音楽配信といえば、インターネットやメディアでよく登場する米アップル社の「iTunes Store」(iTS)など、パソコン向けのサービスをイメージする人が多いかもしれない。しかし日本で最も普及し、売り上げを伸ばしている音楽配信といえば、「着うた」を始めとする携帯電話向けのサービスだ。
折しも4日には、「音楽配信において、宇多田ヒカルが今年だけで1000万ダウンロードを達成」という景気のいいニュースが飛び込んできた。今、日本のダウンロードサービスを牽引する「着うた」は、どのようにユーザーに使われていて、それがどう音楽業界に影響を与えているのだろうか。ITジャーナリストの津田大介氏に聞いた。
【解説】宇多田ヒカルが1000万ダウンロードを達成
EMIミュージック・ジャパンは4日、パソコン/携帯向け音楽配信サービスにおいて、宇多田ヒカルの楽曲が合計1000万ダウンロードを突破したと発表した。集計期間は2007年1月から9月。中でも販売数が多かったのは、テレビドラマ「花より男子2」のイメージソングでもあった「Flavor Of Life」で、この曲 は今年の7月に合計700万ダウンロードを達成していたという。
1000万ダウンロードは統計のマジックか?
── 「1000万ダウンロード達成」というのは、とてもいいニュースだと思います。やっぱり音楽配信サービスがユーザーに受け入れられて、音楽を聞く人が増えているんでしょうか?
津田 EMIミュージック・ジャパンの親会社である英EMIミュージック社は7月に「『Flavor Of Life』のデジタル配信の総数が700万件を超え、世界一の売上を記録した」と発表しています。今回のニュースもその流れで、「音楽配信が好調である」ということを消費者に印象づける目的で流されたメディア向けのプロパガンダでしょう。
── と言われると?
津田 1000万の4分の3(730万6000ダウンロード)を占めているのは「Flavor Of Life」という曲です。この曲がなぜここまで多くダウンロードされているかというと、もちろん曲のよさもありますが、一番大きな理由はいろいろな配信形態を1曲としてまとめていることが挙げられます。
「Flavor Of Life」には、まずオリジナルバージョンとバラードバージョンの2種類があります。また、今回の集計はパソコン/携帯電話向けのダウンロード数を合計したものですが、ここにもからくりがあって、携帯電話向けの場合、「着うた」や「着うたフル」だけでなく、「着信ムービー」「メロディコール/待ちうた」と いった1曲通しで聴けない「ぶつ切り」の音楽まで1ダウンロードとしてカウントしています。
1曲を30秒ぐらいの短いクリップにぶつ切りにして販売する「着うた」は、同じ曲の別の部分を「複数」購入するユーザーも結構いるんですよね。「着うたフル」が普及したとはいってもまだau中心で、再生できる端末の普及率は全体の3〜4割程度。「着うたフル」未対応の機種では、ぶつ切りの着うたを買わざるをえない。
「Flavor Of Life」の着うたはオリジナルバージョンとバラードバージョン両方が4つに分割されているので、着うただけでも8種類あって、それを1曲としてカウントしているということになります。そういう曲のダウンロード数が伸びやすいのは、ある意味当たり前の話ですよね。
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