アンドレ・オルレアン『価値の帝国 経済学を再生する』

 非正統派経済学だが、かなり楽しめる内容だった。詳細な説明はもちろん同書を読むべきだが、ポイントは以下の通り。

1)貨幣は「市場秩序」の中核
2)貨幣は、絶対的流動性(他の人々が絶対的に欲するもの)として社会的に満場一致で承認されている。このことが貨幣に「勢力」を与えている。また社会的な満場一致は「共同情動」とも言いかえることが可能で、これは貨幣価値の誕生が宗教的価値などと類似した起源をもつことにもつながる、
3)この共同情動(≒群衆のパワー)は、ケインズ的な美人投票モデルと親和的である。市場参加者の模倣という行動が、合理的な人間を前提とする市場均衡モデルを限定的なものにし、むしろ一般的には金融市場でまま観察されるような複数均衡、バブルなどの現象を説明しやすくしている。これはシェリングのフォーカルポイント(集団的信念の自己実現としてオルレアンはよみかえる)の議論に近い。例えば「みんなが株価が上がると信じているのでそれに倣って株価が上がると信じる」など。

このオルレアンのモデルは高田保馬の勢力理論とかなり近い。ここらへんをどう整合的に考えていくのか、またいまの中央銀行のスキルであるインフレ目標やまたリフレーション政策(オルレアン流にいえば貨幣の勢力=権力を低下させる政策)をどう考えるのか、興味深い。オルレアン自身はルール的な政策運営に否定的である面も加えて。

価値の帝国 〔経済学を再建する〕

価値の帝国 〔経済学を再建する〕

麻生財務相の「デフレの色消えた」発言や消費税増税10%目指す発言への雑感

 twitterでつぶやいたことに文章多少付加。。

 「デフレの色消えた」という麻生副総理の発言が、かのロイターにのって流れてきた。このメッセージは重要。デフレ退治を最終段階までやる意志がないという「表明」かもね 笑)。

 ちなみにまじめな話、デフレの色はまだ色濃く残っている。

1)CPIみても(バイアスや再びデフレに陥らない“ため”の両方でみても)まだデフレ傾向。“ため”はデフレに陥りにくくするための「保険」みたいなもの。物価水準で最低でも1%はほしい。ちなみに日銀がインフレ目標2%を設定したのは酔狂やあてずっぽでしたわけではなく、おそらくこれらのバイアスや“ため”などを勘案したものだろう。つまりは2%に至り、その前後で安定してこそ「デフレの色がなくなる」といっていい。それにはまだ遠い。
2)デフレに起因している失業などの雇用状況がまだ完全に改善していない。安倍政権批判厨に言っておくが、改善傾向にあるということを忘却して、「改善をまったくしてない」と脳内変換するなよ 。あくまでも「完全には改善してない」だから。
3)20年デフレの間の名目価値破損の回復まだ途上。

 さらに麻生氏は財務省職員の前で、消費税増税10%を目指す決意を述べた。これを実現するために、おそらく政権は年内前半にかけて、かなりの規模の補正予算や金融緩和への圧力をかけるだろう。何度も指摘しているが、景気悪化が心配ならば増税をやめるのが最もムダがない。しかし政権はムダを生み出すことを決意してそれになみなみならぬ決意を新年早々表明していることになる。

 本当に消費税増税が自己目的化し、それをとめることができない、という官僚病の弊害をもろにみせてくれてる新年の幕開けである。ちなみに「デフレの色消えた」発言は、さらなる増税のためにこれから実体はどうあれ、この人物の口から何度もでることだろう。それにも増税の自己目的化のイデオロギーがにじみ出ている。