CA1623 – ファインダビリティ向上を実現するフォークソノミー / 篠原稔和

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カレントアウェアネス
No.291 2007年3月20日

 

CA1623

 

ファインダビリティ向上を実現するフォークソノミー

 

1. 情報検索のためのファインダビリティ

 インターネットの普及にともなって,「秒進分歩」の勢いで増大を続けるコンテンツをいかに利用者にとって見つけ出しやすく整理するかは,情報管理者にとっての最大のテーマである。そのような中,昨今,情報アーキテクト(1)の間で「アンビエント・ファインダビリティ(ambient findability)」という考え方に注目が集まっている。アンビエント・ファインダビリティ(見つけやすさの環境)とは,情報の提供者が情報の所在を定めることや利用者にとって探索可能になっているかどうかを定める指標としての「ファインダビリティ」を,私たちを取り巻く環境の中心に捉えていこうとする営みのことを指している。すなわち,特定の情報や事物がどの程度,発見でき,見つけ出しやすくなっているか,ということである。

 ファインダビリティ向上のためのアプローチは,「情報のアイテムレベル」と「情報のシステムレベル」から構成される。「情報のアイテムレベル」とは,「情報の組織化(分類・整理の方法)」や「ラベリング(名前付け)」のことである。一方「情報のシステムレベル」とは,私たちの身体をとりまく物理的な環境やデジタル環境が,どの程度,特定の情報への「ナビゲーション」しやすく,「検索」しやすい仕組みになっているかのことである。

 このような中で,両方のレベルを横断する役割を担うのが「メタデータ」である。メタデータは,コンテンツを分類・整理するために用いられるとともに,コンテンツの主題を記述する単語やフレーズも使うことで,コンテンツを検索しやすくするためにも活用される。いわば,メタデータの管理がファインダビリティ向上のための鍵を握っているとも言えるだろう(2)

 

2. タクソノミーからフォークソノミーへ

 元来メタデータとは「データのためのデータ」のことであり,対象であるコンテンツに対して内容や属性となる索引やキーワードなどを付与する行為を意味している。いわばコンテンツに対して「タグ付け(タギング)」を行うことであり,従来からのタグ付けの基準には「タクソノミー(taxonomy)」による情報管理が採用されてきた。タクソノミーとは,ものごとを分類して理解するといった,人間の意識の根底にある分類体系としての階層構造に従って,コンテンツ管理者が予めタグ付けを行うために用いられている。

 それに対してフォークソノミー(folksonomy)とは,「folks(民衆,人々)」と「taxonomy(分類法)」との造語で,インターネット上のコンテンツの利用者である閲覧者や投稿者自らが,閲覧・投稿するコンテンツに自由にタグ付けすることで,検索のためのシステムに役立てることを表す。フォークソノミーが従来のものと大きく違うのは,タグを付けた人の個人的な思い入れや,一定のコミュニティによって認められたタグ付けであることから,タグを介してさまざまな利用者やコミュニティの関心を共有でき,情報検索の方法を学ぶことができる点にある。また,タグ付けにおいても,個人の感覚や印象によるものやコンテンツに対する事後的なアクションを付与するなど,人の感覚や時間のような従来になかった属性を採用できることにも特徴がある。

 フォークソノミーによるタグ付けの効用は,利用者が任意のキーワードを検索する際に,他の利用者がタグ付けを行ったコンテンツを検索結果に表示できることで,検索性が向上していくこととされている。また,タグの多さに応じて文字列の大きさを変化させて表示する「タグクラウド」を用い,タグの人気や優劣を示すことで,あらたな検索行動を引き出すことにもつながる(3)

 

3. フォークソノミーの応用分野

 フォークソノミーが活用されている分野には,ソーシャルソフトウェアとも総称される一連のサイトサービスがある(4)。代表的なものに,多くの人々が写真を共有する『フリッカー(Flickr)』(5)や,興味あるブログ記事やニュースへのリンクを共有するソーシャルブックマークの『デリシャス(Del.icio.us)』(6),ウェブページのアーカイブサービスの『ファール(Furl)』(7)などを挙げることができる。現在では,コミュニティ・ブログの『メタフィルター(MetaFilter)』(8)やブログ・インデックスの『テクノラティ(Technorati)』(9)でも活用されている。また国内でも,『はてなブックマーク』(10)に代表されるソーシャルブックマーク・サービスがよく知られている。

 ビジネス分野においては,企業のウェブサイトやイントラネットでの採用が活発化してきた。ウェブサイトでは,コンテンツに対する利用者のさまざまな傾向を掴むことができ,製品やサービスに対するマーケティングデータとしての利用が進んでいる。たとえば,特定の製品に対してどのような言葉が用いられているかをチェックすることで,製品コンセプトの見直しや開発に活かす等である。またイントラネットでは,企業内の情報を従来からの事業別や製品別の分類方法に加えて,従業員の行動やその時々の嗜好に基づいた情報分類が可能になることで,検索性の向上と同時に従業員の興味などを把握できる効果につながっている。

 学術分野では,米国を中心に図書館や美術館などでの実践の取り組みが急激に進展してきた。米国ミシガン州アナーバーの地域図書館における情報検索システム『SOPAC(Social OPAC)』では,アカウントを持つ利用者が書誌データにタグをつけることで,利用者の嗜好や人気度から図書情報を検索することができる(11)。また,メトロポリンタン美術館やグッゲンハイム美術館などを中心とした米国の8つの美術館による『アートミュージアム・コミュニティ・カタロギング・プロジェクト(The Art Museum Community Cataloging Project)』では,これまで個別に行ってきた館内の作品に対するメタデータを統合する試みに加え,各ウェブサイトを介して来館者が個々の作品にタグ付けを行うことで,来館者が作品を見つけだしやすくするための研究が進んでいる(12)

 

4. フォークソノミーの課題

 フォークソノミーをファインダビリティ向上に活用していく上での課題には,一般の利用者によるタグ付けに際して,言葉における曖昧さや正確性に関する次の点がある。たとえば,同義語や多義語を多数入力してしまうことや利用者の勘違いから無意味な言葉を入れることは,利用者にとっての検索能力を著しく下げてしまう結果につながりかねない。同時に,サイトの運営者にとっては,好ましくない言葉が付くことに対する管理面での問題が浮上することになる。

 これらの課題の克服として,タグ付けの入力の際に同義語や多義語などを整理するためのエンジンを併用することや,利用者に対して積極的に意味のあるタグ付けを促すための仕掛けを講じる策などが試みられている。たとえば,Google社によるGoogle Image Labelerでは,ゲーム形式で利用者に画像のタグ付けの精度を競わせながら,より正確なタグ付けを促す仕組みとなっている(13)。その他にも,タグの利用頻度による変化を表示するタグクラウドにおいて,時間軸の要素を付加することで,タグ付けの適性さを収斂させていく試みがある(14)

 フォークソノミーは,従来からの制限語彙によるトップダウン型のタクソノミーに比べ,分散されたボトムアップ型のアプローチであることから,コストをかけずに効率的に運営できる大きなメリットにつながっている。そのことから,フォークソノミーは従来からの手段を補完しながら,利用者にとっての情報のファインダビリティ向上を実現する方法として,今後より一層注目され,普及していくに違いない。

ソシオメディア株式会社:篠原稔和(しのはら としかず)

 

(1) Rosenfeld, L. et al. (篠原稔和監訳) Web情報アーキテクチャ. 東京, オライリー・ジャパン, 2003.

(2) Morville, P. (浅野紀予訳) アンビエント・ファインダビリティ. 東京, オライリー・ジャパン, 2006

(3) Guy, M. et al. Folksonomies Tidying up Tags?. D-Lib Magazine. 12(1), 2006. (online), available from < http://www.dlib.org/dlib/january06/guy/01guy.html >, (accessed2007-1-31).

(4) Hammond, T. et al. Social Bookmarking Tools(1): AGeneral Review, D-Lib Magazine. 11(4), 2005, (0nline), available from < http://www.dlib.org/dlib/april05/hammond/04hammond.html >, (accessed 2007-1-31).

(5) Del.icio.us. (online), available from < http://del.icio.us/ >,(accessed 2007-1-31).

(6) Flickr. (online), available from < http://www.flickr.com/ >,(accessed 2007-1-31).

(7) Furl. (online), available from < http://www.furl.net/ >,(accessed 2007-1-31).

(8) Metafilter. (online), available from < http://www.metafilter.com/ >, (accessed 2007-1-31).

(9) Technorati. (online), available from < http://www.technorati.com/ >, (accessed 2007-1-31).

(10) はてなブックマーク. (オンライン), 入手先, (参照 2007-1-31).

(11) The Ann Arbor District Library. (online), available from < http://www.aadl.org/ >, (accessed 2007-1-31).

(12) Bearman, D. et al. Social Terminology Enhancementthrough Vernacular Engagement: Exploring Collaborative Annotation to Encourage Interaction with Museum Collections. D-lib Magazine. 11(9), 2005, (online), available from < http://www.dlib.org/dlib/september05/bearman/09bearman.html >, (accessed 2007-1-31).

(13) Google Image Labeler. (online), available from < http://images.google.com/imagelabeler/ >, (accessed 2007-1-31).

(14) Weisinger, D. “Metadata: Folksonomy and the Art of Tagging in the Enterprise”. Formtek Blog. 2006-12-13.(online), available from < http://www.formtek.com/blog/?p=157 >, (accessed 2007-1-31).

 


篠原稔和. ファインダビリティ向上を実現するフォークソノミー. カレントアウェアネス. (291), 2007, 3-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1623

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