Android端末のようでちょっと違う「Fireタブレット」シリーズをご存じだろうか? アマゾンが提供するタブレットで、価格の安さが魅力の製品だ。
9月21日に発売されたばかりの新モデル「Fire HD8」は、16GBモデルがなんと1万2980円。プライム会員限定のクーポンを使えばさらに4000円引きになる(9月30日時点)。つまり、8980円というウルトラ激安プライスである。従来モデルの「Fire」なら、8980円の8GBモデルが4000円引きで4980円という信じられない価格になる計算だ。
あくまで僕の推測だが、こんなに安いのは、「本体は安く提供するからコンテンツを買ってね」ということなのだろう。アマゾンが出しているタブレットだけあって、主な用途は映画や音楽の試聴、電子書籍の閲覧などを想定している。
本体はやや厚くて重い
Fire HD8は、知らない人が見たら「2万~3万円かな?」と思うだろう。高級感こそないが、樹脂製ボディーの質感は上々だ。背面はシンプルなつや消し仕上げになっていて、滑りにくく持ちやすいのが良いところだ。
Fire HD8の本体サイズは、214×128×9.2mm。液晶は8型で、電子書籍を読むには最適だろう。欠点は、やや厚みがあって重いことだ。7~8型のタブレットは300gを切る製品が多く、そのくらいなら長時間持っていてもつらくない。341gもあると、個人的には「ちょっと重いな」と感じる。
珍しいのが、各種ボタンが本体の上側面にある点だ。このサイズのタブレットの多くは電源ボタンが上側面にあったとしても、音量調節ボタンは本体の左右側面にある。どうして違うのだろうと思いつつ、しばらく使ってみると合点がいった。電子書籍を読むときには本体を縦に持つが、音量調節ボタンは使わない。しかし、本体を横持ちにして動画を見る際などには、本体上側面にボタンがあったほうが音量調整ボタンを押しやすいのだ。
どうしても納得できないのが液晶だ
本体がやや重く厚いのは、価格を考えれば妥協できる。性能も並だが、それも仕方がない。
ここでは、僕が思う判断の分かれ道を考えていきたい。もちろん、単なる製品の良しあしではない。なにしろ、ライバルがいないほどの格安モデルなのだから、至らない点もあって当然。それを踏まえて妥協できるのか、買うかどうかを判断すればいいだけの話だ。ただし、ウェブサイトの情報だけでは分かりづらい。
僕が思う一番の判断ポイントはGPSを内蔵しないことだろう。iPadもWi-FiモデルはいまだにGPSを内蔵しないとはいえ、地図アプリなどを使うならGPSは必須。つまり、Fire HD8は外出先での使用があまり想定されていないのだ。まあ、GoogleマップやポケモンGOも正規の手順ではインストールできないのだから、そういうデバイスだと思うしかない。
さらに気になるポイントが2つある。まず、Wi-Fiが最新の802.11acに対応していないこと。これは欠点だと思う。自宅で使うことを前提にしている端末だからこそ、無線LANではサクサク電子書籍や動画をダウンロードしたいのだ。
もう1つ、個人的にどうしても我慢できないのは、液晶の白っぽさだ。見た目では、タッチセンサーを搭載するガラス面と液晶との隙間をなくしたいわゆるダイレクトボンディングのように思えるが、実は隙間があるようで、少し傾けると液晶が白っぽくなる。電子書籍も映画も美しく見られないようではタブレットとして不合格だ。
アマゾンのFireシリーズは、見た目こそ普通のAndroidタブレットなのだが、OSが独自にカスタマイズされていて、話題のアプリが使えないケースが多いことも注意が必要だ。
カジュアルなタブレットとしてのツボは押さえる
ただ、アプリに関しては悪い話ばかりでもない。例えば、一部のアプリの課金は割引になっている。もっとも、アマゾンのストアアプリを利用すれば普通のAndroid端末でも同様の割引を受けられるので、Fireだけのメリットとも言えないのだが……。
また、AndroidのカスタマイズOSとして僕が注目したのは「Blue Shade」機能が搭載されていることだ。ブルーライトをカットするモードで、画面がセピアっぽくなり、目が疲れにくいという。確かにまぶしくないので、室内の照明で本を読むときには最適だ。読書に力を入れたモードを搭載しているのは、さすがアマゾンのタブレットだ。
ガジェットに詳しい人が電子書籍を読むために選ぶなら、恐らく楽天の電子書籍リーダー「Kobo Aura ONE」だろう。文字も読みやすく、バッテリー駆動時間も長い。ただ、「Kobo Aura ONE」は電子書籍専用の端末で、画面はモノクロ。しかも、7.8型で2万円を超える。一方、Fire HD8は、カラー液晶搭載で、カスタマイズされたAndroid OS搭載とはいえ、電子書籍リーダーよりは汎用性が高い。本体価格が安いだけに、ウェブの閲覧と読書、映画観賞だけに用途を絞っても間違いなく元は取れるだろう。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。近著に、『一流のプロから学ぶ ビジネスに効くExcelテクニック』(朝日新聞出版)がある。
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