みそ文

うれしい移動

職場で、たとえば、普段はあんまりそんなに売れてない商品が、思いがけず売れたとき。それが、ほんとにごくたまにしか売れない、あるいは、めったに売れないものであれば、次回の発注と入荷を待つ。けれど、あんまり売れないとはいうものの、一応会社としてはそれなりに力を入れて売りたい種類の商品で、せっかくの日曜日(お客様が多くご来店くださる日)に、その商品がないのは残念だな、というような場合は、近隣の系列店舗に在庫の余裕があれば少し分けてもらって、欠品状態を避ける、という手法をとる。この商品の移動のことを、社内では「店間移動(てんかんいどう)」と呼ぶ。たいていの場合は、もらう側の従業員が分けてくれる側のお店を訪れて、その商品を受け取る。

今日、ついさっきまで二個あったのに、通常なら一ヶ月に一個から二個売れるか売れないかなのに、なぜか二個ともがいちどきに売れてなくなった商品があった。次回の発注は月曜日だから、入荷は火曜日の夜で、それを店頭に出すのは水曜日になるか、ということは、今日の土曜日を含めて、このあと、土、日、月、火、水の午前中まで、欠品状態が続くことになる。この商品が欠品のままで何日も過ごすのは、売り手としては少々芳しくないですね、と思ったから、では、近所のお店で在庫の多いところから、少し分けてもらいましょう、ということにする。

その商品の全店の在庫リストをパソコン画面に表示する。近隣店舗の在庫状況を見る。職場から私の自宅までの通り道沿いにある系列店舗には、少し多めに在庫がある。では、このお店に頼んでみましょう、と、電話をかける。電話に出てくれた女性社員は、すぐにその商品の在庫を確認してくれ、「大丈夫ですよ。二個移動、できます」と教えてくれる。

「では、二個、移動をお願いします。今日、わたしが、こちらの仕事を終えて帰る途中で、おそらく七時半頃になるかと思うのですが、取りに寄りますので。もし、立ち寄り忘れたときには、日曜日か、遅くても月曜日のお昼までには、取りに伺うようにしますので、保管しておいていただけますか」
「はい。でも、もし、よかったら、わたし、今日、早番で、早く帰りますし、自宅がそちらのお店の近くですし、帰りがけに、お届けしますよ」
「ええっ。いいんですか。そんなの」
「はい。そのほうが、今夜のうちに売り場に商品が入って、欠品じゃなくなって、いいですよね」
「それは、もう、はい、そうできれば、そのほうが、ずっとうれしいです」
「でしたら、わたしが帰る時でよければ、お届けしますので」
「うわーい。うわーい。ありがとうございます。すごくすごく助かります。でも、ほんとうにいいんでしょうか」
「はい。だいじょうぶです」
「ありがとうございます。では、よろしくお願いします。もし、わたしが帰ったあとの時間でしたら、こちらのお店の社員の誰かに渡していただければ、わかるようにしておきますので」
「はい。わかりました。では、のちほど」

というやりとりをしている間、わたしの職場の店長とマミー青年が近くにいて、「なんか、どうやら先生、踊ってる?」「テンション妙に高い気が」などと言いながら見ていた。電話を終えた後、二人には、「そういうわけで、近隣店舗から、この商品(商品名とJANコードを書いたメモを見せながら)を二個わけてもらえることになりました。しかも私が取りに行って、出勤するときに持ってくるつもりでいたのに、女性社員さんが今日早番で、ご自宅がここの近くだからということで、持ってきてくださることになりました」と報告する。二人とも「おおーっ、それはーっ」と感嘆するから、「ね。ありがたいでしょ。うれしいでしょ。踊るでしょ。テンション上がるでしょ。現在この商品、欠品していますので、届き次第、定番に並べるということで。私が帰った後だったら、店長かマミーさんが受け取ってくださることになると思うんですけど、定番への補充(店頭での商品の置き場所には、定番、企画、プロモ、はみだし、エンド、平台、まわし、かご盛り、など、様々な種類があるが、棚に定位置を持っているものを定番の商品と呼び、定番へ補充するとは、棚の定位置に商品を並べること)をお願いしますね」と伝える。

うれしいな、うれしいな、うれしいな、ありがたいなあ、今度何かのときにはきっとお返しをしたいな、と思ったから、その気持ちをここに書き記しておくことにした。     押し葉

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どうやらみそ

Author:どうやらみそ
1966年文月生まれ

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