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今年の「かわいい」
econ101.jp
近年、アメリカで経済的不平等への関心が大変高まっている。このことを考えると、高等教育、そして、アメリカで最もランクの高い大学が実はもはや階層流動性を高めるためのパイプとして機能していないという事実に、大きな注目が向くのは自然なことだ。例えばトマス・フランクは、授業料が過去30年間で1200%も上昇したことをしきりに嘆いている(この記事やこの記事)。しかしフランクは他のアメリカの論者たちの多くと同様、もっと明白な問題を見落としている。アメリカのトップ大学がたとえ授業料をゼロにしたとしても、社会的不平等は減らせそうにないのだ。なぜならこの対処策は、学生数が少なすぎるというアメリカのエリート大学の最も根本的な問題に手をつけていないからである。 カナダ人は、国境の南側で子育て競争の過熱を嘆くアメリカ人の声を飽きるほど聞いている。子どもをイェール大学に入れたいなら、「充実した」保育が行える大卒のベビ
まだ消えたわけでもない人物に対してなんだが、スティーヴ・バノンについて次のように論評するのはフェアなはずだ。彼は2つの点で私たちの記憶に残り続ける人物となるだろう。第一は、彼のメディア戦略だ(「一面にクソを撒き散らせ」)。第二は、アンドリュー・ブライトバート(Andrew Breitbart) [1]訳注:アメリカの右派メディア、ブライトバート・ニュース・ネットワークの創業者。 のスローガン(「政治は文化の下流にある」)を広めたことだ。このスローガンはアメリカの文化戦争の大乱戦の幕を開いた。「政治は文化の下流にある」という考え方は、1960年代以後「リベラルはハリウッドを支配し、保守はワシントンを支配した」との主張と密接に結びついている。 2017年にこの議論を初めて聞いたとき、私は耳をそばだててしまった。知っている人もいるだろうが、私は2004年、アンドルー・ポターと『反逆の神話』という
マシュー・イグレシアスが最近挙げたシリーズ記事「新自由主義とその敵」は一読の価値ありだ。イグレシアスの記事は、人気を博しているとあるナラティブに対する解毒剤となっている。そのナラティブというのはこんな感じだ。今日の経済・社会問題は1980年代から2010年代にかけての「新自由主義の時代」の帰結である。この時代に、規制緩和、市場原理主義、政府緊縮といったイデオロギーが、アメリカ、そして世界中の政策エリートの心を掴んだ。 イグレシアスは、「新自由主義の時代」が存在したことを否定してはいないが、それが完全に悪であるとか、広く蔓延っているといった主張には異議を申し立てている。結局、ビル・クリントンが「大きな政府の時代は終わった」と宣言してからほぼ30年間、規制も政府支出も多少の揺れはあれ一貫して増え続けてきたのだ。レーガンも、巨額の財政赤字を出しながら、日本との貿易戦争を戦い、防衛技術や半導体事業
一ヶ月ほど前、小学校三年生になる娘が放課後に私のところにやってきて、紙とペンを催促してきた。「何に使うの?」と私は尋ねた。「クールなものを見せてあげる」と娘は答えた。 なので、用具を持ってきて、娘に渡した。彼女はペンを取って、タブレットの上にかがんでスケッチを始めた。何秒かたって、次のようなものを描いた。 娘は顔を上げて、すごい秘密を打ち明けるかのように、はにかんだ笑顔を見せた。「クールでしょ?」 私はただうなずくしかなかった。プライド、ノスタルジー、後悔なんかが入り混じった奇妙な感情が渦巻いて、涙が出そうだったからだ。娘が描いていたのは、かつて友人が「メタルS」と呼んでいたものだったからだ。「メタルS」以外だと、「クールS」、「スーパーS」、「サーファーS」と呼ばれていた。私が小学6年か7年の頃には、教室の半分ほどの生徒が先生のいいつけを無視して、ワークブックやリュックやスニーカーやジー
先週のアメリカ大統領選でのドナルド・トランプの勝利は、衝撃的だったと広く語られている。しかし、現在世界中で行われている選挙を見てみると、そこまで驚くに値しない。どの国でも、現政権は、コロナ危機の余波――特にインフレ恐怖症を引き起こした物価ショックから打撃を受けている。世界中で有権者は、不安を抱き、フラストレーションを感じ、変化を求めたのだ。 最近の選挙で、真に大勝したのはメキシコのモレナ政権だけだ。今年になってイギリスとフランスでは現政権が〔投票シェアの変動で〕カマラ・ハリスの4倍のダメージを被っている。 〔各国の政権与党のイデオロギーと、選挙での政権維持の是非、投票シェアの変動〕 出典:ブルームバーグ こうした他国との〔票の変動の〕比較の観点からだと、アメリカ民主党はそこまで大敗したわけではなく、相対的に良いとさえ言える。アメリカの状況で本当に異常なのは、ドナルド・トランプがワールドワイ
2010年代に,アメリカの平均寿命は横ばいになって,さらにはわずかながら縮んでしまった.その後,パンデミック期に平均寿命は急落した.コロナウイルスのせいだ(また,そこまで大きい要因ではないけれど,殺人件数や薬物濫用の増加による部分もある).これを受けて,アメリカとその将来についてすごく悲観的な物語がいっそう強まったりもした. ところが,そういう物語がどんどん増えているなかで,トレンドは逆転を遂げている.アメリカの平均寿命はまた伸びつつある.すでに,パンデミック期に失った分は取り戻されている: Source: UN via @StatisticUrban 全体的に,近頃のアメリカは以前よりもちょっとだけ健康に見える.薬物濫用による死亡件数は2023年に減少したし,殺人も2021年後半から減少を続けているし,肥満も減少しつつある. よくあることだけど,アメリカの衰退をささやく噂は大幅に誇張され
昔からの友人に、いわゆる「ドラマクイーン(drama queen)」 [1]訳注:芝居がかった大袈裟な言動で過剰に騒ぎ立てる人を指す表現。「悲劇のヒロイン」のニュアンスに近い。 がいる。といっても、泣き叫んだり人を怒鳴りつけたりするといったステレオタイプな意味でのドラマクイーンだったわけではない。彼女は教養と知性のある女性で、その行動は非常に目立ちにくいものだった。実際あんまりにも目立ちにくいので、彼女の問題に何年も気づけなかったほどだ。 彼女は常に、人間関係の複雑な網の目の中心人物だった。その人間関係はいつも不安定で、常に「何か」が起こっており、彼女はそうした問題について熱心に語りたがった。彼女の話に引きずり込まれないようにするのは至難の業だった。知り合ってから最初の10年くらいは、彼女がそうした問題について語る度に、私も熱心にそれを聞いて、様々な視点から問題を検討し、あり得る解決策をい
アセモグル・ジョンソン・ロビンソンの3人が,経済発展の大統一理論で受賞 毎年,ノーベル経済学賞が発表されるたびに,このブログで記事を書いてる.ここ3年だと,2023年のゴールディン,2022年のバーナンキ・ダイアモンド・ディブヴィグ,2021年のカード・アングリスト・インベンスについて,記事を書いた.でも,今年は書かずにすませようかとも思った.なぜって,実は今年の賞についてぼくはあんまり面白く思ってなくて,それでみんなをしらけさせるのはイヤだったからだ.とはいえ,かつては主流マクロ経済学を批判するのがブロガーとしてのぼくの持ち味みたいなものだったし,いったん自分のルーツに戻ってみるのも悪くないかもしれない. 長くこのブログを読んでる人ならきっと知ってるだろうけど,ぼくはノーベル賞全般をあまりよく思っていない.実際には,たいていの大発見は集団での大きな努力および/または小さな漸進的累積のたま
「アセトアミノフェン / ほらお薬だよ / ああキミったら」 ―― The White Stripes 大きな吉報がやってきた.何十年も手が付けられないほど上昇を続けた末に,ついにアメリカの肥満率が下がりだしてる.国民健康栄養調査(医師の診察にもとづくすごく信頼できるデータソース)から得られたデータをジョン・バーン=マードックが分析したところ,2020年以降に肥満率が下がってきているのがわかった: Source: John Burn-Murdoch このグラフにはひとつ問題点があるのには留意したい(折れ線の末尾に矢印を描くと誤解を招くのにいまだにジョンが矢印をつけてるのとは別の問題点だ).実際の国民健康栄養調査データは2年の時間をかけて収集されている.だから,バーン=マードックが「2023年」とラベルを貼ってるデータは,実のところ2021年8月から2023年8月までのデータだ.このちょっと
本エントリは、私が書いてきた中で最も人気のある記事の再投稿である(元々は2017年にMediumで投稿したもの)。読者の中で既に読んでいた人がいたら申し訳ない。このエントリでは、私がよく人から尋ねられ、また私自身今も再検討し続けている、ある仮想的推論を扱っている。 *** 古代ローマ帝国で産業革命は起こり得ただろうか? これは、ヘレン・デール(Helen Dale)が新著『邪悪な者の帝国』”Kingdom of the Wicked“〔未邦訳〕で提起している問いだ。本書を読むと、キリストは(私たちの住む世界とそう変わらない)古代ローマ世界における宗教的過激派であったのだと思わされる。デールの小説は、テロリズム、グローバリゼーション、拷問、文化の衝突に対する私たちの態度に、新しい光を投げかけている。非常におすすめだ。 一方でデールは、古代世界において持続的な経済成長は可能だったか、という問い
驚くべき動画が公開された。アレックス・タバロックとタイラー・コーエンが最近、彼らの運営する「マージナル・レボリューション大学」 [1]訳注:タバロックとコーエンが運営するブログ「マージナル・レボリューション(Marginal … Continue reading でミクロ経済学の新コースを開講するにあたって、入門教科書の宣伝も兼ねた短いプロモーション動画を公開したのだ。彼らは、「経済学って楽しい、親しみやすい、怖くない」と思えるような動画作りに力を尽くしている。ほとんど全てのセリフにちょっとしたかわいらしいアニメーションがついていて、経済学の勉強は怖くないと思ってもらえるよう作られている。だが動画も中盤にさしかかると、彼らはそれまでの努力をうっちゃって、普通の視聴者を置いてけぼりにすること請け負いのセリフを述べ始めてしまう。動画を見て、彼らの失敗に気づけたか確認してみてほしい。 Intro
カナダの首相〔当時〕、スティーブン・ハーパーは戦争好き(warmonger)だ。読み間違いではない。うっかりrabble.ca〔カナダの左派系メディア〕に迷い込んでしまったのでもない。私はつまらないことを指摘してハーパーを貶めようとしているのではなく、単に事実を述べているだけだ。スティーブン・ハーパーは戦争支持者である。ハーパーは、戦争を実行に値するものだと考えている。戦争にはその害悪を埋め合わせる多くの長所がある、と彼は考えているのだ。 たくさんの論者がこのことを指摘してきた。なんだかんだ言っても、第一次世界大戦の開戦をわざわざ祝った政治家がどれくらいいただろうか? 「権利と自由に関するカナダ憲章」の採択よりも、米英戦争の方が記念すべき出来事だと考える人などいるだろうか? ハーパー政権は、誰も聞いたことがない交戦や戦闘の記念日を祝福する奇妙なプレスリリースをしょっちゅう出している(この方
2週間前の記事で,中国が総需要不足に苦しんでるって話をして,解決法も論じておいた(日本語版).その解決法とは,中央政府が A) 銀行と地方融資平台に救済措置をとることと,B) 財政・金融の両方で刺激策を打つことだ. ひょっとして,習近平がぼくのブログを読んだのかもね [n.1].中国は,もっと本格的な刺激策を打ち出している: この火曜に,中国人民銀行は,世界中に生中継するという珍しいかたちをとって記者会見を開き,市場心理に息を吹き返させるための先陣を切った.いわばこれまで温存していた武器庫を開いて,株式市場に資金を投入し,借り入れコストを引き下げるという.その翌日にも引き続き前向きなニュースを提供した.すなわち,市中銀行を対象とする1年間の融資の金利〔政策金利〕を記録的な下げ幅で引き下げつつ,政府が異例の現金給付を実施するとともに,仕事のない新卒者の一部を対象に補助金を出すことを発表した.
今年の3月、私は光栄にもエプスタイン・レクチャーの講師として招かれた。「エプスタイン・レクチャー」という講義名は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの偉大な経済史研究者、「ラリー」ことステファン・エプスタイン(Stephan R. Epstein)に由来している [1]訳注:元エントリでは”Larry (Stephen) Epstein”と表記されているが、著書などにおける著者名はStephan … Continue reading 。このエントリでは、エプスタイン・レクチャーの講師となることが大変な名誉である理由を簡単に説明したい。レクチャーの内容については次の投稿を見てほしい。 エプスタインは元々、中世イタリアが専門の歴史学者だった。私がエプスタインに出会ったのは『自由と経済成長』”Freedom and Growth“〔未邦訳〕という本だ。この本は2000年に出版されているが、私
現代の「批判的」な学術研究の最も際立った特徴の1つは、実践者の間で自己批判がほぼ完全に欠如していることだ。アカデミア内部でこの手の研究に対してよく言われる不満は、それがラディカルであるとか、社会秩序にとって危険で破壊的であるといったものではなく、それが極度に教条主義的になっているというものだ(批判的研究の実践者たちはこうした非難を、自身の研究がいかにラディカルで危険で破壊的であるかを確証する証拠と解釈するのに長けている。批判的研究が批判を受け付けないようになってしまった大きな理由の1つがこれだ)。 そのため私はブルーノ・ラトゥールの「なぜ批判は力を失ったのか?」“Why Has Critique Run Out of Steam?”というエッセイを読んで、新鮮な印象を受けるとともに、一種の啓示を得た気分だった。ラトゥールがこのエッセイで発している一連の問いは、批判理論家を自任する者なら誰に
イェール大学の高名な政治学者、ジェームズ・C・スコットが今月(2024年7月)の19日に亡くなったという悲しいニュースが入った。 以下に掲載するのは、私が2017年に書いた書評(に少し変更を加えたもの)である。2017年はスコットの著書『反穀物の人類史』が刊行された年だ。私はこの素晴らしい著書を受けて、国家計画、農業、経済発展におけるハイモダニズム(high-modernism)への批判として名高く、私もよく学生や友人に勧めているスコットの前著、“Seeing Like a State”『国家の視点に立つ』〔未邦訳〕について再考したくなった。 『国家の視点に立つ』は、スコットの他の著書と同様、多くのリバタリアンや古典的自由主義者に広く絶賛された(こことここを見よ)。これは驚くべきことではない。『国家の視点に立つ』は、大がかりな国家計画に伴う見過ごされがちなコストを描き出している。スコットは
先日投稿した「ジョン・ロールズと西洋マルクス主義の死」(原文はここ、邦訳はここで読める)という記事が、このブログ(In Due Course – substak)に投稿してきたこれまでのどのエントリより数倍も多くの読者に読まれた。私はこの事実を突き付けられ、最近の人が何を読みたがっているのかについて、自分が根本的に何も分かっていないことを認めざるを得なくなった。これほどたくさん読まれると分かっていたら、このエントリはもうちょっと違った形で、カジュアルさを落として書いていただろう。 具体的に言うと、先のエントリは、私の人生の一時期に政治哲学の分野で起こった1つの論争を説明しようとしただけだった。西洋マルクス主義の運命について全般的な説明を行おうとしていたわけではなかったのだ。そこで私が述べたのはある意味で、(少なくとも哲学者の間における)マルクス主義理論へのとどめの一撃である。だが、マルクス
近年の政治環境で最も奇妙な点の1つは、はっきりとリベラルの伝統に基づいた価値観を奉じながら、そうした価値観を促進するために、明らかに反自由主義的と言いたくなるような戦略をとる人が非常に多いことだ。ソーシャル・メディアからファシストを追放したがっている「反自由主義的な進歩派の若者(YIP:young, illiberal progressives)」が、現代の共和党員のほとんどを「文字通りの意味でのファシスト」と見なしているという話は今やおなじみである。 こうした若い活動家が、自身の表明している価値観と自身のとる政治手法との間にある明白な矛盾に無頓着なことに、関わった人なら誰でも気づくだろう。傷つけられやすい多様なマイノリティを守るという大義を掲げながら、自分たちに同意しない人をキャンセルしたり罰そうとしたりするイジメのような戦術を用いることには驚くほど躊躇がない。戦術的なレベルに絞って考え
今夜の大統領選討論会では、両候補は自分たちが提案する財政赤字によって誰が利益を得るのかを説明すべきだ。 本(10)日午後9時(米国東部時間)、ハリス副大統領とドナルド・トランプ前大統領が、11月の選挙前最初の(そしておそらく唯一の)討論会で対決する。討論のモデレーター(司会者)を務めるのはABCニュースのキャスターで、候補者たちに国内政策と外交政策の重要課題について幅広く質問に答えるよう迫る。また、ほぼ間違いなく、政府の赤字(government deficits)と(いわゆる)国家債務に対処するためのプランを明確に示すよう両候補者に求めるだろう。 ドナルド・トランプは大統領時代、政府の赤字について多くを語らなかった。彼が「赤字」(deficit)という言葉を使ったのは、一般教書演説でアメリカの貿易赤字(trade deficit)に言及したときと、インフラ整備の赤字(infrastruc
一般的に、為替レートの標準的なマクロ経済モデルは実際のデータにうまく適合しないと考えられている。しかし、この記事では、実質金利、予想インフレ率、アメリカの貿易収支、グローバルリスク、流動性需要などの指標を含めたモデルが、21世紀のアメリカドルと他のG10諸国の通貨との為替レートの実データに適合すると論じる。〔マクロ経済モデルの〕貨幣と非貨幣の両方の変数によって、為替レートの動きを説明することができる。1970年代以降、モデルの適合性は徐々に改善しており、これは金融政策の改善(インフレ・ターゲット導入)と関連している。 一般的に為替レートの標準的なマクロ経済モデルは、実際のデータにうまく適合しないと考えられている(例えば、Meese and Rogoff 1983, Cheung, et al. 2005, Itskhoki and Mukhin 2021)。しかし、21世紀のアメリカドルに
旧東ドイツのテューリンゲン州とザクセン州の地方選挙で右傾化が進むことは、以前から予測されていたことだ。これは、旧東ドイツと旧西ドイツの間での格差が拡大していることを裏付けるものであり、すでに今年の夏の欧州議会選挙で露骨なまでに顕になっている。 出典:エコノミスト誌 ドイツで9月1日に行われた州議会選挙で、テューリンゲン州、ザクセン州での投票率は74%近くに達した。これは、旧東ドイツの有権者が既存政党に不満を持っているとしても、民主主義を見限っていないことを示している。 テューリンゲン州では、急進右派のビョルン・ヘッケ率いるAfD(ドイツのための選択肢)が、他の政党を大きく引き離して第一党となった。この記事を執筆している段階では、AfDが、非AfD連立政権の組閣を阻止できるだけの33%までの議席を獲得するかは予断を許さない状況だ。 ザクセン州では、〔中道右派政党〕キリスト教民主同盟(CDU)
このまとめ記事のシリーズ23回目で,中華人民共和国に批判的な言論を TikTok が抑圧しているのを示すとてもしっかりした証拠に触れておいた: ネットワーク伝播研究所 (NCRI) による新研究で,[中国がプロパガンダ目的に TikTok を利用しているという事態は]すでに起きており,しかも非常に実質のあるかたちでなされていることが裏付けられた.Instagram と TikTok に投稿されたショート動画のハッシュタグを比較することで,どの話題を TikTok のアルゴリズムが押し上げたり抑圧したりしているのかを把握できる(…).一般的な政治的話題(BLM,トランプ,中絶など)に関わるハッシュタグは Instagram に比べて 約 38% の人気を TikTok では得ている.ところが,中国共産党にとって差し障りのある話題の――たとえば天安門事件,香港の抗議運動,一斉検挙などの――ハッ
グリーンエネルギーは安価なエネルギーでもあるって話を,ここではたくさん書いている.太陽光発電とバッテリーによって,地球を煮えたぎらせずに産業文明を維持できるようになるばかりか,石油時代がはじまっていらい初めてエネルギーテクノロジーが根本から改善される.ずっと停滞が続いてきた一人あたりエネルギー使用量も増加してほしいところだ.実のところ,エネルギーは「安上がりすぎてメーターで測るまでもない」ほどになりはしないだろう――人々がエネルギーの新しい使い途をあれこれと見つけていって,需要も伸びるだろうからね.でも,エネルギーはいまよりも潤沢になるはずだ. 「でも,だからどうだっての? 誰がもっとエネルギーを必要としてるって? 豊かな国々に暮らす人たちは,もう住居を明るく照らすのも車で通勤するのもコンピュータを動かすのも冷蔵庫を稼働させておくのも,みんなまかなえてるじゃん.エネルギーにいっそう安上がり
正直に白状すると,はじめて上記の画像を見たときには,「なにかのでっち上げ画像だろうか」と思った. 天を突く高層ビル,太陽光発電所,コンテナ船,洋上の石油採掘施設――生成 AI で出力した都市・地方集住地の理想像で,集中管理された豊かな都市国家が描かれている.シンガポールかアブダビのような様相を見せるこの図像には,しかし,具体的にどことわかる見知った感覚はあまりわいてこない. だが,これはインチキ画像ではなかった.これは,2035年のガザ地区の図像だ.イスラエルのネタニヤフ首相官邸がこれを構想した.そう,10月7日のハマスによる攻撃への報復として暴虐な戦争をすでに8ヶ月も続けている,あのネタニヤフ首相の官邸だ.数百万人もの強制退去と 35,000人以上のパレスチナ人殺戮で一掃された土地,イスラエル国防軍によってガレキの山と飢餓の地域にされた人口の密集する都市空間に,ネタニヤフのもとで働くプラ
アメリカ合衆国の選挙に影響を与える実質的な争点はそう多くないが、その中でトップが移民問題だ。「国境の危機」は選挙での主要なテーマとなっている。これは、合衆国の国境沿いで国境警備員と移民との軋轢が劇的に増加している事実の反映でもある。2023年12月19日の1日間だけで、過去最多の12,000人の移民が許可なく合衆国・メキシコ国境に到着している。 2003年、合衆国・メキシコ国境間での移民数は過去最多を記録した 出典:ピュー研究所 2024年の世界移民報告書でも確認されているように、合衆国・メキシコ国境は、国家をまたいで移民が移動する単一回廊としては世界最大だ。 国家間の移民回廊 合衆国内では、「国境」は危険地帯として語られるのが一般的だ。混乱と苦難が現実化している、と。しかし、人の移動を比較している『世界移民報告』によるなら、ヨーロッパへの移住ルートのほうが、合衆国への移住ルートよりも死を
その昔,まだ私が学部生だった冷戦末期に,政治哲学で最高に熱い事態が起きていた.それは,英語圏でのマルクス主義の力強い再興だ.その仕事の大半は,「分析マルクス主義」という旗の下で進められていた(別名「たわごと無用のマルクス主義」ともいう).その発端となったのは,ジェラルド・コーエン『カール・マルクスの歴史理論:その擁護』の出版だ(あと,同書出版後にコーエンがオックスフォード社会政治哲学のチェリ講座教授に就任したこと).一方,ドイツでは,ユルゲン・ハーバマースの素晴らしく小さくまとまった『後期資本主義における正統化の問題』が出て〔1975年〕,マルクスによる資本制のさまざまな危機の分析を現代のシステム理論の言語に翻案して新たな息吹を吹き込む期待が高まった.若い急進主義者にとっては,実に熱い時代だった.誇張抜きに,こう言ってもいい――当時,政治哲学に携わっていたきわめて聡明でとりわけ重要だった人
ブラッド・デロングがマルクス主義の痛烈かつ正確な批判を書いている〔※リンク切れの模様〕.そのうえで,マルクス主義の教説で妥当な部分を誰か5つ挙げてみないかと問いかけている.このぼく以上の適任者っているかな? いま,〔マルクス主義の〕あらゆる主張を現代の文脈で現代の分析用語に翻訳する作業にとりくんでいる真っ最中だ.ぼくらの知るマルクスは,そんなにたくさん書かなかった.それに,そう,彼のアイディアの多くは,〔アダム・〕スミスその他に見いだせる. #1. 資本主義システムでは――とくに現代〔の先進国のような経済〕にいたる前は――小規模の生産にくらべて,おうおうにして自律性が低くなる.工業化以降,生活水準は向上していく.でも,メキシコの田舎に暮らす友人たちの多くを見てみると,工場に務めた方がいくぶん高い賃金を稼げそうだけれど,それでも自宅で陶器に絵付けする方を選んでいる.その方が,時間の使い方をず
なぜカナダの警察は法を執行しないのだろう? この素朴な疑問は、2022年初頭、フリーダム・コンボイ [1] … Continue reading の危機の際に湧き上がったが、10月7日のハマスによるイスラエルの攻撃と、それに続くイスラエルによるガザ地区への軍事侵攻を受けてカナダ世論の混乱が高まる中、この数週間で再び持ち上がった。ハマスとイスラエルとの紛争を受けて、カナダ市民の多くが街頭やその他公共の場で、集会・表現の自由を合法的に行使して、ハマスかイスラエルのどちらかの一方を支援している。 しかし、こうした集会や表現の多くは、ハラスメント、脅迫、ヘイトスピーチ、暴力の扇動といった形をとっており、一線を超えて犯罪行為となっているようにも見受けられる。最近話題なった事件だと、日曜日にトロントのイートン・センター・ショッピングモールで行われたパレスチナを支持する抗議活動だ。大人数(その多くは覆面
政治的な党派は,それぞれに,自分たちが優位に立てる論点を必要としてる.バイデンのもとで雇用市場は信じられないほどの堅調が続いているので,各種の右派は自分たちに「ちがうちがう,ホントは物事は酷いことになってるんだ」と言い聞かせるための理由を必要としている.そういうお得意の論点のひとつが,これだ――「雇用はみんな外国人にもっていかれているし,アメリカ人は移民に取って代わられている.」 ひどく誤解を招くグラフについては,つねづねみんなに注意喚起してる.上のグラフも,まさにそういうやつだ.このグラフは,以前の記事で誤りを論じてきた.左右に別々の軸を使うことで,アメリカ生まれの人たちの雇用の減少が,外国生まれの人たちの雇用の増加よりもずっとずっと小さいってことが見えなくなってしまっている.というか,アメリカ生まれの人たちの雇用がわずかに減少しているのすら,ひとえに,ベビーブーマー世代の大量退職による
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