「八王子スーパーナンペイ事件」

事件発生日

1995年7月30日

事件現場

東京都八王子市大和田町

スーパーナンペイ大和田店

犯行内容

殺人事件

殺害された人数

3人

被害者

稲垣則子さん（当時47歳）

前田寛美さん（当時16歳）

矢吹恵さん（当時17歳

容疑者

不明

事件概要

1995年7月30日（日）、東京都八王子市の「スーパーナンペイ大和田店」で、閉店直後に3人の女性従業員が拳銃で射殺されるという耳を疑う事件が発生した

被害者の1人は47歳のパート従業員で、残る2人はアルバイトの女子高生だった

当初から、不審な男や車両の目撃情報は複数あったものの、犯行動機が金銭目的か怨恨かも解らず、容疑者が特定出来ない未解決事件として現在に至っている

住宅地のごく普通のスーパーで発生した銃撃事件は、当時の日本を震撼させ、日本における銃犯罪のターニングポイントとなった

殺人事件の時効が廃止された現在でも、この事件は継続捜査か行われている

事件時系列

1995年7月30日、東京都八王子市大和田町のスーパー「ナンペイ大和田店」は、4日間に渡る「特売涼風セール」の最終日を迎えており、この日は日曜日という事もあり、普段よりも客数が多い非常に忙しい日となっていた

16時46分

夜番勤務のアルバイトの高校2年生（矢吹恵さん 当時16歳）が自転車で出勤、矢吹さんの自宅はスーパーから自転車で僅か3分の場所にあった

16時48分

夜番勤務のパート従業員（稲垣則子さん 当時47歳）が知人男性に車で送って貰い出勤、2人は勤務が終わった後に一緒に小料理屋へ行く約束をしていたという

その後、矢吹さんと稲垣さんは、17時～21時までの4時間、店内のレジ打ちの勤務に就いていた

17時30分

スーパーの前を彷徨きながら店内を覗き込む、50代ぐらいの不審な男を買い物客の1人が目撃している

18時30分

男性従業員が勤務を終えて帰宅した事で、夜番の従業員は稲垣さんと矢吹さんの2人だけになった

この時、スーパーから約30m離れた「北の原公園」にて、地元自治会が毎年開催している「盆踊り」が始まった為、スーパー周辺は大きな音が響き渡り喧騒に包まれていた

18時50分

この日は非番のアルバイト女子高生（前田寛美さん 当時17歳）が、今後の勤務予定を確認する為、家から自転車でスーパーにやって来た

矢吹さんと前田さんは小学校からの幼馴染で、矢吹さんの勤務が終わったら合流する約束を交わし、前田さんはスーパー内で待つ事にする

20時30分

稲垣さんは、一部レジの売上金を金庫に保管する為に2階の事務所に行き、売場にいる従業員は矢吹さんのみだったが、非番の前田さんもすぐ側にいた

この時、店内で何も買わずに売場を徘徊する40代～50代ぐらいの不審な男が買い物客によって目撃されており、男は辺りの様子を伺っているような感じがしたという

20時45分

スーパー正面を不審な白い乗用車がゆっくりと通り過ぎ、運転していた男性が店内を覗き込んでいるのが目撃されている

21時00分

スーパーナンペイは閉店を迎え、矢吹さんはレジの売上金を2階の事務所へ持って行き、それを稲垣さんが受け取り金庫に保管した

21時06分

稲垣さんが店内の戸締りと消灯を行い閉店が完了し、ほぼ同時刻に盆踊りも終了している

車を駐車場に停めていた住民が、スーパー横の通路に不審な男がいるのを目撃、男は車のライトが当たると顔を伏せるようにしてその場を立ち去ったという

21時15分

稲垣さんが事務所から知人男性に電話を掛け、スーパーまで迎えに来てくれるように依頼する

21時16分

3人は事務所から退室しようとしたと思われる

事務所のセキュリティーシステムが作動し、入り口が解錠された記録があり、帰宅しようと事務所の外に出た3人は、犯人に拳銃で脅されて事務所内に押し戻されたと推測される

21時17分

スーパー近くの交差点付近にいた高校生カップルが、スーパーの方向から火薬が破裂したような音が数回響いたのを聞き、スーパー近隣の複数の住民も同様の音を数回聞いている

この事から、21時15分に稲垣さんが知人男性に電話をしてから、犯人は僅か2分～3分の間に女子高生2人を縛り上げて3人を射殺し、その後誰にも見られず逃走した事になる

21時20分

稲垣さんの知人男性の車がスーパーに到着、駐車場に車を停めて待ったが、この時事務所には灯りが点いていたという

21時45分

なかなか稲垣さんが現れないので、先に行ったのかと思い、知人男性は確認の為に小料理屋へと向かう

21時50分

稲垣さんは小料理屋にも来ていなかったが、スーパーの事務所は着替えにも使う場所という事もあり、知人男性は自分が開ける訳にはいかないと考え、小料理屋の女将に依頼して2人でスーパーへと向かった

22時00分

事務所の鍵は開いており、女将が開けて入り口付近から中に声を掛けたが、人の気配はせず返事もなかった為、女将は一旦は車に戻った

しかし、誰もいないのに灯りが点いている事を不審に思い、もう一度2人で事務所内を確認する事にする

今度は室内まで入って確認した所、銃器で頭部を撃ち抜かれ、床に倒れて死亡している女性従業員3人を発見した

女将は身長が約150cmと小柄だった為、1人で確認した際には、入り口に設置されていたカウンターの高さが影響して室内の奥までは見えていなかったと思われる

22時08分

知人男性と女将は近くの北八王子駅前交番に駆け込み、そして警察官の緊急通報により事件が発覚する

強盗なのか？怨恨なのか？

殺害された順番は、最初に稲垣さん、その後2人の女子高生で、3人共に即死だったとみられている

パート従業員の稲垣さんは、体を縛られていなかったが、銃把で右顔面を殴られた後に金庫の脇に突き飛ばされたと推測される

額と頭頂部にそれぞれ1発ずつ、計2発の弾丸を撃ち込まれていた

女子高生2人は、粘着テープで口を塞がれ、お互いの右手と左手を縛られていたが、撃たれた時にはうつ伏せにされた状態だったと考えられる

現場の足跡から実行犯は1人と断定され、靴のサイズは24.5cm〜26cmと推測された

犯人のものと思われる足跡の付着物からは、微細な鉄粉、粘土、コケが採取された

鉄粉は溶接の際に飛散したと見られ、犯人は溶接作業に従事していたか、あるいは鉄工所などに出入りしていた可能性があると考えられた

犯人は犯行後に金品などを何も奪っておらず、金庫に入っていた526万円と被害者の財布さえ盗らずに逃走している

犯人が事務所内を物色した形跡がない事から、犯行の目的が金銭目的なのかまたは怨恨なのか、警察は絞り切る事が出来なかった

しかし、金庫には鍵が差し込まれており、これは開けようとした痕跡とも考えられる

この点を重視すれば、強盗目的の犯行の線が浮上する事になる

また、金庫の高さ約90cmの場所に銃で撃った痕が残っていた

稲垣さんが最も被害が大きかったという事実も、金庫を開ける事が出来るのは彼女だけであり、脅して開けさせようとしたという考え方も出来る

そして、開ける途中で何らかのトラブルが発生し、犯人は犯行を中断せざるを得なくなり、そして目撃者を始末したという可能性も考えられる

仮に何も盗まれていないのだから動機は怨恨と警察が判断した場合、考えられる原因は稲垣さんに対しての恨みだった可能性が高い

まだ女子高生の2人に、怨恨による殺人事件、しかも銃殺事件に発展するよう可能性は極めて低いと思われる

稲垣さんは、以前東京都八王子市三崎町の高級クラブ「琥珀」のホステスで、後に八王子市の繁華街に「わかお」というスナックも開業したやり手だった

八王子の夜の世界では名が通った有名人であり、さらに男女関係も派手だったという

加えて稲垣さんの華やかな交友関係には、暴力団関係者や裏社会の、いわゆるその筋の人間が多かったという噂もあった

また、被害者3人の中で、稲垣さんだけが銃弾以外に暴力を受けた痕跡があった

そのような事から、稲垣さんへの怨恨が犯行動機と考える捜査員は当初から多かった

なお、稲垣さんは事件前に、カッターの刃が入った脅迫文書を送り付けられる被害に遭っていた事が判明しており、その手紙には「このままだと殺す」と書かれてあったという

容疑者を絞り込めない警察

警察が最初に疑ったのが稲垣さんを迎えに来た知人男性だった

遺体発見までの行動が不自然だと考える捜査員も多く、そもそも事件現場であるスーパーで稲垣さんが働く事になったのは、この知人男性のき勧めがあったからであり、それは強盗の事前準備の為ではないかという説も浮上した

しかし、知人男性と拳銃との接点は皆無で、最終的に嫌疑は晴れる事となった

また、スーパーの店長である専務とも稲垣さんは深い関係だという話もあり、店長自身は完全否定していたのだが、周囲には「稲垣さんに関係を迫られた」、「稲垣さんには誘惑されたけど断った」と話している

この店長も容疑者の1人となり、当初は捜査の対象となった

それは、店長は職場の机の引き出しの中に高級腕時計などの貴金属類を置き、金遣いも派手であり、加えて暴力団組員との付き合いもあった事から怪しまれる事になったのだが、店長のアリバイが証明された事ですぐに捜査対象からは外されている

その後、警察は1人の男性に目を向けるようになったのだが、それは稲垣さんがスナックを経営していた頃、男女の関係になったと言われる八王子市在住の会社社長だった

事件から半年程経った頃から警察に徹底マークされるようになり、取り調べの回数は50回以上、証明されたアリバイがあるにも関わらず、警察は執拗にこの男性に喰らい付いた

この会社社長は、事件発生から実に14年間という長きに渡って警察に容疑者扱いされたが、最終的に容疑は晴れ解放されている

スーパーに高確率で現金が保管されると思われるセール最終日の日曜日、盆踊りの賑わいで銃声が消されるというまさに絶妙と思える犯行のタイミング、そして約3分以内で犯行を終えるという手慣れた手口、これらは組織的な犯行を予想させるものだったが、縛った上で至近距離から撃つという残忍な殺害方法からすると、実行犯は外国人の可能性もあると思われた

広がる容疑者の範囲

犯行に使用された拳銃は、38口径の回転式フィリピン製スカイヤーズ・ビンガム

この拳銃は回転式拳銃の定番「コルト・パイソン」の模造品であり、非常に粗悪で命中率も低く、かなり銃の扱いに慣れた人間でなければこの事件の犯行は難しいと思われた

当時、この拳銃を主に密輸していたのは、中国福建省の密輸ブローカーという情報もあった

2009年9月の事、中国で覚醒剤不法所持の罪で死刑判決を受けていた日本人男性（2010年に死刑執行済）が、「ある中国人の男が、実行犯を知っている可能性がある」と供述した

捜査本部は、この情報を基に2013年11月にカナダに移住していたある中国人の男を旅券法違反の罪で逮捕した

しかし、この中国人の男は、逮捕翌年の2014年9月に日本で執行猶予付きの判決を受け、スーパーナンペイ事件に関する供述をほとんど得られないままカナダへと強制送還されてしまう

また、犯行に使用された粘着テープには、犯人のものとみられる指紋の一部が付着しており、検出されたDNA型は、被害者3人とは異なる型が検出されて為、間違いなく犯人のものとみられた

2015年2月、「約10年前に死亡した、事件当時50代の日本人男性の指紋と、犯人のものと思われる指紋がほぼ一致していた事が判明」というニュースをメディアが報じた

警視庁のデータベースの照合で、8点の特徴点の一致を確認したといい、この確率は実に1億人に1人と言われ、一般的には同一人物と考えて間違いないという

しかし、警察が同一人物と断定出来る基準は12点とされている為、確たる証拠として採用する事は出来ず、またしても被疑者と断定するには至らなかった

この男性は元運送業関係者で、約10年前に60代で病死しており、事件発生の約1ヶ月前、男性の息子が起こした交通事故で多額の損害賠償金を請求され、その支払いに困っていたとされている

また、この男性は事件当時は多摩地区に住んでおり、現場で目撃された車種と同じ白いセダンタイプの車も所有していた為、参考人として警察からの事情聴取も受けていた

しかし、この男性は過去に窃盗での逮捕歴があったものの、勤務先のタイムカード記録からアリバイが成立する可能性が高く、DNA型鑑定でも一致しない事から、少なくとも実行犯ではないと判断された

警視庁は、この男性が触れたガムテープを、たまたま手に入れた犯人が使用した可能性を視野に入れ、当時男性の周囲にいた人間を中心に捜査を継続している

また、男性は運送業に従事していた為、配達中に盗まれた可能性もある

2020年7月21日、事件で使用された拳銃と線条痕が酷似する拳銃が発見される

この拳銃は、2009年に別件で逮捕されて服役中の50代の暴力団員が所持していたものだったが、この男性は自分の身を案じてか「拳銃の入手経路は死んでも言えない」と供述を拒否した

この事件は、発生から15年目の2010年7月に公訴時効が成立する予定だったが、その後最高刑が死刑の罪について公訴時効が廃止となった為、現在も警察による捜査は継続されている

それまでは、主に反社会的勢力の人間のみが使用してきた拳銃が、いわゆる普通の市民に向けられ、何の容赦もなく残忍に殺害された事件の凶暴性から、警察は「日本における銃犯罪のターニングポイント」とこの事件を位置付けている

なお、事件の舞台となったスーパーナンペイ大和田店は、現在は建物が解体され駐車場となっている

この事件に思う事

世間一般では、どちらかと言うと強盗説が有力のようだが、個人的には強盗と怨恨のミックスも犯行動機としてはあり得ると思っている

仮に、殺害された三人のうちの一人、稲垣さんに強い恨みを抱いていた人間がいたとする

この人間（ほぼ間違いなく男性）をAとしよう

稲垣さんの殺害を実行犯（B）に依頼したのがAなのではないだろうか

また、Bはおそらくは裏社会の人間で外国人のような気がする

もちろん想像になってしまうのだが、AがBに提示した殺害の報酬は、スーパーの金庫内にその日は必ず大金が入っているという情報

これだと、犯行現場がスーパーの金庫内だった事の説明もつく

しかし、Bは人を殺害する事には長けていたが、日本語を操る事と強盗に関しては不慣れだった為、最終的に金銭を奪う事が出来ずに殺害だけを果たして仕方なく逃亡した……

事件発生から既に約30年の時間が経過してしまった

AもBもおそらくもう生きてはいないのではないだろうか

これらの推察は、どれも当たらずとも遠からずのような気がする

記事No.1361