大野病院事件

 桜井充議員、西島英利議員、仙谷由人議員が相次いで国会での質問を行ったり( http://sword.txt-nifty.com/guideboard/2006/03/_20_3cb2.html#more )、3/17、福島県立医科大学産婦人科学教室の佐藤章教授を代表とする「周産期医療の崩壊をくい止める会」が、加藤医師の不当逮捕に対する陳情書・署名簿一覧・資料を厚生労働大臣に提出したり( http://www006.upp.so-net.ne.jp/drkato/ )と、政治も巻き込んで大きな動きになってきました。徐々に、医師以外からも、今回の逮捕がおかしかったのではないかと感じる人が現れたりもしていますし、社会では、にわかに医療制度の種々の問題がクローズアップされてきました。
 それでもなお「実情を知る医療界が、体制の厳しさや危険性を今になって言い出すのはおかしい」という声があがったりもしています。これは、「今になって言い出した」のではなくて、前から言っていたものが、最近になってようやく話題になったというだけの話だと思うのですが、いかがでしょうか。
 僕は、このはてなダイアリーや、サイトの中の「日刊タマゴクラブ」、メールマガジン「お医者のタマゴクラブ」などの中で、今回の事件以前より、「締め付けで医療の改革をはかれば、必ず崩壊する」と言い続け、患者さん側の歩み寄りや理解も必要だと呼びかけてきました。確かに、直接国に訴えかけたりはしていませんでしたが、今回の事件の前後で、特に主張をかえたつもりはありません。
 2002/10/10に、良きサマリア人法について触れたテキストでは、
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060209#p3

 応召義務とかなんだとかで、場合によっては不眠不休で、自らの命を削って医療行為にあたらなくてはならないのに、その真っ当な行為を保護するような法律が何も無く、すぐに民事裁判、悪くすれば刑事裁判に巻き込まれてしまうという風潮。これがすすんでいけば、僕らは危険が高い症例へ接することをどんどん避けるようになってしまうかも知れないし、たらい回しにされてしまう患者が現れるかも知れません。

 医療という聖職視された世界において、聖職者は当然奉仕の精神で、自己犠牲を厭わず働くのがあたりまえだというイメージが強すぎて、権利だとか訴訟だとか、マイナスなイメージを伴う話題は、タブーとされてきた部分も多かったのでしょう。不眠不休で常にかけつけて、診療にあたる行為は、一見愛にあふれた行為にもうつりますが、永遠にベストの体調を維持できるわけではないし、専門以外の苦手な分野もあるだろうし、いくらかの割合で、当然誤診もあると思うのです。重大な過失とか、故意の傷害行為などは、もちろん罰する必要があると思うのですが、最低限の権利は守られなくてはなりません。

 飛行機の中だけに限らず、通常勤務に引き続き行われる当直業務とか、いろいろ見直さなければならない点はあるのだと思います。もちろんそれと全く同じというわけにはいかないでしょうが、医師だって看護師のような三交代制、あるいは二交代制に倣った勤務態勢をとってもいいと思うのです。

という、まさに今問題となっているようなことを、すでに主張していましたし、これは、多くの医療人がかなり前から危惧し、様々な場面で訴えかけていたことです。
 2003/11/15「信頼の医療」では、
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20041213#p2

 僕は今の、医療訴訟が正義だと煽るような流れをどうにかしないと、結果として医者は面倒な患者を避けるし、突っ込んだ治療に手を出せなくなると思います。だいたい人の体をどうにかしようっていうのに、完全に安全な方法なんてあるものか。

と、再度防衛医療の危惧について綴っていました。そして、今、大野病院事件を受け、僕としては「危惧していたことが現実になってしまった」ということで、相当なショックを受けたのです。自分が医者を辞めればいいとか、そういう単純な問題ではないのです。これは、自分が病気になり、患者側となったとしても、体制自体が崩壊し、かえって困る方向へ流れていくとしか思えないのです。「患者の気持ちになって考える」からこそ、不当な逮捕やおかしな体制に異を唱えるのです。異論はあるでしょうが、やはりいろんな情報を鑑みても、日本ほど安価に、平等に、高度な医療を受けられる国は、世界に希有だと思います。その影に、医者の重労働があったのですが、それを言うことを美徳とせず、なんとかこらえてきました。しかし、それが「刑事罰」や「訴訟」などの仇となって返されれば、防衛せずにはいられません。前述のように、一般人に「体制の厳しさや危険性を今になって言い出すのはおかしい」という印象を抱かせるのは、医者が不満を口にすることを良しとせずにのみこんできたという背景もあると思います。そんな中でも、僕は正しいと思うことであれば、いろいろ不満も言ってきてしまったのですが。
 ただ、今回の件で勇気づけられたのは、個人主義で事なかれ主義だと思っていた、全国の医師たちが、前代未聞の団結力で、短期間に情報を集め、グループを立ち上げ、支援の礎をつくり、声をあげたという事実です。これだけ短期間に集結できたのは、インターネットのおかげというべきでしょうか。真っ当な医療をやっていて、不当に逮捕されるようなことがあるとしても、少なくとも、そこに声をあげてくれる仲間が大勢いるのだということが分かったので、それを糧に、僕はもう少し医業を頑張れそうです。また、患者さんという立場からも、冷静に物事をとらえ、それをネットなどで発信されている方が少なからずいることも、僕を勇気づけてくれました。
 さて、もともと、このはてなダイアリーとしての「ザウエリズム」は、「日刊タマゴクラブ」から離れるためのものでした。医療の重い問題ばかり扱っていたため、気軽に書きにくくなってしまったので、そこから離れてみるという意味で始めたのです。結局、同じ人が書いているので、そうそう扱う内容がかわるわけもなく、気付けば、ここ数週間は、ずっと大野病院の事件を追いかけていました。そして、そのニュースに関連して、今まで接点のなかったような場所からリンクが張られたりトラックバックが送られたりすることで、まるで、大野病院事件専門のサイトのような雰囲気になりつつあります。
 僕が、この事件をこれからも追いかけ、可能な限り支援させて頂く姿勢は変わりませんが、はてなダイアリー「ザウエリズム」としては、一区切りさせて頂こうと考えています。裁判が始まり、また大きな動きがあれば何か書くかも知れませんが、抗議声明や、検察側の意見、一般人の声や、識者の声というものは、内容としてはおおむね一通り出てきたような気がしますし、僕としては、それらについて言うべきことは、すでにほとんど言及したと考えています。
 医局中心の「周産期医療の崩壊をくい止める会」( http://www006.upp.so-net.ne.jp/drkato/ )などの組織がしっかりしてきた今、僕のサイトですべてのニュースを追いかけることもなかろうと思います。また、ここでは趣味の話とか、くだらないネットの話題など、好きなことを書いていきます。
 見出しの一覧は、ここに残しておきます。大きな動きがあれば追記します。
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060303#p1

重傷者の転送年間10万人以上

<救急医療>重症患者9000人が転送 実態10万人以上か
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060319-00000007-mai-soci
 3/15に、中途半端な病院で当直するときの苦悩を書きましたが、実質「二次救急」と言われていても、バイト医が当直していてバックアップは原則無し、かろうじて「技師呼び出し」でレントゲンなど対応し、手術や専門的治療は対応不能という施設がたくさんあるんですよね。その点、三次病院で当直していてひっきりなしに患者が運ばれてくるのは、それはそれでストレスではあるけれど、検査がすぐできたり、オンコールの医者を呼び出せるというバックアップがあるのが心強かったりもします。
http://d.hatena.ne.jp/zaw/20060315#p3
 追記:10万人という数字にだまされそうになるけれど、割合でみると、おおむね適切なトリアージ(振り分け)がなされているようです。この記事も、医療の集約化へ向けた布石なのでしょうか。世の中3次病院ばかりだったらそれはそれで困ると思うんですけれどね。3/15に書いた内容も、あくまで「明らかな重症者が、明らかに対応できない病院へ運ばれてくることに対する苦悩」であって、そういう患者さんがすみやかに高次病院へ運ばれ、その分、3次病院をいきなり受診してしまうような軽症者を、1次、2次でうまく受け入れられれば良いと考えています。記事では、なんでもかんでも3次病院へ、という論調になっていますけれど。
 ちなみに、救急指定とは、1964年の「救急病院等を定める省令」に基づき、都道府県知事が告示する病院で、その要件は、
1.救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること。
2.エックス線装置、心電計、輸血及び輸液のための設備その他救急医療を行うために必要な施設及び設備を有すること。
3.救急隊による傷病者の搬送に容易な場所に所在し、かつ、傷病者の搬入に適した構造設備を有すること。
4.救急医療を要する傷病者のための専用病床又は当該傷病者のために優先的に使用される病床を有すること。
というかなり大雑把なものです。これを、もう少し現代に即したものにするべきだと思っています。これでは、「バックアップなし一人体制、レントゲンはあるにはあるが、技師は呼び出し、病棟看護師が救急外来におりてくる」という体制も、「内科系、外科系など、常時数人当直体制、ICUあり、救急外来専属看護師、緊急CT、MRI、血管造影可能」という体制もひとくくりなんですよね。

バンド!

 昨日は久々にライブでした。ストイックということをすべて捨てて、「酒を呑みながら楽しくグダグダに、しかしちゃんと曲としてまとめて演る」というコンセプトのバンドです。今のメンバーで最初に演ったのは、3年くらい前の七夕ライブでした、確か。そういえば、その前の年の七夕ライブでは氣志團踊ったのでした。当時は僕だけ働いていたので、主に僕のせいで練習予定が組めず、かろうじて2回くらい集まって、あとは本番ぶっつけでした。その上、ライブ会場の横のイタリア料理屋でワインとビールを相当呑んで、ほぼみんな泥酔状態でのライブ。これが予想外にかなり良い出来で「ベストアクト!」とか言って盛り上がり、その後の方向性を決定づけた気がします。
 ちなみに、この七夕ライブというのを、さらに数年さかのぼると、今とても売れている某バンドのギターヴォーカルが、当時別のバンドのギターヴォーカルで、トライセラトプスのコピーとか演ってたんだよなあ、としみじみ。今のバンドのデビュー前に、あるライブハウスで出会ったとき、「久しぶり! 今は何してるの?」という問いに、「音楽一本です」って即答されたのが印象深いのです。前にもどこかで書いた気がしますけれど。結局それを全うしているわけで、それは純粋に羨ましいです。
 ちょっと前の、まだそんなに売れていない時代は、「知り合いがこういうバンドで、CD出してて」とか言いやすかったのですけれど、今同じことをやると友達自慢みたいな感じになってしまうので控えてます。ものすごく親しいってわけではなかったですし、もともと。今度共通の友人の結婚式があるのだけれど、それには来るのだろうか。
 ゆらゆら帝国のコピー4曲。2005年世界旅行、ラメのパンタロン、冷たいギフト、ゆらゆら帝国で考え中、ラストが半年くらい前のライブの前に一瞬でつくった、グランジ風オリジナル「生ビールのうた」。録音を頼もうと思っていたのだけれど、ビールの準備だけで手一杯だったので、後輩が持っていたデジタルビデオで撮ってもらいました。まだ確認していないのですが、これが鑑賞に堪えるものであれば、何かの形にしたいです。ビール会社で使ってくれないかな。
 うちのバンドは、「お疲れさまでした。乾杯!」という挨拶から始まり、ステージ上で酒を呑むというのがお決まりの酷いバンドですが、よりによって、今回出番がトップでした。それというのも、ライブ後に結婚式に出席するという僕の予定のためだったのですが。
 乾杯し、2005年世界旅行で、ボーカルが国名をいろいろ言うのにあわせて、用意しておいた各国のビールを並べていってもらい、客につがせて呑むというグダグダの展開。そして、最後の1曲で、みんなで「ビール! ビール!」ってうたいながら乾杯。
 リハで曲の構成を確認したりする相変わらずのグダグダさでしたが、割と雰囲気よくできたので楽しかったです。たまには普通の日記を書いてみました。