百貨店が大閉鎖時代を迎えている。三越伊勢丹ホールディングスは、三越千葉店(千葉市)と三越多摩センター店(東京都多摩市)を来年3月に閉店すると発表。セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武は9月末に、そごう柏店(千葉県柏市)と西武旭川店(北海道旭川市)を閉めたのに続き、来年2月には西武筑波店(茨城県つくば市)と西武八尾店(大阪府八尾市)を閉店する。
大手百貨店は、この大閉鎖時代を、どんな舵取りで乗り切ろうとするのか。三越伊勢丹ホールディングス、大丸松坂屋(J.フロントリテイリング傘下)、高島屋、そごう・西武(セブン&アイ・ホールディングス傘下)という、大手4社それぞれに話を聞いた。
大再編時代から、大閉鎖時代へ
百貨店を取り巻く環境の厳しさは今に始まった話ではない。2000年後半から大再編が始まり、統合が相次いだ。2006年にそごう・西武がセブン&アイ・ホールディングス傘下となったのを皮切りに、2007年に大丸と松坂屋ホールディングスが合併し、J.フロントリテイリングが発足。続く2008年4月には伊勢丹と三越が経営統合し、三越伊勢丹ホールディングスが誕生するという百貨店の大再編時代を迎えた。三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長は言う。
「百貨店は非常に固定費が高いビジネスモデルで成り立っている。当時は、業界再編により一緒になることで、コストを下げて行こうという流れがあった。一方、そうした間にもショッピングセンターやアウトレットモールの拡大、ファストファッションの上陸といったように、競合が次々と力をつけてきた。すでに『百貨』を扱うという意味での百貨店の定義はどんどん緩くなってきた。百貨店はビジネスモデルそのものが問われている」

業界再編の後も、外国人消費者のインバウンド需要という“干天の慈雨”を除けば、厳しい状況には変わりない。大西社長は続ける。
「百貨店の売り上げは、これ以上伸びないといっていい。少なくとも、伸ばすのは相当難易度が高い。売上高が前年に達していればよしという時代がずっと続いていて、マーケットは供給過多に陥っている」
事実、三越伊勢丹ホールディングスの2016年4~6月期の売上高は2946億4600万円、営業利益は60億6200万円。営業利益は前年同期比で半減した。J.フロントリテイリングの2016年3月~5月期の売上高は2687億7600万円、営業利益は93億1800万円。営業利益は同じく12%の減少だった。訪日外国人の“爆買い”の失速は想像以上に早く、百貨店は待ったなしの改革が必要になってきた。
「所有価値」より「使用価値」の時代へ
都心の旗艦店の稼ぎで、地方店舗や郊外店の赤字をカバーするのが厳しくなってきた結果、閉店ラッシュが始まったのだ。そごう・西武が閉店を決めた店舗は、ピーク時から半分程度に売上高が減少。大きく影響を与えたのが、衣料品の売上高減少だ。そごう・西武の商品部衣料品統括部長・吉田幸永執行役員は言う。
「減少分のおよそ半分は衣料品によって失われた。国内ブランドで『これだ』というものがなくなってきたのと同時に、新たな購入チャンネルが台頭し、消費マインドも変化した。個人の財布の中で相対的にアパレルが負けている。所有価値で売れる時代は終わり、使用価値が大切になってきたと感じている」
「婦人服は収益源だったこともあり、面積をどんどん拡大したが、それも結局は売り手の理屈だった。(衣料品メーンで売り場を作り続けたことで)百貨店の作りが世の中に追いついていけなくなった」
大丸松坂屋社長の好本達也社長も衣料品の不調を強調する。
「そもそも市場が少しずつ縮小しているにもかかわらず、売り場面積は徐々に増えているような状況だった。利益率も高く、ブランドの数を増やせば、多少ターゲットがかぶっていようが、5ブランドを10ブランドにして売り上げを倍にして、というやり方をしてきた。それがアパレルメーカーにとっても百貨店にとってもよかった時代があった。もうそのやり方は通じない。もっともっとお客様サイドに立つ必要がある」

衣料品の売り上げ減少が業績に大きな影響を与えているのは、どの百貨店も同じだ。高島屋の木本茂社長も婦人服への危機感は強い。
「売上高に占める婦人服のシェアは2割を切っている状態。拡大はもはや望めず、下振れをいかに食い止めるかという状況になってきている。お客様が求める方向へシフトし、身の丈に合った削り方をしていく」
地方店に商品がまわらない
中心部の首都圏で起きている衣料品不調の波は、地方店や郊外店にはより大きな波となって波及する。三越伊勢丹の大西社長は、地方や郊外店が悪循環に陥っているという。
「今までは、例えば、国内アパレルメーカーは、100の売り上げ目標に対して130くらい商品を作って販売し、残った30を割り引いて売る、というのが常態だった。それが、商品が売れなくなった今、何が起きているか。100の目標に対して、100作っているかな、という感じ。少なくとも110は作ってないのではないか。そういう状況なので、首都圏の売れるお店に商品が集まり、地方などは売れないから商品が入らない、入らないから売れない、という悪循環に陥っている。店頭が(商品で)埋まらない、という状況が発生している」
行き詰った店を閉店する一方、存続店をどう再生するのか。百貨店が共通して挙げるのは、売り場の抜本的改革と、ものづくりへの回帰、人材の育成だ。それぞれやり方は異なれど、大きな方向はこの3本柱になる。三越伊勢丹は、SPA(製造小売り)に近い方法で「ものづくり」を行い、売り場改革にも手を付けていく、と大西社長は言う。
「百貨店の売り上げがなかなか伸びない中では、利益率を高めるか、販管費を落としていくかの二者択一。我々は人を減らすという選択肢をとりたくないと思った。SPAは特に衣服については難易度は高いが、ある一定の割合はやらないと、収益力は上がらず、地方や郊外店を維持するのが厳しくなるだろう。(大手アパレルからの)商品が足りないのだから」
「大事なのは顧客が何を期待しているのかを見極めて、店舗を改革していくことだ。売り場を大幅に変えたときに、従来の考え方から見て『百貨店』と言えるかどうかというのは気にしていない。婦人だ、紳士だ、食品だ、というのが百貨店ではない。提携したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が大阪府枚方市で、物販に偏らない生活提案型の商業施設をオープンした。それをそのまま当社がやるわけではないが、CCCのアイデアを生かしながら『百貨店』の要素を入れたような店作りもできると思っている。それを百貨店と呼べばいいだけ。とにかく店作りにおける、従来型のフロアの分類を変えないといけない。ここに再生のキーがあると思う」
同社は従業員の労働環境改善にも取り組む。2009年度から30分の営業時間短縮、2011年度には元旦以外の店舗休業日を導入。初売り日を1月3日に後ろ倒しにするなど、業界の暗黙のルールにとらわれない施策を次々と打ち出した。2016年4月からは契約の販売員の雇用期間を採用時から無期雇用にするなど、休日以外の労働環境改善にも取り組む。
アパレルメーカーを見極める時代に
大丸松坂屋は、売り場改革を積極的に行っていく。J.フロントリテイリングのグループ力を生かして、店舗再編にも力を入れる。2017年秋にオープンする松坂屋上野店は、南館を建て替え、グループのパルコが入居する。名古屋店にはヨドバシカメラを誘致するなど、テナント導入を進めている。2016年7月には社内に「不動産部」を作り、テナント事業を今後も強化。徹底した合理化を図ると好本社長は話す。その過程で、多数あるアパレルメーカーを精査する必要があると話す。
「今後は、ブランドやお取引先を峻別していかないといけなくなるだろう。企業力があって、志があって、経営者の意図がはっきりしていれば、今でも売れる。売れているブランドの共通項は、作り手やメーカーの意図がはっきりしていて、ブランドの位置付けが自分たちの言葉で届けられていること。それをなくしてしまったところが落ちていっている。このような状況の中、やはり全部と同じバランスで付き合ってはいけない。自ら道を切り開こうとしているブランドとより強固に組んでいく方向にならざるを得ない」
「売り場の中で、ブランドをパッチワークのように入れ替えても何も変わらない。500平米、1000平米といった規模で変えていく。婦人服のボリュームゾーンの売り場では、新たに『アクセシブルラグジュアリー』というハイエンドとボリュームゾーンの間くらいの商品を並べるエリアを導入していきたいと考えている。地方でも地元で影響のあるファッションのトレンドセッターと協力して、衣食住の商品群をランダムに集積した売り場を作る」
高島屋はアパレルメーカーと協業して、独自開発の製品を押し出していく。高島屋の木本社長は、「自分たちでリスクを持ってやっていく」と力を込める。
「自分たちでSPAをやるのではなく、本来大手アパレルメーカーが持っている力を引き出しながら、我々独自の製品を作る。『ここでしか買えない』という価値をお客様に提供していきたい」
高島屋は、各地の繊維メーカーが集う研究組織「繊維・未来塾」と連携し、全国の繊維産地と手を組んだ商品開発を本格的に始めた。4月には、福井県の「双葉レース」などを使用した婦人衣料を発売した。

閉店が続くそごう・西武も、衣料偏重を改めて、雑貨へのシフトを開始している。2013年からものづくりの専門人材を採用し、パタンナーや生産管理のチームはすでに20人に上る。売り上げは1000億円程度だが、これからは規模拡大を目標にはしないという。
「国内アパレルの洋服をずらっと並べていれば売れる時代は終わった。一方で、PB(プライベートブランド)だけで売り場は作れない。自社とアパレルメーカーの衣料品、雑貨や食品などを、変化する消費者のスピードに合わせてどれだけ提供していけるか。ここに黄金律というのはなく、常に変化していくものだ」
「売り場を変化させていった際に、販売員はより大きな存在になる。『売り切る人』というのを今まで以上に育成していかなくてはいけない」
2014年から、そごう・西武では「ハニカムモード」という新しい売り場を展開。ファッション関連の売り場を4割に抑え、そのほか6割をインテリア用品や書籍といった「非ファッション」で構成する。
曲がり角を迎えた百貨店は、文字通り待ったなしの変革を迫られている。2000年代後半に起きた再編が、また起きないとも限らない。生き残りを懸けた各社の取り組みは正念場を迎えている。
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