織の創造性を向上する技法」で書いたブレインストーミングやワークショップなどの身体的、体験的な組織学習、共同作業による創造性向上のための訓練のスキルを組織的にいかに身につけていくかが重要かなと考えています。そして、これは実践的でなければいけないと思っていて、これまで不定期に行っていたブレストとワークショップをそれぞれ月に4回、2回ずつ行うよう、チームの目標に組み込みました。

価値創造的なサービスの提供のために

結局、こうしたことを実際に行っていかない限り、自分たちのサービス基準と考えている「価値創造的なサービスを顧客に提供する」ことを実現していけないと危機感を覚えています。

モノそのものをつくるわけではない、僕らのような仕事では、お客さんに価値を感じてもらえるような体験そのものを提供していくしかありません。その意味では自分たちのチームで培った共同作業のプラクティスとしてのブレインストーミングやワークショップそのものもお客さんにも共同作業の一環として今後は積極的に提供していかなくてはいけないと思っています。

お客さんにとっての価値とは、それこそお客さんたち自身が何か新しいものを生み出し、それでビジネス的成功を達成していくことだから。
それをいかにサポートするかということになると、先の2つのプロデュース力を現実的にお客さんたち自身が発揮していけるようにするかをサポートしてあげることが僕らのサービスの価値になってくると思っています。

それにはまず僕ら自身のプロデュース力をもっと高めていかないといけません。
僕らにはまだまだ学ぶべきことがあります。わからないことをわからないままにしておくのはいけない。何かが目の前に差し出された際には、それが何かをきちんと自分の頭や身体で捉えることができる力を養っていかなくてはいけません。とにかく、もろもろがんばっていかないといけないですね。

  

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