10月から各世帯に通知カードが送付され、企業のマイナンバー対策がいよいよ本格化する。重要になるのがセキュリティーだ。万が一情報が漏洩した場合、厳しい罰則があるからだ。

 アビームコンサルティングの藤澤佳津男・執行役員は、多くの企業が落とし穴に気付いていないと指摘する。情報漏洩を防ぐためのポイントを聞いた。

(聞き手は小笠原 啓)

<b>藤澤 佳津男(ふじさわ・かずお)氏</b><br/>アビーム コンサルティング執行役員プリンシパル<br/> エレクトロニクスメーカー、リクルートを経て、2003年アビームコンサルティングに入社。人事管理分野における業務プロセス改革、システム構築プロジェクト管理、グローバル人材マネジメントに関するコンサルティング業務に従事。事業者向けマイナンバー制度対応の啓蒙活動、コンサルティング、講演活動の実績・経験も豊富。
藤澤 佳津男(ふじさわ・かずお)氏
アビーム コンサルティング執行役員プリンシパル
エレクトロニクスメーカー、リクルートを経て、2003年アビームコンサルティングに入社。人事管理分野における業務プロセス改革、システム構築プロジェクト管理、グローバル人材マネジメントに関するコンサルティング業務に従事。事業者向けマイナンバー制度対応の啓蒙活動、コンサルティング、講演活動の実績・経験も豊富。

10月からマイナンバーの通知カードが各世帯に届きます。企業もいよいよ、マイナンバーと真剣に向き合わざるを得なくなってきました。

藤澤:現時点で何も考えていない企業は出遅れていると思います。マイナンバー対策では、年内に最初の山場を迎えるからです。

 例えば社員が退職する場合。企業は退職時に源泉徴収票を作成し、本人と税務署に届ける必要があります。2015年中はこれまでのやり方を踏襲できますが、2016年1月以降はそこにマイナンバーを記載することが求められます。

 もちろん、源泉徴収票に「手書き」でマイナンバーを追記しても問題ありません。しかし、最初からシステム化して「ペーパーレス」の仕組みを構築するのが合理的でしょう。

紙を使ってマイナンバー情報をやり取りすると、それだけ情報漏洩のリスクが高まります。

藤澤:そうですね。2016年1月の本格開始時点からペーパーレスで運用したいなら、年内に従業員のマイナンバーを収集しておく必要があります。多くの大企業は「いつから」「誰が」マイナンバーを集めるかといった、方針策定が終わった段階でしょう。今後は業務手順の見直しなど、実務作業が課題になります。

「収集」「保管」「提供」「廃棄」の4段階

企業はどのような業務でマイナンバーを使うのでしょうか。

藤澤:大きく4つの段階があります。それぞれに、情報漏洩のリスクが潜んでいます。

 まずは「収集」。企業が個人に対してお金を支払う多くの場面でマイナンバーが必要になります。弁護士や個人事業主などへの支払いなどですね。従業員に限らず、幅広い人から番号を企業が集めなければならない。この収集過程で十分な安全対策を取ることが、最初の関門です。

 続いては「保管」。収集した番号は、紙やデジタルデータで保管します。いずれの形式でも、従来より厳格な方法が求められます。特定の人しか入れない部屋に置いたり、データにアクセスできるパソコンを限定したりといった対策を講じることになります。最低でも、政府が掲げたガイドラインをクリアすべきです。

 3段階目は「提供」。社員の給与計算などを外部委託している企業は、その過程でどのようにマイナンバーを扱うのか再確認すべきです。業務委託先からマイナンバー情報が漏洩した場合、監督責任が問われることになるからです。

 最後は「廃棄」。マイナンバーは税と社会保障、災害対策以外の「目的外利用」が認められていません。従業員が退職してから7年経過すると、企業はその人のマイナンバーを確実に廃棄しなければならない。マイナンバーを保持する理由が無くなるからです。情報を確実に廃棄するプロセスも課題になります。

4段階すべてを確実にこなすのは大変そうです。

藤澤:一つひとつは、それほど難しくはありません。カギとなる業務を書き出して一覧表を作り、対応状況をチェックしていけば大丈夫でしょう。ただし、意外なところに「落とし穴」があるので注意が必要です。

「扶養家族」のマイナンバーが必要

気をつけるべき「落とし穴」とは?

藤澤:3つ紹介しましょう。1つ目は「不動産」です。

 いわゆる「借り上げ社宅」制度を取っている企業は多いと思いますが、2016年からは多くのケースでマイナンバーが必要になります。「大家」さんが個人だった場合、支払調書にマイナンバーを記載して税務署に届けることになるからです。

 家に限らず、個人から土地を借りている場合も同様です。通信会社や鉄道会社は、賃貸契約を再点検することになるでしょう。多くの企業は2016年のどこかで、大家さんや地主さんのマイナンバーを集めることを迫られます。ですが、現時点ではあまり認知されていません。ここに最初の落とし穴があります。

支店や営業所を多く抱える大企業ほど大変そうです。2つ目は何ですか?

藤澤:別居している「親」です。

 企業は、従業員とその扶養家族全員分のマイナンバーを集める必要があります。扶養控除を計算する上で欠かせないからです。その際に課題となるのが別居している家族です。一定の仕送りをして、田舎の「おじいさん」や「おばあさん」を扶養している従業員は、彼らのマイナンバーを会社に提出することが求められます。

 しかし現時点では、地方に住む高齢者がマイナンバー制度を理解しているとは言いづらい。10月以降に通知カードが届いたら確実に保管しておくよう、従業員経由で周知することが大事になります。

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