8月30日、三菱自動車のさらなる不正が発覚した。
一連の燃費不正を受け、正しい燃費データを測定するために実施していた社内試験で、本来であれば複数の試験結果のうち中央値に近いデータ3つを採用すべきところを、下方の(自社に都合の良い)データ3つを選んで使用していた。

国土交通省は、この行為を「不正」と指摘。同時に国交省が実施した確認試験の結果と三菱自動車が実施した社内試験の結果に乖離があったことも公表した。三菱自動車は同日、現行販売車9車種のうち乖離のあった8車種において、正しい燃費を再申請する手続きに入った。申請が終了するまでの約2週間、該当モデルの販売を停止する。
再申請の対象車種は、「ミラージュ」「RVR」「パジェロ」「デリカ D:5」「アウトランダーPHEV」「i-MiEV」「ミニキャブMiEVバン」「ミニキャブMiEVトラック」の8車種。このうち、再申請は必要になるものの実質的な燃費に影響のない「ミニキャブMiEVバン」を除き、7車種(ただし、燃費が乖離していたモデルのみ)を所有する顧客に損賠賠償を支払う。金額は、乖離に大きさに応じて10万円、6万円、3万円のいずれかになる。
なぜまた不正は起きたのか
不正を正すべき段階で、なぜまた不正は起きたのか。同日午後6時から東京都港区の本社で開いた会見で益子修会長は、「現場は、測定したデータのうち、最良の数値を選ぶことが法令違反であるという認識がなかったようだ」と説明した。
法令では、燃費データ(走行抵抗値)について、3つの測定結果の平均値を提出するよう定めている。国交省が三菱自動車から車両を提供してもらい実施した確認試験では、測定を5回実施。そのうち最大値と最小値を除いた3つのデータから平均値を算出した。
ところが三菱自動車では、5回どころか「車種によっては70回以上」(山下光彦副社長)の試験を重ね、その中から3つの良い数値を選んでいたため、国交省が実施した試験結果と乖離があった。「法令には『3つの平均』と書かれているが、厳密に読むと測定回数の規定がない」(山下光彦副社長)。ここを現場が拡大解釈したと考えられる。
国交省の確認試験の結果に比べ、三菱自動車の社内試験の結果は最大約8.8%(ガソリン車とディーゼル車)、平均4.2%(同)下回っていた。三菱自動車はこれまで一連の燃費不正を受けた記者会見で、「乖離があっても3%程度」と説明してきた。
記者会見で益子会長は、今回の不正について報告を受けた時の心境について、「信じられないという気持ち。1991年以降、法規で定められている手法とは異なる『高速惰行法』を採用していたが、当時の現場には何らかの根拠があったのだと思う。でも、今回の乖離には(そうした根拠がないため)衝撃を受けた」と話した。
一方で、国内での生産や日産自動車の提携には影響が出ないことを強調した。約2週間の販売停止中は、生産車種を国内から海外向けに振り変えるなどして生産量を維持。日産とも「一連の燃費不正はデューデリジェンスの対象としない」(益子会長)方向で話が進んでいたため、影響はないという。
宙ぶらりんの2カ月間
また益子会長は自身の進退について、これまで通り「10月に新体制に引き継ぐまでは目の前の問題解決に全力を注ぐ」との考えを示した。一連の燃費不正で相川哲郎・前社長と中尾龍吾・前副社長が退任。益子会長に残された期間もあと2カ月しかない。
そんな中、いかにスムーズに新体制にバトンタッチできるかが問われている。逆に言えば、今の三菱自動車にできることは、賠償金の支払いなどの事務作業を着々進めること以外、それほど多くないのが実情だ。
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