ツーリング日和25(第27話)コータローの好み

 コータローにも女性遍歴はある。

「遍歴言うな。なんか遊びまくってたみたいやんか」

 そうでしょうが! 千草なんてコータロー一筋で、

「都合の良い結果だけで語るな」

 そこはともかく、

「それで逃げるな」

 悪いが逃げさせてもらう。問題なのは結婚してもコータローの女性の好みが不明なんだよ。

「鏡見たらわかるやろ」

 それは信じてるけど、どうしたって千草は気になる。千草がわかってるのは、あのナンバーワン美少女の藤野千草でもなく、男受けだけは良い森園さんでも無いってぐらいだ。

「なんか森園さんにトゲあるで」

 あれは男のコータローにはわかるもんか。ツムギちゃんは不明だ。

「趣味や無いって言うたやないか」

 あそこで趣味だなんて抜かしやがったら離婚だ。高校や大学、ましてや社会人になってからは知りようもないけど、一人だけでコータローの好みの女は知っている。

「その話はもうエエやろ。誰かって初恋の人ぐらいおるねんから」

 でもさ、どこをどう見たって似てないのよ、

「そんなことはあらへん。どっちも社長令嬢や」

 だったらやっぱりツムギちゃんに魅かれたんだ。

「堪忍してくれよな」

 見た目はもう置いとかせてもらうけど、キャラだって違い過ぎる。真面目の権化みたいな末次さんと、

「ふしだらな千草」

 殺したろか。千草なんかコータローに出会うまで一回しか経験ないんだからな。これのどこがふしだらだって言うんだよ。

「そやけど、あれは好きやんか」

 それは認める。けどね、そうなったのはコータローに開発された結果だ。ああされてしまったら好きになるに決まってるじゃないの。もしかして不満か?

「嬉しいで」

 よろしい。それにしても、あんなに良いものとは思わなかった。だから浮気や不倫までして相手を求めるのがやっとわかったもの。これはコータローに本当に感謝してる・・・そんな話をしてるのじゃなくて、コータローの女の好みだ。

「もう夫婦になってるからエエやんか」

 夫婦になってるからだ! 夫婦の最大の敵はすきま風だ。これをいかに吹かせないようにするかが重要なんだよ。

「このマンションの造りはしっかりしてるで」

 そうじゃない! 心のすきま風だ。ぶっちゃけ、コータローの心が他の女に靡いてしまうことだよ。ちょっとした油断がそうなるぐらいは知ってるからな。あれだって最初はそこまでの関係になるとは思ってなかったはずだ。

 仕事上とかの付き合いってのもあるじゃないの。そのはずだと安心していたら、ふと気が付いたら出来上がっていたみたいなのは良く聞く話だぞ。とはいえだ、コータローに近づいて来る女を根こそぎシャットアウトは無理があり過ぎる。

 だからターゲットを絞りたいんだ。コータローの心にすきま風を吹かせるとしたら、やはり好みの女になる。好みの女だからこそ種火が灯り、これがいつの日にか炎上につながるだろうが。

 そういう女がコータローに近づくようなことがあったら、警戒警報を出し、徹底的にマークして、可能な限り速やかに排除しないといけない。

「そこまでせんでも」

 甘い、甘すぎる。そんな悠長なことを言ってるから寝取られるんだよ。恋愛ってガチになると戦いであり、バトルフィールドなんだ。そこには毛ほどの油断さえ命取りになる死と常に隣り合わせの世界だ。

「それは恋人時代やろうが」

 アホか! どうして夫婦になると安心できるって言うんだよ。夫婦と言っても戸籍でそうなってるだけで、安全保障条約とは違うぐらいわからんのか。だから常に警戒を怠らず、全力で夫婦関係を守り抜くのが妻の責務だ。

「夫の責務でもあるやろ」

 違う、まったく違う。コータローはたとえ千草と離婚しても、次の相手なぞいくらでも湧いてくる。それぐらいはわかってる。けどな、千草にとってのコータローは宇宙で唯一人の存在で、失えば二度と取り戻せないんだぞ。コータローを失う時は千草も死ぬ時だ。

「そんなん言うけど、平均寿命も、平均余命も千草の方が長いやんか」

 シャラップ。先に死になんかしやがったら、化けて出るぞ。

「あのな、オレが先に知んどるのに化けて出てどうするんよ」

 え~い、グダグダとうるさい奴だ。とにかくコータローは誰にも渡さない。骨になっても守り抜いてやる。

「一つ聞いてもエエか。千草ってヤンデレか」

 そんなわけあるか! 誰がどう見たって立派過ぎるツンデレだ。

「そないに威張って言われても困るんやが」

 ツッコミがしつこいし、出来が悪い。そんなに離婚したいんか。

「言うてることが無茶苦茶や」

 だからツンデレだと言ってるだろうが。コータローがヘタクソなボケとツッコミを入れまくるから、なんの話をしてるかわからくなったじゃないか。責任者出て来い。

「責任者言うても、ここには二人しかおらへんけど」

 ならばコータローだ。責任を取りやがれ、千草を納得させる責任を取れなかったら離婚だからな。

「ところでやが・・・」

 次のツーリングか。お泊りは無理として、ちょっと距離が走りたいな。なんかんだと言ってもツーリングの本道は下道だし、下道を快走してこその醍醐味だもの。ご近所ツーリングが悪いわけじゃないけど、ここからだとご近所は、

「市内の買い物みたいになってまうもんな」

 そうなのよね。最近は新神戸トンネルを良く使うけど、あそこを抜けるだけで余裕でご近所ツーリングになっちゃうのよね。

「こっからやったらトンネルに入るんが右折なんもネック言うたら、ネックなんよな」

 たいしたネックじゃないけど、そこまでは市街地走行じゃない。とくに新神戸のとこから入ろうとしたら、時間帯にもよるけどアレなんだよ。信号一回じゃ曲がれない事だってあったじゃない。

「一回どころか二回でも曲がれんかったもんな。あれ絶対に設計ミスやで」

 千草もそう思った。あの時はシビレを切らして、信号を直進してターンして、左折で曲がったもの。神戸側の出口だってそうよね。

「都合は国道二号がエエんやけど、渋滞があったらかなわん」

 あれもウンザリさせられた。ここまで帰って来てるのに勘弁してよの世界だったもの。ああもう、なんの話だったっけ。とにかくコータロー、愛してる。