リリース: 2009/3/29 分類: VOCALOID ジャンル: シューゲイザー、ロック |
VOCALOIDの世界にシューゲイザーを広めた、wintermuteさんの1stアルバムです。ボーカルは初音ミク、巡音ルカ、KAITO。
初音ミクのシューゲイザー、ということで「ミクゲイザー」と呼ばれ、氏を始めとした多くの制作者により、ニコニコ動画やYouTubeのシューゲ成分をじわじわと濃くしています。
同アルバムは現在、CD盤は完売となっていますが、KarenT(クリプトン社による配信専門レーベル)よりDL配信が行われています。収録曲のサンプルも、下記リンクから試聴できます。
→ 「KarenT(カレント):音楽詳細 : 『Stray Light / wintermute』」
……全体を聴いた感想を。
シューゲイザーと聴いて多くの方は、My Bloody Valentineのような、幾重にもうねる、まるで空間そのものが歪んでいるかのような、複雑に絡み合った音の波を連想されたことでしょう。しかし、このアルバムではそういった要素は相対的に少なく、むしろクリアでハキハキとした轟音が、とてもストレートに耳に届くのです。ミクの歌声には多少のエフェクトがかかっているものの、それでもやはり控えめで。音域も高すぎず、また調整されていないボーカロイドにありがちな、耳にキンキン来るノイズもうまいことカットされており、とても聴き心地のいい歌声になっています。シューゲイザーが目当てじゃなくても、この歌声のためにこのアルバムを手に取る価値もあるでしょう。
また、全体を通して「歌モノ」の性格が強いことも特色の一つです。メロディも、この手のジャンルにしてはキャッチーな方ですが、それだけに曲の進行を委ねることは一切無く、ところどころダウナーになったり、バックサウンドに埋もれたり。そして、主張するところではしっかり主役を演じている。この躍動感が、このアルバムの印象を脳にしっかりと刻みつけるのです。基本的にはシューゲイザーのスタンスながらも、その枠に拘らない、でも逸脱もしない自由なアプローチが、このアルバムのユルさや涼しさ、そしてその裏にある緊張感や力強さを、これでもかというほどアピールしてくれています。
アルバムは全10曲。CD版では他にも6曲のボーナストラックが収録されているのですが、配信版ではカットされています。中でも特に好きな曲は、Tr. 4『Postscript』、Tr. 5『秋の空(VIRTUAL)』、Tr.7 『Song of Pixie』、Tr.9『REALITY』、Tr.10 『Fury, Melancholy and Joy』。そして、ボーナストラックのTr.14 『Song of Pixie(bossa study)』。
Tr.4 『Postscript』は、ミドルテンポのポップ・レクイエム。Aメロの静かな音から、サビで突如轟音が鳴り響く展開は鳥肌モノです。Tr.5 『秋の空(VIRTUAL)』は、とても綺麗にまとまった爽快なロックナンバー。一番好きな箇所は、サビの後のギターリフです。疾走して火照った耳を一旦休ませ、次のパートへうまく繋げてくれているのです。Tr.7 『Song of Pixie』は、気持ちの良いギターにネガティブな詞を乗せた、サビの高音が印象的なナンバー。Tr.9 『REALITY』は、巡音ルカとKAITOのツインボーカルが味わい深い、ミドルテンポの渋い曲に仕上がっています。そしてラストのTr.10 『Fury, Melancholy and Joy』、緊張の糸をスレスレのところで切らない、非常にニクいアウトロがツボります。ボーナストラックのTr.14 『Song of Pixie(bossa study)』は、Tr.7のボサノバ風アレンジ。これはニコニコ動画にも公開されているので、CDが絶版になった今も聴くことが出来ます。→動画リンク
このアルバムのリリースから、早2年と4ヶ月。これ以降もニコニコ動画を中心に活動を継続しているwintermuteさんですが、個人名義でのアルバムは、この『Stray Light』以降リリースされていません。ただ、ロキノン系サークル「Out Wave Cluster」 に発足時から所属しており、そこからリリースされた5枚のアルバムにはきちんと参加していますので、氏の新しい曲をCDで聴きたい!という方は、このサークルをチェックしてみるといいでしょう。wintermuteさん以外にも、気持ちの良いロックナンバーが一杯詰まっているので、こちらも併せておすすめさせて頂きます。
→ Out Wave Cluster official (tumblr)
でも、そろそろwintermuteさんの2ndも聴きたくなってきたな……なんて思ってないんだからねッ!!
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