The Spirit in the Bottle

旧「小覇王の徒然はてな別館」です。movie,comics & more…!!!

セイラム坂の首縊りの家 死霊館

 実話を謳う映画は数多いがそれが超常ホラーだった場合どう対応すればいいのだろう?何度か書いている通り僕はフィクションの題材としては大好きだが実際に存在するものとしては全く超常現象の類は信じていない。幽霊やUFOが出てくる作品にモデルがあったとしても、それは幽霊や宇宙人の存在を肯定しない。むしろ大概の事件は何らかの合理的な解明がされている。だから超常現象ホラーで「これは実話である」と言われてもこちらの態度としてはどう臨めばいいのか迷うところだ。
 今年はサム・ライミ絡みの作品を沢山見ている気がするが、その中で「実話」を謳ったのが「ポゼッション」だったが今回観た作品もなんとなく「ポゼッション」に似た部分を感じたのであった。「死霊館」を観賞。

物語

 1971年、キャロルとロジャーのペロン夫婦とその5人の娘が田舎にある古い屋敷を購入する。しかし入居したその日から次々と不可解な出来ごとが起こり始める。家に入りたがらない愛犬は次の日の朝亡くなっていた。眠るたびに身体に痣ができるキャロル。夢遊病を再発する三女シンディ。
 恐怖におののいたペロン夫婦は超常現象研究家であるエドとロレインのウォーレン夫妻に調査の依頼をする。やがてこの屋敷に隠された恐ろしい過去が明るみになる・・・

 タイトルの「The Conjuring」は「手品」とか「まじない」とか「呼び出すこと」だとか色々訳が出てきたのだけれど、要は普通に呼びかける「call」ではなく交霊会などでの「幽霊を呼び寄せる」みたいなときに使われるようだ。劇中では5人姉妹の末っ子エイプリルが見つけたピエロが出てくるサーカスを模したオルゴールにその単語が刻まれていたような気がする。
 えー、実際に起きた事件をモデルにした超常ホラー映画というと「エクソシスト」と「悪魔の棲む家」が有名ですが、この映画に出てくるウォーレン夫妻と言うのは実際に「悪魔の棲む家」のモデルになったアミティビルの事件を調査した人でアメリカでは非常に著名な超常現象研究家らしいです。「エクソシスト」も「アミティビル・ホラー」も現在では決して悪魔憑きとも幽霊とも関係ないことがほぼ証明されているのだけれど、この事件は映画「エクソシスト」公開前、アミティビル事件が起きる数年前(1971年)が舞台(映画の最後に夫婦の次の調査対象がアミティビル事件であることを匂わせるセリフがあるが、アミティビル事件は74〜75年なのでちょっと時系列的にはおかしい)となっている。アミティビル事件はエクソシストブームに便乗してローンを払えなくなった住人とその家で過去に起きた殺人事件の犯人の弁護士がでっち上げた物だが、映画化された「悪魔の棲む家」はヒットして続編も作られ人気作となっている。「エクソシスト」の方もモデルになった事件は1949年の出来事だが、こちらももちろん映画の中で起きたような決定的な悪魔憑きの証拠は見られず、憑かれた少年(映画ではリンダ・ブレア演じるリーガンという少女)の自作自演(本人も無意識かもしれないが)という見方が強い。
 一応、本作はそのアミティビル事件も調査したウォーレン夫妻が唯一「これまでに調査したものの中で「最も邪悪で恐ろしい事例」としてこれまで封印してきた」事件というものが元になっているノンフィクションホラーと言う感じらしいですね。どうやら出てくる人名もほぼ実名のよう。

 ところで、僕がこれまで見た中で一番素晴らしく、怖いと思う「幽霊屋敷物」としてはシャーリー・ジャクスンの1959年の「山荘綺談」とその映画化作品で1963年のロバート・ワイズ監督*1の「たたり」が挙げられるのだが、今回5人の娘の母親で最も悪霊にシンクロして取り憑かれてしまうキャロルを演じているのがその「たたり」のヤン・デ・ボン監督による1999年のリメイク「ホーンティング」で主演を努めたリリ・テイラーである。オリジナルに比べてSFXをふんだんに駆使した「ホーンティング」は正直出来はよろしくないのであるが(ホラー映画における「見せる・見せない」の演出の差としてはこの2作を見比べると色々興味深いと思う)、そこでは地味なオールド・ミスで孤独であるがゆえに幽霊と一番シンクロする役をリリ・テイラーは演じている。多分キャスティングに関してはそのテイラーも考慮されているのではないかな、などと思うのだが、今回は5人の娘と頼り甲斐のある夫に恵まれ幸せながらもどこか神経質そうな母親を見事に演じている。これがもう一人の母親であるヴェラ・ファーミガ演じるロレイン・ウォーレンだと美人だしあまり生活感は感じられないのでその辺がうまく対照的になっている。
 父親のロジャーを演じるロン・リビングストンは「ポゼッション」のジェフリー・ディーン・モーガンに似た雰囲気の男性。また5人の娘が全員可愛くて特に「ホワイトハウス・ダウン」でも活躍したジョーイ・キングは最近の僕のお気に入り子役で今回もボーイッシュながら利発そうな子供を演じている。

 超常現象バスターを務めるのは実在のウォーレン夫妻で演じているのはパトリック・ウィルソンとヴェガ・ファーミラ。ペロン夫妻の労働階級ぽさに比べるといかにも上流インテリという雰囲気。この人達は神父ではないが一応カトリックらしく、オカルトもカトリックの立場からの判断なんだが、それだけでは判断着かない事象もあるだろうになあ、と思ったりする。
 なんとなく男女二人組ということで「レッド・ライト」のシガニー・ウィーバーキリアン・マーフィの二人を連想。あれも最初の交霊会のシーンでは1970年代が舞台だと思い込んでたんだよなあ。
 パトリック・ウィルソンは「ウォッチメン」のナイトオウルあたりから恰幅のいい性格俳優という感じになってきたと思うが最初に「オペラ座の怪人」で知った時は細面の繊細な美青年だったのだよ。関係ないが「オペラ座の怪人」の日テレで放送された劇団四季吹替バージョン、2012年に発売されたBlu-rayソフトに収録されているそうです!今すぐレコード屋に走れ!

 ヴェラ・ファーミガのロレインは霊媒体質で実際に悪魔やら悪霊を見ることができるらしく、夫が科学的見地から調査、妻が体感で調査と言った役割分担のよう(実際のウォーレン夫婦がどうかは不明)。
 で、またセイラムの魔女裁判が出てくるのだな。ここでも「ロード・オブ・セイラム」同様実際の悪魔信仰をしていた人がいて、その女性が自分の子供を殺したりして悪霊となった、という感じのよう。子供を殺した母親の悪霊がやはり母親であるキャロルやロレインと深く共鳴する。
 まあ、時代的に「エクソシスト」公開前とは言え、登場人物のほとんどがオカルト的な事態をすんなり受け入れているのがちょっと物足りなく「こんなの非科学的だ!オレは信じない!」と強く主張する、みたいな人が出てきてもうワンクッションあると良かった気がする。もちろんこういう映画だから最終的にオカルト肯定の方向で行くのは全然良いんだけれど。
 ラストは悪魔に憑かれたキャロルと緊急事態でエクソシスト紛いの行為をするエドたちとの対決。袋を被せられて顔は中々見えないがそこから露出する顔はいわゆるエクソシストリーガン顔。
 監督は「ソウ」シリーズ、「インシディアス」のジェームズ・ワン。次回作は全然毛色の違う「ワイルドスピード」の最新作だそうで。ちなみに「ソウ」と「ワイルドスピード」って」両方共僕がきちんと見たことないシリーズだなあ。特に嫌いとかではないんだけどなんか見てない。
 実話と謳っているし、名前なども実名ではあるのだけれど(エンディングに当人たちの実際のものと思われる写真も出てくる)、超常現象部分の描写などは当然がっつり悪霊が目視出来る形で描写されるのでその辺はあくまでフィクションだと思ったほうがいい。凄い面白い、という訳でもなかったけど、役者や力づくの演出に助けれてそこそこおもしろい作品ではありました。

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類似品にご注意下さい。
 
 直接映画本編とは関係ないが、ちょこちょこ登場した(ポスターのデザインとして使われてもいる)アナベル人形の劇中のやつと本物?

本物ほのぼのし過ぎ。記事タイトルはこちらから*2

*1:関係ないがロバート・ワイズはあらゆるジャンルで名作を撮っているもっと評価されてもいい監督だと思う

*2:これまた関係ないが「コクリコ坂から」ってタイトルを聞くとどうしても「コクリコ坂の首縊りの家」って続けたくなっちゃう