2024年10月に地下鉄会社として初めて株式を上場。時価総額は1兆円を超えた。東京という立地の強みを鉄道事業で生かし、相乗効果が見込める関連事業にも力を入れる。海外事業など、柔軟な発想で新規分野にも取り組む意向だ。

(聞き手は 本誌編集長 熊野 信一郎)

上場後の時価総額が1兆円を超えました。久々の大型上場は多方面から注目されましたが、御社にとっての意義は何でしたか。

 2つあると思います。

 1986年、土光敏夫会長が率いる第1次臨時行政改革推進審議会の最終答申で、当時の営団地下鉄を民営化する方針が固まりました。そして2004年に株式会社化・民営化しました。その時の東京地下鉄株式会社法の付則第2条で、完全民営化の方針が定められています。時間はかかりましたが、ついにここまで来たというのが一つです。

 もう一つは、当社が一層の経営改革を実現し、成長に向かうための基盤づくりになるという点です。①創意工夫の発揮②自立性・透明性の発揮・向上③迅速な意思決定④資本コストを意識した規律ある経営⑤ガバナンス向上――。この5つを成し遂げていきたいと考えています。

当面は国と東京都で半分の株式を保有します。他の株主と向き合う際、バランスをどう取りますか。

 機関投資家は収益を含めた成長を、ユーザーが多く含まれる個人投資家は安全やサービスの向上を、国や都は鉄道事業や街づくりの着実な経営を、それぞれ要望していると思っています。それを踏まえてコミュニケーションを取りつつ、総体としてバランスよく応えていきたいと考えています。

オリパラで事業の質は高まった

打ち出した配当性向40%以上の目標はかなりの高水準です。株主還元と成長分野への投資の配分をどう考えていますか。

 非常に重要なテーマです。上場前、特に投資機会として大きかったのは東京五輪・パラリンピックでした。案内表示の充実・多言語対応・バリアフリー対応・車両の更新・トイレの美化など、多くの施策を実施しました。13年の招致決定後、多い時は年間投資額が約1600億円に達するなど、営業キャッシュフロー(CF)を超える投資をしていた時期がありました。

 このオリパラで事業の質は高められたので、これからは、設備投資を営業CFの範囲内に収め、フリーCFを成長分野への投資と株主還元に充てていきます。東証の要請にも沿って、株主還元の充実を図っていく方針です。

世界的に見ても純粋民間企業の地下鉄事業者は珍しい。

 やはり市民の足の確保という側面が徹底されているため、公的保有が一般的なのだと思います。当社は公的保有でありつつも、柔軟な発想で社会に貢献するためには、民間企業の形態が適切だという判断で、民営化に向かって進んできました。

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
PROFILE

山村 明義[やまむら・あきよし] 氏
1958年生まれ。80年に東北大学工学部を卒業後、帝都高速度交通営団(現東京地下鉄)入団。工務部管理課長、東京地下鉄人事部次長、鉄道本部鉄道統括部長、などを歴任。2011年取締役、14年常務、15年専務。17年6月から現職。07年3月に、筑波大学大学院ビジネス科学研究科を修了し、経営学修士(MBA)を取得。

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