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A と V
A と V_e0175918_18252632.jpg

古代ローマの碑文、じつに美しいですね。このローマ字の A と V 、左右の斜め線のうちの A は左側が細い、 V は右側が細い。この太い細いのバランスってどこから来ているんでしょう。

私の本『欧文書体』にも書きましたが、碑文を彫り始める前には下書きをしなくちゃいけません。それを古代ローマの人は平筆か刷毛のようなものでして、それから彫ったと考えられています。それが今の書体のバランスの元になった。そういうことを今から約20年前、イギリスで勉強していて石彫りの人のうちに泊まり込んだときにはじめて教わった。きっと目がまん丸になってたと思う。

平筆を持ってシミュレーションをすると、どっちが細くなるのか一発でわかります。平筆の先端が水平じゃなくて、ちょっと左が下がると書きやすい。
A と V_e0175918_16514611.jpg

それで書いてみるとこんなふうになる。下に敷いた青い A の字は、ローマの西暦114年ころの碑文を元にした書体 Trajan(トレイジャン)です。デジタル書体時代の今でもよく使われてます。
A と V_e0175918_16341489.jpg

薄い墨で書いてみました。ね、だから左が細くなる。同じ筆の持ち方で V を書くところを想像してください。逆に V は右が細くなりますね。それがローマ碑文の写真にある AとV の関係です。
A と V_e0175918_170438.jpg


サンセリフ体ってありますね。みんな同じ太さの線に見えるやつ。それも、ほんとに微妙に太さの差をつけている場合がほとんどです。これはオモテ。普通に見えるはず。
A と V_e0175918_16354634.jpg
これはたいがいの書体でそうなっている。いや、そうしなくちゃ気持ち悪い。歩くときに右手と右足とをいっしょに出したみたいで。だから、裏返しのやつを見ると落ち着かないんです。裏返してみました。
A と V_e0175918_16361348.jpg

by type_director | 2009-06-11 09:37 | 文字のしくみ | Comments(10)
Commented by horaice at 2010-05-20 22:01
すごいっ!初めて知りました。しかも右が太くなっているの、気づきませんでしたが、左利きの母は気づいたのに、裏返したものをみたら、太さの違いに気づきませんでした!
これから色んな文字が気になりそうです♪
Commented by type_director at 2010-05-21 13:56
horaice さん、コメント有り難うございます。びっくりしていただいてうれしいです!
Commented by KeikoS at 2010-10-10 06:12 x
U の字の左が太い事が多いのも、V から来てるからでしょうか。筆で、一筆に(右部分を下から上に)書くと 若干右が弱めになりますが、二画に分けて書くと同じ太さになりませんか。
Commented by type_director at 2010-10-11 22:45
KeikoS さん、右部分を下から上にというのは書きにくくないですか? U は2009年4月の記事「大文字?小文字? その2」に出てくる形もアリです。その場合、左右がだいたい同じ太さになります。
Commented by kja at 2014-03-30 23:11 x
小林先生の著書はいつも参考にさせて頂いています。Typography 01のフォントの作り方において、大文字Kを3本の線で構成するのはあまりオススメできないと述べられていますが、その理由は何なのでしょうか? Gothamなどはこの種のKに当てはまるとおもうのですが、もしこのようなKでフォントを作る時の注意点、またロゴとフォントでの使用時の違いなどもあればご教示ください。
Commented by type_director at 2014-04-06 22:13
kja さん、ご質問ありがとうございます。いま記事を確認してきましたが、正確に引用すると、こう書いてあります。
「(C S J を巻き込みすぎたり、) K を3本の線でこんなふうに構成したりするのもおすすめしません」

わかりにくかったかもしれませんが、「こんなふうに」で示した例の K はちょっとアンバランスに描いたもので、それが「おすすめしません」の形というつもりでした。C S J も K も、読めないとかではなくて、この記事で描いている他の字には合わない、というつもりで書きました。

また、Gothamの ような K は Helvetica、DIN など、たくさんのポピュラーな書体がそちらの形を採用していますが、19世紀から20世紀前半にポピュラーだった形、ということもできます。バランスをうまくとらないと時代がかって見えてしまいがちな字形でもあります。

K 単体で見てその形がアリかナシかでなく、Gotham、 Helvetica、DIN みたいな「全体的に機械っぽい」デザインに合う K と、この記事で説明している書体に合う K との骨格の違いがわかっていただけると良いです。
Commented by kja at 2014-04-06 23:51 x
丁重なお答え、ありがとうございます。先生の著書の中での「悪い書体は無いが、悪いフォントはある」と言う意味がよく理解できました。全体的な雰囲気が大事なのですね、スッキリしました。
Commented by Maya at 2016-02-27 02:08 x
欧文書体に興味があり、独学で一から
現場で使えるレベルのフォント制作を考えているのですが
こちらの記事のように、欧文フォントを作る上での
お約束などをまとめた日本語の書籍でお薦めのものはありますか?

もちろん英語でも、日本で購入できて十分な内容であれば構いません。

ちなみに開発環境は定番と言われている
FontLab StudioやFontographerではなく
Glyphsというソフトと補助でイラストレーターを使用する予定です。
Commented by type_director at 2016-02-28 01:15
Maya さん、ご質問ありがとうございます。フォントを作る上での約束事などは、Glyphs のチュートリアル(英語)にもいろいろ書いてあると思いました。
日本語で読めるのは、書き始めたら長くなるし画像でのっけたほうがわかりやすそうなので記事にします。
Commented at 2016-02-28 02:19 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
『欧文書体のつくり方』
小林章著 Book & Design 刊
欧文書体の第一人者によるフォントとロゴ制作の教科書。美しく読みやすい文字をつくるための基礎知識と考え方を解説。
 
プロフィール

小林 章
欧文書体で120年の歴史を持つライノタイプ社のタイプディレクターとして 2001年よりドイツに在住。同社は 2013 年 3月よりモノタイプ社と改称。主な職務は、書体デザインの制作指揮と品質検査、新書体の企画立案など。有名な書体デザイナーであるヘルマン・ツァップ氏やアドリアン・フルティガー氏と共同で書体制作も行っている。欧米や日本での講演多数、コンテストの審査員もつとめる。
著作:『欧文書体:その背景と使い方』『欧文書体2:定番書体と演出法』『フォントのふしぎ ブランドのロゴはなぜ高そうに見えるのか?』(いずれも美術出版社)『まちモジ:日本の看板文字はなぜ丸ゴシックが多いのか?』(グラフィック社) 『英文サインのデザイン:利用者に伝わりやすい英文表示とは?』(田代眞理氏との共著、BNN 新社) 『欧文書体のつくり方:美しいカーブと心地よい字並びのために』(Book & Design)
 
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