「なぜ、えとじやブログが“町づくり”?」と思うかもしれませんが、「“町づくり”って、モノやサービスにおけるブランドづくりと、実はよく似ているかもね。」というお話です。
町づくりの成功(や失敗)が語られるとき、その要因としていつも上がってくるのは、強いリーダーの存在や、優れたビジョンや、卓越した戦略・戦術、自治体との協力の有無、土地・立地、などなどです。 それらは、たぶん間違いのないことなんだと思いますが、そうしたことを語るのはそれぞれの専門家に任せて、今回は、えとじやらしく、ブランドづくり・ブランドエクイティー・ブランド戦略みたいな視点から、町づくりの成功・失敗に関係しているような気がする要素について考察してみました。
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「ブランドづくり」と「町づくり」と聞くと、おそらく、“地域ブランド品の開発”(特産品に町の名前を付けて、かっこいいロゴとパッケージ作って、プロモーションをする、というの)を真っ先にイメージするのではないかと思います。 多くの場合「ブランドづくり」は、町の認知度をあげたり、特産品の売り上げをあげたり、観光客を増やすことを目的とした“町づくりのための手法のひとつ”と認識されています。
でも、先日、徳島のふたつの町を訪れて、実は「町づくり」自体が「ブランドづくり」なんじゃないか、と感じました。 ブランドづくりの理想は、“共感し合えるお客さんと共にブランドを守り育てていき、その人たちに長く愛される”ということですが、町づくりも本当は同じで、町のキャラクターを理解したうえで、町のキャラに合った人たちと “その町らしい”活動を通して、町を魅力的に見せたり、それに共感する人をさらに呼び込んだりすることなんだろう。 そういうことが、長期的に発展していくためには大事なんじゃないかな、と思ったわけです。
そういう観点で、全国にたくさんある町づくりで成功している町や苦戦している町を見てみると、それぞれの訳がわかるような気がします。
どこかの町でうまくいったものをそのまま自分のところでもやってみる、というのが常套手段のようですが、その町らしくない“キャラ違い”のことをしてちぐはぐな感じになっている、というところが多そうです。
ブランドマーケティングでは、「ターゲットやエクイティなんて何でももいから、売れればいいよー」というわけにはいきません。 同じように町づくりでも、「何でもいいから知ってもらえればOK」とか、「誰でもいいから観光客や移住者が増えてくれればOK。」というものでもないんでしょうね。 瞬間的にブレイクすることはあったとしても、続かない理由がそこにあるのかもしれません。
前置きが長くなりましたが、こんなことを考えるきっかけとなった、徳島で感じた「ブランドづくり」と「町づくり」の共通点をいくつか書いてみようと思います。
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「ブランドづくり」と「町づくり」の共通点~その①
「ブランドにキャラクターがあるように、町にもキャラクターがある」ということ
まず、「ブランドのキャラクター」とは、モノやサービスは名前が付いた時から人格が発生する、という考え方です。 以前の記事の中でも 店主が何度か言っていますが(→「ブランド」ってなあに?~名前を付けるということ」)、ブランドは人格を持っていて、その人格は、お客さんとのやり取りをする中でさらに形作られ、お客さんの中にイメージとして定着する、というものです。
例えば、「アイスクリーム」と聞いても、「甘い」・「冷たい」としか思い浮かびませんが、「ハーゲンダッツ」というブランド名を聞くと、たぶん多くの人が、「洗練された、贅沢な大人のデザート」というイメージを持つのではないかと思います。 昔のちょっと官能的な大人っぽいCMを思い出す人もいるかもしれませんね。
一方で、同じ高価格帯のアイスクリームでも「サーティーワン」と聞くと、ポップで選ぶのが楽しいイメージが連想されるのでは? そういったことがブランドの人格(キャラクター)です。
今回「神山」と「美波」という2つの町を訪れましたが、それぞれに独自のキャラクターを感じました。 町のキーパーソンにお話をうかがったり、町をぶらぶらと歩いたり、地元の人たちと地元のものを食べて・飲んで・話をすることで、短い滞在でしたが、十分に町の「人格」を感じ取ることができました。
しかも、一緒に視察に行ったメンバーが共通したイメージを持ったというのは、かなりしっかりとしたキャラが確立しているからなのでしょう。
初めに訪問した「神山町」は、町づくりの取り組みでは15年以上の歴史がある、静かな山間部の町です。
アーティストを誘致して町に作品を作ってもらう活動(アートインレジデンス)に始まり、ワークインレジデンス、IT関連企業のサテライトオフィスなどの新しい取り組みを積極的に行っています。
神山の山を散策すると、あちらこちらにアート作品が、半分朽ちたりしながらも、自然のままで展示されていました。 神山で創作活動をしたいというアーティストが後を絶たないそうです。 インスピレーションに働きかける“何か”がある町なのでしょうね。
神山のキャラクターは、じっくりと、思慮深く、戦略的。 こだわりがあり、職人気質、といったところでしょうか。
特に神山を象徴するな、と感じたのが「Hidden Library」という 山の中に立てられた小さな図書館。 これもアーティストの作品です。 町の人が、自分の人生の転機に影響を与えた本を 1人3冊まで寄贈するそうです。 本棚にはまだ数えるくらいの本しかありませんでしたが、時間をかけて完成させるのだそうです。 何か悩みがある時は、そこで本を読みながら一人でじっくり考えるとよいのでしょうね。
また、神山には神山塾という学校があって、20~30代中心の若い人たちが、自分がやりたいことを見つめ直しに来るそうです。 神山らしい、キャラにあった取り組みだな、と思います。
一方、2日目に訪問した美波町は、ウミガメの産卵場所としても有名な海辺の町。 神山と比べると、町づくりの歴史は浅いのかも知れませんが、サテライトオフィスなどに活発に取り組み始めた、最近話題の町です
印象としては、とても開放的でパワフル!そして、なんでも楽しく挑戦するような雰囲気。 サーファーにも有名な地域らしく、スポーツが似合う町でもありました。
訪れた日もちょうどトライアスロンの大会が行われていて、町全体が活気にあふれて、一体感がありました。
どちらも、人口6000~7000人の過疎の町。 どちらにも四国八十八ヶ所札所があって、お遍路さんをおもてなしするお接待の風土があります(みなさん気さくで、私たち“よそ者“にもとてもオープンに接してくださいました!)。 活動内容も、サテライトオフィスや古民家再生など、共通点が多いのに、受ける印象が全然違うのは不思議です。
では、それぞれの町のキャラ(キャラクター)の出所はいったいどこなのか?
地理的な要因やリーダーの考え方は、もちろん重要な要素ですが、本当にそれが始まりなのかな、と考えてしまいます。 そこで、おそらくこうなんじゃないか、と思うこと。
「ブランドづくり」と「町づくり」の共通点~その②
「町のキャラクターの起源も、ブランドと同じように、町の歴史や成り立ち=ストーリー」なんだろう
神山はもともと林業と農業の町(すだちや梅が特産)。 一概には言えないかもしれませんが、林業や農業は、時期を待って苗木を植えて、下草の手入れや間伐などをこまめにして、やっと伐採や収穫に至るという、比較的、中長期の将来を見据えた業務形態だと思います。 手間をかけたり、試行錯誤したりと、忍耐やこだわり、計画性が必要なはず。 神山のキャラにしっくりきます。
美波は漁業の町。 (素人考えですが)漁業は林業・農業ほど計画通りにはいかないものだろうな、と。 獲れるか獲れないかは運しだい、という賭けの要素があるだろうし、その分、おおらかでないとやっていけないような気がします。 危険と隣り合わせで、体力はもちろん、仲間との共同作業や集中力・瞬発力も必要になるんじゃないか、という気もします。
(実際に目にするチャンスはありませんでしたが、神山のお祭りと美波のお祭りは、きっとものすごく雰囲気が違うんだろうなと思います。 これぞ、まさにキャラクターです。)
そういった町の成り立ちが、町の雰囲気に強く影響しているように思います。
そして、「ブランドづくり」と「町づくり」の共通点~その③
「町のキャラクターがはっきりしていると、キャラに合った人が集まってくる」
モノやサービスでも、ブランドエクイティやキャラクターがしっかりしていると、それを買いたい・使いたいと思う客層がおのずと絞られてきます。 客層というのは年齢や性別、ライフステージだけでなく、その人が何を大事にしているかという価値観や、どういった性格の人かというのも大事な切り口になります。
神山・美波はどちらも町のキャラがたっているので、そこに集まる人の「人となり」もイメージしやすく、実際にそういった人が集まっているのが、おもしろいところです。
「なるほど~。神山に移住者を決めたAさんは、来るべくして神山にたどり着いたんだろうな」とか、「Bさんは神山じゃなくてやっぱり美波の方が合っているよね」、と、(勝手に)納得したりしてしまいます。
最後に、「ブランドづくり」と「町づくり」の共通点~その④
「町に集まった人の人となりやその人たちの活動によって、さらに町のイメージが強化されていく」ということ
始めにも書きましたが、モノやサービスは名前が付いた時から人格が発生し、お客さんとのやり取りの中で、お客さんに影響されながらさらに人格が形成されていきます。 同じように、町に集まった人が町のキャラクターを強化していく、というサイクルがあって、(神山・美波が意識的に行ったかは別として)結果として町づくりに取り入れられているように思いました。
神山町のNPO法人グリーンバレー理事長の大南さんは、「町づくりは、そこに“どんな人が集まるか”が重要だ」とおっしゃっていました。 「誰でもいいので、人数が集まれば町は活気づく」、という考え方とは根本的に違います。 「ターゲットなんて誰でもいいから売れればいいよー。」的な考えではない、ということです。
例えば、神山町のワークインレジデンスでは、誰でも受け入れるというより、町に必要な人材を指名して移住してもらい、町の商店街の活性化を目指しています。 今までに、パン職人や靴職人、ビオワインに精通したフランス料理のシェフなどが移り住んだそうです。 はからずも、神山らしい人たちが選ばれています。
集まるべき人が集まれば、思い思いにやりたいことをしていても、やがてそれが自然につながって新しい展開が起こる、というのが神山的発想のようです。
滞在中に、フレンチレストラン「カフェ・オニヴァ」にうかがいました。 落ち着いた素敵なお店にビオワインが数えきれないほど並んでいて、シェフのこだわりがうかがえました。 最近では、このお店をきっかけに、新たに有機野菜やコーヒー、天然酵母パンなどの店ができたそうです。 アートから始まった町づくりが、サテライトオフィスを経て、今後はオーガニックタウンに進化するのではないか、と「カフェ・オニヴァ効果」に期待が高まっていました。
「オーガニック」というところが、また“神山らしい”ですよね。
神山らしい人が集まって、さらに神山らしい町を作っているように思います。
一方、美波では、IT企業のサイファー・テックが「自然児採用枠」という人材募集をしていました。 サテライトオフィスで働く、エンジニアの募集らしいのですが、“アウトドア活動が趣味・生きがい“というのが条件らしいです。 これもまた、”美波らしい“活動ですね。
こうやって、”らしさ“が積み重なっていくのだろうと思います。
神山と美波への訪問は、「町づくり」=「ブランドづくり」という(当たり前かもしれないけど、今までじっくり考えてみなかった)ことを考えるよいきっかけになりました。
以前は、町づくりってお役所かデザイナーかイベント会社の仕事かな~、などと思っていましたが、ブランドづくりの考え方が当てはめられるとすれば、ぐっと身近に感じてしまいます。
「町だって、自分のキャラ(エクイティー)を発掘して、育てることが大事だよね。」
「来て欲しい人(ターゲット)を思い描くことだって必要なんだ。」
「その町“らしく”ない・キャラ違いなことをするのは注意しなきゃね。」
と、いうかんじ。
そう考えれば、えとじやのブログで「町づくり」の話も、違和感ないのではないでしょうか?
和。