リリース: 2011/6/29
分類: VOCALOID
ジャンル: ロック(エモ)


叙情的な詞と歌うような優しいロックサウンドに定評のある、buzzG(バズジー)さんの2ndメジャーアルバムです。
2日前に紹介記事を書かせて頂きましたが、どうしてももう一度書き直したい箇所があったため、勝手ながら加筆・改めて投稿させて頂きました。

このアルバムは、主にVOCALOIDのGUMI(メグッポイド)をフィーチャーした曲を収録しています。
GUMI歌唱曲が13曲、ボーナストラックとして、ゲストボーカリスト3名によるカバーを3曲収録。
全16曲、66分のボリュームあるCDです。

ニコニコ動画で、クロスフェード動画が公開されています。

 






……全体を通して聴いた感想を。

さすがはメジャー流通、ニコニコ動画や同人CDより、音の質がはるかに良くなっているのがわかります。そして、今回採用されている「ライブレコーディング」、文字通り、バンドがライブしている光景をそのままレコーディングする方式で、あたかも一回分のライブをそのまま詰め込んだかのような勢いを味わえます。同人CDは基本的に宅録なので、こういうのを念頭に置いて、同じ作者の同人CD・商業CDを聴き比べてみるのも面白そうですね。

音楽の内容に関して。
パワーで押し込む最初の2曲で、アルバムの世界へ問答無用で叩き込み、ギターのスラッシュ音の気持ち良い、バランスのとれたTr.3 『祭囃子』で地に足をつけさせる。十分アルバムの世界に引き込んだところで、得意の優しいナンバーを立て続けに繰り出し、全身全霊で涙腺を刺激しに来る。これでもかというほど押し寄せる、優しい轟音と心温まる詞。やはりぐっと来てしまうのは不可抗力ですね。

個人的に好きな曲は、Tr.1 『AGAINST』、Tr.2 『Sirius』、Tr.6 『name of memory』、Tr.7 『SNOW NOISE MONSTER』、Tr.11 『赤い雨』、Tr.12『Marygold』。

AGAINST』は、すべての音が徹頭徹尾荒れ狂う様が爽快な、疾走するロックです。『Sirius』は、同人1stアルバム「Rebellion on the Sunday」の1曲目でもあり、『AGAINST』とは対照的に、正統派のエモ・ロックが力強さを演出しています。『name of memory』はスローバラードで、ストーリー仕立ての詞では最後にタイトルの意味が明かされます。『SNOW NOISE MONSTER』は、このアルバムでも特筆して重い曲で、裏から添えたシンセの音が、きらきらと心を沈めていきます。『赤い雨』は、ピアノの美しい、静かな激しさをたたえた社会派ナンバーです。そして『Marygold』、このアルバム全体を通して一番好きな曲ですが、激しさをこらえた重く哀しいサウンドと、叫ぶように訴えかけるボーカルが刺さる、暗く美しいロックバラードです。

もうひとつ、buzzGさんの曲に関して述べるなら、すべての楽器パートがそれぞれの主張を持っており、決してボーカルの引き立て役に終始することがない、ということでしょう。ギター、ベース、ドラム、シンセ。それぞれの楽器が、まるで自分たちも楽曲の主役として歌っているかのような、輪唱しているような構成。彼の曲では、すべての楽器の、すべての箇所が聴き所なのです。

アルバムの構成に関して。
この2nd『祭囃子』は、ブレイク前後の全buzzG史を総合的に網羅した、通史的な作品に仕上がっています。というのも、彼のGUMIオリジナル曲の多くは、ニコニコ動画でブレイクする前に制作されたものだからです。デビュー曲の『LAST YEAR』から『name of memory』、『D.P.C.W』、『赤い雨』。その後、初音ミクを起用した最初の曲『アルビノ』で、初めて10万再生を突破して一躍有名になるのですが、それまでのGUMI一本だった「下積み」時代の曲がきっしり詰まったアルバムが、この『祭囃子』なのです(もちろん、ブレイク後に発表された『Marygold』『COIN』『西へ行く』等もしっかり入ってます)。これは、初音ミク中心の商業1st『Symphony』が、ブレイク後の華々しい経歴の宝庫となっていることと対比してみると、意外と面白いかもしれません。

そして、商業アルバムに初期の楽曲が収録されるにあたり、曲の雰囲気がほとんど変わっていない所も特筆すべきでしょう。曲の構成はニコニコ動画に投稿されたバージョンのまま、大きく作り替えられることもなく、ただ中身をしっかり作り込む。過去の自分を尊重し、そのまま商業レベルへ昇華したこの作品には、惜しみない賛辞を与えられてしかるべきだと考えています。

ラスト3曲は、ゲストボーカル(ボーカロイドではなく、人間の歌手)によるカバー。3曲ともGUMI歌唱版が同じCDに収録されているので、聴き比べられる所が面白いですね。それに、3名とも男声ボーカルで、それぞれの声質も大きく異なることから、ただカラオケを聴いているだけに留まらずに楽しめました。お三方の声では、最初のTr.14『name of memory』のGeroさんの声が一番好みでした。低音中心の甘い声が、朗々と綴られるスローバラードにしっくり来ます。

そして、ボーカルの滑舌について。
詞で勝負する作風である以上、ボーカルの滑舌・聞き取りやすさは、アルバムのクオリティを左右する非常に重要な要素となるでしょう。このアルバムで殆どの曲のボーカルを取っているGUMIは、甘くたどたどしい声をしており、それはそれでとても魅力的なのですが、やはり滑舌という側面ではまだ力不足であるように思えました。ボーカロイド特有のアクセントに馴染んでいるかそうでないかで、歌詞の聞き取りに神経を使ってしまうのでは、と。もちろん、ゲストボーカルの方々の滑舌は基本的に問題はありません。

……しかし、だからと言ってボーカロイドそのものを根本的に否定してしまうことは、まったくもってありません。Tr.3『祭囃子』、このアルバムのタイトルトラックですが、この曲では発売前の「GUMI extend」を特別に使用しています。いわば「メグッポイド」の拡張パックのようなもので、よりソリッドな声質と向上した滑舌により、少し早口になってしまうこの曲についても、実にハキハキと歌ってくれています。ロックの激しい音によって、柔らかいGUMIの声が少し隠れがちになってしまうこともありますが、「GUMI extend」はその心配もなさそうです。それでいて、これまで馴染んできた「GUMI」の特徴もきっちり残していて、聴いてすぐそれと分かる。まだこの1曲(と、販売元によるデモソング)でしか聴いていませんが、個人的にこのボーカル音源には、かなり期待させて頂いてます。正式発売と、それに伴って発表されるオリジナル曲が、もう今の時点で楽しみです。かなり気が早いですが……w

最後になりましたが、この『祭囃子』、総合的にはとても満足させて頂きました。新旧それぞれの文脈で生まれた楽曲が、ひとつのアルバムにまとめられることで新たな側面を見、これまで以上にbuzzG作品を楽しむことが出来るようになりました。なお、2011年は3月・6月と2枚のアルバムをハイペースでリリースした彼ですが、今度の夏コミでもまた、同人で新作を出されるそうです。なんというタフさ!こちらの方も楽しみで仕方がありません。

なお、タイトルトラック『祭囃子』は、ニコニコ動画でフルで聴くことができるので、そちらも是非。
質の高いアニメーションPVの付いたバージョンが投稿されているので、折角なのでそちらを貼らせていただきます。