3ヵ月で半減した株価
ソニーは12月9日、全世界の工場を1割減らし、従業員を約8000人削減する経営再建策を発表した。これはエレクロトニクス関連の全従業員16万人の5%にあたる。しかし株式市場はこれをほとんど評価せず、株価は一時上がったものの、週末には発表前の水準に戻った。私は10年以上前からソニーの株主だが、現在の株価は10年前に買ったときの半分以下になってしまった。
ソニーは本来、成長産業であるIT産業の中核企業だ。10年前に創業したグーグルはゼロから時価総額1000億ドル(9兆円)に成長し、「ウォークマン」をまねたiPodを開発したアップルの時価総額は8.7兆円だが、ソニーの時価総額は1.9兆円だ。なぜこんな差がついたのだろうか?
変われないソニー
2008年度の上期の営業利益が前年比63%減という急速な業績の悪化は、「金融危機と円高の影響だ」とソニーの執行役員は記者発表で説明した。たしかに金融危機の影響は大きいが、第42回でも書いたように、これまでの円安が異常な低金利政策による「輸出補助金」ともいうべきものだ。今回の業績が実力と考えたほうがいい。
ソニーの連結業績見通し(2008年4~3月)
2008年度見通し | 2007年度 | 増減率 | |
---|---|---|---|
売上高および営業収入 | 9兆円 | 8兆8714億円 | -2% |
営業利益 | 2000億円 | 4753億円 | -57% |
当期純利益 | 1500億円 | 3694億円 | -38% |
ソニーは、もはや完全な日本企業とは言えない。株主の約半数は外国人投資家なのだ。CEO(最高経営責任者)も米国人ハワード・ストリンガーで、売り上げの80%以上も海外から上げるグローバル企業だ。しかしソニーに勤務する友人によれば、「コテコテの日本企業」だという。日本的な職人芸がモダンな経営理念と結びつくことで、品質の高い創造的な商品ができたのだろう。しかし、その成功体験の呪縛があまりにも強いため、ソニーは「変われない日本企業」の典型になってしまった。
コングロマリットの失敗
ソニーの失敗が始まったのは、1989年にコロンビア映画を買収したときだった。これは創業者である盛田昭夫の悲願だったコンテンツ産業への進出を実現するものだったが、映像機器と映画に「シナジー」はない。結果的には、ハリウッドの詐欺的なプロデューサーにだまされ、ソニーは3000億円以上の損失を償却した。
その後も出井社長の下で多角化路線が進められ、994社(2007年12月)の連結子会社を持つ。このようなコングロマリット(複合企業)は、かつて米国で失敗した企業形態だ。出井氏がインターネット事業やマイクロソフトとの連携などを進めたおかげでITバブルの時期には株価が急騰したが、社内の空気は冷淡だった。彼がデジタル技術を理解していなかったからだ。結果的には、インターネット事業はすべて失敗し、マイクロソフトとの提携も白紙に戻ってしまった。
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