ファナックが工作機械やロボットを中心とするIoT(モノのインターネット)分野でNTT、NTTコミュニケーションズ、NTTデータのNTT3社と協業すると発表した。NTTグループ各社は、ファナックが目論むIoTのプラットフォームの中核メンバーへの滑り込みに成功したことになる。一方、高収益ながら閉鎖的とのイメージが付きまとっていたファナックといえども、他社との連携が欠かせない時代に入ったことが鮮明になった。

 「コアパートナーはこれでひと段落。いま考えていることはこのグループで完成できる」。7月28日に開いたNTT各社との共同記者会見で、ファナックの稲葉善治会長はそう宣言した。

 同社は今年4月にIoT推進を掲げ、米シスコシステムズなど3社と既に提携している。NTT各社はその連合に参加することになる。IoTの根幹となるプラットフォーム「フィールドシステム」をそれぞれの得意分野から支えるメンバーがこれで固まった。

NTTの篠原弘道副社長と握手するファナックの稲葉善治会長(左)
NTTの篠原弘道副社長と握手するファナックの稲葉善治会長(左)

 NTTは「エッジコンピューティング」と呼ばれる、工場内でのリアルタイムのデータ処理などの研究開発で先行しているという。遠く離れたデータセンターのクラウドコンピューティングに頼ることがないため、無駄なデータ通信を抑制し、セキュリティの面でも有効とされる。NTTコムは海外も含めたネットワーク構築、NTTデータはフィールドシステム向けの各種アプリケーションの開発が役目だ。

ファナック流IoT、12月にお目見え

 ファナックの描くIoTは様々な工作機械やロボット、センサーを接続。稼働状況から得られるビッグデータをAI(人工知能)で即座に分析することで製造現場や生産計画を最適化するというもの。それにより、「工場そのものの自律化や進化につながる」(稲葉会長)と強調する。

 プラットフォームはファナック製を基本としつつ、他社の機器などでも運用可能とし、工場での標準化を追求していく。標準化の覇権を握ればおいそれとはファナック製を手放せなくなり、顧客企業の囲い込みにつながる。

 この構想をシスコなどとの提携とともに具体的に発表したのが今年4月。シスコ以外では、米制御機器のロックウェルオートメーション、ベンチャー企業でAI(人工知能)に優れた技術を持つプリファードネットワークスと共同で開発を進めてきた。開発は順調に進捗しており、今年の12月末にはフィールドシステムを発売する予定だ。

 AIについてはNTTでも当然取り組んでいる。「AIといっても(細かく機能別に分類すれば)いろんな種類があり、得意なところを持ち寄って、トータルで力を発揮できる組み合わせを提案したい」とNTTの研究企画部門を率いる篠原弘道副社長。NTTにとっても、ファナックが作ろうとしている連合の「最後の椅子」に座れたことの意義は大きい。実際の現場での採用実績を積むことで、技術開発や他業界の顧客開拓に弾みがつく。

抜群の競争力を誇ってきたファナックの製品
抜群の競争力を誇ってきたファナックの製品

優位性を保つには連携が不可避に

 ファナックはこれまで自社の製品の競争力を徹底的に磨くことで、抜群の収益力を維持してきた。株式市場などへの情報発信も積極的とはいえないが、それでも収益力という結果を示すことで自社への批判を黙らせてきた。

 だが時代は変わりつつある。IoTを前提とすればファナックが誇る個々の製品の魅力だけではいずれ戦えなくなる。自社にない技術を持つ外部の優れたパートナーと組む気があるのか、そして希望する相手に認めてもらえるのかが勝敗を決する。

 矢継ぎ早に連携先の獲得に動いているファナックを駆り立てるのは危機感だろう。

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