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コードを書き、コンパイルし、修正する。 同じことを繰り返す毎日にうんざりしながらプログラムを作り、テストで出たエラーを夜遅くまで潰す。 朝六時に目を覚まして満員電車に揺られ、ネクタイを後ろに跳ね飛ばしながら職場へ向かう日々。九時前にタイムカードへ挨拶代わりのキスマークを付ければ、昨日の続きをするだけ。 バンドをやりたくて東京へ来たのに、生きるために嫌でも働かなければならない。相反する感情と揺れ動く心、その狭間に今の俺がいる。 明日は、やっと始動するバンドの初ミーティングだ。新井主任と薮田さんにバンドのコンセプトを説明し、パンクとはどんな音楽なのか理解してもらおう。 薮田さんとは、午後十二時ごろ押上駅に到着する電車の先頭車両に乗っていると約束したので、はぐれることはないはずだ。 明日のミーティングについて考えていると、突然横から声が聞こえドキッとした。 「安養寺君、ボーッとしてますが仕事は進
新人歓迎会の夜から昨日まで、なぜか知らない女とセックスばかりしてる気がする。 僅わずか二ヶ月前まではオナニーのための妄想でしかなかったことが、現実の出来事となり体験しているのだ。 東京という大都会に住んでるためか、それとも麻雀マンガにも劣らない強運が続いているためなのか、この調子ならどこかのパンクバンドに加入できる日も近いかもしれない。 欲望の赴くおもむくままセックスして疲れたためか、日曜日は溜め込んだ衣類を洗濯して室内を掃除しただけで昼寝をしてしまい、夜になって晩飯を食べに蕎麦屋へ行ったものの、あの娘の顔を見られずガッカリして一日が終わってしまった。 月曜の朝、布団から体を起こすものの、まだ体が怠だるい。 一昨日はライブで飛び跳ねたりベッドで暴れたりで、本当に体力を使った。今日は新しいプログラムの詳細設計書を受け取る日、疲れた体を癒いやすため、のんびりコーディングを行おう。 買い置きして
なんだろうと思い、立ち止まって二人を交互に見ていると、女がバッグから何かを取り出し歩み寄ってくる。 女は俺の目の前で立ち止まり、何かを手にして両手を差し出した。 「マガジン出版でヤンヤンという女性向け雑誌を担当してる栗田と、こちらはカメラマンの山岡と申します。少々お時間よろしいでしょうか?」 「えっ? えぇ……構いませんよ」 女は出版社の人間だという。受け取った名刺にも出版社名と雑誌名が書いてある。 なんで話しかけられたのか分からず戸惑っていると、今度は髭面男が話しはじめた。 「実は雑誌の企画で取材してるんですが、昨今のバンドブームが女性にも注目されてまして、プロのモデルじゃない、二十代から三十代の読者が好みそうなロック好きの男性を探しているんです」 ――怪しい話だ。高校卒業と同時に電話がくる謎の勧誘と同じなんじゃねえのか? 誰かが売った卒業名簿を見て電話をかけまくり、会員になると買い物や
端末室のドアを開けると、板野先輩が両手で頭を抱えたまま動かない姿が見える。 足音を立てないよう近付き隣の空いた席に腰掛けると、先輩がこちらに顔を向けた。 「安養寺、丁度いいところに来た。このデータ直してくれ」 いきなり先輩から用紙を渡され、隣の端末で赤く修正されたデータを打ち直していく。 板野先輩はといえば、机上デバッグしたプログラムのコンパイルを実行するところである。 俺がデータの修正を終えてソースリストを見ていると、突然、先輩が大声を上げた。 「よっしゃあ! コンパイル終了だ! 安養寺、データはできたか!?」 「できあがってますよ」 「よし! テストするぞ!」 先輩の横に立ち、コンパイルが終わったプログラムが走るのを見ていると、またエラーで落ちた。 再び頭を抱える先輩を横目に、椅子に座って詳細設計書を読んでみる。 (うん……?) さっき見てたソースリストのプロシージャー・ディヴィジョン
翌日も、そのまた翌日もプログラムと格闘する日々。帰る時間も十九時、二十時、二十一時と遅くなっていく。 だいたい、プログラムを制御するジェーシーエルという汎用機はんようき向けの言語がよく分からない。 コンパイルしてエラーを潰つぶす作業を繰り返していると、アパート近くにある蕎麦屋の娘の顔が浮かんでくる。 (あ~あ、最近あの蕎麦屋へ行ってねえなぁ……) あの娘の笑顔が何度も脳裏を過ぎると、無性に蕎麦が食べたくなってしまう。 そんな思いに耽り手が止まった夜八時過ぎ、仕事に集中しようと休憩室でコーヒーを飲んでいると、ガチャリとドアが開く音が聞こえ誰かが入ってきた。 「よう安養寺、そのモヒカン似合ってるぞ!」 聞き覚えのある声に振り向くと、しばらく顔を合せなかった板野先輩がニヤリと笑って立っている。 「お前も残業か」 「テストで出るエラーの原因が一箇所だけ分からなくて、それで帰れないんですよ」 「納期
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 「安養寺君、その頭はなんだ? 鶏のトサカみたいじゃないか」 声をかけられてハッとし、振り向くと大滝課長が立っている。 カツラで偽装した頭を見抜くような厳しい視線を投げつける課長に、咄嗟とっさに適当な言葉が出た。 「嫌だなぁ、これツーブロックっていう流行のヘアスタイルですよ? あそこの人も向こうに座ってる人もツーブロックにしてるじゃないですか」 指さす男たちを見て、再び俺の頭を見る。だが、大滝課長は首を捻ひねりながら言葉を続けた。 「そう言われれば同じようだが、君のヘアスタイルはツーブロックというより板野の頭と同じに見える。新人歓迎会で彼と話してたけど、影響されたんじゃないだろうね?」 「流行に乗っただけですよ。女の子にモテたいですからね」 「しかし、君の頭は後頭部の
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 仕事に戻り、再び始まるプログラムとの格闘。 向かいの席に座る薮田さんを見ると、左手で頭を抱えながら体を揺すっており、なにかブツブツと呟つぶやいている。 (集中しすぎて独り言でも言ってるのか?) 薮田さんがなにを言ってるのか気になってしまい、自分の仕事に集中できない。どうしても呟いていることを知りたくなり、話しかけてみた。 「薮田さん、さっきから独り言を喋しゃべってますけど、なにを言ってるんですか?」 俺の問いかけに、薮田さんが顔を向け口を開いた。 「僕は仕事で壁にぶつかったとき、ブルース・リーの言葉を思い出して奮ふるい立たせるんです」 「えっ! 薮田さん、ブルース・リーのファンなんですか?」 「えぇ、大好きですよ。子供の頃、雑誌の広告に載ってた截拳道せっけんどう講座
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 鍋とフライパンを片付けて服を脱ぎ、バスルームに入りシャワーを浴びる。 股間を見れば女の液体がベッタリ付き、白く乾いてバリバリになった自分の陰毛があった。 (これじゃ女の匂いがするって嫌な顔されるよなぁ……) 電車の中で、白い眼で俺を見ていた女子大生の集団を思い出す。 シャワーで流し、体を洗ってサッパリすると、バスルームから出てギターを取り出した。 以前からコピーしようと思っていたレザーフェイスの「トレンチフット」をラジカセで流し、ギターを弾く。 曲を途中で止め、繰り返し再生しながら弾いていくが、同じところで何度もつまづいてしまう。 弾けるようになるまで何度も練習し、なんとか間違えずに曲の最後まで終わらせてからラモーンズの「ブリッツクリーグ・バップ」を軽く弾き、ギター
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 途中、アパート近くにある教習所から突然車が飛び出してきて驚いたが、俺より運転している女と助手席の教官のほうがびっくりした顔をしている。 思わず笑ってしまったが、俺も教習所に通ってるときはドキドキしながら運転したものだ。 部屋に着いて洗濯を始めたものの、体が怠だるく他のことをやる気が起きない。 洗濯物をベランダに干した後、ゴロリと横になって寝てしまい、気づけば夕方になっていた。 (いけねえ……洗濯物、干しっぱなしだ) 慌あわてて洗濯物を取り込んで、アイロンをかけるワイシャツを残して他の服をクローゼットにしまいこみ、財布を持ちシャツのまま夕食を買いに出かけた。 日が傾いてきて少し寒いが、近所へ出かけるだけだから大丈夫だろう。 毎日コンビニ弁当だと飽きてくる。歩きながら、
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone (やるって、なにをやるんだ?) 彼女の言葉を理解できないままでいると、ミーが俺の左腕を掴つかみ歩きはじめた。 引っ張られるまま付いていくと、悲鳴館近くのコンビニの角を曲がり、路地に入ってすぐのラブホテルに入っていくではないか! (えっ? えぇっ?) 自動販売機のような機械で部屋を選ぶシステム。ミーに促うながされて金を入れ、二時間六千円の部屋を選んだ。 昨夜童貞を喪失したばかりなのに、今日もラブホテルに来ることになるとは。 エレベーターに乗って部屋へ行くと、ミーはソファーにバッグを置いて服を脱ぎ始めた。 「一緒にシャワー浴びようよ」 肉付きの良い彼女の体を見ていると、分身に力が漲みなぎってくる。 素っ裸になったミーに服を脱がされ、バスルームでシャワーを浴びながらお互い
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 股間の痛みに耐えながら駅まで歩き電車に乗るものの、気分は晴れない。ラブホテルに入ってしまったとき、受付のオヤジに助けを求めることもできたはずだ。 吊革に掴まり窓を見ると、虚ろな目をした自分の顔が目に入る。 最低の初体験だった。相手は行きずりの知らない外人だし、彼女の性欲処理の捌はけ口にするために狙いを定めて絡まれたとしか思えない。 最後は自分の意志で欲望を吐き出したものの、どこか犯されてしまった感が拭ぬぐいきれないでいた。 地下の暗闇を走る車両が、女体中央への旅をしている自分の分身と重なる。熱くヌルヌルした肉体のトンネルを走ってきた俺は、初体験への失望という名の列車を乗り継いでアパートへ向かっている。 どの路線を使って最寄り駅までたどり着いたのかも覚えておらず、コン
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 便器の前に立つと、どれくらい膀胱に入ってたんだと思うほど小便が出る。 スッキリして外に出ると、みんな帰ってしまったのか会社の人たちは誰もいない。 飲み会の喧騒から解放され、週末で賑わう都会の雑踏の中に一人取り残されてみれば、周りに人が溢あふれて騒がしいのに孤独感に包まれるのは何故なんだろう。 酒で火照った体を冷やしてくれる夜風が心地よい。その風に乗るように人混みをすり抜け、コツコツと足音を刻みながら進み路地に入る。 六本木駅に向かって歩いていくと、目の前にある自動販売機のところに人が立っていた。 (さっきの外人だ……) 近くまで来て分かったが、立っていたのはトイレで鉢合わせした外人である。なぜか女がこちらを見ているので咄嗟とっさに視線を逸そらせて歩みを速め、とっとと
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 目の前で一気にビールを飲み干し、空になったジョッキを手に立ち上がると、部屋のドアを開けて叫ぶ。 「お姉さーん! 生ビール二杯追加!」 板野は、まるで餌を待つ犬のようにドアの前に立ち、ひったくるようにジョッキを奪って席に戻ってきた。 ひとつを俺の前に置き、もうひとつを自分で飲む。 「飲めよ。もう誰も気にしちゃいねえぜ」 板野は俺にビールを勧め、手にしたジョッキを煽って自らも腹に流し込んでいく。 俺もグビグビ飲んだところで、また板野が口を開いた。 「ニューアルバム発売に合わせて、スターグラフのツアーがある。東京のライブは新宿ロストだ。おまえ、俺と一緒に行くか?」 「もちろん行きますよ! 板野さん、でしたっけ? 俺、安養寺です。駒田主任のサブシステムに配属されました」 「
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 地下鉄を乗り継ぎ、俺たちは六本木へ。 駅の改札を抜けて地上へ出ると、道路の両側を埋め尽くすように立ち並ぶビルの狭間を、夜の街を彩るネオンや照明に照らされながら、大勢の人たちが歩いている。 日は沈んでるはずなのに、昼間と見紛う明るさの六本木の街を、車の走行音やクラクション、街を行き交う人々が出す騒音を聞きながら、原口係長たちの後に付いて人混みの喧騒の中を進む。 六本木通りを歩き、路地に入って少し行くと八木部長が一軒の店の前に立ち止まり、俺たちを待って店内に入った。 店はちょっとお洒落な居酒屋で、店員に案内されて個室へ行くと二十人くらい座っている。 「部長、お疲れさまです」 「大滝君、全員揃ってるの?」 奥に座っていた中年男が立ち上がり、八木部長に挨拶する。どうやらこの
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 開発部はユニックス機が置いてある部屋と同じフロア、会社が入っているビルのひとつ上の階にある。 階段を上っていき、「日本データサービス開発部」と書かれたドアを開けると、右側がユニックス機が置かれている部屋のドア、正面のガラス扉の向こうが開発部だ。 ガラス扉の前で立ち止まり、周りを見ると誰も入ろうとしない。仕方がないので、自分でドアを開けて一番に中に入った。 向かい側にある窓から太陽の光が差し込む室内では、大勢の人が黙々と働いている。 入ってみたものの、どうすればいいのか分からないので、とりあえず近くにいた男に話しかけてみた。 「すいません、システム一課に配属された安養寺ですが」 「あぁ、新人さんね。奥にいる八木やぎ部長のところへ行って」 手で指し示された方向には、一人
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone お喋りを続ける女二人を引き連れ、ビルの谷間を歩いて会社へ向かう。 後ろを歩く安田さんと馬場さんは、相変わらず俺の顔のことで盛り上がっており、どんな服が似合うか話している。 俺の私服なんて革ジャンにジーンズ、ブーツかスニーカーだ。 襟えり周りと袖そで口、ポケットのファスナー周りにスタッズを打ったライダースジャケットに膝ひざが破れたジーンズ、基本はラモーンズだ。他に何がある? 後ろから聞こえてくるラガーシャツを着るなんてゾッとするし、ファッション雑誌に載ってるような洒落しゃれた服なんて冗談じゃない。きっと二人は、パンクスなんて見たことないんだろう。 会社に到着し、タイムカードを打刻して会議室に戻ると、すでに全員着席しており、俺たちが着席してすぐに桑原課長をはじめとした人
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 人事部で書類を訂正して会議室へ戻り、桑原課長促うながされて席に着く。人事部から、会社の組織がどうなっているのか説明するらしい。 「日本データサービスは、銀行や証券会社のコンピューターシステムを開発するソフトウェア会社です。社内は開発部、営業部、経理部、人事部、総務部の各部署に分かれてます」 開発部はソフトウェアを作る仕事、営業部は仕事を探し、経理部は利益や給与計算、人事部は社員の評価や配置を考え、総務部は会社の事務その他を行うようだ。 「履歴書に書かれた希望や面接で聞いたこと、研修の結果などを参考に配属先を決定していきますが、全員が希望どおりの部署で働けるわけではありません」 配属先の希望もクソもあるか。仕事をしたくて東京に来たわけじゃない。俺はパンクバンドでプレイ
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 気怠けだるい午後の昼下がり、帝釈天と柴又駅の間を通る道を、春の日差しを浴びながら昨日とは反対方向に歩く。 ガソリンスタンド、コンビニ、焼き肉屋、埼玉の実家付近では絶滅してしまった畳屋も営業している。 散歩がてらニ十分ほど歩いて葛飾区かつしかくから江戸川区えどがわくへ入ると、左手に京成小岩けいせいこいわ駅があった。 この辺りで路地に入り、知らない道を歩いて帰ってみようと思い立ち、京成小岩駅前の信号を右へ曲がり、四つ目の信号を再び右へ。 どこをどう歩いてるのか分からないが、迷子になったみたいで面白い。感を働かせながら踏切を渡って線路沿いを歩いていくと、アパート近くの自動車教習所の横に出た。 (へぇ、こんな位置関係なんだ……) なんだか少しだけ柴又周辺を理解した気分になっ
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone アパートへ来るときに通った道を高砂方面に向かい、駅前にあった大型スーパーを目指す。 昨日は気付かなかったが、高砂駅へ行く途中の踏切手前に蕎麦屋を見つけた。好きな食べ物だし、今日の昼飯は決定だ。 大型スーパーに到着し、カーテン売り場を探して二階へ。いろんな色柄のカーテンを見て回るが、カーテンって意外と値が張る。 ちょっと驚きの価格に躊躇して安いカーテンを探していたら、通路に置いてあるワゴンが目に留まった。 近づいてみると特価品を販売している。しかも、その中にはカーテンも置いてあったのだ。 (ピンクのカーテンかぁ……しかも女の子向けのキャラクターものだ) いくらなんでも、男がそんなカーテンを使ってたら変態扱いされる。しかし、初月給まで手持ちの金で遣り繰りしないと暮らせな
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone アパートを出て右に行くと少し大きな通りに出る。 その通りを左へ曲がり少し行くと、右側には有名な映画で何度も見た帝釈天の参道が現れ、左側には、失恋した主人公が大きなトランクを持って旅に出る柴又駅があった。 (ここが柴又駅に帝釈天参道かぁ……) 柴又駅を少し見てから道路を渡り、反対側の参道へ行ってみる。 参道の両側では店を閉める準備をしていて立ち寄れそうになかったので、いちばん奥にある帝釈天へ向かった。 柴又帝釈天は映画で見たとおりの寺だ。夕暮れ時、人も少なく静かな境内を見回し、これから始まる新生活が楽しくなるよう参拝しておこう。 帰宅途中、曲がり角にあったコンビニで弁当とビールを買い、来たときと違う道を通ってアパートへ。 ポケットから鍵を取りだしてドアを開けようとした
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 荷物を詰めたバッグを持ち、まずは不動産屋から鍵を預かっている銀座の伯父の店へ向かう。 山手線の新橋で下車し、歩いて銀座へ。 伯父の家は銀座といっても外れにあり、新橋に近い。昔は木挽町といい銀座じゃなかったらしいが、戦後に銀座の一部となり地名が消滅してしまった。 今でも父や伯父は木挽町と言う地名に愛着があるらしく、料亭がたくさん並んでた当時の話を聞かせてくれることがある。 平日の午前中、埼玉の家なら長閑なひと時が過ごせるが、ここは東京。霞がかった春空の下を歩きながら目に入るのは、高いビルと首都高速道路、人と車ばかり。家では広々と見渡せる空が高層建築群で遮られ、狭く感じてしまう。 海岸通りを渡って銀中通りに入り、伯父の店の前にたどり着く。 「こんにちは」 十字路の角に立
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 駅までの道のりで一本吸い、銀座線で上野まで行きアメ横へ向かう。 地下鉄の中でも降りてからも、判で押したように若い男はソフトスーツ、若い女はワンレンかトサカ前髪で肩パットが入ったボディコン。聞こえてくるのは笑い声ばかり。 どいつもこいつも好景気に浮かれ、未来はバラ色だと信じて疑わないんだろう。 「よく分かんな~い」 白痴としか思えない言葉を連発する若い男女の集団にイライラし、横断歩道を渡りながら、頭の上に右手を持っていきクルクルパーをしながら追い越す。 全員が流行ばかり取り入れた同じような格好、自分に似合うかなんて考えてない最悪のファッションセンス。 自分を良く見せたかったら、もう少し頭を使ったほうがいいぜ。でも、あんたらにゃ無理か。誰かが儲けるために作られた流行りや
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 一月半ば、高校卒業を目前に控え、まだ進路が決まってなかった俺は、親や教師に将来のことを考えるよう言われるのが嫌で、学校帰りに本屋へと足を向けた。 就職情報誌を適当に開いて目に入った求人欄の電話番号を覚え、家に帰って電話する。たった一度、名前も知らない会社に電話しただけだった。 「面接を行いたいので、弊社までお越しください」 担当者から日時を伝えられたので、会社名と住所を確認した。電話番号を暗記するだけで精いっぱいだったんだ。聞かなきゃ行けない。 会社の名は「日本データサービス」といい、中央区の日本橋にある会社だ。 面接を受ける前に、金髪を黒く染めておこう。それと、制服に付けたスタッズやパンクバンドのワッペンを剥がしておくことにした。 ドラッグストアで黒いヘアカラーを
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone この映画について聞かれると、筆者は勝手に「ジュラシック・パークに対する東映からの回答」と説明している。 誰が北京原人を演じているのかという仕掛けもまったく話題にならず、制作した東映が大赤字になって会社が倒産しかけたという、いわく付きの超話題作である。 出演は、緒方直人、片岡礼子、本田博太郎、丹波哲郎、ジョイ・ウォン。監督は「新幹線大爆破」「野生の証明」「人間の証明」などの佐藤純彌。佐藤は、東映が「鉄道員(ぽっぽや)」でこの映画の赤字を埋めるまで、興行失敗の責任を取らされしばらく干されてしまう。 映画ファンの間では、デビルマンやシベリア超特急と並び、邦画史に残る歴史的失敗作の一つとして語られ続けている映画らしいのだが、そんなもの、東映には掃いて捨てるほどある。迷作だの
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 春の冷たい雨の中、後ろが気になり何度も振り返りながら家路を急ぐ。いまだに背中を走るゾクリとした悪寒が治まらない。 稲荷神社から家まで僅か八百メートルの距離、その道のりが途方もなく長く感じる。 「あれは祟りだ」 年配の氏子たちが言ってたように、神社を移転しようなんて考えちゃいけなかったんだ。宮司も、市長と一緒になって金儲けなんて考えなければよかったのに。 上越新幹線の新駅設置が決まり、駅周辺の区画整理が市の計画として発表された矢先だった。 道路を拡張するのに、神社が邪魔になるから移転させようなんて、罰当たりなことを考えるからこんなことになったとしか思えない。宮司も市長も、むかし神社で起こったことを知ってたんだから……。 氏子総会での恐怖の出来事。人知の及ばない力に倒さ
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone ※嫁に「工事現場の騒音みたいなのばかり聴いてないで、これを聴いてみろ」とCDを渡されたので、忘れて夫婦喧嘩にならないよう記しておく。 「革のパンツにブーツ、ありきたりなヘヴィメタルの格好は嫌だったんだ。ラモーンズを見てみろよって感じでね」 かつて、ニューヨークのスラッシュメタルバンド、アンスラックスは、インタビューでパンクロックへのシンパシーを口にした。そして、そのアンスラックスが影響を受けたというラモーンズのジョーイ・ラモーンは、ロックバンドに必要なのはエナジーとアティチュードであることを公言して憚らなかった。 パンクやハードコアというと、80年代の日本では、パンクバンドを積極的に紹介していたDOLL誌あたりでもイギリスのバント一辺倒で紹介されており、アメリカのバ
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 「俺は死ぬとき、残される妻に何を言うんだろう」 そう思ったのが、夢幻の旅を考えるきっかけでした。女性の寿命のほうが男性より長く、どう考えても先に死ぬのは俺だろうと。 書くなら夫婦の物語としてだけではなく、家族の死と、残された家族が死者について感じることを、自分の生死観で書いてみよう。 「天国も地獄もない。人は死んだら自然に帰る」という考え方を中心に、突然病気になった自分と家族、妻にも言えない秘密、親子の絆などを書いてみたつもりですが、第一話から読み返してみると、なんとまあ杜撰な出来。 いちばん最初に良美の最後のシーンが思い浮かび、そこに向かって終わるように考えはじめたんですが、最初光平は死ぬ予定ではなかったんです。 書きはじめようとしたとき、ハッピーエンドで終わって
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 「こんなに早く亡くなるなんて……」 「光平、迷わずお父さんのところへ行くんだよ」 八月二十日、身内だけで光平さんの四十九日法要を行い、お義父さんが眠る墓への納骨を終えた。 荼毘だびに付してもらう前、棺を閉じるときに黒い日記を中に入れた。必ず蛍ちゃんに会えるようにと願いを込めて。 光平さんが亡くなってしまったことで私の心にぽっかりと大きな穴が開き、今も半ば心神を喪失してるような時がある。 あの日、光平さんは二度と意識を取り戻すことなく、まるで家族の到着を待っていたかのように、お義母さんと私の母に手を握られてから心臓の動きを止めた。 お義母さんは、自分より先に亡くなった息子の死を受け入れられず、葬儀が終わってから寝込んでしまうなど、私が心配するほど落ち込んだ。 ジョニー
お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone いまでも俺はやり続けてる お前との約束を果たすため レコードとは違うものになってしまうけど お前のビートに乗せて 言葉を紡ぐ 不幸が続き 狂気に抱かれ 闇に沈んだ 正気を失くしたお前との約束を果たすため 忘れない初期衝動 繰り返すあのビート 言葉をおもちゃのように使えないから 他の奴らのように上手くいかないけど チャールズ・ブコウスキーとは違うから かっこよくいかないけど いまでも俺は お前の叩くビートに乗せて言葉でリフを刻む 日常の幸せの中 目の前に血まみれの腕が落ちてるような世界を作るため いまでも俺はやり続けてる お前との約束を果たすため レコードとは違うものになってしまうけど お前のビートに乗せて 言葉を織りなす 不幸が続き 狂気に抱かれ 闇に沈んだ 正気を
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