オリコンvs烏賀陽弘道氏で、あえて烏賀陽弘道氏を批判してみる。あとヒットチャートについて

これは以下の日記の続きです。
→烏賀陽弘道さん宛の訴状を見たのでコメントしてみる。あとヒットチャートに関するアンケート
 
ということで、「はてなダイアリー」を見てもこんな状況なわけですが、
→「オリコン」を含む日記 - はてなダイアリー
→「烏賀陽」を含む日記 - はてなダイアリー
代表的な意見はこんな感じです。
→Ashihiro - オリコン,ひどいなー

あと,未だにこういった形で他人の意見を封殺しようとしているのも,なかなか面白い,と感じた.10年,20年前ならばともかく,今日日,ネット回線と,ちょっとした文才,タイミング,少しの勇気でこのように多くの人に一度に物を伝えることが出来る.そして,今回のような威圧は外部にそのことが漏れ出すと大きなダメージ,特に客商売やっている会社とかは本当に大きなダメージを喰らう.ダメージを押さえ込むためには,一般のメディア(大手のテレビ,新聞,雑誌)に情報が流出してしまうのを防ぐこと,そしてこれまでは多分,それもうまくいっていたんだろうけど,オリコンは,今回のネットからの情報を押さえ込むことが出来るのだろうか.そういうこと考えると,今後の推移がどうなるか,非常に興味深い。

ネットで「オリコンにこんなひどい目に会った」と言っている烏賀陽さんに、ネット上の人間は同情的なわけですが(ぼくも同情的でないわけではありません)、烏賀陽さんが今回この事件に関しておこなった「ネットの、メディアとしての使用法」に、いささか疑問もあるので、その点から言及してみます(言い忘れましたが、このエントリーの見出しは演出で、「批判」というより「行動の疑問部分がある」という感じです)。
まず、烏賀陽さんの行動は、初動で次のような判断ミスがあったとぼくには感じられました。
1・自分に同情的になるであろう知り合いで、今回の事件とは無関係な「ネット上で多大な影響力のある人間」(「音楽配信メモ」の津田大介さん)を通して自分の主張(客観的にその主張を正しいと判断できるような材料に欠ける主張)を流すことにより、「被害者である自分(烏賀陽弘道)」「ひどいことをする相手(オリコン)」という情報を、一方的に複数の人間を通して流そうとした(事実それには成功している)。
2・事情説明をするにあたって、「オリコン」側が今回の件に関して「声明」的なものを出すまで、裏事情その他を示さなかった。
要するに、「情報操作をしようとしていた」というのがぼく自身にとって烏賀陽さんの行動に信用が置けない・疑問を感じる要素があったのでした。
さらに具体的に言うと、以下のようなことです。
1・オリコンは「訴状」の前に烏賀陽さんに、記事に関する「内容証明書」を送っていた、という事実を、烏賀陽さんは「オリコンにひどい目に会ってます」アピールのテキストの中では一言も言っていなかった。そのため、いきなりオリコンが訴状を送ってきた、というような印象を読者が持つよう、烏賀陽さんが書いているように、「オリコンの言い分」を読むと感じられる。
2・5000万円の訴訟は確かに個人相手の金額としては大きいが、最近の「名誉毀損の賠償額」としてはそれほど大きいものではない。別の具体例では、新潮社・週刊新潮を訴えた楽天の三木谷社長は「12億6861万円」の損害賠償請求を2006年10月におこない(多分これが今のところ最高)、週刊新潮は「バカ市長」と書いただけで「2200万円」請求され(2006年11月)、リンクはしませんが武富士はもっといろいろな訴訟をしています(「名誉毀損 武富士 - Google 検索」でたくさん見つかります)。まぁ、例としては記事の対象者が、それを掲載したメディア(雑誌など)を訴えたケースがほとんどなので、烏賀陽さんはもっと、「メディア(媒体)ではなく個人を訴えたオリコンの訴訟の変なところ」をアピールするといいと思いました。実際に支払われる額は、前にも言ったとおり100万〜1000万円ぐらいは予想できるんですが、訴状から「5000万円」の部分がクローズアップされすぎている気がするのですね。
参考リンク。
→メディアの人権侵害:低すぎる日本の損害賠償額
「高額の賠償請求」によって、企業あるいは権力者がジャーナリストの言論を制限・弾圧するような風潮が拡がるのは、ぼくとしても納得いかないんですが、それと同時にぼくは弱者がメディアでひどい目に会った、という例のほうが気になるので(冤罪とか)、誤報・歪曲記事に対する責任意識を持たせるためにも、「名誉毀損」の賠償請求は、それなりの金額でも仕方ないかな、と思います。
今回の「オリコン」の、烏賀陽弘道さんが提示した問題は、「オリコンがヒットチャートのランキングに関して十分な情報を提示していない」「情報操作の疑いを持っている」ということだったとぼくは判断したんですが*1、そう言っている烏賀陽さんが、初動の段階で、
1・この裁判に関して十分な情報を提示せず(津田大介さんの「メール公開」はあっても、自サイトでの公開はなし。公開はしても、コメント・トラックバックで「読んだ人の疑問」に応える姿勢はなし)、
2・ネット上の世論を操作しようとしている(「ネットで○○してください」と、過度に自分を被害者としてアピールし呼びかける)
というのでは、2ちゃんねる的に言えば「お前が言うな」ということにもなりかねないわけです。
烏賀陽弘道さんの置かれた立場や、それによって生じるストレスには、心から同情申しあげますが、それとこれとは別です。ネット上でフェアな姿勢を保つのが難しい事件であっても、相手側の主張も含む、個人的な主観・主張を排した十分な事情説明(エクスキューズ)であるほうが、ネット者には必要だし、ありがたいと思ってしまうんですね。
ということで、もし可能でしたら、
1・最初にオリコンから送られてきたという「内容証明」のテキスト
2・今回の裁判の第一回準備書面、およびその他の、裁判が進行するに従って出てくる書面
を公開してください。
ネットユーザーを、自分の主張を伝えるために利用しようと考えたかたは、その「主張」に好意的な人間ばかりではない、ということを多少知っておくほうがいいかな、と思って、すこし辛めのテキストを書いてみました。失礼がありましたらすみません。
 
で、ネット上での「ヒットチャート」問題に関してはいろいろ考えさせられるテキストがあったので、追記的な形で言及してみます。まず、ぼくがおこなった「アンケート」ですが、
→http://q.hatena.ne.jp/1166538201

ライター烏賀陽弘道氏が、「オリコン」に関する発言で訴えられましたが(http://www.oricon.co.jp/news/confidence/40446/)、あなたは最近、音楽のヒットチャートやランキングは信用できるものだと思いますか。また、それを参考に音楽を買っていますか。
・「昔」ではなく「最近」(ここ数年)です
・「ヒットチャートやランキング」には、オリコンの提供するもの以外も含まれるものとします
・「音楽を買う」とは、「配信サイトからダウンロードする」「レンタルショップから借りる」も含まれるものとします
※「その他」の意見のかたはコメント欄でご記入ください

ご覧の通りの結果になりました。
要するに「ほとんど信用できないと思うし、ほとんどそれを参考にしては音楽を買っていない」という人が過半数(500人中288人)、「それなりに信用できるとは思うが、ほとんどそれを参考にしては音楽を買っていない」が162人で、音楽を買う人の95%(20人に19人)90%(10人に9人。計算間違ってました、すみません)は「ヒットチャートなんかで買ってはいない」という結果です。
これはまぁ、ぼくの日記を読んでアンケートに答えた人が中心だと思うので、世間一般的なことかどうかは不明ですが、「ヒットチャートの影響力」は、音楽業界が「初登場一位」を重視するような販売スタイルになってから顕著に低下しているんじゃないのかな、というのがぼくの判断です(業界にはあまりくわしくないので、間違っているかもしれません)。
あと、他の人の日記から。
→newswave on line (personal edition): ■オリコンが個人ジャーナリスト相手に高額訴訟

現在、オリコンのチャートの集計がどのようにおこなわれているのか知らないし、サイゾーの記事の内容の真偽を判断する材料を私は持っていない。だが、少なくとも20年ぐらい前は、レコード会社のセールスマンが、自分の担当エリアでオリコンの集計対象になっているお店に頼み込んで、チャートを操作してもらうことは「チャート対策」としてごく当たり前におこなわれていた。確か当時はオリコンからお店に電話があって、売り上げ順位と売り上げ枚数を報告するというシステムになっていた。だから実際の売り上げ枚数がどうあれ、報告するお店の胸先三寸でどうにかなってしまうわけである。もちろん「買い取り」と称して一定の枚数のレコードをお店からレコード会社が伝票上の操作だけで売り上げ計上し、お店の報告に反映してもらうというやり方もあるし、親しいお店になると買い取りもせずセールスマンがお店にチャート操作を口頭でお願いしたり、ときにはその順位を書いたノートを自分で(もちろんお店の人の了解を得て)適当に書き換えたりしていたのである。なんでそんなこと知ってるのかといえば、私が某レコード会社の営業だったころによくやっていたからだ。もちろんすべてのチャート調査店がそんな操作を受け付けていたわけではない。

→パンクはいつも突然に:オリコンの集計方法

もう20年以上前だけど、オリコンの集計方法を書いた書類を見たことがある。実売枚数から推定するのではなく、サンプル店で1位なら何枚売れたことにする、2位なら何枚・・・・という表があって、全サンプル店分の総合計が推定売上枚数になるという仕組み。その仮定枚数は小数点以下が4桁ほどあって、統計学的手法で決めたもののようだった。実数から離れた統計学的手法だったんで、実数調査だと思いこんでいた私としてはかなりがっかりしたけど、今でも同じような仕組みなんだろうか?
 レコード会社による店頭買い取りのアルバイトをしたことがあるけど、しっかりオリコンサンプル店リストが流出していて、サンプル店の中から買いに行く店を指示された。一方で、オリコンの方は、そういう不自然なデータは弾くような仕組みを持っているってことだったが。
当時そういうタコの足食いみたいなことやっていたってことは、当時はそれ以外にチャートを不自然に動かす手法がなかったってことなんだろう。今あるかどうかはしらないけど。

と、過去に、オリコンではなくレコード会社によって(←ここ重要)、オリコンのヒット・チャートは作られていた部分もある、という現場証言があります(今後も出てくるでしょう)。
まぁとりあえずこんなところで。
 
(追記)
今回のこの件に関しては、津田大介さんと烏賀陽弘道さんから事情説明その他がありましたのでリンクしておきます(ぼくが確認したのは2006年12月22日朝)。ぼくのほうも、少し言いすぎ・あおりすぎがあったかな、と反省しています。
→音楽配信メモ 烏賀陽さんのサイトに■お詫びと訂正■が
→UGAYA Journal.:■お詫びと訂正■
ぜひご一読ください。
あと、オリコン社長の、この事件に関するコメントも掲載されました。
→「ライター烏賀陽弘道氏への提訴」について CONFIDENCE ランキング&ニュース -ORICON STYLE-
これもご一読ください。
「日記」ではありながら、個人的なことを書くことは滅多にないのですが、今現在(2006年12月22日朝)体調がものすごく悪くて、コメントその他の形で対応することができません。どうも申し訳ありません。
 
これは以下の日記に続きます。
→烏賀陽弘道さんに対するオリコンの5000万円は「高額訴訟」なのか
 

*1:それが本当なのかどうかは、ぼくは判断は保留します。