感染地情報

事態は拡大しているようで、大阪でも発見されていますし、これから各地で掘り起しが進むとも考えられるので、PCRの検査処理能力に応じて発見情報が増える可能性を危惧しています。とりあえず5/16付け(23:21受信)神戸市医師会新型インフルエンザ対策緊急会議を情報提供とします。

 神戸市灘区の県立神戸高校の生徒3人の検体から、新型インフルエンザウイルスが検出され、遺伝子検査において確定されました。

 本日の標記会議では、バレー部の対外試合で他区の高校にも伝染している可能性が高いことを示す事例に関しても発言がありましたが、現在のところウイルスの証明がなされていないことを理由に第一学区のみの休校となっていますが週明けにも休校範囲が拡大する可能性があります。

 また、もう既に感染はかなり広がっていると考えられるので、通常の季節性インフルエンザと同様の対処としてはどうかの意見もありましたが、現時点においては以前からの取り組みどおり別紙の「新型インフルエンザ受診相談の流れ」に則って対応することが決定いしたしました。

 色々と説明したい細々したことがあるのですが、各区での対応に齟齬が生じてはならないので神戸市医師会からの見解を待つよう指示されていますのでご了承ください。

 もし色々な理由でインフルエンザが疑わしいのに発熱外来に送ることが出来ず、先生が自院でインフルエンザの簡易テストを含めた診察をされる場合は、必ず先生のみならず、看護師、受付を含め全てのスタッフがマスクをすることが必要です。これだけはお守りください。

 神戸市医師会からの指示がありましたら休日でも連絡いたしますので、ご留意下さい。

23:21受信ですから、対策会議は深夜に及んだようです。関係者の皆様、本当に御苦労様です。おそらく会議をしている途中にも「他でも発見」みたいなニュースが飛び込んできたでしょうが、ニュースの確認をしようにも時間的にも、先方の混乱を考えても連絡は容易ではなかったのではないかと思っています。おそらく今日も休日返上で情報収集と具体的対策の検討に追われているかと思いますが、頑張って頂きたいところです。


今回の新型インフルエンザ対策の最終問題は、このFaxにもある、

    通常の季節性インフルエンザと同様の対処としてはどうか
これにいつ移行するかのように感じています。非常に難しい決断であり、この決断には医学的評価と政治的判断の二つの要素があります。医学的評価はこの新型インフルエンザの病原性(毒性)の高さが問題になります。現在の評価は季節性よりやや高いというのが得られています。数値としては微妙なんですが、季節性であれば死亡率が0.1%以下とされていますが、今回の新型は0.3%ないし0.4%程度と考えられています。この評価をどの時点で取り入れるか、また取り入れたときに季節性より高い分をどう考えるかの評価が必要になります。

政治的判断は医学的評価と微妙に絡み合いますが、現在は「どうやら」季節性より数倍の毒性がありそうなので、厳重な体制を継続するか、季節性より数倍しか高くないので、通常の診療体制での対処にするかの判断です。季節性より高いのは「どうやら」間違いないようなので、厳戒態勢を解除し、必然的に生じる死亡者の発生時の世論に政府が耐えられるかが政治的判断になるかと考えています。

政治的判断は微妙な流れの上に展開しています。当初のメキシコ発の情報ではついに強毒性の新型インフルエンザが発生したと多くの者は考えました。それを信じさせる死者数であったとも考えています。WHOもその情報の上で判断していますし、WHOの判断に政府も基本的に従ったと考えています。この判断は誤っていないかと考えます。あの時点で「弱毒性だろうから心配ない」とは誰も言えなかったと考えます。

WHOの判断を受け入れた政府は、かねて鳥インフルエンザ用に準備していた対策を発動します。水際作戦の是非が論議されていますが、発熱外来も含めて、あらかじめ準備されていたガイドラインに副って対策が展開される事になります。ここまでは問題なかったかと思っています。会議室で事前に考えた案と、現場の実情の乖離は発生しましたが、これも初めてですから致しかたないと考えています。

現在の問題は感染が北米を中心に拡大した結果得られた毒性の評価です。全部調べつくしたわけではないのですが、政府が準備していたのは強毒性の鳥インフルエンザ対策だけのようです。責めるわけではないですが、毒性の強度に応じた対策を持っていたわけではどうもないようです。もちろんそこまで求めるのは贅沢すぎるかと思っています。

当初判断が強毒性の可能性ありでしたから、まずそこから始めたのは良いと思いますが、状況の展開によりそこまでの毒性が無い事が確認された時にどうするかの問題が現在だと考えています。事前の準備が無い問題ですから、当局者の臨機応変の対応能力が問われる局面になっていると考えています。おそらく準備されていた対策も「そうなれば、その時に考える」であったと考えていますし、そういう考え方は現実的と考えてもいます。

政治的判断に際し問題になるのは、

  1. それでも「安心」を求める国民世論をどう判断するか
  2. 連動しますが、統計的に必然として生じる死亡者報道にどう答えるか
とりあえず今の厳戒態勢のままにしておけば、新型インフルエンザに対する政治評価として傷は付きません。一方で厳戒態勢の継続は医療にも、国民生活にも大きな影響を及ぼします。医療的には発熱患者をすべて発熱外来で対応し続ける事への無理です。たとえば小児科患者の多数はそもそも発熱患者ですから、渡航歴の縛りがなくなれば、どっと押し寄せます。長期間対応できるかの問題は必ず出てきます。

現在神戸では休校措置が行なわれていますが、週が明けて感染者数が拡大すれば、それこそ「いつまで」休校措置を継続するかの問題が出てきます。休校措置を感染拡大防止のために行なうのは良いのですが、社会生活にはボディーブローのように効いてきます。身近で目に見える影響として、働く女性がどこに子供を預けるかの問題が出てきています。1週間程度ならなんとか踏ん張れても、これが2週間、3週間と続けば悲鳴が上がります。働く女性が職場から離脱していけば、経済の問題として出てきます。

また厳戒態勢の継続は消費生活にも影を落とします。厳戒態勢の継続は人の動きを抑制しますから、景気の悪化に拍車をかける事は十分に予想されます。とりあえず観光産業が大きなダメージを受けるだろう事は誰でも思いつきますし、消費生活全般に落ちるだろう事も素人でも予想が付きます。


どうにも続けるのも悪影響がありますし、やめるのも問題が生じる危険性をはらんでいます。しかし厳しい事を言うようですが、こういう時に指導力を発揮するのが為政者の務めとも言えます。為政者が指導力を発揮し決断しなければならない局面に差し掛かっているんじゃないかと考えています。難しいのは理解します。国内感染が拡大局面で対策を後退させる事への反発は容易に予想されます。

国内感染が拡大する局面では「さらに厳重な対策を」とするのが政治的定石ですから、これに反して緩和の方針を打ち出すリスクは計り知れないものがあります。ただリスクを恐れて対策を強化継続すれば、「いつまで」問題がぶら下がります。まあ、それでもなんですが夏になれば嫌でも終息する観測も十分ありますから、そこまでの政治判断もあります。ですから現時点ではリスクを冒さないかもしれません。


全然関係ないことを最後に思い浮かんだのですが、現時点では関西に集団発生しています。これが東日本、とくに東京にも波及すれば、国会もマスクで論戦になるでしょうね。記者会見も当然マスクになります。またテレビ放送はどうなんでしょうか。バラエティ番組でよくある、笑うための客と言うか参加者がいますが、あれもマスク付きにする必要が出てくるように思えます。当然、出演者もマスクです。社会的影響が大きなところですからね。

ここ1〜2週間の動きに注目されます。とりあえずうちの診療所は全員マスク着用で臨みますが、大多数が発熱外来に行ってヒマなのか、そうでないのかは蓋が開いてから実感させて頂きます。


■訂正と注意

新型インフルエンザの死亡率は0.3%から0.4%と考えられるとしましたが、どうも私が把握していた情報が古い、もしくは錯綜した情報の一つを過信している可能性があります。現時点では同等ないしやや上回る程度ではないかとする方が適切なようです。さらに日本人ではどうなのかの知見はこれからだとの意見も貴重ですから、訂正と注意とさせて頂きます。