「変わり種」の飲料の自動販売機が次々と登場している。2014年の消費増税に伴う実質的な値上げで遠のいた顧客を呼び込む狙いだ。思わず買いたくなる魅力的な自販機は果たしてあるのだろうか。

6月下旬。JR海浜幕張駅にほど近い複合施設「幕張テクノガーデン」(千葉市)内に、ひときわ目をひく自動販売機が設置された。鮮やかな色の蝶が飛び交い、上に向かって伸びる葉のイラストが描かれていて、見るだけで元気になりそうだ。施設内のオフィスや店舗などで働く女性をターゲットにした自販機で、名付けて「女性向け自動販売機」だ。
この自販機を開発・導入したのは、国内でコカ・コーラブランドの清涼飲料の製造販売を手掛ける最大ボトラー、コカ・コーライーストジャパン。7月15日、報道陣に公開した。
容器の水滴を拭き取る
この自販機がなぜ「女性向け」なのか。大きく分けて3つの特徴がある。
まずはストローと紙ナプキンを備え付けていること。ストローがあれば一度に全量を飲み切れない消費者が、時間を置いて小分けにして飲むことができる。500mlペットボトルの中にストローを入れたまま、フタができる長さだ。「小分け飲み」ニーズに対応して、販売する全商品を、キャップ付きのボトル缶やペットボトルにした。
紙ナプキンは冷たい飲み物を購入後、容器の外側に付いた水滴を拭き取るためのものだ。冷えた飲料を冷蔵庫に入れず外に置いたままにすると、空気中の水蒸気が冷やされ、水滴として容器の外側に付着する。飲み物をバッグにそのまま入れた場合は、バッグ内が濡れてしまう。「水滴が発生するのを嫌がる女性客は多い」(広報部)という。職場の机に置いても水滴が気にならないように、紙ナプキンと並んでコースターも用意した。
次に、温度を約20℃に保って販売する「常温販売」の飲料をそろえていること。冷房が効いたオフィスで終日働く女性は、自販機で冷たい飲み物を口にして、身体がさらに冷えることを嫌がる。飲料をすぐに飲まず、カバンに入れても水滴が付かないことを理由に常温の商品を求める女性は多い。
そして3つ目の特徴が、コーヒーを減らし、代わりに茶飲料や水の種類を増やしたこと。茶飲料では緑茶「綾鷹」や、「爽健美茶」「からだ巡茶」などの充実ぶりが目立つ。健康に気を遣う女性客への配慮が随所にうかがえる。
コカイーストは現在、東京都・千葉県内で各2台、女性向け自販機の設置に向けた交渉を進めている。設置台数を、年内に200台に増やすことを目指している。
購入は消費者の気分次第?
女性向け自販機の取り組みを取材して感じたのが、実際に購入点数の増加につながるかは、消費者の気分や体調、店舗との距離感次第という点だ。
記者は平日昼、眠気覚ましのためにいつもコーヒーを飲む。職場の近くにはコンビニが数軒あり、足を伸ばせば、入れたてのコンビニコーヒーがすぐに買える。だが夏本番を迎え、日中の暑さを考えると、外出が億劫になることが多くなってきた。社内に備え付けの自販機で缶コーヒーを買うことも多い。
女性向け自販機の潜在ユーザーも、記者と同じように考えるのではないか。幕張テクノガーデンには数軒のコンビニがあり、往復の労をいとわなければ、より豊富な種類の飲料の中から、自分好みの1本を選べる。だが気分が乗らず、コンビニまで行くのが面倒な際に、職場近くの自販機から飲料を選ぶ行動を取るだろう。他の自販機が競争相手となれば、健康を前面に打ち出している点で、女性向け自販機に歩があるのではないか。
飲料の自販機では、アサヒ飲料も約20℃の常温で商品を販売する自販機の展開を今年4月に開始。6月末時点で約60台あり、年内に5倍の300台に増やす目標を掲げる。同社や伊藤園は大塚製薬と商品の相互供給を進め、キリンビバレッジも今年4月にダイドードリンコと商品の相互供給を始めた。
2014年の消費税率の引き上げ幅が3%だったのに対し、自販機は10円刻みで価格を上げた。スーパーやコンビニの商品に比べた割高感が強まり、客離れを招く結果となった。ネット通販など販売チャネルが一段と多様化する中で、自販機が今後大幅に販売を伸ばすことは難しいだろう。他の自販機とどう差別化を図り、顧客を呼び込むか。飲料メーカー各社の悩みは深い。試行錯誤の中で、今後も女性向け自販機のような「変わり種」が出てくる可能性は高そうだ。
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