今年7月に登場した米マイクロソフトの新しい基本ソフト(OS)「Windows(ウィンドウズ)10」。既存のウィンドウズ7、8の利用者は無償でアップグレードができるとあって、7月29日のリリース後、8月28日時点ですでに世界で7500万デバイスにダウンロードされた模様だ。
一方、かつてのウィンドウズ発表時と違うのは、家電量販店での盛り上がりだろう。「OSがまず登場して、その後に大きく期間が空いてパソコンが出揃うという形は今回が初めて。店としては、どこにプロモーションの山を持ってくるべきか戸惑っている」と量販店関係者は語る。
マイクロソフトも当然それは予想していたことで、「リリース時に何人量販店に並んだか、予約がどれくらい入ったか、といったことはすでに我々のKPIではない」(日本マイクロソフト平野拓也社長)と明言している。その証左に、かつてリリース時に行っていたような量販店におけるイベントもほぼ皆無だった。「何本売れたかよりも、まずは無料でどれだけの人がダウンロードしてくれたか、そこからどれくらい使ってもらえるかが今後の我々のKPI」(平野社長)であれば当然と言えば当然かもしれない。
2014年2月に就任した新CEOのサティア・ナデラ氏は、今後のマイクロソフトの注力分野を「モバイル」と「クラウド」と明言している。無償化を追い風にウィンドウズ搭載マシンを2017年までに10億台にまで伸ばし、ウィンドウズ上のサービスで売り上げを獲得していく。
その上で国内で動きが注目されるのが、今年秋にも登場する見通しのウィンドウズ10搭載スマートフォン(スマホ)「ウィンドウズフォン」だろう。スマホ向けOS市場でウィンドウズは米アップルのアイフォーンや、米グーグルのアンドロイドの後塵を拝している。新OSを搭載したウィンドウズフォンがこの構図を塗り替えられるかどうかに関係者の注目が集まっている。

新ウィンドウズフォンはまずSIMフリーの低価格スマホとして登場する見通しだ。
今年秋の販売を目標にスマホ開発を進めているのが格安スマホブランド「フリーテル」を展開するプラスワン・マーケティング。価格を2万~3万円程度に抑えたウィンドウズフォンを2機種発売する。NTTドコモなどキャリアに縛られず、仮想移動体通信事業者(MVNO)の割安な回線を使えるSIMフリー端末として販売する計画だ。

フリーテル以外にも複数の格安スマホメーカーが開発に動き出していると見られ、その戦略は端末の開発、製造まで垂直統合して高価格帯の端末を展開するアップルのアイフォーンとは対照的と言える。
背景にあるのが中国、台湾を中心とした格安スマホメーカーの台頭だ。低価格で高性能のスマホを開発製造できる環境が整ってきており、マイクロソフトは中国でウィンドウズフォンを開発する企業との連携を深めてきた。こうした海外製のスマホは日本でも普及し始めており、消費者の支持を集めている。こうした低価格スマホにより、利用者の裾野をどれだけ広げられるかが新ウィンドウズフォンの今後を占うことになりそうだ。
もっとも、一般の消費者向けスマホではアイフォーンやアンドロイドが圧倒的なシェアを握っており、その牙城を崩すのは容易ではない。マイクロソフトは2011年にモバイル向けOSを搭載したスマホを投入したが、普及には至らなかった。以来、今年6月にマウスコンピューターがOSに「ウィンドウズフォン8.1アップデート」を搭載したスマホを販売するまで、ウィンドウズフォンは日本市場から姿を消していた。「既にアイフォーン、アンドロイド向けのアプリ(応用ソフト)が数多く出回っており、出遅れたマイクロソフトが入り込む隙はなかった」と当時ウィンドウズフォンに関わっていた関係者はこう敗因を分析する。
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