将来のあるべき姿をイメージしつ、それとのギャップとして現在を語ること。
そうじゃなくて、いま現在だけをみて話をしている人の話はあんまり意味がないように感じてしまいます。
個の将来、組織の将来、そして、現在の障害
私は将来、ここに行こうとしてるんです。だから、いま、その道程にこういう障害があることに困ってます。そういった話はいいと思うんです。
そうじゃなく、ただ現状の不満を語っているだけでは意味がないと思うんです。
なぜなら、その障害を取り除いてあげるのを手伝ってあげる積極的な理由が見つけにくいから。
その手の現状の障害を取り除いても、単にその人が楽になる以上の効果はない。それなら、基本的にはその人自身で障害を取り除く努力をしてもらいたいと思います。
しかし、その人が将来目指すべきものがあって、それがその人の将来の利益になるだけでなく、まわりの人や組織にとっても利益になることなのであれば話は違います。
その場合、その人が現在困っている障害は、その人にとっての障害であるだけでなく、まわりの人にとっても、組織にとっても障害になりうるからです。
その類いの障害は、まわりのみんなが組織的に取り除く努力をしたほうがいい。それが組織の将来に利益をもたらすことなんだから。
逆に言えば、将来のあるべき姿がイメージできていて、かつ、それが将来の組織の利益にもつながることがわかっている人が、自分の現在の障害を自分だけの障害にしてしまい、組織の手助けを借りようとしないなら、それは逆に組織に対して申し訳ないことをしているのだと考えをあたらめるべきなのでしょう。
未来を切り開く手段としてのチームワーク
また、将来に向かって頑張ろうとしている人がまわりにいて、その人が何か困っているのを感じたら、まわりはいっしょにその障害を取り除くのに協力してあげてほしいと思います。特に同じチームなら障害をみんなで分けあって負担を減らすようにしてあげてほしい。
組織的なイノベーション能力にかけては、世界的にも最高のレベルをもつIDEOのトム・ケリーもいっています。
イノベーションは究極のチーム・スポーツである。すべての役割に、それぞれの分野で最高の仕事をさせれば、イノベーションを推進する前向きの力が生まれる。トム・ケリー『イノベーションの達人-発想する会社をつくる10の人材』
この場合、「すべての役割に、それぞれの分野で最高の仕事を」というのを誤解してはならないと思います。
それは単に自分に与えられた仕事のみをこなしていればいいということとは正反対のものだからです。
イノベーション文化を築いて維持するのに10種類のアプローチがあるとしても、重要なのは総得点なのだ。すべての会社が直面する毎日のさまざまな試練の中で、いつも安定して競争に勝っていく能力こそが求められているのである。トム・ケリー『イノベーションの達人-発想する会社をつくる10の人材』
誰かひとりが秀でていても組織の勝利は得られません。組織の勝負は個の能力だけではなくバトン・パスで決まるからです。
リレーの勝負はバトン・パスで決まる。バトンを受け取る走者のスタートが遅すぎれば、勢いが失われる。しかし早すぎてもバトンを受ける前にゾーンを出てしまって失格になる恐れがある。バトン・パスにしくじった例は、誰でも見たことがあるはずだ-トラック上でも、そして仕事上でも。それらの失敗は協調とコミュニケーションの不足が原因である。トム・ケリー『イノベーションの達人-発想する会社をつくる10の人材』
そして、チームワークを最高にうまく機能させようと思うなら、特定の専門分野だけができる人をそろえて、各自にその専門分野のみを担当させるのではなく、サッカーチームにチームワークの鍵を学び、メンバーが「複数のポジションを守れる技能を教える」ことも重要なんだと思います。
複数のポジションを守れるT型人間こそが必要になります。
IDEOの場合、社内の最も貴重な花粉の運び手たちには「T型」の人間が多い。これは多くの分野に幅広い知識を持ちながら、同時に深く精通した専門分野も1つは持っている人のことである。(中略)結局、彼らは単純なカテゴリー化を許さないわけだが、それを不快に思う必要はない。むしろ、花粉の運び手を探しているのなら、チームに何人かT型人間を揃えるべきだ。トム・ケリー『イノベーションの達人!―発想する会社をつくる10の人材』
そして、そういう複数のポジションを守れる技能をもったT型人間がそろったチームでこそ、最高のチームワークを発揮できるホットなチームになるのだと思います。
組織ってそういうチームワークの積み重ねで、個人の将来、組織の将来を切り開いていくんじゃないでしょうか。
チームワークが必要な理由はチームの外にある
もう1つ忘れてはいけないなと思うのは、チームワークを発揮する必要がある理由は、必ずといっていいほどチームの外にあるということです。たいてい、どんなチームでもその仕事を待っている人、その仕事から価値を得たいと思っている人はチームの外にいるはずです。
設計を行うチームなら、そのチームの仕事を待っているのはチームの外の実開発を行う人だったりするでしょう。調査・分析が担当のチームなら、その仕事に価値を感じるのは、分析を元に企画を行ったり戦略を練ったりするチームの人でしょう。
チームワークによって、チーム内の誰かの障害を取り除き、その人の現在の仕事をスムーズに終わらせ、将来に向かう仕事に取り掛かれるようにするのは、組織のなかの別のチームが待っていることでもあるはずです。
それを意識せずに、自分のチームの問題だけだという風に考えてしまうと、組織全体の将来への道程が険しくなってしまいます。
それでは、どんなに一人の将来へのレールをひいてあげても組織全体の未来を切り開くことはできません。
結局、それでは未来を勝ち取った個人も、個人としては利益を得ても、本来、組織と同時に得るはずだった利益を得られなくなってしまうことになるでしょう。
それではあまりハッピーな結末ではありません。
持続可能性のある未来を切り開くためには、こうした観点からチームワークという能力を獲得し、高めていく必要があるのだと思います。
個人と、組織の、ちょうど中間にある集団としてのチームがその内部でチームワークを駆使し、他のチームとさらに大きな組織としてのチームワークを図っていく。そういう状況が生まれてはじめて組織は未来を切り開く能力を獲得し、サステナブルな組織を実現できるのではないでしょうか。
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