記者は今春まで2年半、投資情報誌「日経マネー」編集部に所属していた。そのため2014年1月に始まった「NISA(少額投資非課税制度)」には当然関心を持ってきた。金融機関でNISA口座を開き、その口座内で株や投信を買うと値上がり益や配当、分配金に5年目までは税金がかからないという制度だ。一般口座では、投資の利益には約20%の税金が課せられる。ロールオーバー(翌年の投資枠への引き継ぎ)を選択すると非課税期間は5年から最大10年に延長できる。
NISA口座で投資できる上限額は今年から年間120万円に引き上げられた(昨年までは年間100万円)。投資可能な期間は2023年までの10年として制度は始まったものの、つい先日も金融庁が制度の恒久化を検討していると報じられた。NISAのお手本になった英国のISAは開始から9年で恒久化している。
金融庁によると、昨年末時点でNISA口座の開設数は987万。口座での金融商品の買い付け額は6兆4465億円だ。現状の開設数は1000万を超えているのは間違いない。高齢者中心ではあるが、「貯蓄から投資へ」を実現する具体策として少しずつ広まってきた。
NISA口座開設者の世代別比率

今年4月には未成年向けに「ジュニアNISA」も始まった。基本は大人のNISAと同じ。名義は子供本人でも実際の運用は親権者らが代行できる。投資額の上限は80万円だ。大きな違いは「3月31日時点で18歳である年の1月1日以降」まで原則、資金を払い出せないこと。高校3年生の冬まで金融機関に資金を預けっぱなしになるのは、制度の狙いが教育資金づくりを促す点にあるからだ。
ジュニアNISAを利用する世帯は限られる。高校卒業後は進学せずに就職すると決めているなら、学費を長期投資で作る必要はない。それに、夫婦のNISA口座での年間240万円以外にも投資余力を持つ家庭も多くないだろう。両親(子供から見て祖父母)からの贈与などによる資金提供がある家庭のみになりそうだ。野村アセットマネジメントは、ジュニアNISAの開設数は年末までに155万に届くと予測している。
記者が運用した結果は…
記者は制度初年度からNISA口座を使ってきた。上限が120万円へと拡大した今年から毎月10万円ずつ投資している。40歳近い記者と同世代では住宅ローンを抱えている人が多い。ローンを払いながらでも投資をやるべきかどうかは意見が分かれる。記者は賃貸住まいであり、ローンの返済やクルマがないため資金は捻出しやすかった。
NISAには損益通算ができないといった使い勝手の悪さもあるが、基本的には個人の投資を後押しする制度である。預金金利の歴史的な低さを考慮すると、余裕資金がある場合、使わない手はないと思う。若手会社員には金融商品を通じた経済知識を習得することにもつながる。それでも投資に畏怖を感じる人が多いのは承知している。そこで、下にNISA口座での積み立て投資のラインアップを公開する。一個人のケーススタディーとして読んで、制度を身近に感じてもらえれば幸いだ。
日経BPの記者は立場上、社内規則で個別株とREIT(不動産投資信託)の売買が禁じられているため、現状積み立て購入しているのは投信のみだ。ETF(上場投資信託)を買うこともある。NISAは基本的に5年、ロールオーバーすると最大10年という長期投資の器だ。長く保有するとリターンに差が出やすい信託報酬(投信の保有にかかる手数料)を重視した。大半は信託報酬が低いインデックス型投信だ。このポートフォリオ(資産構成割合)をイデア・ファンド・コンサルティングの吉井崇裕社長に診断してもらった。日経マネーで『行列のできる投信相談所』を連載している投信専門のアナリストだ。
「国内・先進国・新興国の地域分散は良いと思います。ただ、株やREIT、コモディティといった値動きの激しい資産の比率が高いですね。債権に投資する投信も混ぜていますが、ポートフォリオ全体の値動きを抑えるには30%以上持った方がいいでしょう」というのが吉井評。どうやらリスクが高過ぎるようだ。
投信の数、増え過ぎに注意
記者の投資には、資産形成だけでなく様々な投信の値動きを肌身で感じて取材に活かす狙いがあった。現状11本を積み立てているが(日本国債の投信は積み立てを中止)、これは多過ぎるという。吉井社長は投資未経験者へのアドバイスとして「初めて投資する場合は5本程度に絞った方がいい。10本も持つと目が届かなくなってしまう。バランス型投信という手もあります」と話す。バランス型投信とは国内外の株式や債券を一定の比率に保ちながら運用する投信である。
例えば、「eMAXIS バランス(8資産均等型)」(三菱UFJ国際)であれば、「国内株式」「先進国株式」「新興国株式」「国内債券」「先進国債券」「新興国債券」「国内リート」「先進国リート」を12.5%ずつ組み込んでいる。1つの金融機関が取り扱う投信の数は多い場合、数百に及ぶ。1本で分散投資を実現できる点は初心者向きと言える。
記者は5月2日時点で2014年から累計229万円ほど投資している。評価損益は総額でマイナス6310円だ。1カ月前には4万円近いプラスだったので悔しいが、すぐに換金する必要はないので気長に構えている。保有投信の半分ほどは現状でもプラスなので、売ればわずかな利益ながら非課税で受け取れる。
この「記者の眼」は証券口座の情報を公開するという特殊な原稿だ。そこで、マネー誌の決まり台詞で締めさせていただく。「本記事は投資にあたっての参考情報を提供するものであり、投資判断は自己責任でお願いします」
登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。