
飯田さんの新刊『広告コピーのことば辞典』に、梅田さんが素敵な推薦文(言葉とコピーをつなぐ「新しい意味」が体系化された実用書。)を寄せてくださいました。

梅田悟司(以下、梅田):本の内容を伺ったところ、僕もこういった本があったらいいなと思っていたので、割と迷わずに書きました。もし、本当にこういう本って必要なのかなと思ってしまうと、「本当の意味って何だっけ?」というところから考え直さなければなりませんが、あまり小難しく考えることなく書かせていただきました。
飯田朝子(以下、飯田):そうですか。ありがとうございます。
候補をいくつかいただいたんですが、いちばん上にあった案を採用させていただきました(笑)。
梅田:そうですね。代理店根性がちょっと働いてしまうので、広めに書くんです。でも、いちばん最初の案がいいかなと自分でも思っていました。人によってはちょっと難しい表現に感じるかもしれませんが、わかりやすい表現よりも、この本の中に書かれていることの価値化みたいなものをさせていただいたコピーが採用されましたね。
飯田さん、このコピーをご覧になった時どう思われましたか?

飯田:なんだか学者の方が書いたみたいだなって。
梅田:あははは(笑)。
飯田:こういった推薦文によくある「これを読まねばダメだ」といった責め言葉的なものが来るのかと思っていたら、論文の副題のような感じでいただいたので、「すごくわかってくださっている!」と思いました。ああいった責め言葉は、それはそれでいいんですが、読んでほしいターゲットを脅すつもりはありませんでしたので。
このコピー、新しい感じがして、すごく気に入っています。「新しい意味」ということはあまり意識せずに私は書いていたんですが、広告コピーライティングの現場にいる梅田さんに「新しい」と言っていただくと、「この言葉の意味は広告ではこうですよ」とつながって、読者にうまく伝わったと思います。
梅田さん、「新しい」と思われたのはどんなあたりですか?
梅田:コピーに使われる言葉は、文中に入ることで、通常の言葉よりも意味が広がるはずなんです。ですから、その意味の広げ方をきちんと設計しているかどうかというのが大事になってきます。
例えば、僕の本のタイトル『「言葉にできる」は武器になる。』はかなり激しい言葉遣いをしていますが、実はそういう強い言葉を持ってくるよりも、普段から使っているけれど、文中に入ることで意味が広がったり、新しい意味付けみたいなものができたりするものこそが、本当は人の心の中にスッと入ってくるものだと僕は思っています。
推薦文に使った「新しい意味」というのは、コピーを考える時に僕がいつも気にしながらやっている「意味を広げる」ということの意味合いで使いました。
ただ、「意味が広がる」というと玄人にはわかると思うんですが、これから本を読んでみようかなと思う人にはちょっと難しい感じがしました。そこで「広げる」ということを「新しい」という言葉に変換しました。
飯田:この本は、コピーライターの方は第一の読者にしてないんです。もうコピーライターの方はご存じじゃないですか。講座などで散々習っているし、何千本とコピーを書いて痛い思いもしていますから。そのわかった人たちに対して釈迦に説法するような本は要らないのではないかと思ったんです。
ただ、コピーをたくさん調べていると被っていたり似ていたりするものが多くて、「またこの言葉か」と消費者としてちょっと飽きてしまっているところがあります。
そういった時、これを提案したコピーライターよりも、選んでいる企業に問題があるのではないかと思うようになりました。他の企業が使っていない言葉や、他の企業の裏を行くような表現を見つけだせていない。「選ぶ側の責任」というのを証明したいと。
梅田:なるほど。
飯田:クリエイターが「これはウケがいい」「何百人の人が支持した」と提案したとしても、「他の会社も使っているじゃないか」と疑問を呈することはできると思うのです。その表現が自分の会社が本当に言いたいことなのか、しっかり検討すべきです。ただ単に響きがよく、消費者に万人ウケしそうなだけで、メッセージ性が低いかもしれません。
選ぶ側にもう少し鋭い目を持ってほしい。企業でクリエイターからプレゼンを受ける側の人にぜひ役立ててほしいという動機がいちばん強かったんです。
強さより、ふさわしさを
梅田:プレゼンの場合、必ず、コピーを考えてプレゼンをする側と、される側があります。この2つの変数でしか変わっていきませんからね。
飯田さんのお話を伺う前から、僕はコピーを書く側も考えるべきだと思っていました。僕の本にも書きましたが、コピーライターの仕事は、強い言葉や今まで使われてない言葉を見つけてくることではない。そうではなくて、今まで普通に使ってきたけれど、ある企業がある目線で話をすることで、意味がまったく変わったり、意味が広がっていったりする。そういったことをいかに設計するかが大事だと思ったんです。
僕は常にそう思いながら仕事をしています。大鉈を振るうように何か強い言葉を持ってくれば満足するということではありません。時にはブランドに寄り添うことが大切になることもあります。企業が仮に100年続いているのであれば、100年続いてきたことにふさわしい言葉選びは、絶対にクリエイターが考えなければいけないことです。
飯田さんの本は、意味を広げることの新しいきっかけになるのではないかと思って、このようなコピーを書かせていただきました。
飯田:ありがとうございます。
例えば、よく見かけるコピーに「夢を形に」とか「何々を力に」とかありますよね。割とよさそうですけど、意味はボンヤリしています。それこそ「解像度が低い」感じがして、忘れられちゃうんですよね。
梅田:ありますよね、一見よさそうですけれど。
飯田:食品会社は皆似たような「おいしさを健康に」とか「しあわせを笑顔に」とかが多くて。一度、学生に企業名とコピーをマッチングさせたことがあるんです。
梅田:かなり意地悪ですね、それは(笑)。
飯田:「おいしさと健康に」や「おいしい記憶を作りたい」といったコピーを黒板に貼って、企業名も並べて、じゃあマッチングしてみましょうと。3割くらいしか当たらないんです。
梅田:なるほど。
飯田:でも、カルビーの「掘り出そう、自然の力」は正解率が高かったんです。なぜわかったのかと学生に聞いたら、コピーの最後にある「力(ちから)」という字がカタカナの「カ」と同じで、カルビーをすごく連想させるからだと。
梅田:そうかそうか。
飯田:カルビーがどこまで意図していたかはわからないんですが、消費者は割とそんなふうに字面で見ていることがあります。「掘り出す」という言葉で単に「ポテトを連想させる」だけでは、フリトレーでもいいし、湖池屋でもよくなってしまう。でもコピーの中にカルビーの「カ」の字が入っていることで連想量が強くなって、とても成功した例です。
「カラダにピース カルピス」もいいですよね。100%絶対に知っている。

レトリックから、は危険
梅田:そういった話を冷静にすると、コピーライターの場合はすぐに、じゃあレトリックから考えようってなるんです。本当はいちばん危険なことであるはずなのですけれど。
レトリックだったりテクニックだったりといったものよりも、まず何を本当に言わなければならないのか、それを僕らが普段使っている言葉の中でどう掘り当てることができるのか、ということが第一であるべきなんです。
そして、コンセプトを作っていく過程で、コンセプトがそのまま簡単な言葉として出ていくこともあれば、「掘り出そう」やカルビーの「カ(ちから・カ)」といったレトリックを入れて、最後にまとめる必要が出てくることもあります。
どちらにしても、強い言葉を用いることを大前提にしないで、まず本当に言うべきことは何かとか、それにふさわしい言葉選びって何だろうというところから始められると、いちばんいいですよね。
飯田:となると、あまり奇をてらったものでなく、力業でもなく、やはり皆がよくわかって伝わりやすい言葉となると、限られてくるのではないかと思うんです。日本語の何万語という語彙の中で、精査された一部しか使えないというか、皆が好んで使う語彙は限られてくるのではないかと。
梅田:そうですね、限られてくると思います。その時に出てくるのがやはり、その「新しい意味」をどう定義するのかということになってくるのではないかと思います。
例えば僕の仕事の一例で言うと、缶コーヒーのジョージアのコピー「世界は誰かの仕事でできている。」は、「世界」も「誰かの」も「仕事」も「できている」もすべて簡単な言葉です。ただ、そのすべてが組み合わさることで「新しい文脈」が生まれて、「あ、確かにそういうことか」と感じる。
加えて、ここでいう「世界」はいわゆる全世界、地球丸ごとというより自分たちが暮らしている場所や日本を意味していたり、「仕事」はデスクワークから肉体労働まで含めたすべての仕事が含まれていたりして、新しい意味がそこに付け加わっていると思うんです。
少し前の事例ですが、仕事情報誌『タウンワーク』のかつてのコピーは「その経験は味方だ。」でした。「バイト」と「経験」を組み合わせると、いい経験も悪い経験もあると。そういうことも意図しながら、「あなたの力になります」や「あなたの今後に役に立ちます」ではなくて「味方」、つまり「ずっとあなたに寄り添っている分身のようなものになります」ということを書いたんです。この例でも新しい意味を付け加えられたように感じています。
僕はこういった、簡単な言葉に新しい意味を付け加えながら、新しい意味だけではなくて、新しい文脈を作るということを比較的やってきたので、とてもいい本に出会えたと思っています。
飯田:ありがとうございます。新しい文脈っていいですね。新しい意味なんてなかなか発見できるものでもないし、作り出せるものでもありませんが、目にした人がそこに新しい世界観や価値を見いだせれば、新しい文脈が生まれて、自分だけの言葉になるわけですね。
缶コーヒーのジョージアなら、「コーヒーを飲む」というだけの行為だったものに、ものすごく付加価値が付きますよね。「今、俺が飲んでいるのは、俺の仕事を作った世界からのご褒美だ」といった具合に。そうするとおいしさがまた違ってくるし、ブランドへの愛着も変わってくると思います。
梅田:「文脈」って、僕がいつも気にして使っている言葉なんです。なぜかと言うと、一つひとつの商品には、絶対的に本質的な価値があります。でも、本質的な価値とは別に、今の世の中の文脈の中で置かれる価値っていうのが絶対にあって、それを設計するのがコピーライターの仕事のはずなんです。その文脈を構成できないコピーライターが多いから、強い言葉でかなぐり、気に入らせようということを考えてしまうのですけれど。
本質的な価値をないがしろにせず、新しい文脈で今なりの輝かせ方を発見できれば、それがいちばん美しいはずなんです。つまり、文脈さえ発見できれば、簡単な言葉で表現できると思うんです。
簡単な言葉が難しい
飯田:それが難しいですよね。その文脈がピッタリと消費者の世界観や価値観と合致すれば、どんな簡単な言葉でも皆振り向いてくれますよね。ズレていれば、どんな力業であっても誰も振り向かないし。違うぞ、俺はそういう気持ちじゃないって、かえって嫌われてしまうこともあって難しいんですよね。
梅田:難しいと思います。今、ウェブでは「バズムービー」があります。あれは話題になればいい。もう100万回再生されましたといった(笑)。
飯田:あははは(笑)。
梅田:それって、文脈を発見することと真逆なんです。力業をやっているだけで。
もちろん最大瞬間風速を吹かせるという意味では、新しい戦法なのかもしれませんが、それが伝わり過ぎること、100万回再生されることによって、その会社の負の遺産になってしまう可能性もあるはずなんです。そういったことを考えずに皆、バズムービーだ、バズムービーだとやるので、おかしいことになるんです。
飯田:企業も閲覧数ばかりこだわってしまって、話題性だけ作ればいいよみたいな感じもありますよね。
梅田:そうですね。ある期間にこの回数は絶対再生させましょうといった話になりますからね。「100万回YouTubeで再生する」とか。
飯田:「100万回再生されるものを作れ」といった注文が来るんですか?
梅田:はい。それも理由があって100万回と言っているわけではなくて、「そんな感じで」といったことはあります(笑)。
飯田:それで、ちゃんと依頼された通りに作るんですか?
梅田:まあ、目的を置き直すということも僕らの仕事には多くて。純粋に面白いCMや動画を作るのが得意な人もいまして、彼らは「100万回再生させてください」という依頼を受けると、「わかりました、100万回再生されるものを持ってきました」となるんですけれど。
僕は「100万回再生された後に何が必要なんですかね」というところからあえて考え直してしまうので、ありがたいと思ってもらえる時もあれば、面倒くさいなコイツって思われる時もあります。新しい文脈がドロドロ出始めるので、「なんかコイツ、四の五の言い始めたな」ということになったり(笑)。

梅田さんの最近のお仕事って、単体の商品だけでなく、シリーズ全体や企業のブランディングが多いですよね。例えばジョージアだったら、「エメラルドマウンテンブレンド」だけでなく、ジョージアシリーズ全体のブランディングですとか。ブランドの価値全体を高めるとなると、バスムービーで一瞬にして100万回再生させるよりも、梅田さんの戦法のほうが浸透していくように感じます。
梅田:そうなんです。今、僕がやっている仕事だと他に、キリンビールさんの第3のビール(新ジャンル)「のどごし〈生〉」の「がんばるあなたがNo.1」という応援メッセージもまさに文脈なんですよね。
なぜかと言うと、「のどごし〈生〉」って新ジャンルでいちばん売れている商品なので、「いちばん売れている商品です」「ナンバーワン商品です」でずっと売ってきていたんです。でもそうではないのではないかということを、僕が入らせていただいてから考えた。そして、「頑張っている人がいちばん偉くて、彼らにいちばん選ばれている商品という誇りを持って、また商品を作り出せます」ということをテーマにしましょうということに行き着いたんです。
ですので「No.1」という言葉は変わらないのですが、その意味合いが、今まで「自分たちの商品が売れている」というNo.1だったものから、「生活者に対してのリスペクト」のNo.1に変わっていきました。
飯田:まさに「新しい意味」ですね。
梅田:そうですね。この新しい意味をどう付けるか、世の中の文脈の中に商品をどう置くかということを常に考えています。
ウェブムービーについて付け加えると、1週間に100万回再生させることもあれば、3年間で1000万に知らせるということも必要で、僕は後者の方が大事だと思っています。「世界は誰かの仕事でできている」もそうですし、「がんばるあなたがNo.1」もそうですけれど、複数年経過しているキャンペーンが合っていて。
実は最近なかなかないんです。消費者に飽きられてしまうとか、生活者がもうちょっと違う刺激が欲しいとか。担当者さんが飽きてしまうこともあります(笑)。いろいろな中で新しいもの、新しいものをと求められるんですが、それよりももっと耐久性が高くて、ある時代に合った価値をずっと同じ言葉で定義し続けられるようなものを考え出すようにしています。
今の時代において普遍性があれば
飯田:ある意味、「普遍性がある」ということですね。
梅田:そうですね。普遍性にちょっとだけ言葉を添えると、「今の時代において普遍性があればな」ということです。この例えば10年っていう単位で考えるですとか。
これもよく使う例なのですが、冷凍食品が生まれた時は保存食として考えられていたのですが、今は孤食だったり、忙しい家庭を支えたりといった、社会課題をも解決する商品に変わってきています。その文脈で、「今、こういう世の中で皆頑張っている中で、私たち冷凍食品メーカーが先に頑張っておきましたので、安心してくださいね」と言うと、本質的な価値は変わらなくても、文脈としてはまったく違うものになります。
そういったポイントをいかに見つけて言語化するかというのが、コピーライティングの本質じゃないかと僕は思っています。
飯田:そうですね。その技術がやっぱり難しいし、当たり前のこと言ってもいけないし。目の前の商品のことだけでもいけないから、この先に発売される商品のことも射程に入っているような言葉を紡ぎ出す、すくい取るのも難しいことですよね。
梅田:僕はいつも、商品に真っ正面に向かい合うのではなくて、商品を持っている人のことを考えるんです。商品単体で考えると、商品の良さをそのままひもとこうとしてしまうのですが、そうするとだいたい独りよがりになる。
飯田:そうそう。お前にとっていいんだろうといった言葉になってしまって、私には全然関係ないよってなりますよね。
梅田:そうですね。ただ、商品が使われるシーンをいかに想定して、どういった人たちがその商品によって助かった、お金を払ってよかったと思ってもらえるかというのを計算しながら文脈を作るのが僕たちの仕事なので。皆コピーライターの人たちはなぜそうやって考えないんだろうって不思議に思いますけれどね。
僕は、きちんと生活をするってことを心に決めています。きちんと生活をしているからこそわかる商品と生活者の距離感というものがあります。新商品が出た時に、「これすごいいいよ」って言われたところで買わない「肌感」みたいなものを、ちゃんと持つようにしているので。そこに忠実にしていくと、単体で考えるということは起こり得ないはずなんです。
買って、自分の物になって初めて、役に立つというフェーズに入るわけじゃないですか。買ってもらうところは入り口でしかないので、入り口をゴールとして考えてしまうと間違いが起きますよね。
飯田:そうですね。その先まできちんと導線上で商品を考えるのは難しいですね。企業としては、買わせることがゴールであるかもしれない。
梅田:僕はいつも「言葉はタダだ」と思っています。じゃあタダでお願いしますってなるから、そういうことではないですけれど(笑)。
言葉は、本当はタダなはずなんです。キャンペーンを作ったりとか、コンセプトを決めたりしていく中で、いちばん皆が合意しやすいものであるはずなんです。ですから、言葉で大きい文脈や、皆がそうだよねと思えるベクトルのようなものを作ることができれば、キャンペーンは勝手に回っていくはずです。僕はそこを自分の仕事としてやっていることが多いと思います。

(次回に続く)
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