
「課題のあるイトーヨーカ堂、そごう・西武は、グループ利益が最大の今だからこそ構造改革を進める」。3月8日の記者会見で、セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長はこう説明した。
同社がこの日発表した構造改革では、傘下のそごう・西武の百貨店、西武旭川店(北海道旭川市)と、そごう柏店(千葉県柏市)の2店を2016年9月末に閉鎖する。
イトーヨーカドーの年間閉店数は最多に
傘下の総合スーパー(GMS)、イトーヨーカ堂では、2017年2月期に20店を閉鎖することも明らかにした。昨年10月に発表した構造改革では「今後5年間で40店閉鎖」するとしていた。この計画は維持するが、初年度に集中して実施する。
現段階で「戸越店」(東京都品川区)、「食品館本牧店」(横浜市)、ディスカウント業態の「ザ・プライス千住店」(東京都足立区)3店の閉鎖が決まっているという。残り17店もオーナーとの交渉がまとまった店舗から、順に発表する予定だ。
過去イトーヨーカ堂は2005年に4年で30店、09年には3年半で30店というリストラ案を公表した経緯があるが、実際には示した数までは閉店していない。今回は初年度で20店を閉鎖するという計画で、従来にはない「覚悟」を示した格好だ。
2003年2月期以降でみると、イトーヨーカ堂の閉店数は11年2月期の10店が、年間の閉鎖店舗数としては最も多かった。今期はこれを一気に上回るペースでの閉店となる。
構造改革に伴い、前期(2016年2月期)決算ではイトーヨーカ堂で約40億円、そごう・西武で約15億円の特別損失を計上する。他に監査法人と会計処理を協議している内容もあり、今期も損失を計上する見通しで、イトーヨーカ堂で60億円、そごう・西武で40億円程度になると想定している。
人員については、イトーヨーカ堂の社員は自然減で対応し、地元で働いており転勤できないパートは解雇すると説明した。
セブン&アイはなぜ改めてグループの構造改革案を公表しなければならなかったのか。

まずは2つの事業会社の急激な業績の悪化だ。イトーヨーカ堂は16年2月期決算で上場来初めて営業損益が赤字になった。これまで最終赤字などはあったが、本業が通期赤字になることはなかった。
暖冬による衣料品の販売不振などが響き、第三四半期まで(2015年3~11月期)の営業損益が144億円の赤字となり、通期で「取り返そうとしてきたが難しかった」(村田社長)。
そごう・西武も、第三四半期までの営業利益は1億7000万円にとどまっていた。16年2月期の通期営業利益も従来予想(前の期比17%増の120億円)を下回り、3期ぶりに減益となった可能性がある。
総合スーパーと百貨店の地盤沈下鮮明
かねて叫ばれてきたGMSという業態の地盤沈下も、ここにきて一層鮮明になっている。
セブン&アイグループに限った話ではない。イオンのGMS部門の中核子会社イオンリテールも、15年3~11月期の営業損益が258億円の赤字(前年同期は152億円の赤字)とマイナス幅が拡大。GMSを主力事業として抱えるユニーグループ・ホールディングスは、昨年ファミリーマートに統合されることが決まった。
2015年にはダイエーがイオンの完全子会社となるなど、再編は進んでいるが、決して競争環境は緩やかになっていない。専門店チェーンなどによるシェア侵食が続いているからだ。
百貨店という業態も都心の巨艦店を除けば、苦境が鮮明になっている。旭川などの地方百貨店は大型ショッピングセンター(SC)に顧客を奪われ続けている。
西武の店舗が閉鎖する旭川市の人口は2015年に約34万5000人と、緩やかに減少が続く。同様の傾向は全国にあり「地方都市は百貨店が1店舗しか存続できないマーケットになった」(村田社長)。旭川では2009年に地元百貨店の丸井今井が閉店したことで、西武旭川店は唯一の百貨店として存続してきたが、昨年、JR旭川駅前にイオンのSCが開業。「顧客を取り込むのが難しくなり」(同)閉店を余儀なくされた。
そして3つ目が、物言う株主として知られる米投資ファンド、サード・ポイントの存在だ。同ファンドは昨年、セブン&アイ株を取得。コンビニ事業に比べて著しく経営効率が低いイトーヨーカ堂をグループから分離するよう求めている。
サード・ポイントの要求内容に比べると、今回の構造改革は踏み込み不足と捉えることもできる。村田社長は8日の記者会見で、グループのプライベートブランドであり、コンビニ事業の競争力を高めているセブンプレミアムについて「イトーヨーカ堂が対象とするマーケットの広さや、顧客情報があったから商品開発ができた」と説明。コンビニ事業の成長に対するイトーヨーカ堂の貢献の大きさを強調した。それゆえにグループ内に総合スーパー事業をとどめておく意義があるというメッセージを出したかったのだろう。
「サード・ポイントを意識してない」
ヨーカ堂などのリストラについては「サード・ポイントを意識したわけではない。一株主よりも多くの株主にマーケットの中で説明していく」と話した。
セブン&アイは前期の連結営業利益について前の期比7%増の3670億円で、5期連続で過去最高を更新すると予想してきた。4月上旬に決算発表を控えるため具体的な数字は8日の記者会見では明らかにしなかったが、予想通り最高益の更新を果たし、今期も最高益の更新を続けると宣言した。その内情は、連結営業利益の8割超を占める日米のコンビニ事業の好調によるところが大きい。
ヨーカ堂は20店の閉店によって今期から営業利益を年間19億円を押し上げる効果を見込む。だが売上高で1兆2000億円を超えるイトーヨーカ堂の事業規模からすると、その改善効果はわずかなものだ。存続する店舗でいかに収益を改善できるかが問われる。
同社の総合スーパーは現在、6~7割が自営の売り場で、3~4割がテナントだが、今後「この比率を逆転させる」(村田社長)考えだ。テナント導入を収益改善の柱にする構想だが、今回の発表では導入ペースやテナントの内容など詳細は説明していない。
「グループ成長戦略と事業構造改革について」と題した8日の記者会見。最大の特徴は、「オムニチャネル戦略」を推進するために、そごう・西武がネット通販に合った商品を開発する役割を担うなど、グループシナジーの説明に多くの時間を割いたことだ。だが苦悩する百貨店と総合スーパーの本業そのものの利益は、どこまで改善するのか。視界は晴れない。
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