3月25日の日米韓首脳会談では、初顔合わせとなった安倍晋三首相と韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領のぎこちない対応が際立った。安倍政権中枢は韓国の対応になお根強い不信感があり、両国関係の本格的な雪解けには相当の時間を要しそうだ。

 「マンナソ パンガプスムニダ(お会いできてうれしいです)」

 25日の日米韓首脳会談。安倍晋三首相は初顔合わせとなった韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領に笑顔交じりに韓国語でこう呼びかけ、友好ムードを演出してみせた。

テレビが映らないところで握手

 だが、朴氏は硬い表情のまま。写真撮影が終わる際、カメラマンから「握手をしてください」との声が飛んだが、安倍首相と朴氏がためらい、会談のお膳立てをした米国のバラク・オバマ大統領が苦笑する場面もあった。

 もっとも、テレビに映らない会談終了時には安倍首相と朴氏はお互い笑顔で握手を交わしたという。 2人は昨年9月のロシアでの20カ国・地域(G20)首脳会議の会場で数分間立ち話をしている。政府関係者によると、この際の和やかな会話の終わりに、朴氏は安倍首相にこう念を押している。

 「私と握手したことは外で言わないでください」

 安倍首相に対するこうした朴氏の対照的な表情。歴史認識問題などを巡る韓国での反日世論を踏まえ、安倍首相に歩み寄る姿勢を見せにくい事情が透けて見える。

 懸案の歴史認識問題などに触れず、北朝鮮問題での連携を確認するにとどまった今回の日米韓首脳会談。日韓が互いに不信感を強める中、なんとか実現にこぎ着けたのは「仲介役のオバマ大統領の顔を潰せば、米国のアジアでの影響力のさらなる低下を招き、中国と北朝鮮を利することになりかねない」(外務省幹部)との懸念が大きい。

 日韓両政府とも、本音では決してこの時期の開催にこだわっていたわけではなかった。

 安倍政権中枢の共通認識となっているのが、要求のハードルを上げる一方の韓国への不満だ。

 日米韓首脳会談の実現に向けた調整で、韓国側は従軍慰安婦問題への旧日本軍の関与を認めた「河野談話」の継承の明言や慰安婦問題での「誠意ある対応」などを条件として提示していた。

 要求の全てを受け入れるわけにはいかないとはいえ、安倍政権側も一定の譲歩が必要と判断。安倍首相は国会答弁で河野談話を「見直すことは考えていない」と明言した。

要求のハードル上げる韓国

 朴氏はこれを評価し日米韓の首脳会談には応じた。だが、歴史認識問題などで日本側の具体的な歩み寄りがない限り日韓2国間の首脳会談に応じない姿勢を崩していない。

 しかし、日本側の一層の譲歩は難しいのが実情だ。慰安婦問題を巡って韓国側は日本政府が法的責任を認めたうえで首相が謝罪し、政府予算で元慰安婦に支援するとの3条件を掲げている。 これに対し、日本側は「法的な問題は1965年の国交正常化時に結んだ日韓請求権協定で解決済み」が基本姿勢で、大きな隔たりがある。

 日韓関係が冷え込む契機となったのは2012年に当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が竹島(韓国名・独島)に上陸した問題。韓国が実効支配を続ける竹島の領有権を巡る主張は平行線のままだ。さらに韓国は安倍首相の靖国神社参拝の中止も要求。戦時中の韓国人の強制徴用工を巡る訴訟も韓国内で相次いでいる。安倍首相に近い自民党議員は「これらで日本側が譲ることはあり得ない」と言い切る。

 4月にも開催する方向で調整が進む日韓両国の外務省局長級協議を巡っても、双方のさや当てが続いている。 関係者によると、日本側はかねてより竹島問題や韓国人元徴用工を巡る訴訟問題など日韓間の幅広い懸案を話し合う場とするよう働きかけてきた。

 これに対し、韓国側は慰安婦問題のみを議題としたい意向だ。3月21日の韓国外務省による日米韓首脳会談開催の発表時、韓国外務省はあえて「慰安婦問題を話し合う局長級協議の開催準備を進めている」と強調。日本外務省幹部を怒らせている。

 「もう、うんざりだね」。日本への厳しい姿勢を崩さず、ギリギリまで会談を渋った韓国に対し、安倍首相は周辺に何度も不満を漏らしていた。

 関係者によると、菅義偉・官房長官も「韓国はほうっておけ」などといら立ちをあらわにする場面が続いていたという。

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