ここ1、2年、ロボット関連のニュースが増えている。アメリカでは、グーグルやアマゾンがロボットベンチャー企業を買収するなど、米IT大手の取り組みが注目を集めている。国内でも、筑波大学発のベンチャー企業サイバーダインが開発した装着型ロボットが、昨年、EUで医療機器として認定された。同社は3月26日に東証マザーズに上場する。
このように盛り上がりを見せているロボットだが、今後、どういった形で我々の身近な存在として世に出てくるのか、イマイチ想像できない・・・という人も多いのではないだろうか。
そんな中、パナソニック子会社のアクティブリンクは昨年末、2015年から装着型のロボットを量産化することを明らかにした。しかも価格は1体50万円前後と安い。装着型ロボットは、もう間もなく手を伸ばせば届く存在になる。
そこで今回は、同社の藤本弘道社長に、装着型ロボットの現状、今後どういったところで活用されていくのかについて話を聞いた。
(聞き手は小野口哲)

アクティブリンクはパナソニックの社内ベンチャーとして、装着型のロボットの開発を進めてきました。来年からはとうとう量産化に入るそうですね。
藤本:パナソニックのパナソニック・スピンアップ・ファンドという制度があって、これを活用して2003年にスタートしました。当初はパナソニックが99%出資でしたが、昨年3月に三井物産から19%を出資していただきました。
事業内容は創業当時から変わらず、商標名で「パワーローダー」と呼んでいますけど、一般的にはパワードスーツとか、パワー・アシストスーツ、ロボットスーツなどと呼ばれる装着型ロボットの実用化に向けた要素開発と、アシストスーツの商品化に軸足に置いて、活動しています。
我々の特徴は、低出力から高出力までをカバーするアシストスーツを開発しているというところです。高出力といっても、対応できる重量は100キログラム(kg)未満です。小型のタイプなら空気圧で動く人工筋肉というのを利用した装置もやっています。アクチュエーター(モーターなどの駆動部)にもこだわっていません。
今、労働安全衛生法で、可搬重量は作業者の体重の40%以下ぐらいにしましょうという指針があります。その中で自力作業は20kg以下に制限する企業が多いです。
30kgぐらいの負荷をアシストできれば楽になるんじゃないかというところを受けて、30kg未満のものと、30kgから100kgぐらいのものという、2つのカテゴリーに分けて製品開発をしています。
なぜ100kg以上がないかといいますと、100kg以上になってくると、普通にクレーンがあったりするんですね。
なるほど、確かにそうですね。
藤本:例えば、80kgぐらいのものを運ぶとなると、3人から4人で人手で運ぶわけです。労働安全衛生法のルール上、それで運べるんです。20kgの力で4人で運べば80kgを運べますから。
ただ、それで腰を痛めたりする方が非常に多いんです。そこに対して、何かが必要なんです。じゃあ、フォークリフトなり、クレーンを置こうかという話になると、「そこまでは必要ないし…」という話になります。その微妙なところに入っていくアシストスーツがあればいいだろうというので、100kg未満なわけです。

1970年大阪府生まれ。大阪大学大学院工学研究科原子力工学科卒業。97年松下電器産業(現パナソニック)入社、モータ社モータ技術研究所配属、小型モータ用ブラシ材料や磁石材料の開発を担当。2003年アクティブリンク設立、同社代表取締役社長
もちろん、企業ニーズの中には60kgとか80kgのものを支えたいというニーズがありますから、大型のものも研究開発は進めています。
福島第一の原発事故で脚光を浴びた被曝線量を低減するための放射線遮蔽スーツ、タングステンスーツなどと呼ばれているものですが、これは60kg~80kgのものを体に取り付けるのです。これを付けて作業することはあまりないのですが、支えるために下半身のアシスト機器が必要になります。それが大型タイプで、災害救助やレスキューなどにも応用できます。ただ、この分野はなかなか我々のような小さいところが単独で入っていけるようなところではないので、大企業と連携しながら進めています。
小型タイプを、物流や土木などの分野で実用化
小型のタイプは、工場、物流、農業、建設、土木などのさまざまな分野に使えると思っています。遠い将来になるんですけれども、医療とか福祉の分野でも可能性はあるだろうと思っています。こういった分野それぞれを、非常に細かくセグメントに分けて、それぞれ有力な企業と連携して進めています。
今、狙っているのは、土木や物流です。土木というのは、インフラの検査作業などです。トンネルなどの打音検査などです。検査機なんかが5~10kgぐらいありまして、今は人で作業しているんです。
他にも、駅などで壁を削るときは、サンダーという道具を使うんです。コンクリートがあれば、その表面を作り替えるときは、いったん削るんです。それも10kgぐらいの道具を使って、ダーっと全面を削るわけです。それも人でやります。そういったところに使えるアシストスーツがあるだろうと。
人がやったほうが早い分野は、「装着型ロボット」が最適
そもそもの話になってしまいますが、ひと口にロボットと言っても、二足歩行型の自立型のロボットから、産業用ロボットなどいろいろありますよね。
藤本:我々がやっているのは、装着型がベースです。人と一緒になって動くような装置が根本に来ます。二足歩行型ではなくて、あくまでも人のサポート、人の動きをサポートする。人間を助けるツールです。
どうして装着型をやろうと思ったのですか。
藤本:全部を機械にやらせればいいかというとそうじゃなくて、人間がやった方が早いものがあるんです。だったら人間がやるところをサポートする機械を作った方が早いんじゃないかという考えなんです。
例えば、災害救助の現場などでは、まず救助する側が安全確保をするんですが、現場が分からないので、現場を判断をしながら入っていくんですね。世の中のそういう作業は、基本的に不透明な中で作業を進めることになります。我々のパワードスーツは人にその判断を任せて、力の部分を支えます。何かしら助けるということができれば、人間の機能が拡張できるだろうという考え方です。
一般的なロボットは環境を完全に把握しないといけないんです。もしくは把握しながら進むために、人よりも遅い判断でじっくりと進んで入り込んでいかないといけないと。それは安定した現場だったら大丈夫なんですね。
今の福島第一などは、すでに安定した現場なんです。事故が起こった当初は不安定な現場ですから、そこは人しか入れない。その人しか入れないところで、安全を確保するためのアシストスーツ、労力を軽減させるアシストスーツが何かいるでしょうと。
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