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2005.09.01

朝日新聞「虚偽メモ」事件に思う

 朝日新聞が早々に捏造を認めて、ネットの世界ではもう終わった感のある「虚偽メモ」事件だが、どうも腑に落ちない。ネットというかブログでの取り上げ方もなんとなく平べったいというか、昨日の毎日新聞社説に続く読売新聞社説、産経新聞社説と、ただ、水に落ちた犬は叩けという以上はないように思えた。
 ま、朝日新聞だしな、汚名のリストを更新しましたかということで大筋の理解は間違いないし、私も朝日新聞を弁護したいわけではないが、なんか変だ、と思う。懲戒解雇処された記者についても冤罪とまでは言わないが(もともと法的な犯罪でもないが)、中国文化革命的に汚名を着せられているような印象を持つ。なので、エントリでは私が書く部分ではN記者としたい。N記者(二十八)は「功名心だったかもしれない」と話しているというが、自分の行動を「かもしれない」とだけして語らないのも不思議な印象を受ける。
 すっきりとした結論が見えず、まただらっと書くので読みづらくなると思うが、書いておきたい。なお、基本となる該当の朝日新聞の謝罪記事は”「虚偽のメモ」で記者解雇 誤った記事、本紙が掲載”(参照)である。
 この事件が大きくニュースになったおり、私も、事の概要は読んだものの、それほど関心をもたなかった。というのは、ちょっと言い方は悪いのだが新聞記者の飛ばし記事なんてそれほど珍しいことではない。特に地方関連のニュースはそうだ。そして、このニュースで捏造された問題の重要性も理解できなかった。単純な構図からすれば、田中康夫日本代表、もとい、長野県知事の批判発言が端緒にあるので、田中側の意図があるのではないかと思った。
 ネットの騒ぎを見ているにつれ、違和感が増してきたので、基本的なところでわかる範囲を調べなおしてみた。まず、きっかけとなった田中知事の発言だが、私の印象なのだが、今回の事態を想定していないように受け止められた。発端となった八月二十三日の知事会見(参照)を読み直すと、田中知事は「なお、1点だけ朝日新聞の方にご校正をお願い申し上げたいというか不快感を表明させていただきたいと思います」として、これを校正、つまり、デスク段階のエラーだと基本的に認識している。
 この田中知事の指摘に対して、朝日新聞側は、今回処分されたN記者ではなく、”鈴木逸弘氏”が「そこの部分は朝日新聞としてきちんと取材してますが・・・」と頓珍漢な答えをしている。鈴木記者としても、あれ?という感じではなかっただろうか。あるいは、この会見ではN記者も出席しており、質問もしている。N記者の質問に対する田中知事の応答からは、彼がN記者を比較的懇意に見ているようにも受け止められる。田中知事としては、問題記事がN記者に由来するとはやはり考えていなかったのではないだろうか。
 朝日新聞内部での問題はこの二十三日以降、田中知事の指摘を持ち帰るかたちで検討された。そして公式アナウンスと呼ぶには薄っペラなファックス一枚だけなのだが出たのは一週間後だった。この一週間に朝日新聞内部でなにがあったのか。経緯は該当の朝日新聞謝罪記事からはわかりづらい。むしろ、毎日新聞”朝日新聞記者の情報ねつ造:「功名心だったかも」 推測で情報メモ”(参照)がわかりやすい。


 社内調査によると、西山卓記者は長野総局長らを通して政治部から亀井、田中両氏が「(8月)中旬に2人が会っていた」という情報について情報があったら知らせてほしいと頼まれていた。
 記者は20日、長野県塩尻市で開かれた車座集会で取材をしたが、国政に関する話は出なかった。その後、田中知事に対する直接取材をしなかったが、2人が長野県内で会談していたと知事から取材できたかのような虚偽の情報をメールにし、総局長や県政キャップ、政治部記者に送った。

 ”虚偽メモ”ができるいきさつは、こうらしい。

 1 東京の朝日新聞政治部から長野総局長に依頼があった。
 2 依頼の内容は「八月中旬に亀井・田中が会っていた」について情報が欲しい。
 3 依頼は長野総局からN記者に渡された。依頼の形式は不明。
 4 N記者は田中知事を取材できるチャンスがあったのにしなかった。
 5 N記者は”虚偽メモ”をメールで、長野総局長、県政キャップ、政治部記者に送った。

 「県政キャップ」というのがよくわからないのだが、まず、気になるのは、”虚偽メモ”が私信のようなメールではなく、同報メールのようになっていることだ。なぜそのような形式になったのだろうか。
 その疑問は、最初のN記者への情報の依頼の形式につながる。東京の朝日政治部はどのような形式で長野総局長に依頼したのだろうか。電話だったのだろうか、メールだったのだろうか、ファクスだったのだろうか。返信の形態から考えてメールだろうと推定していいだろう。そして、恐らく、これは、東京の朝日政治部から長野総局長に宛てたメールを「メモ作っておいてね」という感じでN記者に転送したのではないか。この推測が正しければ、メモ作成に至る経緯では長野総局長が主体的に情報に関わっていない疑いがあり、それは先の知事会見での鈴木逸弘氏の頓珍漢なリアクションと整合しているように見える。
 次に、依頼の内容はどのようなものだったのだろうか? つまり、依頼された内容は、次のどちらだっただったのだろうか。

 1 長野県で八月中旬に亀井・田中が会っていたのか。
 2 八月中旬に亀井・田中が会っていたがそのときの田中の反応はどうだったか。

 タメのリスト設定のようだが、処分後の報道からすると、1ということで話が進んでいるのだが、その後のN記者の行動からは1が抜けた2だけの可能性もあるように思える。
 実際、長野県ではなく東京だが、亀井・田中は会っていた。これは事実だ。N記者もそれを知っていた。
 東京の朝日新聞政治部側としては、東京の自民党サイドで充分な情報収集ができなくなっていた状況がある。これは八代議員情報の特オチなどからも推測できる。なので、長野県の田中サイドの情報が欲しいということではなかったか。
 N記者はこの依頼をただそういう田中側の補足情報という話の枠組みで受け取ったのではないか。そう考えると、N記者が田中知事に再取材しなかった行動が理解できる。N記者にしてみれば、田中知事の発言・行動はよくわかっているつもりだったという思いがあっただろう。
 一連の動きのなかで、主導的な役割にいるのは誰だろうか?
 明白に、東京の朝日新聞政治部の記者である。
 それどころか、問題の記事を書いたのは、東京の朝日新聞政治部の記者だろう。
 私の推測だが、朝日新聞内には一種の身分差別のようなものがあり(これは朝日新聞と限らないが)、上位の東京の政治部の判断にはただ従うだけという条件付けができていたのではないか。N記者としては、東京の朝日新聞政治部が言うのだからという以上の吟味の発想はなかったのではないか。
 結果的に朝日新聞は虚偽記事を出したわけだが、誰が処罰されるべきか? 実際に記事を書いたであろう、東京の朝日新聞政治部の記者が処罰対象になるべきではないのか。悪い言い方だが、N記者はパシリである。パシリに責任を取らせるだろうか。
 実際に処分になったのは次のとおりだ。


 懲戒解雇処分にしたのは長野総局の西山卓記者(28)。取材報道の責任を問い、東京本社の木村伊量・編集局長と金本裕司・長野総局長を減給、更迭。持田周三・政治部長と脇阪嘉明・地域報道部長をそれぞれ譴責(けんせき)、曽我豪・政治部次長を戒告処分とした。さらに編集全体の責任を問い吉田慎一・常務取締役編集担当を役員報酬減額(10%、3カ月)処分とした。

 そこに東京の朝日新聞政治部の記者はない。
 一応機構上、東京本社の木村伊量・編集局長は減給にはなった。彼の責任はアンカーマンとして当然ではあるが、なぜN記者の処分が重く、そして、実際の記事作成に深く関与している東京の朝日新聞政治部の記者がスルーされているのだろうか。また、この構図は、朝日新聞・NHK問題での社会部副部長という肩書きはあるが本田雅和記者のプロテクトにも似ている。
 仮定に仮定を重ねているように聞こえるかもしれないが、この処分決定のための空白の一週間だったのではないか。
 若いN記者には今後もジャーナリストの現場で活躍してほしいと私は思うし、田中康夫がある一定の政治権力を維持するなら骨くらい拾ってやってくれとその人情に問いたい。すでに、骨拾いは朝日新聞内でできているというなら、それはそれで、以上の疑惑の構図を補強するものかもしれないが、ま、人情の内だ。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

キャップと言うのは新聞社の用法では、デスク以外でそのチームの一番年長(リーダー)の人のことです。だから県政キャップというのは県政の担当の一番年長の人のことですね。昔はデスクは政治部なり経済部なりでドーンと座って記事のまとめだけしている人、キャップは外で取材する人の最年長といえば間違いなかったので、わかりやすかったんですが、今はどこの会社の例にも漏れず年齢構成が狂っているので(50代ばっかり)一概にそうでもない、デスクだからといって会社で一日座っているとは限らない。しかし大まかには前記の記述で間違いないといって良いでしょう。ちなみにこの用法は編集局以外の部署でも使います。この場合完全な役職名の言い換えになります

投稿: eternalwind | 2005.09.01 10:59

本質的な話ではないが。

>それどころか、問題の記事を書いたのは、東京の朝日新聞政治部の記者だろう。

普通に読めばそうでしょ。
というかN記者が記事を書いたなんてどこにも書いてない。
メモをねつ造したというだけ。
もったいつけて言うほどのことでも・・・

投稿: paco | 2005.09.01 12:28

http://ugaya.com/column/taisha1.html
http://ugaya.com/column/taisha2.html
汚名を着せるのは朝日の十八番ですから。

投稿: 某フリーター | 2005.09.01 12:42

>>paco
その「メモを捏造した」というのが責任転嫁、あるいはそれ自体が捏造だ、という話なのでは?

投稿: タマネギ | 2005.09.01 13:57

たしかに嘘のつき方を極東みのもんたさんに習うべきでしたね。

投稿: agape | 2005.09.01 14:08

ネット有名人を嘘つき呼ばわりするのが流行ってるのか?

投稿: | 2005.09.01 14:32

朝日はもうスルーのつもりでしたが、イヤー、ネタの宝庫ですね。
この方面への疑義はもう少し世間的に掘り下げて欲しいですね。
しかし現在の朝日の体質なら、直ぐまたやらかすでしょうね。

投稿: トリル | 2005.09.01 16:56

>ネット有名人を嘘つき呼ばわりするのが流行ってるのか?

このagapeという方は具体的な反論をできるスキルの無いただの粘着ですからなぁ。
まぁ有名税というヤツですな。

投稿: | 2005.09.01 17:22

東京から無茶なオーダーが来て、責任をとらされるのは地方の支局というのは、全マスコミ共通です。
他局が「当確」をうっているから「うちもうて」と恫喝されて、管理職が目を離したすきに若手が、動揺して「当確」をうって、あとで地方の管理職が閑職に追いやられるのはいつものことです。
さらに、その管理職は間違った当確をうってしまった候補者のところへ行き、土下座をさせられされます
そのあいだに、東京の政治部記者は、慰労会で「手柄話」にして大笑いしているという構図です。
地方支局というのは、組織的には「首着られ役」というゆがんだ構図が、どこのマスコミでもあるわけです。
この記事も、描いた人間がニュースソースの二重チェックをしていなかった、「手抜き」ということですよね。

投稿: 元記者 | 2005.09.01 19:54

・郵政民営化賛成の理由が底抜けしていること。(何か隠された論拠があるかのごとく論を続けたが結局何もなし。また経済学の議論をしながら通用しないとなると「茶ぶ台返し」をするという醜態を見せた)
・郵政民営化法案の条文の解釈が誤りというか逆さまであること。(条文に不良債権の飛ばしができる表現「など」が入っているのを、あたかも郵貯銀行の不正が起きるかのごときニュアンスをこめた極めて曖昧な話をしている)
といった点を指摘したところここにいる付和雷同な皆さんから謂れの無い中傷を繰り返されております。皆さんは単にわかりやすい話に飛びついて「祭り」がしたいだけなのですよ。また極東みのもんたさんの心情もよくわかりますが、そろそろ自分の身の丈に合った話題で「祭り」の話題にしたらいかがですか。ビジネス書や新書を読んで天下国家を論じられるかのごとき錯覚は見ていて大変滑稽です。

投稿: agape | 2005.09.01 20:19

嫌ならみなきゃあ良いじゃないか
別に金を取っているわけもないんだよ!
勝手に出ていけばいいだけの話だろう

投稿: agapeさんへ | 2005.09.01 20:48

agapeさん、こんにちは。

agapeさんの2つのコメントは、このエントリ(それと嘘つき呼ばわりの罵倒も)に関係ありません。他の方の妨げにならないようにエントリの仕分けをご理解ください。

なお、2つめのコメントのレスは、以下にしました。ご参照ください。

http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2005/08/post_0851.html#c3759171

投稿: finalvent | 2005.09.01 21:04

面倒でもきちんとコメント削除を行うべきですね。エントリの仕分けすらまともにできない人間に議論など求めても無意味です。
良い人と思われようとしてませんか?相手は付け上がるだけですよ。そして無意味に場が荒れるだけです。ネットは長いでしょうから、いくらでも前例は見てきてるはずでしょう。こういった時は毅然とした対処以外に解決方法はありません。

投稿: | 2005.09.01 21:30

>元記者
私は記者ではありませんが新聞業界の端くれにいるものですが、あなたのお話はちょっと信じられないような話なのですが。当確って選挙のことでしょ。当確の出し間違いぐらいで支局長が飛ばされたなんて話、少なくとも私は聞いたことがありません。そもそも速報性が問われるのはテレビで、当確速報の先出しをしてるので、新聞紙が先走ることなどありえないのが実情です。私はいつも選挙のたびに各版が刷り終わった直後、一面とNHKを見比べるのですが、明らかに新聞のほうが慎重になってます。
実際に編集局に降りて校閲のあたりにいけば、政治部のオッサンあたりが、NHKが当確出したか出さないかをでっかい声で確認しあってるのがいやでも聞こえてきますしね。
百歩譲ってあなたのおっしゃることが、あなたの勤めているところ(本当に存在すればの話ですが)での事実だとして、それが全マスコミ共通であるとあなたが、断言できる理由は何?

投稿: eternalwind | 2005.09.01 22:20

へへ。また亞我屁かよ^^。

投稿: でんすけ | 2005.09.01 23:07

上記コメントでagape氏がエントリのタイトルすら読み取れない文盲であることが明らかになりましたね。

以後「文盲agape」と名称を変えるのは如何でしょうか?
貴殿の気に入りそうな気の利いたネーミングだと思いますよ。

投稿: | 2005.09.02 00:41

まあまあ。
煽りで返すのも如何なものかと。

投稿: | 2005.09.02 01:03

元記者は「全マスコミ」と言っているけど、これは間違いで、彼の言っているのは「テレビ」のことを言っていると思われます。
新聞の話でエントリがかかれているのに、テレビお話で反応しているという、お粗末でしょう

テレビから見れば、全マスコミというのは「テレビ」のことなのかもしれない。

投稿: agapeさんへ | 2005.09.02 05:22

N記者の名前ですが、引用文中は匿名になってませんね。

投稿: ■□ Neon / himorogi □■ | 2005.09.02 12:47

今日初めて訪れましたが
なんか性格の悪そうな粘着が居付いちゃってますね。
くわばらくわばら(^^;

投稿: 7er | 2005.09.02 21:07

記事のもう一方の当事者、田中康夫については、こちらのブログを参照。
http://eiji.txt-nifty.com/diary/2005/09/post_743d.html

事は朝日側だけの問題じゃないってことです。
田中康夫の側にも相当の問題があるようで、田中康夫は週刊朝日でゴーストライターやって御用記事を書かせた経緯もあるようです。
ブログ主に対して拒絶反応を持つ人も一部いるみたいですが、田中康夫御用記事ゴーストライター説は状況証拠だけでいくと限りなくクロに近いとか。

投稿: | 2005.09.03 12:25

なにか気に食わなくて、否定したいんだがきちんと中身のある反論ができなくて結局

>・郵政民営化賛成の理由が底抜けしていること。(何か隠された論拠があるかのごとく論を続けたが結局何もなし。また経済学の議論をしながら通用しないとなると「茶ぶ台返し」をするという醜態を見せた)

底抜けだとか、何もない、とかじゃあ、具体的にどういうことをいっているのか?という言及はなにもなし。いかにも底が浅い、内容がない。

>付和雷同な皆さんから謂れの無い中傷を繰り返されております

付和雷同しているのは、その低レベルな反論にもならない反論、「いわれもない」なんて平気でいってしまう、自分の振る舞いについて客観視できないあまりに低レベルな思考が透けて見える稚拙、かつ低品位な発言に対してであるのだが(苦笑い

まあ、馬鹿につけるクスリはないな。

投稿: | 2005.09.04 23:41

私が掴んだこれまで知られていない若干の新事実などを盛り込みこの問題を検証してみたい。長野県庁を足場にして田中県政を五年も取材しているので、その体験からこの問題について他の人より語れる部分があるのではないかと思う。マスコミ関係者に「あれはどうなってんだ?」と聞かれることが多い。ある週刊誌の記者はこのニュースが流れたその夜に、出張先のホテルから私に電話を掛けてきた。

投稿: 田中県政追撃コラム 発行人 | 2005.10.07 12:26

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